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空の王者と味惑の魔人

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 落ちないように今度は浮いた状態で洞窟を進む。道は少し上り坂になっていて、斜面を降りて来てかなりの距離を降りた一行も坂を上るうちに少しずつ地上の高さに近付いて行く。時折上から水滴がポツリと落ちて来る。天井は高くて見えないので落下物に気を付けながら進むと、先頭のジョンが何かに気付いて息を飲んだ。
「お、王子!」
「どうした?」
 見るとジョンの足元に金塊がポツンと一つ落ちていた。
「うおお! あるじゃねえかいきなり!」
「や、やった! ありましたよ黄金!」
 一同が歓喜の声を挙げた。
「待て待て! まだまだ先がある! 奥も探すぞ」
「ういす!」
「王子、どうぞ」
「ははー」
 ユリアンがジョンから笑いながらうやうやしく金塊を受け取って袋に入れた。
 ウキウキしながら奥に進んだ。きっと黄金はこの先にもっとあるはず。気が急くのを懸命に抑えて進むと、やがてジョンが立ち止まり声を上げた。
「王子、これは……!」
 辿り着いた行き止まりの空間は天井の半円が少し狭まり、広大な地下空間にできた部屋のような空間だった。岩でゴツゴツした地面が水浸しになっていて、あちこちに金塊が落ちていた。ランタンの光で金塊と水面がキラキラと光り、地面が金色に輝いていた。
「み……見つけたぞ! 黄金だ!!」
「よっしゃあ! 回収しろお前ら!」
「ういいす!」
「ヒャッホー!」
 一同が金塊を袋に詰め始めた。ユリアンはその作業を楽しそうに見つめ、壁際に一段高くなっている場所があり、そこに椅子のように平坦な岩があったので何気なくそこに座ると、目の前の地面には火を起こした跡があった。その周りを見ると缶詰の空き缶、荷物が入っていたと思われる汚れた麻の袋、水筒などが落ちている。近くにいたジョンを呼んだ。
「ここに誰か来た形跡があるな」
「マイケルじゃないすか? 冒険家の」
「ああなるほど」
「王子、こっちを見てください」
 壁の前にいるジャックに呼ばれ、ユリアンが見ると壁の一角は土砂が積み重なって塞がっている道のようだった。上に少し隙間がある。ジャックが浮いて向こう側を覗いた。
「向こう側にも道があったみたいですね。土砂で塞がっちまってます」
 ユリアンも浮いて覗いてみた。
「崩落しちまったのか」
「そうみたいですね。この先には行けそうにないです」
「マジかよ。この先にもあるかもしれねえのになあ……」
 ユリアンは落胆して振り返り、足元を濡らしながら金塊を拾っている私兵達を見てある事に気が付いた。
「おい、俺達湖の所から来たよな?」
「そうすね」
「途中の坂は上りだったよな」
「はあ」
「何でここが水浸しなんだ? さっきまでの道はこんなんじゃなかったよな。ここの塞がってる道の土砂も乾いてるし。高さ的に湖の水はここまでは来ないはずだ。おかしくねえか?」
「え? まあ言われてみりゃ確かに……途中の坂もこんなに濡れてなかったっすよね」
「おいお前等! この水がどっから来てるか探せ! 壁際だ!」
「うす!」
 私兵がランタンをかざしてあちこち壁を照らし始めた。
「王子! ありました! ここです!」
 ユリアンとジャックが呼ばれた場所に行くと、膝の高さくらいの位置に穴があり、水はそこから静かに流れ込んでいた。
「向こうが水源みたいすね。ここから流れて来たってだけなんじゃないすか?」
「そっか。いやまあそうだよな。そんだけの話か……」
 ランタンをかざして穴の向こうを覗き込むとユリアンは絶句した。
 黄金の壁がある。
「お、おい……」
「え?」
「う、嘘だろおいおいおいおい!!」
 ユリアンは穴に潜り込んだ。
「お、王子!」
 穴から出てユリアンが立ち上がり急いでランタンをかざすと、自分の目の前にはぎっしりと積み重なっている金塊の壁がそびえ立っていた。
「う、うおおおおおお!! 何じゃこりゃあああああ!!」
 後ろからジャックが穴を潜ってきた。
「お、王子! どうし……ひえええええええ!!」
「ま、マジかよ! 本物かこれ!? 百個や二百個じゃきかねえぞ! ありえねえぞこんなの!」
「お、お、お、王子……!」
 ジャックが四つん這いのまま震えた指で指差した。金塊が崩れている部分があり、ユリアンがかがんでその先を見ると、奥に明るい空間が広がっている。ユリアンは金塊の壁を文字通り掻き分けて進むと、とてつもなく高い天井にポッカリと穴が開いていて、そこから日光が入って来ている明るい広場に出た。
「な、何だこりゃあ……」
 天井からは細い水が静かに流れ落ちて来ていて、岩の地面の間を苔むした緑に挟まれながらユリアンの足元まで流れ込んで来ていた。
「洞窟にできたオアシスって訳か。黄金の壁で光が届かなかったんだな。水はこの上から流れてたのか」
「王子……そ、そうじゃなくて壁! 壁!!」
「壁?」
 ユリアンが周りを見回すと、四方の壁全てに金塊が天井の方までうねうねと、まるで絡みつくツタのように何本も積み重なっていた。
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