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ぬいぐるみの鬼

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 ロキはボソボソとラナに話した。
「落ち着けラナ。俺も夢かと思ったけどどうやら違うらしい。これは魔法なんだ」
「ま、魔法?」
「さっきこの木の精霊からお告げというか……それで俺は魔法使いになったみたいだ。多分……ぬいぐるみに変身できる魔法、なのかな」
 ラナはきょとんとしていたがぬいぐるみなので見た目はあまり変わらなかった。ラナがぴょんと弾んでこちらを向いた。
「ちょっと何言ってるの? 正気?」
 ロキは感覚で魔法の使い方を理解した。ロキが念じると二人は元の姿に戻った。
「あ……」
「ほらな。どうやら正気らしい」
 夜明け前の穴の中はすごく寒かった。ラナは震え出した。
「さ、寒いよ」
「もう一度ぬいぐるみにするぞ」
「う、うん」
 ロキがラナと手を繋ぎ、少し意識しただけで簡単にぬいぐるみの姿に戻る事が出来た。
「信じられない。何なのこれ、すごいよロキ」
 ラナの口が動いていないのに声だけがぬいぐるみから聞こえて来る。右手を上げて体を傾けながら話し掛けてくるのがなんだか可愛らしい。人形劇のようだ。ぬいぐるみの姿になると温かくて快適だった。空腹も感じない。
「もう少しこのままで奴らが去るのを待とう。これなら見られても平気だし」
「うん……」
 それからの、武装した男達が松明を持ち二人を殺そうと探し回っているのを暗い穴の中から眺めている時間は、二人にとって生涯忘れられない物になった。やがて男達が諦めて森を去り、松明が見えなくなってからもしばらくは怖くて動けなかった。完全に夜が明けてからも二人はぬいぐるみの姿でひたすら外を見ていた。やがて完全に助かったと分かると安堵感からか、そのまま二人は横に倒れ、ぬいぐるみの姿でぐっすりと眠ってしまった。

「ラナー! ロキー! 帰るぞー!」
 八歳のロキとラナは木の穴の中で笑っていた。ラナの父親が水を汲みに行く際に一緒に森について来るようになると、ラナとロキが初めて見つけたこの木の穴は、秘密の隠れ家として二人の遊び場になった。と言ってもラナとロキの父親は把握していたのだが。変に水遊びするよりも安全なので知らないふりをしてそのまま遊ばせておいたのだった。やがて近付いて来たラナの父親が笑顔で穴を覗き込んで来た。
「おっ? 見つけたぞ二人共」
「あー、見つかっちゃった」
「帰るぞ」
「うん」
「はい」
 ラナの父親の大きな手が差し伸べられて来た。

 ラナは目を覚ました。小さなぬいぐるみの状態で見た世界は夢の続きのようだ。ロキはまだ眠っている。ラナは太陽の光が反射する静かな湖を眺めた。ラナの父親はいつまで経っても迎えに来なかった。
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