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空の王者と味惑の魔人

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 白い壁が美しい海沿いのレストランでユリアン達は食事を取っていた。夜が明け、穏やかな青い波と空の中を鳥が飛ぶのを見ながら海沿いのテラス席で料理を楽しんでいると、レストランの入り口の方から騒いでいる声が聞こえた。
「あん? 何だ?」
 店長があたふたしながら入って来た男達に並んで歩いて来る。
「お客様困ります!」
「うるせえな、ちょっとあいさつするだけだ! どけ!」
 店長を突き飛ばしてスキンヘッドの男を先頭に、ガラの悪そうな男達がユリアン達の席に近付いて来た。
「ユリアン! てめえ何しに来やがった?」
「ん? 何だ、タコ料理なんか頼んでないぜ」
 スキンヘッドの男は顔を真っ赤にして怒鳴り出した。引き連れて来た五、六人は後ろで笑いをこらえている。
「ふざけんな! てめえのお袋といいファルブル家がこの街ででけえ顔しやがって。ここはドーンなんだ。俺たちの国なんだよ。こっちに来てまでデカい顔されちゃ黙ってられねえ」
「ただここでメシ食ってるだけじゃねえか。何怒ってんだよトム。そんなつれない事言うなよ」
「さっさとこの街を出て行きな。命の保証はできねえぜ」
「言われなくても通りがかっただけだ。すぐ尻尾を巻いて逃げ出すから勘弁してくれや」
 ユリアンの言葉で私兵達も笑っている。トムは馬鹿にされている事に気が付き激怒した。
「てめえブッ殺す!」
 トムが腰の銃を抜いた瞬間、ユリアンは白い鉄の丸テーブルを掴んで軽々とトムに投げつけた。
「うお! くそ!」
 トムが銃を撃つと他の客から悲鳴が上がった。撃った弾丸がめり込んだテーブルはそのまま勢いよくトムにぶつかり、トムが舌打ちしながらテーブルをどかすと、ユリアンが投げておいたナイフやフォークが時間差で飛んで来た。
「ぐあ!」
 トムは左腕にナイフが刺さり、一瞬ひるんでから怒りに目を血走らせて前を見ると、椅子や食べ物が浮いている向こうにテラスに立つユリアンが映った。ユリアンの周りには皿やカップ、口から少しこぼれている酒瓶がふわふわと浮いて回転している。
「あばよ」
「てめ……!」
 ユリアンの周りに浮いていた物がユリアンの魔力の解除を受け、トムに向かって急に飛んで来た。トムがしゃがんで避け、壁に当たって砕け散った。トムが銃を向けた頃にはユリアンは屋根にひょいと上って見えなくなってしまった。
「くそ! あの野郎待ちやがれ!」
 トムが急いで店を出ると、ユリアンは素早くぴょんぴょんと屋根を飛び跳ねて行き、並んだ建物の向こう側に姿を消した。
「ちっ! なんて逃げ足の速い野郎だ!」
 トムは舌打ちして店の中に向かって叫んだ。
「おい追うぞ! 今日があの野郎の命日だ……!?」
 入り口からトムの部下が矢で射抜かれて倒れるのが見えた。ジャックが煙草を吸いながらボウガンを持ち、こちらに顔を向けた。
「くそっ!」
 トムはジャックに向かって発砲し、ジャックが壁に隠れたのを見て一目散に逃げ出した。ジャックは部屋の中で煙を吐くとトムの部下達を片付けた私兵達がジャックに声をかけた。
「俺が追います」
「分かった。いくら自分のした事が分かっていないバカとはいえ立派な反逆者だ、逃がすなよ。潜伏先を突き止めて兵士に引き継いで来い。俺達は王子の所に行く」
「ういす」
 ジャックが灰皿を拾って煙草を消すと部下に向かってフフッと笑った。
「あいつも逃げ足速かったな」
「そっすね、店長大丈夫すか?」
 部下が店長に手を貸して起こした。ジャックが伝票を拾って店長に渡した。
「じゃ、お会計だ。俺達は割り勘な」
「えー」
「店長、修理代と損失の補填代は国が持ちますから。リン様の滞在しているホテルへご連絡ください」
「ありがとうございます」
 店を立ち去ろうとした時、ジャックはふと立ち止まり、頭を掻いて振り返った。
「あー、店長はリン様がどこに泊まってるかご存知ですか?」
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