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フレイムタン
六
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フェルト国の王都ビルギッタはフェルトの国土の中でも東にあった。その北にドニ、南にキンの街、北西にハクトウ、南西にカルの街があり、ビルギッタの東にあるラン街道を少し進むとすぐにリア国の領土となる。ドニの街の東にある森はリア国の領土であり、ドニはビルギッタの次にリア国と接している部分が大きい。フェルトの今回の同盟の維持費はラン街道を使ってリア国の街、カデンツァを通り、さらにその東にある王都フィーンに運ばれる。金を積んだ馬車を取り囲むように組織された兵士達百人の集団が今ビルギッタを出発する所だった。ロキは王宮の窓に腰掛け、その輸送軍を見てカイルに話し掛けた。
「命運を賭けた金を運ぶにしては守りが薄いんじゃないか?」
「ランドールさんの手紙によるとバルムンク殿がカデンツァから守備隊を増員してくれるそうだ。カデンツァまでは近いし大丈夫だろ」
「ランドールさんね……」
ロキはドニの街の有力者であるランドールをあまり信用していなかった。ドニの街はリアに近すぎる。こちらの陣営が崩れるならまずここからだと思っていた。
「俺はドニの街に行ってくる。少し気になる事があるんでね」
「え? ああ分かった」
ジンは読んでいた本を閉じて机に置いて伸びをした。金に苦しみ、振り回され最期は貧しい暮らしの中で愛する人に出会い、人間としての幸せを見つけるという話の本だ。ジンは金に困った事が無い。貧しい暮らしというのは想像では辛いんだろうというのは分かる。ではお金があれば人は幸せなのだろうか? 分からないが今自分は不幸では無い。不安を払拭できるという点に置いて金は凄まじい力を持つのではないかとジンは思った。だから人は金を求める。
(逆を言えば不安さえ払拭できるなら与える物は金じゃなくても効果があるかもしれないな)
人を幸せにするにはどうしたらいいのだろうか? ジンは窓から空に浮かぶ雲を見ながら考えた。
「嫌な天気だな」
どんよりした空を見ながら輸送隊の隊長が呟いた。
「一雨来るかもしれませんね」
近くの兵士が同じく空を見て言った。
「たいまつの準備をして来ます」
「頼む」
兵士が後ろに控えている道具が積まれた馬車の方へと下がって行った。森に近付いて空気が冷えて来た。隊長が北の森の方を見た。森は少し高い丘のような地形の向こうに広がっていて、こちらからは向こうを見渡す事はできない。森の方から馬のいななきが聞こえた気がした。
「街道のそばにこんな不気味な森があるなんてな」
隊長は顔をしかめた。もう一度馬のいななきが聞こえた。気のせいではない。隊長が森を見ると丘の向こうから突然馬に乗った軍団が現れた。
「て、敵襲ーッ!!」
森から突然大軍が現れ突撃して来た。隊長が剣を抜き迎え撃とうとしたが槍を持った騎兵隊が突っ込んで来て隊員達を一斉に貫いた。
「こ……こいつら! 山賊じゃないぞ! くそ! 一体……!」
第一波が去った後さらに森から第二波、第三波が襲って来て生き残った兵士も囲まれてしまった。森の丘から眺めている敵兵の隊長が指示した。
「一人も逃すなよ。証言されては困るからな」
「ハッ!」
指示を聞いた兵士が更に部下を引き連れ輸送隊に襲いかかった。雨がポツポツと降り始めていた。
「命運を賭けた金を運ぶにしては守りが薄いんじゃないか?」
「ランドールさんの手紙によるとバルムンク殿がカデンツァから守備隊を増員してくれるそうだ。カデンツァまでは近いし大丈夫だろ」
「ランドールさんね……」
ロキはドニの街の有力者であるランドールをあまり信用していなかった。ドニの街はリアに近すぎる。こちらの陣営が崩れるならまずここからだと思っていた。
「俺はドニの街に行ってくる。少し気になる事があるんでね」
「え? ああ分かった」
ジンは読んでいた本を閉じて机に置いて伸びをした。金に苦しみ、振り回され最期は貧しい暮らしの中で愛する人に出会い、人間としての幸せを見つけるという話の本だ。ジンは金に困った事が無い。貧しい暮らしというのは想像では辛いんだろうというのは分かる。ではお金があれば人は幸せなのだろうか? 分からないが今自分は不幸では無い。不安を払拭できるという点に置いて金は凄まじい力を持つのではないかとジンは思った。だから人は金を求める。
(逆を言えば不安さえ払拭できるなら与える物は金じゃなくても効果があるかもしれないな)
人を幸せにするにはどうしたらいいのだろうか? ジンは窓から空に浮かぶ雲を見ながら考えた。
「嫌な天気だな」
どんよりした空を見ながら輸送隊の隊長が呟いた。
「一雨来るかもしれませんね」
近くの兵士が同じく空を見て言った。
「たいまつの準備をして来ます」
「頼む」
兵士が後ろに控えている道具が積まれた馬車の方へと下がって行った。森に近付いて空気が冷えて来た。隊長が北の森の方を見た。森は少し高い丘のような地形の向こうに広がっていて、こちらからは向こうを見渡す事はできない。森の方から馬のいななきが聞こえた気がした。
「街道のそばにこんな不気味な森があるなんてな」
隊長は顔をしかめた。もう一度馬のいななきが聞こえた。気のせいではない。隊長が森を見ると丘の向こうから突然馬に乗った軍団が現れた。
「て、敵襲ーッ!!」
森から突然大軍が現れ突撃して来た。隊長が剣を抜き迎え撃とうとしたが槍を持った騎兵隊が突っ込んで来て隊員達を一斉に貫いた。
「こ……こいつら! 山賊じゃないぞ! くそ! 一体……!」
第一波が去った後さらに森から第二波、第三波が襲って来て生き残った兵士も囲まれてしまった。森の丘から眺めている敵兵の隊長が指示した。
「一人も逃すなよ。証言されては困るからな」
「ハッ!」
指示を聞いた兵士が更に部下を引き連れ輸送隊に襲いかかった。雨がポツポツと降り始めていた。
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