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大根王子Ⅱ
十二
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町を出てしばらく走ると田園風景が広がった。時折牛が草を食んでいるのが見える。
「町の外は僕の国と変わりないですね」
「そうだな。町に集まった方が産業は活気付く。外で農業や畜産をするのが効率のいい形なのかもしれないな」
トーマスが腕時計を見ると昼に近い時間だった。中年の夫婦が席を立って前の食堂車に向かったり、逆に食堂車からカウボーイのグループが後ろへ歩いていく。
「そろそろ我々も食堂車に行こうか。昼食にしよう」
「そうですね。牛が草を食んでいるのを見たら自分もお腹が空いて来ました」
二人は笑って立ち上がって食堂車に行った。
客席の最後尾、十二号車より後ろの車両は貨物車両になっている。貨物車両の先頭にいる警備員があくびをしていると、カウボーイハットの男が十二号車の後ろの扉を開けて出て来て十二号車の中を指差し、何か喋っている。
「何? どうかしたか!?」
汽車が走る音と煙が出る音でよく聞こえない。警備員が近付くのを見てカウボーイの男が扉を閉めると、リボルバーを取り出して引き金を引いた。警備員は汽車の外に投げ出された。
前髪を切り揃えた女は腕時計を見ると静かに立ち上がり、大きなトランクを持って三号車の後ろから出て行った。隣のサングラスの男は前のマントのボタンをパチリと外し、肘から手首まで金具で右腕に連結された小さな機関銃と、同様に左腕に付けられた砲弾銃を露わにして掌側にある両方のレバーをジャキッと引いた。
「ん?」
アルベルトが鶏肉料理を食べていると先程の女がトランクを持って食堂車を通り過ぎて行くのが見えた。
「どうかしたかね?」
「いや、さっき前の車両にいた女性が後ろに行ったんですが」
「ふむ」
「前にいた客がここより後ろに行く用事なんてありますか?」
「さあ。知り合いでもいるのではないかね」
「うーん……気になりますねあの女性」
「好みのタイプなのかね?」
「いやそういう事じゃなくて……ん? この鶏料理美味しいなあ」
美味しい鶏料理を食べたのは久しぶりだった。
「いいっすよ出て来て」
言われて最後尾から更にカウボーイ達が銃を持って出て来た。
「よし、行くぞ。お宝は目の前だ」
別の警備員がチラッと頭を出し、こちらを見て驚いたのが見えた。警備員が笛を吹き、一斉に貨物車両の隙間から顔を出してこちらに発砲して来た。カウボーイが体を隠し、頭を出して向こうの人数を数えた。
「おおいるいる。よーしお前等! 仕事開始だ!」
カウボーイ達も警備員に向かって一斉に発砲を始めた。
食堂車にいるアルベルト達の方まで激しい銃撃戦の音と悲鳴が聞こえて来た。トーマスは驚いてコップの水をこぼした。
「何だ!?」
後ろの車両から逃げて来た客が雪崩込んで来た。
「まさか列車強盗か?」
「列車強盗?」
「後ろの方にはシングへ運ばれる貨物が大量に載っている。近年それを狙う輩が増えているらしい」
食堂車の後ろの扉から銃を持ったカウボーイの男が見えた。男は中をひとしきり覗いた後、銃を構えたまま扉を開けて入って来た。
「お客様、大変ご迷惑をおかけしております。手を上げてくれるかな?」
食堂車の中の者達は一斉に手を上げた。
「よし。俺達は後ろの貨物をもらいに来ただけだ。無事に帰りたきゃ余計な事を考えず大人しくしていろ」
仲間が四人男の後ろから入って来て客が怯える中を通り過ぎ、前の車両に進んで行った。アルベルトはトーマスに囁いた。
「あの四人は何をするつもりでしょう?」
「汽車をどこかで止めるつもりかもしれんな。仲間が待っている所で貨物を下ろすために」
「なるほど」
アルベルトは食堂のテーブルを見回した。ここでは大根サラダや大根が使われたドレッシング、ハンバーグの上に乗った大根おろしなど大根が多数確認できた。
「汽車を止めに行った奴等を倒せばどこかで奴等の仲間が待っていても通り過ぎて町まで行ける。前の安全を確保してから後ろの奴等を倒せば問題無さそうですね」
「む、無茶を言うなアルベルト君。丸腰じゃないか」
アルベルトは大根の切れ端をつまんだ。男はアルベルトが動いたのに気付いて叫んだ。
「おいそこ! 何やって……ほんとに何やってんだ?」
アルベルトは言われて切れ端をつまんだまま静止した。男が近付いて来る。
「余計な事考えるなって言っただろ。何考えてんだお前?」
アルベルトが切れ端を男にポイと投げるとキン!という音がして刃が男の胸に突き刺さった。
「が……!?」
男の銃を素早く押さえて力尽きた男を壁際に寄せた。トーマスは驚いて言葉が出ない。
「ど、どんな手品を使ったんだね?」
「とびっきりの手品です、後で説明します。トーマスさん、お孫さんの服で申し訳無いんですが背中にこのドレッシングを塗ってくれませんか?」
「そ、そんな手順の手品は聞いた事無いんだが」
「町の外は僕の国と変わりないですね」
「そうだな。町に集まった方が産業は活気付く。外で農業や畜産をするのが効率のいい形なのかもしれないな」
トーマスが腕時計を見ると昼に近い時間だった。中年の夫婦が席を立って前の食堂車に向かったり、逆に食堂車からカウボーイのグループが後ろへ歩いていく。
「そろそろ我々も食堂車に行こうか。昼食にしよう」
「そうですね。牛が草を食んでいるのを見たら自分もお腹が空いて来ました」
二人は笑って立ち上がって食堂車に行った。
客席の最後尾、十二号車より後ろの車両は貨物車両になっている。貨物車両の先頭にいる警備員があくびをしていると、カウボーイハットの男が十二号車の後ろの扉を開けて出て来て十二号車の中を指差し、何か喋っている。
「何? どうかしたか!?」
汽車が走る音と煙が出る音でよく聞こえない。警備員が近付くのを見てカウボーイの男が扉を閉めると、リボルバーを取り出して引き金を引いた。警備員は汽車の外に投げ出された。
前髪を切り揃えた女は腕時計を見ると静かに立ち上がり、大きなトランクを持って三号車の後ろから出て行った。隣のサングラスの男は前のマントのボタンをパチリと外し、肘から手首まで金具で右腕に連結された小さな機関銃と、同様に左腕に付けられた砲弾銃を露わにして掌側にある両方のレバーをジャキッと引いた。
「ん?」
アルベルトが鶏肉料理を食べていると先程の女がトランクを持って食堂車を通り過ぎて行くのが見えた。
「どうかしたかね?」
「いや、さっき前の車両にいた女性が後ろに行ったんですが」
「ふむ」
「前にいた客がここより後ろに行く用事なんてありますか?」
「さあ。知り合いでもいるのではないかね」
「うーん……気になりますねあの女性」
「好みのタイプなのかね?」
「いやそういう事じゃなくて……ん? この鶏料理美味しいなあ」
美味しい鶏料理を食べたのは久しぶりだった。
「いいっすよ出て来て」
言われて最後尾から更にカウボーイ達が銃を持って出て来た。
「よし、行くぞ。お宝は目の前だ」
別の警備員がチラッと頭を出し、こちらを見て驚いたのが見えた。警備員が笛を吹き、一斉に貨物車両の隙間から顔を出してこちらに発砲して来た。カウボーイが体を隠し、頭を出して向こうの人数を数えた。
「おおいるいる。よーしお前等! 仕事開始だ!」
カウボーイ達も警備員に向かって一斉に発砲を始めた。
食堂車にいるアルベルト達の方まで激しい銃撃戦の音と悲鳴が聞こえて来た。トーマスは驚いてコップの水をこぼした。
「何だ!?」
後ろの車両から逃げて来た客が雪崩込んで来た。
「まさか列車強盗か?」
「列車強盗?」
「後ろの方にはシングへ運ばれる貨物が大量に載っている。近年それを狙う輩が増えているらしい」
食堂車の後ろの扉から銃を持ったカウボーイの男が見えた。男は中をひとしきり覗いた後、銃を構えたまま扉を開けて入って来た。
「お客様、大変ご迷惑をおかけしております。手を上げてくれるかな?」
食堂車の中の者達は一斉に手を上げた。
「よし。俺達は後ろの貨物をもらいに来ただけだ。無事に帰りたきゃ余計な事を考えず大人しくしていろ」
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「あの四人は何をするつもりでしょう?」
「汽車をどこかで止めるつもりかもしれんな。仲間が待っている所で貨物を下ろすために」
「なるほど」
アルベルトは食堂のテーブルを見回した。ここでは大根サラダや大根が使われたドレッシング、ハンバーグの上に乗った大根おろしなど大根が多数確認できた。
「汽車を止めに行った奴等を倒せばどこかで奴等の仲間が待っていても通り過ぎて町まで行ける。前の安全を確保してから後ろの奴等を倒せば問題無さそうですね」
「む、無茶を言うなアルベルト君。丸腰じゃないか」
アルベルトは大根の切れ端をつまんだ。男はアルベルトが動いたのに気付いて叫んだ。
「おいそこ! 何やって……ほんとに何やってんだ?」
アルベルトは言われて切れ端をつまんだまま静止した。男が近付いて来る。
「余計な事考えるなって言っただろ。何考えてんだお前?」
アルベルトが切れ端を男にポイと投げるとキン!という音がして刃が男の胸に突き刺さった。
「が……!?」
男の銃を素早く押さえて力尽きた男を壁際に寄せた。トーマスは驚いて言葉が出ない。
「ど、どんな手品を使ったんだね?」
「とびっきりの手品です、後で説明します。トーマスさん、お孫さんの服で申し訳無いんですが背中にこのドレッシングを塗ってくれませんか?」
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