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5月

閑話1.須藤香苗

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中学の頃、須藤香苗の目には高校生は大人で綺麗で輝いていた。だから、自分も高校生になったその日から毎日楽しく変わって、綺麗に生まれ変わり何もかもがキラキラ輝いているのだとずっと思っていた。
なのに高校生になって最初の1年間、香苗がしていたのは中学生の延長だとしか思えない単調な1年だった。中学から一緒の宮井麻希子とつるんで美術部に通い、何にもキラキラしていない綺麗でもない日常を過ごす。そんな中であっという間に春休みになっているのに気がついて、香苗は唖然とした。キラキラどころか何にも楽しくもない毎日なのに、気がついて香苗は愕然とする。

これじゃ何にも楽しくないまま高校生が終わっちゃう!

だから香苗は、自分から一念発起することにしたのだ。先ずは見た目を変えることを香苗は必死に考えて、ダサい眼鏡を止めてコンタクトに変えた。今まで麻希子がしないから一緒になっていたけど、化粧品も買い漁り化粧の練習を繰り返す。
4月から綺麗でキラキラした大人に変わるんだと、春休み中必死に努力したのだ。おかげで見た目は格段に綺麗な大人に生まれ変わることができて香苗は、満足感に胸を張って4月の始業式を迎えていた。何も中学の時と変わらない麻希子の姿に密かな優越感を覚えながら、香苗は同じクラスになったことをみつけ大袈裟に喜んだ。

「やったぁ、マキ。またカナとマキ一緒のクラスだよぉ!」

そう言いながら、でも自分は麻希子より先に綺麗になったし大人になったと優越感に笑う。



※※※



「須藤、急に綺麗で可愛くなったなぁ。」

単調で代わり映えのない塾の講義。こんなのを受けてるくらいなら、化粧コーナーのお姉さんにマスカラの上手な付け方を聞きたいとすら考えていた。そんなつまらない思いで受けていた国語の講習の最後に、耳打ちのように囁かれた言葉に頬が熱くなるのがわかった。
どの子もコンタクトに変えたんだ程度しか言わないのに、唐突に年上の塾の先生とは言え男の人からそんな事を言われるとは思ってもいなかった。他の科目も苦手だけど古文漢文が特に苦手な香苗は、去年もずっと同じ講師から教えられていたのだ。それでも、今まで1度も直接話しかけられたことはなかったのに、唐突に耳元でそんなことを囁きかけられたのは衝撃に他ならなかった。それから、香苗がその塾の先生を目で追うようになった自分に気が付くまで、そう時間はかからない。

「須藤が何時も俺を可愛い目で見るから」

そう矢根尾先生から香苗に声をかけて、喫煙所まで連れていった。煙草を吸いに外で座りながら香苗に笑いかけたのは初めて授業の後で声をかけられて僅か3日後の事だった。塾の講師用の喫煙所は表通りにある塾の入り口とは違いビルの影で薄暗い。その暗がりの中から手招きされて躊躇いがちに歩み寄った香苗の腕を掴んだ手は、今まで見たこともない男の人の大きな手で香苗は戸惑った。

「俺の事好きか?何時も見てるけど。」

そう聞かれても香苗は、自分がどう思っているかもよく分からないでいるから直ぐには答えられない。
黙っている香苗をどう判断したのか、力のこもった手が腕を更に引き寄せ突然唇が香苗の唇にあわせられた。ヌルリと舌が唇を割り、口の中に滑り込んでくる。煙草の臭いのする唾液が口に流れ込むのを感じながら、酷く淫らな相手の舌の動きにされるままに口の中を舐め回された。これが雑誌で読んだことのある大人のするキスなんだと、香苗は思考が真っ白になるのが分かる。

唾液は嫌かもだけど、舌の感触はちょっと気持ちいいかも。そっか、大人なんだもん、彼氏だっていないと

そうボンヤリと思った香苗は、暗がりでする初めてのキスに自分はこの人の事が好きなんだなと考えた。暗がりで腕から手を離した相手に人に見つかるから早くいけと言われ、香苗は大人しく頷くと言葉に従い塾の入り口の方へ歩き出す。

「香苗」

名字ではなく名前で呼び掛けられ香苗は、思わず暗がりを振り替える。そこに立った香苗の好きな人は先生ではなく、大人の男性になって賑やかに見える笑顔を浮かべていた。

「次の講義で俺終わりだから。」

その言葉の影にそこまで待っていれば大人の交際が匂っていた。煙草の香りのように染み付いた大人の恋愛の気配に、香苗は嬉しそうに微笑むと大きく頷いた。
次の授業は香苗には関係ないことも、その講義の時間夜の闇の中で香苗が待たなければいけないことも関係ない。それでも香苗は矢根尾に大人として扱われるのだと歓喜して、背後の男の意味深な笑顔など気がつかず歩き始めていた。



※※※



最近の麻希子は人の話も聞かないし、私の訴えたいことを聞き流していて面白くなかった。もう少し親身になって話を聞いてくれたら、麻希子にも大人の苦労だって理解できるのに。そんなことを考え爪を弄りながら、香苗は煙草の匂いがする腕の中に座っている。
矢根尾の家はワンルームのマンションでキッチンも小さく料理を作るには狭い。矢根尾が言うには、外で食べるから構わないのだと言う。そのマンションには不釣り合いの古めかしい赤のレザーのソファーに並んで座り、最近出たと言うテレビゲームをする矢根尾の横にいる。こんなに大人でもゲームはするんだと、香苗は違う意味で関心もした。

「カナ、お前の友達2人呼んで、合コンしようぜ。」

唐突な言葉に香苗は少し困惑しながら、横で煙草を吸いながらスマホをいじる矢根尾の顔を見つめる。
塾の講師である彼氏は香苗にとって大人で物知りで頼りになる存在だったが、時々香苗にも理解のできない方向で話しかけてくるので戸惑う。
初めての香苗を突然ラブホテルに連れ込んだ時も、本当はもっとロマンチックなホテルとか彼の家とかが香苗は良かった。でも、大人はこれが普通だと言われると香苗は反論出来ないから、香苗は彼の言うままド派手で大きなベッドしかない部屋に大人しく入るしかない。
初めては気持ちよくない痛いだけども本で読んでいた。でも、本当は正面から抱き締められたりキスされたり、色々優しくしてもらってとか夢見ていたのだ。矢根尾はシャワーから出てベットに乗った途端、いきなり香苗を有無を言わさず四つん這いにした。何が起きるのか分からない香苗の大事なトコロに、突然ズブッと指を入れ乱暴に弄くる。痛いと香苗が叫ぶと矢根尾は直ぐ慣れると鼻で笑い、前戯も無しに後ろからアレのヌルヌルした先を割れ目に擦り付けただけでズブリと勢いよく突き刺す。乱暴に抉じ開けられるみたいにアレを捩じ込まれ血が出て痛くて泣き叫びたかった。でも、後ろから胸をつねるみたいに揉まれながら何度も出し入れされ、何回もして慣れれば良くなると言われ香苗は必死で堪えるしかない。
2度目の時に香苗は慣れてないからまだキツくて入れにくいと、彼が準備した変なジェルを塗った大人の玩具を使われた。気持ちよくないけど気持ちいいかと何度も聞かれるから、彼が喜ぶように可愛く気持ちいいふりをする。3度目には変な軟膏みたいなモノをアソコに塗られエッチする事を教えられた。これが普通に大人がすることだよと言われれば、何時までもむず痒くてジンジンするのもいつか気持ち良くなるのかもと我慢する。
それ以外にも段々気持ち良くなるからと言われて、エッチの最中に彼がする痛い事も彼女なんだからって我慢してきた。

香苗という彼女がちゃんといるのに、どうして私の友達と合コンしないといけないの?

その思いが香苗の目に浮かんだのが見えたのか、スマホをいじっていた矢根尾がうってかわって愛想笑いのように微笑むと子供をあやすように頭を撫でる。

「カナには俺がいるけど、俺の友達には彼女がいないから。可愛い俺のカナにちょっかい出さないように、ちゃんと彼女作る手伝いしてやらないとな。この間の梓ちゃんと他にもう一人誰かいないか?」

矢根尾が説明する言葉に、香苗は素直に納得したように笑いかけ頷いた。確かに少し前に矢根尾に引き合わされた友達という青年達は、香苗に自己紹介した時に彼女がいないと話していたのを思い出す。香苗に手を出さないようになんて彼が嫉妬してるんだと思うと、重苦しかった気持ちが少しだけ軽くなった。同じ塾に通っていた木内梓も矢根尾の授業を受けているから声をかけたら、大人の男の人と付き合いたいと簡単に乗ってきたのだ。意外と気が合う気がして、ついこの間一緒に矢根尾と食事に行っているから合コンだよと言えば誘いやすい。あと1人と考えて、直ぐ浮かんだのは麻希子だった。

麻希子を呼びつけると何時もと変わらない姿に、香苗は内心安堵する自分を感じた。中学生の時と目の前の麻希子は変わらないのが、自分のささくれだった心で安堵に変わるのに疑問を感じる。

何で安心したの?麻希子はまだ子供なんだよ?私はマキよりずぅっと色々経験して大人になったんだから。

結局ノリが悪いし無愛想な麻希子が、さっさとバックレて消えたのに香苗は憤慨した。それでも矢根尾は機嫌よく食事に連れていってくれて、香苗は安心しながら彼の言うがままついていく。
矢根尾のおすすめの大人っぽい店で、まだ未成年だと言うのを隠して甘いジュースみたいなカクテルを勧められるまま何杯も飲んで盛り上がった。大人として扱われフラフラしながら5人で夜の街を歩き、気がついたら全員素っ裸だった。
矢根尾の友達と梓も一緒に裸になってゴチャゴチャやっているのに、矢根尾は笑いながら香苗を見ていた。驚いたことに矢根尾は笑いながら、香苗ではなく梓の後ろで腰をけだものみたいに振っている。しかも、香苗の後ろには別な男が気持ち良さそうに激しく腰を振っていて、矢根尾に穴がどうとか兄弟がどうとか言いながら笑っていた。矢根尾が課外授業だと笑いながら、梓の体を引き上げ腰の上に乗せると梓の中にアレが全部埋まっているのが丸見えになる。梓は気持ち良さそうにアレを出し入れするように腰を振っていて、香苗は呆然とした。

自分がみているのは本当の事なのか夢なのか、酔っているせいかよく分からない。

後ろで腰を振っていた人が、丹念に香苗の体をイヤらしく揉んだり舐めたりするからいつの間にか本当に気持ちよくなって香苗も声をあげている。

まだ高校生なのに、本当はもっと違うことを望んでいたのにどうしてこうなってしまったんだろう。心の何処かで麻希子と同じ、眼鏡でダサくてつまらない毎日の方がずっと良かったと感じている。でも、それがもう取り返しのつかない事なのだと気がついていて、香苗はどうすることもできずにいた。
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