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5月
2.スターチス
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あの綺麗な男の子を見た翌日の12日、月曜。
あんなに運命的な出来事があったなんて嘘のような普段と変わらない朝を迎えて、本当に普段と何も変わらない同じ生活が始まった月曜日。やっぱりというかなんというか、別段何時もと代わり映えのない爽やかで麗らかな日常の陽射し。
2年になってまだ間もない教室はやっとお互いに馴染んできたように賑やかだ。その中でも元々友達だったりともう幾つかのグループはあるし、それには自分は入らないなんてスタイルを匂わせてる子も何人かいる。
女の子も男の子達も大体そんな感じ。
でも、それが普通なんだと私も思う。
今私の目の前にいるのは同じ中学から一緒の須藤香苗。香苗は遂に4月から着け始めたまだ慣れないコンタクトに目を潤ませながら、私の昨日の運命の出来事を心底興味なさそうに聞いている。
「だからぁ、ホントなんだってば、凄い綺麗なさぁ?」
「だって、実際いないしー?カナ見てないしーぃ。」
興味がないと当然のように気のない返事をするのは香苗の何時もの事だけど、いくら興味ないからって香苗がそのままスマホを弄り始めたのには流石に頭にくる。
私が香苗の話したい事を話している時に同じ事をしたら超怒るくせに、と内心で愚痴る。この高校に進学した同じ中学出身が少ない上に、1年の時同じクラスだったからやむを得ず続いている付き合いとはいえ、香苗のこういうとこは本当に自分勝手で腹が立つ。
だけど確かに香苗の言う通り、あの綺麗な香坂クンは教室にはいない。
そして、今更だけど新学期になってからまだ一度もその主が座ったことのない席が、教室の窓際2列目最前列にポツンとある事を私は今朝教室に来て思い出した。
そうなんだ、多分あの席があの香坂君のものなんだと思って、こうして一番に一応友人だと思う香苗に話してみたのに丸っきり興味も感じてもらえず私は本当に面白くない。
「あーもう、サイテーぇ。今度の日曜遊びに行く約束だったのにぃ。」
人がこんだけ真面目に話してるのに、お前はオトコとLINEかよ。
一瞬そういいたくなる自分を私はグッと飲み込む。
高校生になったんだから少しは大人な対応、私は大人と賑やかな教室の中で自分に向かってそう呪文のように繰り返し言い聞かせる。
そんな時私は教室の隅で陽射しを受けながら文庫本に目を落としている、何だか一際大人びて見えるクラスメイトを見つけた。
あーいう子とか、好きなんだろうな、男の子って。
大和撫子っていうのが似合う長い艶やかな黒髪が陽射しにキラキラしている。銀縁の細い眼鏡も知的で似合うし、あの子も睫毛が長い。どうして美形は皆睫毛が長いのだろう、長いから美形なのか、美形だから長いのか。くだらない思考の中でもそのクラスメイトは、静かに淑やかな指で文庫のページを捲っている。大人しくて大人っぽい子とか読書が好きな子とか、そう言うのが好きな男の子はやっぱり多いんじゃないかと思う。そんなことを考えている私の視線の先に気がついた香苗が、私の机にだらしなく肘を突きながらスマホ越しに私と同じ子を見やる。
「何かあいつキラーい。志賀…だっけぇ?」
「話したこともないくせによく言うよ。」
私が何気なくつい言い返すと、面白くない不満満載の香苗の頬がハムスターみたいにポンッと膨れる。
「だって高ビーぽいしぃ?何かすましててさぁ、あたし頭いいんですぅみたいな?」
馬鹿馬鹿しいほど立派な偏見にまみれた香苗の言葉を聞き流しながら、私は自分が何となく彼女に話しかけてみたいなと思っているのに気がつく。
目の前の香苗は確かに中学からの付き合いで一応友達ではあるけど、実際はそんなに仲がいいわけじゃない。ただ単に同じ中学から来たという馴れ合いの延長みたいなもので、香苗は自分が気にいらないとさっさと話は変えるし私との約束より男との約束が優先だ。
ちなみに香苗の男約束優先のおかげで、半月前からあんなに楽しみにしていた昨日のスイーツバイキングはドタキャンされた。本来なら私は今日しこたま怒っているはずだった。香坂君という衝撃がなければ、確かに今も怒っている予定だったのだ。
じゃなきゃ、自分の話しも聞いてくれないこの子と何時までも友人でいられるとも思えないし。
溜息交じりの私の様子をどうとったのか香苗は奇妙に熱っぽい目で私を眺めながら、唐突に教室に響き渡る声で高らかに態とらしく手を握りながら言う。
「うちらずっと友達でいようねぇ?カナぁ、マキのこと凄い大事にしてるんだから。」
アホかい。
自分勝手だな、あんたほんとに。
だいたいねぇ、永久に変わらないものなんか殆どないんだよ。女の友情が永久不変なんて思うなよ。あんたが男優先な限り本当に友情なんて夢みたいなものなんだからね。それに、大体にしてね、大事にするっていうなら態度で示せよ。そうだ、まずはLINEしてないで少しは人の話を聞け。
心の中で私はそう満載の不満をぶちまけながら、一応の顔は愛想笑い。高校になって一番上手に身に付いたのが愛想笑いだって言うのは、正直ちょっといやだ。
どうせならもっと素敵なものが一番身についてるんだとだとよかったなぁ。
そうだな、例えば香坂君と出会ったような出来事が一番最初でそこから彼との運命のドラマが始まるんだったら、それって女子力も身について凄く素敵な高校生活というか人生的にも盛り上がりそうだよね。運命の出会いから運命の交際、そして……はいはい、そんな事、私にあり得るなら等の昔に起こってる。その前に女子力を身に付けないとって駄目だ、本末転倒だ。
そんな事を溜め息混じりに染々と思いながら、だらしないなんて思ったのに香苗と同じように私は机に肘を突いていた。
あんなに運命的な出来事があったなんて嘘のような普段と変わらない朝を迎えて、本当に普段と何も変わらない同じ生活が始まった月曜日。やっぱりというかなんというか、別段何時もと代わり映えのない爽やかで麗らかな日常の陽射し。
2年になってまだ間もない教室はやっとお互いに馴染んできたように賑やかだ。その中でも元々友達だったりともう幾つかのグループはあるし、それには自分は入らないなんてスタイルを匂わせてる子も何人かいる。
女の子も男の子達も大体そんな感じ。
でも、それが普通なんだと私も思う。
今私の目の前にいるのは同じ中学から一緒の須藤香苗。香苗は遂に4月から着け始めたまだ慣れないコンタクトに目を潤ませながら、私の昨日の運命の出来事を心底興味なさそうに聞いている。
「だからぁ、ホントなんだってば、凄い綺麗なさぁ?」
「だって、実際いないしー?カナ見てないしーぃ。」
興味がないと当然のように気のない返事をするのは香苗の何時もの事だけど、いくら興味ないからって香苗がそのままスマホを弄り始めたのには流石に頭にくる。
私が香苗の話したい事を話している時に同じ事をしたら超怒るくせに、と内心で愚痴る。この高校に進学した同じ中学出身が少ない上に、1年の時同じクラスだったからやむを得ず続いている付き合いとはいえ、香苗のこういうとこは本当に自分勝手で腹が立つ。
だけど確かに香苗の言う通り、あの綺麗な香坂クンは教室にはいない。
そして、今更だけど新学期になってからまだ一度もその主が座ったことのない席が、教室の窓際2列目最前列にポツンとある事を私は今朝教室に来て思い出した。
そうなんだ、多分あの席があの香坂君のものなんだと思って、こうして一番に一応友人だと思う香苗に話してみたのに丸っきり興味も感じてもらえず私は本当に面白くない。
「あーもう、サイテーぇ。今度の日曜遊びに行く約束だったのにぃ。」
人がこんだけ真面目に話してるのに、お前はオトコとLINEかよ。
一瞬そういいたくなる自分を私はグッと飲み込む。
高校生になったんだから少しは大人な対応、私は大人と賑やかな教室の中で自分に向かってそう呪文のように繰り返し言い聞かせる。
そんな時私は教室の隅で陽射しを受けながら文庫本に目を落としている、何だか一際大人びて見えるクラスメイトを見つけた。
あーいう子とか、好きなんだろうな、男の子って。
大和撫子っていうのが似合う長い艶やかな黒髪が陽射しにキラキラしている。銀縁の細い眼鏡も知的で似合うし、あの子も睫毛が長い。どうして美形は皆睫毛が長いのだろう、長いから美形なのか、美形だから長いのか。くだらない思考の中でもそのクラスメイトは、静かに淑やかな指で文庫のページを捲っている。大人しくて大人っぽい子とか読書が好きな子とか、そう言うのが好きな男の子はやっぱり多いんじゃないかと思う。そんなことを考えている私の視線の先に気がついた香苗が、私の机にだらしなく肘を突きながらスマホ越しに私と同じ子を見やる。
「何かあいつキラーい。志賀…だっけぇ?」
「話したこともないくせによく言うよ。」
私が何気なくつい言い返すと、面白くない不満満載の香苗の頬がハムスターみたいにポンッと膨れる。
「だって高ビーぽいしぃ?何かすましててさぁ、あたし頭いいんですぅみたいな?」
馬鹿馬鹿しいほど立派な偏見にまみれた香苗の言葉を聞き流しながら、私は自分が何となく彼女に話しかけてみたいなと思っているのに気がつく。
目の前の香苗は確かに中学からの付き合いで一応友達ではあるけど、実際はそんなに仲がいいわけじゃない。ただ単に同じ中学から来たという馴れ合いの延長みたいなもので、香苗は自分が気にいらないとさっさと話は変えるし私との約束より男との約束が優先だ。
ちなみに香苗の男約束優先のおかげで、半月前からあんなに楽しみにしていた昨日のスイーツバイキングはドタキャンされた。本来なら私は今日しこたま怒っているはずだった。香坂君という衝撃がなければ、確かに今も怒っている予定だったのだ。
じゃなきゃ、自分の話しも聞いてくれないこの子と何時までも友人でいられるとも思えないし。
溜息交じりの私の様子をどうとったのか香苗は奇妙に熱っぽい目で私を眺めながら、唐突に教室に響き渡る声で高らかに態とらしく手を握りながら言う。
「うちらずっと友達でいようねぇ?カナぁ、マキのこと凄い大事にしてるんだから。」
アホかい。
自分勝手だな、あんたほんとに。
だいたいねぇ、永久に変わらないものなんか殆どないんだよ。女の友情が永久不変なんて思うなよ。あんたが男優先な限り本当に友情なんて夢みたいなものなんだからね。それに、大体にしてね、大事にするっていうなら態度で示せよ。そうだ、まずはLINEしてないで少しは人の話を聞け。
心の中で私はそう満載の不満をぶちまけながら、一応の顔は愛想笑い。高校になって一番上手に身に付いたのが愛想笑いだって言うのは、正直ちょっといやだ。
どうせならもっと素敵なものが一番身についてるんだとだとよかったなぁ。
そうだな、例えば香坂君と出会ったような出来事が一番最初でそこから彼との運命のドラマが始まるんだったら、それって女子力も身について凄く素敵な高校生活というか人生的にも盛り上がりそうだよね。運命の出会いから運命の交際、そして……はいはい、そんな事、私にあり得るなら等の昔に起こってる。その前に女子力を身に付けないとって駄目だ、本末転倒だ。
そんな事を溜め息混じりに染々と思いながら、だらしないなんて思ったのに香苗と同じように私は机に肘を突いていた。
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