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8月
96.センニチコウ
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結局夜中ずっと泣き続けたみたいな私は、あの時雪ちゃんから夏風邪を立派に貰っていたらしい。こんなに暑いのに寒気がして布団を被っていても、寒くて震えが来るのって凄い奇妙。若いから何とかなるとか言う問題じゃなくって、普段なら不滅の食欲な筈の私がなにも喉を通らない。熱が上がりきるまでは寒気は仕方がないって言われても、自分でも訳が分からない。泣いたせいで目は晴れ上がってるし、昨日見た夢も実はもう朧気で大事な事だった筈なのに何だったのか分からなくなり始めている。
「麻希ちゃん」
突然凄く心配そうに私を覗きこむ雪ちゃんの顔が目の前に見える。夢の続きなんだと熱に浮かされて思うと、再び涙か溢れだして頬を伝う。雪ちゃん、ごめんねと心の中で繰り返しながら。
「泣かないで、麻希ちゃん。どうしたの?しんどい?」
ヒンヤリした雪ちゃんの手が頬を撫でて涙を拭うのに、私の涙は次から次へと溢れてくる。優しく頬を撫でる雪ちゃんの手は、私が昔知ってるのと変わらなくて凄く嬉しいのに悲しくなってしまう。
「雪ちゃん。」
「何?まーちゃん。」
少し慌てながら私の声に返事をする雪ちゃん。慌てると昔と同じくまーちゃんって呼んでくれる雪ちゃんの事が私は大好きなのに。
「雪ちゃん、従兄妹って結婚できないの?」
泣きながら聞く私に雪ちゃんが凍りついたように、目を丸くして私の顔を見る。雪ちゃんが凍りついたって事はあの声が言ったのは本当なの?血が繋がってると結婚って出来ないって本当なのって泣きじゃくって私が聞くと、雪ちゃんの目は困ったように私を覗きこんで囁く。
「まーちゃん?もし、血が繋がってないなら僕と結婚する?一応法律では従兄妹なら結婚できるんだよ?」
何て都合のいい夢なんだろう。雪ちゃんがこんなことを言う筈がないのに、私に都合のいい事ばかり夢の雪ちゃんは話してる。でも、夢なら私の好きなように進めばいい、雪ちゃんの事が好きなのに血が繋がってるから諦めたなんて言えないし、現実の雪ちゃんは結婚してて今更どうすることもできないんだから。
「まーちゃん、僕は母の連れ子なんだよ?」
そんなこと聞いたことない。確かに伯母ちゃんは外人さんみたいな栗色の髪と雪ちゃんより色素の薄い灰色がかった青い瞳をしてた。朧気な記憶だけど、確か伯父ちゃんは『茶樹』のマスターさんみたいな人だった。似てるかって言われても私の中ではもうずっと昔過ぎて記憶は、朧気すぎて正解も分からない。そう言えば家にも伯父ちゃん達の写真はあまり残ってないから見たことがない。
「父とは養子縁組で血が繋がってないんだよ?」
衛と雪ちゃんみたいに?そう言えば雪ちゃんは婿養子だから衛との関係は父子でいいのかな?あんまり考えたことなかった。雪ちゃんは少し躊躇うようにしながら、それでも私の瞳を覗きこんだ。
「君と僕は本当は何も血の繋がりがないって言ったらどうする?」
「都合のいい夢だね、雪…ちゃん。」
掠れた私の声に雪ちゃんは、何時かみたいに花のように微笑んで私の頬を撫でる。都合のいい夢の中の雪ちゃんは、昔私がくっついて歩いた時みたい。あの時みたいに凄く優しく微笑んで、私の事を嬉しそうに眺めていて。私はこれが夢じゃなくて、本当のことだったらいいのにって思う。色褪せない愛みたいに綺麗な雪ちゃんの笑顔は特別で、こんな夢なら覚めなくてもいいなと呟くと、更に雪ちゃんは幸せそうに微笑んで私に顔を寄せる。私の熱い熱で乾いた唇に、ヒンヤリした雪ちゃんの唇が重なって、私の熱い吐息が雪ちゃんに吸いとられていくみたい。唇を重ねられて間近に見る雪ちゃんの睫毛が、凄く長くて私はボンヤリとそれを眺める。唇をただ重ねているだけなのに、少し気持ちいいのは何でかな?雪ちゃんだからかな?
「何でキスするの?」
思わず離れた唇に問いかけると、雪ちゃんは恥ずかしそうに笑ってる。雪ちゃんのそんな笑顔は初めて見たななんて、そんな訳の分からないことを考えている内に私は夢から転げ落ちて深く眠り始めていた。
「大好きだよ、まーちゃん」
夢の中で都合のいい夢の中の雪ちゃんがそう優しい声で囁いた。
※※※
目が覚めると熱が下がったのか、グッショリ汗をかいていて悲鳴をあげそうになる。絞れるくらい汗ってホントにかくものなんだと、私は慌てて着替えをもってシャワーを浴びるために階段を降りた。玄関を眺めると残っているのは私の靴だけ。キッチンのメモ板に少しだけ買い物に出てますとママの字が書いてある。
やっぱり夢だった。
雪ちゃんが傍にいてあんなことを言うなんて、まかり間違ってもあり得ない。雪ちゃんは静子さんと結婚してて、衛のパパになってこの家から出で行ってしまったのだから。でも、夢くらいなら勝手なことを考えたって自由だし、大体にして私には他に好きな人がいる。ここのところ何だか変なことばかり続いたし、早紀ちゃんからもあんなことを言われたせいで少し私はおかしくなったのかも。私はプルプルと頭をふってから、お風呂場に駆け込むんで汗で張り付いた服を引き剥がした。
「麻希ちゃん」
突然凄く心配そうに私を覗きこむ雪ちゃんの顔が目の前に見える。夢の続きなんだと熱に浮かされて思うと、再び涙か溢れだして頬を伝う。雪ちゃん、ごめんねと心の中で繰り返しながら。
「泣かないで、麻希ちゃん。どうしたの?しんどい?」
ヒンヤリした雪ちゃんの手が頬を撫でて涙を拭うのに、私の涙は次から次へと溢れてくる。優しく頬を撫でる雪ちゃんの手は、私が昔知ってるのと変わらなくて凄く嬉しいのに悲しくなってしまう。
「雪ちゃん。」
「何?まーちゃん。」
少し慌てながら私の声に返事をする雪ちゃん。慌てると昔と同じくまーちゃんって呼んでくれる雪ちゃんの事が私は大好きなのに。
「雪ちゃん、従兄妹って結婚できないの?」
泣きながら聞く私に雪ちゃんが凍りついたように、目を丸くして私の顔を見る。雪ちゃんが凍りついたって事はあの声が言ったのは本当なの?血が繋がってると結婚って出来ないって本当なのって泣きじゃくって私が聞くと、雪ちゃんの目は困ったように私を覗きこんで囁く。
「まーちゃん?もし、血が繋がってないなら僕と結婚する?一応法律では従兄妹なら結婚できるんだよ?」
何て都合のいい夢なんだろう。雪ちゃんがこんなことを言う筈がないのに、私に都合のいい事ばかり夢の雪ちゃんは話してる。でも、夢なら私の好きなように進めばいい、雪ちゃんの事が好きなのに血が繋がってるから諦めたなんて言えないし、現実の雪ちゃんは結婚してて今更どうすることもできないんだから。
「まーちゃん、僕は母の連れ子なんだよ?」
そんなこと聞いたことない。確かに伯母ちゃんは外人さんみたいな栗色の髪と雪ちゃんより色素の薄い灰色がかった青い瞳をしてた。朧気な記憶だけど、確か伯父ちゃんは『茶樹』のマスターさんみたいな人だった。似てるかって言われても私の中ではもうずっと昔過ぎて記憶は、朧気すぎて正解も分からない。そう言えば家にも伯父ちゃん達の写真はあまり残ってないから見たことがない。
「父とは養子縁組で血が繋がってないんだよ?」
衛と雪ちゃんみたいに?そう言えば雪ちゃんは婿養子だから衛との関係は父子でいいのかな?あんまり考えたことなかった。雪ちゃんは少し躊躇うようにしながら、それでも私の瞳を覗きこんだ。
「君と僕は本当は何も血の繋がりがないって言ったらどうする?」
「都合のいい夢だね、雪…ちゃん。」
掠れた私の声に雪ちゃんは、何時かみたいに花のように微笑んで私の頬を撫でる。都合のいい夢の中の雪ちゃんは、昔私がくっついて歩いた時みたい。あの時みたいに凄く優しく微笑んで、私の事を嬉しそうに眺めていて。私はこれが夢じゃなくて、本当のことだったらいいのにって思う。色褪せない愛みたいに綺麗な雪ちゃんの笑顔は特別で、こんな夢なら覚めなくてもいいなと呟くと、更に雪ちゃんは幸せそうに微笑んで私に顔を寄せる。私の熱い熱で乾いた唇に、ヒンヤリした雪ちゃんの唇が重なって、私の熱い吐息が雪ちゃんに吸いとられていくみたい。唇を重ねられて間近に見る雪ちゃんの睫毛が、凄く長くて私はボンヤリとそれを眺める。唇をただ重ねているだけなのに、少し気持ちいいのは何でかな?雪ちゃんだからかな?
「何でキスするの?」
思わず離れた唇に問いかけると、雪ちゃんは恥ずかしそうに笑ってる。雪ちゃんのそんな笑顔は初めて見たななんて、そんな訳の分からないことを考えている内に私は夢から転げ落ちて深く眠り始めていた。
「大好きだよ、まーちゃん」
夢の中で都合のいい夢の中の雪ちゃんがそう優しい声で囁いた。
※※※
目が覚めると熱が下がったのか、グッショリ汗をかいていて悲鳴をあげそうになる。絞れるくらい汗ってホントにかくものなんだと、私は慌てて着替えをもってシャワーを浴びるために階段を降りた。玄関を眺めると残っているのは私の靴だけ。キッチンのメモ板に少しだけ買い物に出てますとママの字が書いてある。
やっぱり夢だった。
雪ちゃんが傍にいてあんなことを言うなんて、まかり間違ってもあり得ない。雪ちゃんは静子さんと結婚してて、衛のパパになってこの家から出で行ってしまったのだから。でも、夢くらいなら勝手なことを考えたって自由だし、大体にして私には他に好きな人がいる。ここのところ何だか変なことばかり続いたし、早紀ちゃんからもあんなことを言われたせいで少し私はおかしくなったのかも。私はプルプルと頭をふってから、お風呂場に駆け込むんで汗で張り付いた服を引き剥がした。
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