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6月
閑話2.須藤香苗
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最近の麻希子は本当に香苗の話を聞く気がなくて、こっちの想いの何1つ理解しようとしない。何時もめんどくさそうに子供っぽい麻希子にあしらわれるのが、大人の香苗には面白くなかった。化粧も何もしてない彼氏もいない子供なのに私の話を聞こうともしないなんて、梓に愚痴ると彼女はニヤリと笑いながら「しめちゃおうよ」と香苗に囁いた。だから、テストの真っ最中なのに梓の言う通り音楽準備室に、香苗は麻希子を呼び出した。呼び出した麻希子は何時もと変わらないのに、既に不機嫌そうな顔をして香苗と梓を睨み付けた。
「最近、マキ、どうしてカナの事無視するのぉ?」
こっちが下手に出て丁寧に聞いてあげたのに、みるみる麻希子の顔が険悪に変わる。
「あのさぁ、香苗。私よりアンタがシカトしてたじゃん。ついこの前まで。」
「そんなことないよぉ、カナはマキのことホントに大事な親友だと思ってるしぃ。」
埃りっぽい準備室に差し込む外の光がまるでスポットライトみたいに作り物めいて見える。折角香苗から気を使って話しかけているのに、子供っぽい不貞腐れた顔で麻希子が苛立つように吐き捨てた。
「よく言うよ、私の事を自己中の愛想悪い困った子だって彼氏に話してた癖に。」
「ええー?そんな事カナが言うはずないでしょぉ?他の人が喋ってたの聞き間違ったんじゃないのぉ?」
一瞬その言葉は自分の中でも聞き覚えはあったのを無視して心の中に飲み込んで言うと、麻希子の表情は更に険悪になり香苗は少し困惑する。本当はそう言われればそんな感じの事を、矢根尾に向かって話した。その記憶がうっすらと甦るが、今更言ったといって麻希子から嘘をついたと言われるのは嫌だ。そう思うと自分の視線から嘘がばれるのが嫌で、麻希子の顔を真っ直ぐ見るのが怖くなった。
「カナはぁ、マキをすっごく大事な親友だって思ってるよ?最近彼氏が出来ちゃったから、マキを優先出来なくって拗ねてるのは分かるけどぉ。」
一応香苗から友達としてカラオケにも誘ってあげて、友人として合コンにも呼んであけたのだ。それなのに勝手に独りで不貞腐れて帰ったのは麻希子の方だし、香苗は大人なんだから矢根尾との付き合いがある。
「でもさぁ、彼氏とのことなんだからマキもちょっとは我慢した方が良いと思うの、マキは親友なんだからそこはもっと気を使って貰わないと。」
そう香苗が言った瞬間、麻希子の瞳が冷たく香苗と梓を睨んだのが分かった。
「私、そういう気の使い方する気ないんだけど。」
子供っぽいその言葉に香苗は呆れながら、何時も矢根尾が香苗にするように麻希子を諭すようなつもりで説明する。そんなんじゃ麻希子は何時まで経っても大人になれない、中学生の時と変わらない子供のままだ。
「もうさぁ、高2なんだからマキもちょっとは女心理解するように大人にならないとぉ。何時までも子供じゃダメだと思うなぁカナ。」
「もういいよ、香苗は香苗だけで大人の付き合いすればいいよ。」
ああ、やっぱり麻希子は子供だから、大人の付き合いってどんなものか理解できないんだ。そう思って梓を見ると梓も同じことを感じたみたいで、ほらねみたいな顔で苦笑いする。その笑い方が気にくわなかったみたいで、麻希子は突然踵を返しさっさと準備室から姿を消してしまった。
そんなんだから、麻希子は何時まで経っても子供っぽいままなんだ、可哀想にと香苗は後ろ姿を見送りながら考えていた。
※※※
古文の問題文を見た瞬間、しまったと正直に思った。ここ数週間というもの真面目に塾でも勉強していなくて、目の前の問題文ですら全然読めない自分に気がついて息が詰まった。この間両親にも最近勉強していないと説教されて、夜出歩くのを禁止されかけているのだ。ここで赤点にでもなったら、矢根尾に会いに行く時間が取れなくなってしまう。会えなくなったら矢根尾は香苗に飽きて、直ぐ他の女と沢山エッチなことをするんだと思う。会えなくなったら香苗は、もう彼女ではなくなってしまう気がする。
どうしよう。
周囲の規則的な鉛筆の音が忌々しくて、香苗は思わず爪を噛んだ。苛立ちに少しだけ俯くと机から少しだけ教科書が飛び出しているのを見た瞬間、香苗は大きな過ちだという考えも押し退け楽な方へと飛び付いていた。
担任の土志田があんなに音もなく歩けるなんて、正直知らなかった。何が起こったか分からない間に、目の前にあったはずの回答用紙か消え去って、次の瞬間には何がどうなったんだか分からないのに顔が上を向かされる。しかも、あっという間に机の中の教科書まで何処に引っ掛かることもなく抜き取られた。
「あっ!!それっ………っ!」
思わず出た言葉の先で、何時もニヤニヤしている若い担任の目が凄く冷たい視線で自分を睨んでいるのに香苗は凍りついた。担任は何も言わず回答用紙と教科書を持ったまま教壇の方に歩いていってしまう。
どうしよう。回答用紙持っていっちゃった。問題文を読むのにちょっと見ただけなのに、ほんのちょっと見ただけで答えを見た訳じゃないのに
静まりかえった空気の中で担任はそ知らぬ顔で教壇の真ん中に座っていて、香苗は茫然自失のまま泣き出した。誰も担任に香苗に回答用紙を返してあげてと言ってもくれず、香苗が可哀想に泣き続けても担任は意にも介さない顔でこっちを見もしない。
テストが終わり回答用紙が集められ今更皆がどよめいている中、香苗は担任に生徒指導室に行きそのまま待っているようにと冷ややかに言われ、今度は態と声をあげて泣き出した。女子の泣き声に担任が慌てて、今回だけは見逃すと言うのではという女ながらの打算もあった。
「須藤、泣いててもいいから、今すぐ移動しなさい。」
てっきり泣けば若い先生だから怯むと思ったのに担任は全く動じず冷ややかな声で言い、香苗はその言葉に一瞬泣くのを忘れてポカンと先生の顔を見上げる。
そこには真っ直ぐに香苗の顔を無表情に眺める担任がいて、香苗は相手も矢根尾と同じ大人の男の人だったのに気がつく。相手は香苗の泣き真似など何とも感じていないのが、その視線で分かりこれ以上泣くだけ無駄だと理解した。視界の端で誰かが立ち上がるために引いた椅子のたてた大きな音でその空気が破れ、我に返った香苗を責め立てるように担任の声が同じことを繰り返す。こちらの言い分を聞きもしない担任に、香苗は不貞腐れた顔で立ち上がりバックに荷物を積めようと動いた。
「須藤、荷物は持たず至急移動しなさい。もう2度と同じことを言わせるなよ?」
荷物も持たせないなんて意地悪して帰らせないつもりなんだと、香苗は不満に頬を膨らませ乱暴に椅子を蹴り飛ばしながら教室から飛び出した。飛び出した後香苗は廊下を歩きながら、どう言ったらあの担任も家族もカンニングじゃないと納得させられるか理由を必死に考える。
気持ち悪くて頭を下げていただけって言えばどうかな。
それが良さそうだと思った途端本当に気持ちが悪くなった気がして、足元が覚束なくなるのを感じながら生徒指導室に辿り着く。しかし、待っても待っても担任は来なくて、結局具合の悪さを続けるのに香苗自身が飽きてしまっていたのだ。何時までも待たされるのに苛立ち、ドアが空いた瞬間香苗の口から文句が飛び出し背の高い担任の後ろに母親がいるのが香苗には見えなかった。
「何時までこんなとこで待たすのよ!スマホも置いてきたから暇潰しも出来ないし!カナこんなことしてないで早く帰りたいのに!」
飛び出した悪態にしまったと思った時には、もう遅かった。担任の背後で母親の目がつり上がったのが見えたし、目の前の呆れ顔の担任はそれを諌める気もない。母親が来るまで待って一緒に連れて来るなんて、卑怯にも程があると思う。
結局担任は淡々と状況を説明して、その後カンニングをするとどうなるのかという愚痴ぐちした説明をされた。カンニングなんかしてないと言うと、テスト前に教科書を見るのは禁止事項として説明したと突っぱねられ香苗の意見は聞く気もないのが分かる。ちょっと気分が悪くて下を見ただけって言っても、ママまで信じもしないで私の頭を下げさせてくるのに香苗は更に不貞腐れるしかなかった。散々理由も聞かずに怒られて、しかも国語のテストは受けなかった事になると言われて、だったら最初っからそれだけ言って終わればいいのにと正直思う。
帰り道でそう言ったらママの目がまたもやつり上がって、お説教が再開されて香苗はハイハイ分かりましたを何度もただ繰り返だけだった。翌日も折角テスト明け休みだって言うのにママから外出禁止を言い渡されて、部屋から出ることも出来ない。仕方がないからLINEして過ごすしかない。
《ねぇ、誰がチクったんだろうね?カナのこと》
梓の言い方にムッとする。カンニングするつもりじゃなかったのに、梓も香苗の事を信じてもいないのが腹立たしかった。
《カナ、カンニングなんかしてないよぉ!気持ち悪くて頭下げてただけだってば!》
既読マークがついて梓がそれに何と答えるのか、香苗は苛立ちながら見つめる。それにしても確かに担任が誰に言われて、何時香苗の動きに気がついたのかと気になりだす。
《マキからだったらカナの後ろ見えるんじゃない?あは、もしかしてマキにチクられてたりしてー。》
その文字を読んだ瞬間、香苗はカッと頭に血が上ったような気がした。梓の言う通り麻希子の席から香苗の後ろ姿はよく見えるのは、よく前の席に座って話をしたから知っている。しかも、最近の麻希子は何時も不貞腐れてばかりで、香苗の話を何一つ聞こうともしないのだ。言われてみて、それしかないと思った。
《マキが土志田にカナのことチクったんでしょ?知ってるんだから》
暫くして既読マークがついた。暫く待っても返事をしない麻希子に更に香苗は苛立ちながらの、文字を打ち込む。麻希子は香苗が先に大人になって幸せだから、子供じみた嫉妬心で意地悪をしたに違いない。
《カナが幸せだからって、嫉妬するのはマキの心が狭いんだよ。最低!》
それも既読マークがついたけど、何も反応してこない。苛立ちに舌打ちしながら、直接麻希子に心の狭さを指摘して嫉妬深い自分を反省させようと電話する。既読して見ている癖に、何時まで経っても電話をとろうともしないのに苛立ちが更に深まるのが分かった。とらない気ならこちらにもこちらの言い分があると香苗は何度も文字を打ち込んだ。
《卑怯者!》
《カナが可哀想でしょ?!》
《謝れ!》
途中から気かつくと既読マークがつかなくなった、電話をしても発信音だけが何時までもなるだけで香苗の不満は増すばかりだ。今まであんなに気を使って優しくしてあげてきたのに、こんな態度とるなんて信じられない。
「最近、マキ、どうしてカナの事無視するのぉ?」
こっちが下手に出て丁寧に聞いてあげたのに、みるみる麻希子の顔が険悪に変わる。
「あのさぁ、香苗。私よりアンタがシカトしてたじゃん。ついこの前まで。」
「そんなことないよぉ、カナはマキのことホントに大事な親友だと思ってるしぃ。」
埃りっぽい準備室に差し込む外の光がまるでスポットライトみたいに作り物めいて見える。折角香苗から気を使って話しかけているのに、子供っぽい不貞腐れた顔で麻希子が苛立つように吐き捨てた。
「よく言うよ、私の事を自己中の愛想悪い困った子だって彼氏に話してた癖に。」
「ええー?そんな事カナが言うはずないでしょぉ?他の人が喋ってたの聞き間違ったんじゃないのぉ?」
一瞬その言葉は自分の中でも聞き覚えはあったのを無視して心の中に飲み込んで言うと、麻希子の表情は更に険悪になり香苗は少し困惑する。本当はそう言われればそんな感じの事を、矢根尾に向かって話した。その記憶がうっすらと甦るが、今更言ったといって麻希子から嘘をついたと言われるのは嫌だ。そう思うと自分の視線から嘘がばれるのが嫌で、麻希子の顔を真っ直ぐ見るのが怖くなった。
「カナはぁ、マキをすっごく大事な親友だって思ってるよ?最近彼氏が出来ちゃったから、マキを優先出来なくって拗ねてるのは分かるけどぉ。」
一応香苗から友達としてカラオケにも誘ってあげて、友人として合コンにも呼んであけたのだ。それなのに勝手に独りで不貞腐れて帰ったのは麻希子の方だし、香苗は大人なんだから矢根尾との付き合いがある。
「でもさぁ、彼氏とのことなんだからマキもちょっとは我慢した方が良いと思うの、マキは親友なんだからそこはもっと気を使って貰わないと。」
そう香苗が言った瞬間、麻希子の瞳が冷たく香苗と梓を睨んだのが分かった。
「私、そういう気の使い方する気ないんだけど。」
子供っぽいその言葉に香苗は呆れながら、何時も矢根尾が香苗にするように麻希子を諭すようなつもりで説明する。そんなんじゃ麻希子は何時まで経っても大人になれない、中学生の時と変わらない子供のままだ。
「もうさぁ、高2なんだからマキもちょっとは女心理解するように大人にならないとぉ。何時までも子供じゃダメだと思うなぁカナ。」
「もういいよ、香苗は香苗だけで大人の付き合いすればいいよ。」
ああ、やっぱり麻希子は子供だから、大人の付き合いってどんなものか理解できないんだ。そう思って梓を見ると梓も同じことを感じたみたいで、ほらねみたいな顔で苦笑いする。その笑い方が気にくわなかったみたいで、麻希子は突然踵を返しさっさと準備室から姿を消してしまった。
そんなんだから、麻希子は何時まで経っても子供っぽいままなんだ、可哀想にと香苗は後ろ姿を見送りながら考えていた。
※※※
古文の問題文を見た瞬間、しまったと正直に思った。ここ数週間というもの真面目に塾でも勉強していなくて、目の前の問題文ですら全然読めない自分に気がついて息が詰まった。この間両親にも最近勉強していないと説教されて、夜出歩くのを禁止されかけているのだ。ここで赤点にでもなったら、矢根尾に会いに行く時間が取れなくなってしまう。会えなくなったら矢根尾は香苗に飽きて、直ぐ他の女と沢山エッチなことをするんだと思う。会えなくなったら香苗は、もう彼女ではなくなってしまう気がする。
どうしよう。
周囲の規則的な鉛筆の音が忌々しくて、香苗は思わず爪を噛んだ。苛立ちに少しだけ俯くと机から少しだけ教科書が飛び出しているのを見た瞬間、香苗は大きな過ちだという考えも押し退け楽な方へと飛び付いていた。
担任の土志田があんなに音もなく歩けるなんて、正直知らなかった。何が起こったか分からない間に、目の前にあったはずの回答用紙か消え去って、次の瞬間には何がどうなったんだか分からないのに顔が上を向かされる。しかも、あっという間に机の中の教科書まで何処に引っ掛かることもなく抜き取られた。
「あっ!!それっ………っ!」
思わず出た言葉の先で、何時もニヤニヤしている若い担任の目が凄く冷たい視線で自分を睨んでいるのに香苗は凍りついた。担任は何も言わず回答用紙と教科書を持ったまま教壇の方に歩いていってしまう。
どうしよう。回答用紙持っていっちゃった。問題文を読むのにちょっと見ただけなのに、ほんのちょっと見ただけで答えを見た訳じゃないのに
静まりかえった空気の中で担任はそ知らぬ顔で教壇の真ん中に座っていて、香苗は茫然自失のまま泣き出した。誰も担任に香苗に回答用紙を返してあげてと言ってもくれず、香苗が可哀想に泣き続けても担任は意にも介さない顔でこっちを見もしない。
テストが終わり回答用紙が集められ今更皆がどよめいている中、香苗は担任に生徒指導室に行きそのまま待っているようにと冷ややかに言われ、今度は態と声をあげて泣き出した。女子の泣き声に担任が慌てて、今回だけは見逃すと言うのではという女ながらの打算もあった。
「須藤、泣いててもいいから、今すぐ移動しなさい。」
てっきり泣けば若い先生だから怯むと思ったのに担任は全く動じず冷ややかな声で言い、香苗はその言葉に一瞬泣くのを忘れてポカンと先生の顔を見上げる。
そこには真っ直ぐに香苗の顔を無表情に眺める担任がいて、香苗は相手も矢根尾と同じ大人の男の人だったのに気がつく。相手は香苗の泣き真似など何とも感じていないのが、その視線で分かりこれ以上泣くだけ無駄だと理解した。視界の端で誰かが立ち上がるために引いた椅子のたてた大きな音でその空気が破れ、我に返った香苗を責め立てるように担任の声が同じことを繰り返す。こちらの言い分を聞きもしない担任に、香苗は不貞腐れた顔で立ち上がりバックに荷物を積めようと動いた。
「須藤、荷物は持たず至急移動しなさい。もう2度と同じことを言わせるなよ?」
荷物も持たせないなんて意地悪して帰らせないつもりなんだと、香苗は不満に頬を膨らませ乱暴に椅子を蹴り飛ばしながら教室から飛び出した。飛び出した後香苗は廊下を歩きながら、どう言ったらあの担任も家族もカンニングじゃないと納得させられるか理由を必死に考える。
気持ち悪くて頭を下げていただけって言えばどうかな。
それが良さそうだと思った途端本当に気持ちが悪くなった気がして、足元が覚束なくなるのを感じながら生徒指導室に辿り着く。しかし、待っても待っても担任は来なくて、結局具合の悪さを続けるのに香苗自身が飽きてしまっていたのだ。何時までも待たされるのに苛立ち、ドアが空いた瞬間香苗の口から文句が飛び出し背の高い担任の後ろに母親がいるのが香苗には見えなかった。
「何時までこんなとこで待たすのよ!スマホも置いてきたから暇潰しも出来ないし!カナこんなことしてないで早く帰りたいのに!」
飛び出した悪態にしまったと思った時には、もう遅かった。担任の背後で母親の目がつり上がったのが見えたし、目の前の呆れ顔の担任はそれを諌める気もない。母親が来るまで待って一緒に連れて来るなんて、卑怯にも程があると思う。
結局担任は淡々と状況を説明して、その後カンニングをするとどうなるのかという愚痴ぐちした説明をされた。カンニングなんかしてないと言うと、テスト前に教科書を見るのは禁止事項として説明したと突っぱねられ香苗の意見は聞く気もないのが分かる。ちょっと気分が悪くて下を見ただけって言っても、ママまで信じもしないで私の頭を下げさせてくるのに香苗は更に不貞腐れるしかなかった。散々理由も聞かずに怒られて、しかも国語のテストは受けなかった事になると言われて、だったら最初っからそれだけ言って終わればいいのにと正直思う。
帰り道でそう言ったらママの目がまたもやつり上がって、お説教が再開されて香苗はハイハイ分かりましたを何度もただ繰り返だけだった。翌日も折角テスト明け休みだって言うのにママから外出禁止を言い渡されて、部屋から出ることも出来ない。仕方がないからLINEして過ごすしかない。
《ねぇ、誰がチクったんだろうね?カナのこと》
梓の言い方にムッとする。カンニングするつもりじゃなかったのに、梓も香苗の事を信じてもいないのが腹立たしかった。
《カナ、カンニングなんかしてないよぉ!気持ち悪くて頭下げてただけだってば!》
既読マークがついて梓がそれに何と答えるのか、香苗は苛立ちながら見つめる。それにしても確かに担任が誰に言われて、何時香苗の動きに気がついたのかと気になりだす。
《マキからだったらカナの後ろ見えるんじゃない?あは、もしかしてマキにチクられてたりしてー。》
その文字を読んだ瞬間、香苗はカッと頭に血が上ったような気がした。梓の言う通り麻希子の席から香苗の後ろ姿はよく見えるのは、よく前の席に座って話をしたから知っている。しかも、最近の麻希子は何時も不貞腐れてばかりで、香苗の話を何一つ聞こうともしないのだ。言われてみて、それしかないと思った。
《マキが土志田にカナのことチクったんでしょ?知ってるんだから》
暫くして既読マークがついた。暫く待っても返事をしない麻希子に更に香苗は苛立ちながらの、文字を打ち込む。麻希子は香苗が先に大人になって幸せだから、子供じみた嫉妬心で意地悪をしたに違いない。
《カナが幸せだからって、嫉妬するのはマキの心が狭いんだよ。最低!》
それも既読マークがついたけど、何も反応してこない。苛立ちに舌打ちしながら、直接麻希子に心の狭さを指摘して嫉妬深い自分を反省させようと電話する。既読して見ている癖に、何時まで経っても電話をとろうともしないのに苛立ちが更に深まるのが分かった。とらない気ならこちらにもこちらの言い分があると香苗は何度も文字を打ち込んだ。
《卑怯者!》
《カナが可哀想でしょ?!》
《謝れ!》
途中から気かつくと既読マークがつかなくなった、電話をしても発信音だけが何時までもなるだけで香苗の不満は増すばかりだ。今まであんなに気を使って優しくしてあげてきたのに、こんな態度とるなんて信じられない。
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