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閃光王子

十二

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「アルベルト・ファルブルをできるだけ足止めしておくよう手配していましたが、どうやら一週間程度しか保たなかったようでして……」
「大丈夫ですよ。肝を冷やしましたが時間は十分稼げましたし、娘も何とか救出できましたから」
「本当に申し訳無い。我々が手配した人間が不適切でした。まさかあんな行動に出るとは……。私も報告を聞いて血の気が引きました」
 グリード・ヴェインは自分の部屋でドーン連邦の一つ、ハクトウ国の大臣と電話で話していた。目の前には二人の男が所在なさげに立ちすくんでいる。
「サソリ君が用意した人材が優秀で助かりました。ええ。それではまた後日。ええ、ええ。ではよろしく」
 グリードは電話を切ると、机を叩きながら立ち上がって二人を睨み付けた。
「この馬鹿共が! 確保に失敗した上に先を越されおって! 余計に金がかかったんだぞ!」
「す、すみません」
「それにどうしてあんな荒っぽい真似をしたんだ! 銃まで撃ちおって! やり過ぎだ馬鹿者! 娘に当たったらどうする!」
「交通事故なら止まるかと思いまして。まさかそのまま逃げるとは思わず……数発撃てばさすがに止まるかと思ってつい……」
「ついで済むか馬鹿者! まったく……もういい。あのアホみたいな車と衣装を処分してこい」
「失礼いたします」
 二人が部屋を出るとグリードはため息をつき、グリードも部屋を出た。廊下を歩いて、やがてある部屋の前まで来て扉をノックした。
「どうぞ」
 グリードが部屋に入ると、ドレスを着たメイが窓際に立っていた。
「父上」
「勝手に家を出て行ったと思ったらどこぞの小悪党に捕まっていたとはな」
「ご迷惑をおかけしました」
「ふむ、まあいい。ファルブル家と切れたのはちょうど良かった」
「何故ですか?」
「お前をハクトウに嫁がせる」
「はあ!?」
「パーンという男だ。ノービスにいたが事情があってドーンに逃れて育った。今はドーン連邦軍の大佐となって今回の作戦に加わっている」
「ちょっと待ってください! 仰っている意味が分かりません!」
「お前は分からなくてもいい。しょせん駒なんだからな」
「……!」
「ファルブル家に嫁がせてフェルトとの友好関係に役立てるつもりだったが。アルベルトが退位した今もはやフェルトに用は無い」
「そんな……! 私の気持ちはどうなるんですか!?」
「そんな物どうにもならん。自分で整理を付けろ。半年後に式を挙げる。言っておくがこれからはもう逃げようとしても無駄だぞ、お前が自由に振る舞った所で何一つ民のためにはならん。諦めてヴェイン公国長女の務めを果たせ」
 一方的にまくし立ててグリードは部屋を出て行った。メイはドレスの裾を握って悔しがり、椅子にあったクッションを投げ飛ばした。
「ちくしょう! 馬鹿にしやがってクソオヤジ!」

 グリードは窓際にアサヒがいるのを見て声をかけた。
「ご苦労だった」
「どうも」
「謝礼はサソリ君からもらってくれ。他言は無用だぞ」
「もちろん。ところで、誘拐を手引きした人間については何か分かったかな?」
「……。いや、見当も付かない。領主の娘を狙う輩は多いからな、金目当ての突発的な犯行じゃないのかね?」
「とても領主の娘には見えない恰好だったがね」
「……あまり考えない方がいいんじゃないか?」
「仰る通りだ。詮索するのはやめておこう。何かあればまたよろしく」
 笑みを浮かべてアサヒは立ち去った。


 ビルギッタ警察のマードック警部は、立ち入り禁止のテープがあちこち貼られたテープをくぐって廃工場の中に入ると、捜査官がパイプを踏まないように注意しながら近付いて来た。
「お疲れ様です」
「ご苦労さん。ここがレオン・ファルブルが監禁されていた場所と見て間違いなさそうか?」
「ええ。通常の戦闘では見られないような破壊跡が見られます。アルベルト様が戦った跡と見て間違いないでしょう」
「そうか。しかし……」
 マードック警部は工場内を歩いた。工場中に無残な死体や幾何学模様のように鋭角に切断された壁、パイプ、切断された銃などが転がっていて、鑑識が証拠品の多さに顔をしかめながらカメラで撮影している。
「またずいぶんと派手にやったな。工場内を丸ごとミキサーにかけたのか? どういう暴れ方をしたらこんな風になるんだろうな」
「世界最強の男ですからね」
「銃までバラバラだぞ。どんな猛獣が暴れてもこうはならんだろ……おっと」
 マードック警部の腰の電話がカチカチと点滅している。
「電話だ。ここ電気来てるか?」
「犯行グループが発電機を持ち込んでいたようです。大丈夫ですよ」
 マードック警部は部屋に入ると電話機に繋いで相手に話しかけた。
「もしもし? ルークか?」
「ノストラーダの屋敷に来てます。昨夜頼まれて演奏してた楽団の人間から通報がありまして。メイ・ヴェインが連れて来られたというタレコミがあった場所です。メイ・ヴェインはいません。屋敷の人間は二十七人いましたが全滅ですね。皆死んでます。襲撃に遭ったんだと思うんですがただその、何というか……」
「何だ?」
「全員が胸か背中に小さな穴が一つあるだけでした。どうも鋭利な刃物で心臓を一突きされて即死したようですね。銃を撃った跡も無い。椅子に座ったまま死んでる人間もいて……戦闘があったにしてはあまりにも不気味な現場なんです。まるで疫病で一斉に突然死したかのような……」
「素人の手口じゃないって訳か」
「そうですね。組長の部屋だけ自分の銃をぶっ放した跡が残ってます……犯人を見たんでしょうね。こんなの初めてですよ。弾丸でも残っていれば調べようもあるんですが。俺には手に負えそうもないです」
「現場を保存して後は上の人間に任せろ」
「はい」


「ええ!? アサヒさんメイをヴェイン公国に連れてっちゃったの!?」
 レオンは無事を祝って以前仲良くなった老人二人やヘンリーを含めた若者の友人達を呼んで酒場で飲んでいた。しかしアサヒから事情を聞くと目を見開いて驚いた。
「そうだ。仕事だったんでね。ついでに見つけたお姫様をお家に帰したんだ。荷物も返しておいた」
 ヘンリーも驚いた。
「ええ!? あいつヴェイン公爵の娘だったの? マジかよ」
「まあ仕方ないか……でも悪い奴にまた捕まってたんだろ? 助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「ちょっとマスター電話貸して!」
 レオンは早速メイの携帯に電話してみた。
「出ないかな……」
 辛抱強く待っていると繋がった。
「もしもし」
「メイ!? 俺だよレオンだ」
 電話が繋がったと分かって酒場の皆は聞き耳を立てた。
「レオン!? 無事なの? 怪我は無い?」
「大丈夫だよ、父上が飛んで来て大暴れしたおかげで助かったんだ。あいつら全員死んじゃったよ。いやーメイにも見せたかったよ、いや見ない方がいいかあれは」
「……?」
「それよりこっちには来ないのか?」
「うん……私ね、結婚するんだって」
「はい!?」
「ハクトウの大佐とやらと。顔も知らないんだけど。父上が勝手に決めちゃったみたい」
「何だそれ? そんなの逃げちまえばいいじゃんか」
「政治の話だから仕方ないのよ。もう決まった事だから」
「お前……それでいいのかよ?」
「私には……自由なんて無いのよ。そっちにいて連れ戻されなかったのはフェルトとの関係のためだったんだって。全部織り込み済みなんだって。私の意志なんて関係……無かったんだって……」
「ふーん」
「ふーんて何よ」
「俺はやだね」
「え?」
「お前が側にいないなんて俺はやだね。必ず迎えに行くから待ってろ」
「あんた人の話聞いてた?」
「聞いてたよ。でもヤです」
「……」
「いいだろ?」
「うん。待ってる」
 レオンは電話を切ると振り返って威勢よく言った。
「よし! 俺は今からメイを迎えに行って来る!」
 皆がグラスを掲げて乾杯した所でテレビの番組が急に変わった。
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