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6月

37.ベロニカ

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梅雨の合間の抜けるような青空の下の月曜日。
朝登校して早紀ちゃんと話している内に、私の机に置かれた手紙に私は思わず眉をあげる。丸々とした表書きは迷わず香苗の字だと分かるけど、破り捨てるのも酷いかと思うので、内容は薄々分かっているけど渋々ながら開けてみることにした。
香苗の手紙は女性の貞節やら自分の名誉を守るだとか、彼女にしては変に古風に感じる言葉が並び、自分がしたことを取り繕うための言い訳が並んでいる。結局はけして自分は間違った事はしていないと言う事と、全ては独りぼっちの私のことを優しく思ってやってあげた善意だという文字で終わっていた。
その手紙を読んだ途端、私の中には呆れる気持ちと一緒に凄く極端だけど怒りが湧いた。よくここまで出来るなと、心が怒りで震える。破きたいと心底思ったけど、これを置いた香苗を見ていたのだろうクラスメイトの心配そうな視線もあって私はそれを必死に耐えた。
結局あの時の涙は、香苗が自分を守る為で、後悔なんて香苗は1つもしていない。その後、あんなに私が悩んだ後悔も意味がなかったんだ。だって私がもっといい方法がなかったか考えている間、香苗は木内梓と頭を付き合わせこれを書いていた。だって香苗たけじゃここまでする頭は多分ない。香苗に出来るのはLINEで連続投稿するか電話してくるくらいで、便箋何枚も手紙を書くなんて手間思い付くとは思えないから。
私は香苗の自分を守る為だけの手紙を見下ろして、自分を落ち着かせる為に溜息をついた。

私は彼女みたいな事は絶対しない。

私は自分の中でそう呟いて、思いきって手の中の手紙を握り潰した。ひどいと思うかもしれないけど、自分が勝手にしたことは何もかも正義で、そのせいで私が不快になったり怖かったりした事はあんたのためを自分が思ってやってあげたんだから大人しく感謝して付き合うのが当然なんて書かれてる手紙を後生大事になんて出来るわけがない。友達ってなんなのかは大きなことはまだ言えない。でもこれは、香苗のこの形はけして友達じゃないと私は思う。

「麻希ちゃん?」

少し心配そうに私を見つめた早紀ちゃんに私は精一杯の明るい笑顔を浮かべる。私の顔に少し安心したように笑う早紀ちゃんの横について歩きながら、私は私らしくいられる場所を探そうと思った。そして、いま、一番私が私らしくいられると思うのは彼女のそばのような気がする。

「大丈夫?麻希ちゃん。」
「何が?大丈夫だよ?」
「そっか。うん、ならいいんだ。」

私の言葉にやっぱり彼女は何も言わずに頷いてくれる。
その姿は何処かやっぱり鳥飼さんに似てるような気がして、私は彼女の席の前に後ろ向きに座りながら彼女の顔を見つめた。やっぱり彼女の雰囲気は何処か鳥飼さんににてるような気がするなんて、改めてそんなことに考えた時ふと思い出していた。

そうだ…ハンカチ返すからって放課後会う約束してるんだっけ


※※※



『茶樹』の深緑のドアを開いて視界の中に入ったその姿は予想と違い2人連れの女子高生に少し驚いたように微笑んで、そのあとおやという風に珍しく表情を変えた。
その今までと違う表情に私が気がついた時、横にいる早紀ちゃんも「あ」と小さく声を落としていた。
少し困った顔で会釈する早紀ちゃんにやっぱり見覚えがあるらしく鳥飼さんも同じように少し困ったような表情を浮かべている。

「こ・こんにちは、鳥飼さん。」

私の声に鳥飼さんはにっこりと微笑んで、そして順番に私たちを眺める。

「こんにちは、信哉さん…。」
「久しぶりだね?そうか…孝の同級生なら早紀とも一緒なんだもんな友達だとしても可笑しくはないのか。」

溜息混じりに笑いながら言う鳥飼さんの名前が信哉だって初めて知った。でも、それ以上に真見塚君は前聞いていたから名前で呼ぶの知ってたけど、早紀ちゃんの事まで呼び捨てだという事の方が驚いた。

「早紀ちゃん…鳥飼さんの事知ってるの?」
「う…うん…。」

そう言えば早紀ちゃんは真見塚君と幼馴染だって前に話していたことを思い出した。
眼を丸くしてる私に気がついて、鳥飼さんは不思議な表情を浮かべながら、私たちに座るように勧めてくれる。だけど何だか凄く雰囲気がおかしい。何だか妙な緊張感があって会話が続かない。

困った、早紀ちゃんに何だかお願いしてきてもらったのに凄く気まずい雰囲気になってしまった。

これこそ本当に後悔してしまう事だわと心の中で叫ぶ私の様子に気がついたように、早紀ちゃんが躊躇いがちに鳥飼さんを眺める。

「鳥飼さんって…真見塚君とどういう…?」

私が思わず会話をしようと持ちかけた言葉に、尚更不思議な空白の時間が流れたような気がして私は眼を丸くする。私何か更に聞いちゃいけないことを、この空気の中で聞いたような気がするけど?

「ああ…孝の家の道場に長い事通っていたからね。」
「あ、合気道・習ってるんですか?鳥飼さんって。」
「少しね、かじっただけだけだよ。」

少し何時もより言葉少ないような鳥飼さんを、早紀ちゃんは凄く不思議な表情でじっと見つめていた。それは私が鳥飼さんを見る憧れとの視線とは全く別なもののような気がしていた。
ハンカチをお返しすると鳥飼さんは何時もの穏やかな微笑みのまま、お先に失礼するねと私達の分の会計伝票まで抜き取り歩み去った。お礼をするつもりできたのに結局奢ってもらってしまうのは、と思ったけど鳥飼さんの笑顔には太刀打ちできない。それに横に座っている早紀ちゃんの緊張したような顔が気になってもいる。

「早紀ちゃん、なんか……ごめんね?」
「えっ?!」
「ついてきてもらったのに、何だかおかしなことになっちゃって。」
「ううん、私こそごめんね?あの、信哉さんと会ったの凄く久しぶりで、何を話したらいいか分かんなくっなっちゃって。」

慌てる早紀ちゃんに私も肩をすくめて、折角奢って貰えることになったから気を取り直すことにしていた。
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