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フレイムタン
七
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次の日、カイルの所に兵士が駆け込んで来た。
「カイル様大変です!」
「どうした?」
「輸送隊が何者かの襲撃に遭い、金を奪われました!」
「な、何だって!? 本当か!?」
「はい! 輸送隊が全滅していた所を通りかかった商人が見つけました」
カイルは玉座を拳で叩いた。
「くそ! ……リア国王に早馬で知らせてくれ。少し待って頂くしかない。それと誰がやったか、金はどこに行ったか調べてくれ。あれだけの金だ、運べば目立つはずだ」
「ハッ!」
兵士がバタバタと出て行った。
「ロキがいたらそれ見たことかって言われる所だな……」
カイルは玉座で一人うなだれた。
ロキはラン街道で一人、襲撃があった地点を観察していた。街道は石でできていて足跡などは残らない。しかし北の森を見てそこから襲って来たと踏んだロキは、森に向かって歩き、森までの草の道を注意深く見ながら進む。折れた草に隠れてぬかるみに馬の蹄の跡が北に向かって残っている。そしてある事に気付いた。
(襲撃して来た跡が残っていない。おそらく襲撃時には雨がまだ降っていなかった。が、引き上げる時に雨が降ったんだ。それで馬の跡が消し切れなかった。この数は山賊じゃねえ、軍だ)
ロキが森の奥を見る。
(この先はドニの街だ……ランドール)
リア国にカイルからの手紙を持った兵士が現れた。リア国の王ダクソンは手紙を読むとフンと鼻を鳴らして大臣に渡した。
「読んだか?」
「ええ」
「金が奪われたから少し待ってくれだと? フハハハ! 知るか。今ここに金が無いその一点が全てだ。命綱をしっかり握って置かないとは愚かな男だ……」
ダクソンは腕を突き出した。
「さっさと帰って伝えるがよい。リア国はこれより逆賊カイルを討伐し、我が国の領土を取り返すとな!」
ジンとシャロンは政治の本を開きながら話をしていた。
「いいジン、あなたが王位を継いだら政治的な判断を迫られる事がこれから何度もあるだろうけど、全員から賛成を得ようと思っても無理だと思ったほうがいいわ。これは以前話した、全員から好かれようと思っても無理という話と似ているんだけどね」
「どうして?」
「ある話題に関してイエスと判断したとする。するとこれに関して反対意見を持っている集団は必ずあなたに嫌な印象を持つわ。これは反対している集団の利益に関わる事だからよ」
「なるほど。でも必ず全員が正しいと思っている意見だってあるじゃない?」
「例えば?」
「例えば……えーと。そうだ、人を殺してはいけない、とか」
「その相手が敵だったら? あなたの大切な人を殺そうとしている人間だったら? 交渉の余地が無かったら? 殺らなきゃ殺られるとしたら? あなたは国民を守る為に戦わなければいけないわ」
「うーん、そうか……」
「敵は倒さなければいけない。そういう時、指導者は決然と戦わなければ民はあなたに付いてこないわ。あなたは優しいし皆に好かれるからそういう事は決めにくいかもしれないけど。敵に遺恨を残すと必ず後でそのツケを払う時が来る」
「カイルもそうしてる?」
シャロンは紅茶を一口飲んだ。
「あの人はあなたに似てる。優しくて皆に好かれて。国を運営するのは上手。でも敵が現れた時はどうかしらね」
「え?」
「今までの敵、例えば将軍を倒したのはラナだし、裏切った彼のボスを倒したのはロキだった。もしカイルに敵が現れた時曖昧な態度を取ったら……どうなるかは分からないわ」
「……」
部屋の外で兵士が慌ただしく移動している物音が聞こえて来た。
「何かあったのかしら?」
「カイル様大変です!」
「どうした?」
「輸送隊が何者かの襲撃に遭い、金を奪われました!」
「な、何だって!? 本当か!?」
「はい! 輸送隊が全滅していた所を通りかかった商人が見つけました」
カイルは玉座を拳で叩いた。
「くそ! ……リア国王に早馬で知らせてくれ。少し待って頂くしかない。それと誰がやったか、金はどこに行ったか調べてくれ。あれだけの金だ、運べば目立つはずだ」
「ハッ!」
兵士がバタバタと出て行った。
「ロキがいたらそれ見たことかって言われる所だな……」
カイルは玉座で一人うなだれた。
ロキはラン街道で一人、襲撃があった地点を観察していた。街道は石でできていて足跡などは残らない。しかし北の森を見てそこから襲って来たと踏んだロキは、森に向かって歩き、森までの草の道を注意深く見ながら進む。折れた草に隠れてぬかるみに馬の蹄の跡が北に向かって残っている。そしてある事に気付いた。
(襲撃して来た跡が残っていない。おそらく襲撃時には雨がまだ降っていなかった。が、引き上げる時に雨が降ったんだ。それで馬の跡が消し切れなかった。この数は山賊じゃねえ、軍だ)
ロキが森の奥を見る。
(この先はドニの街だ……ランドール)
リア国にカイルからの手紙を持った兵士が現れた。リア国の王ダクソンは手紙を読むとフンと鼻を鳴らして大臣に渡した。
「読んだか?」
「ええ」
「金が奪われたから少し待ってくれだと? フハハハ! 知るか。今ここに金が無いその一点が全てだ。命綱をしっかり握って置かないとは愚かな男だ……」
ダクソンは腕を突き出した。
「さっさと帰って伝えるがよい。リア国はこれより逆賊カイルを討伐し、我が国の領土を取り返すとな!」
ジンとシャロンは政治の本を開きながら話をしていた。
「いいジン、あなたが王位を継いだら政治的な判断を迫られる事がこれから何度もあるだろうけど、全員から賛成を得ようと思っても無理だと思ったほうがいいわ。これは以前話した、全員から好かれようと思っても無理という話と似ているんだけどね」
「どうして?」
「ある話題に関してイエスと判断したとする。するとこれに関して反対意見を持っている集団は必ずあなたに嫌な印象を持つわ。これは反対している集団の利益に関わる事だからよ」
「なるほど。でも必ず全員が正しいと思っている意見だってあるじゃない?」
「例えば?」
「例えば……えーと。そうだ、人を殺してはいけない、とか」
「その相手が敵だったら? あなたの大切な人を殺そうとしている人間だったら? 交渉の余地が無かったら? 殺らなきゃ殺られるとしたら? あなたは国民を守る為に戦わなければいけないわ」
「うーん、そうか……」
「敵は倒さなければいけない。そういう時、指導者は決然と戦わなければ民はあなたに付いてこないわ。あなたは優しいし皆に好かれるからそういう事は決めにくいかもしれないけど。敵に遺恨を残すと必ず後でそのツケを払う時が来る」
「カイルもそうしてる?」
シャロンは紅茶を一口飲んだ。
「あの人はあなたに似てる。優しくて皆に好かれて。国を運営するのは上手。でも敵が現れた時はどうかしらね」
「え?」
「今までの敵、例えば将軍を倒したのはラナだし、裏切った彼のボスを倒したのはロキだった。もしカイルに敵が現れた時曖昧な態度を取ったら……どうなるかは分からないわ」
「……」
部屋の外で兵士が慌ただしく移動している物音が聞こえて来た。
「何かあったのかしら?」
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