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おまけ12.吾輩の日常

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吾輩は猫である、名は『白虎』という。この名前というもの、実は正式には『宮井白虎』というそうである。何やら動物病院とか呼ばれる途轍もなく恐ろしい場所に主殿が吾輩を連れていった際桃色と白の衣服を纏った『いし』なるものが、我輩の事をそう呼んだというが吾輩は恐怖の『ちゅうしゃ』に怯えており記憶は定かではない。主殿は吾輩が病にかかっていないかと身を案じて『よぼう』とやらのために、病院に連れていくとの事だが吾輩はそれほどやわな身体ではないと何度訴えても…………

「白虎ー。」
「なぁううう?」

おっとっ失敬した、ママ上殿がお呼びである。恐らく朝餉の仕度を終えられて、吾輩の朝餉も出来たのであろう。いやいや、吾輩はそこらの猫ではないのだから、眠る主殿達を起こしてまで朝餉を所望するような無作法なことは決してしない。そうでなくとも吾輩は上げ膳据え膳の至れり尽くせりなのだ、これ以上を求めるのは主に対する不敬というものだ。

「おはよー、白虎。」
「なーう!」
「おぉ、白虎、おはよう。」
「なぉう!」

主殿にパパ上殿、おはようございます。キチンと朝餉の前に挨拶を述べると主殿は、賑やかに吾輩の足元に頭を擦る仕草に喉元を擽る仕草で返してくださる。ゴロゴロと喉をならしながらもお二方が既に朝餉に手をつけたのを眺めてから、吾輩もママ上殿のお手製の絶品朝餉に向かうのであった。
さて、朝餉がすんだら主殿とパパ上殿はそれぞれ学校とやらと会社とやらにお出掛けになるので、最近の吾輩の日課は我が宮井家の安全確保だけではなく時には近隣の警戒も行っている。冬場で寒くともこれをやめるわけにはいかない。ん?何故かとな?それは

「おはよー、シロトラ。ほら、チュールくうか?」
「にゃあう、にゃううぅなうぅなうぅ!」

これは香苗殿も時折吾輩に贈りものとして持参される『猫まっしぐらニャオチュール』!!この若い御仁は時折ここいら近郊でこうして時折出逢うのだが、吾輩の事を『白虎』ではなく『シロトラ』と違う名前で呼びながら持参している餌を与えてくれるのだ。しかもこの至高の逸品『ニャオチュール』は時々ではあるが、基本的にご購入直後の高価な贈りものをビニール袋から出して頂きそれらは危険な気配もない。何しろこの御仁は最初に他人が与える餌は毒のこともあるから気を付けるようにと我輩に諭しておいて、自分は高価な猫缶やら至高の『ニャオチュール』をご持参する変わり者だ。

「シロトラ、お前んとこのクオッカちゃん、元気か?」

クオッカというのがどうやら主殿の事なのだと気がついたのは暫く前の事だが、この若い御仁は吾輩の主殿の以前からのご友人のようだ。主殿のが学校と言う場所に出向かれている間にしかここいらには来ないから、吾輩にワザワザこんな問いかけをされる様子。吾輩がニャグニャグと至高の逸品を堪能しながら、お変わりありませんと答えるのを何故かこの御仁は理解しているようにそうかと微笑む。

「うん、お前が護ってたら安心だな、シロトラ。」

逸品を頂いた後に喉元をなぜられ至福を感じている吾輩にそう告げて、御仁はまたなと笑いながら陽光のような髪を揺らし颯爽と立ち去っていく。御仁は時には黒い髪だったり茶色の髪になったりするが、吾輩を『シロトラ』と呼ぶのはかの御仁だけだから間違いようもない。そうして吾輩は更に近隣の警戒を怠らないよう、軽快な足取りで先を進む。

「あ。ビー、おーい。」

近郊の警戒を続ける吾輩にこれまた『白虎』ではなく『ビー』という別な愛称で呼び、ヒラヒラと手招くのはこちらも主殿のお知り合いで外崎了殿。こちらの御仁は時折ママ上殿に料理の指南を教授されてもいるので、吾輩とも割合顔見知りの間柄。テチテチと歩み寄ると手慣れた手付きで顎の下から喉元を刺激されヘニャとなるのは、この御仁の指使いが…………なんともはや…………心地よくぅ…………

「了?」

ビャッと思わず毛が逆立つのは、了殿の背後に影が指したからで。この了殿に撫でられ惚けていると、その背後から気配もなく時折近寄られてこんな風に脅かされる事が多々ある。山のように大きな影になる御仁は了殿の護衛なのか何時も気配もなく何処からともなく現れて、吾輩を脅かす上にこの御仁は吾輩の事を常に訝しげに伺うのだ。

「ハムちゃんとこの白虎だよ。こんなとこまで来てんのかー?うりうり。」

ハムちゃんとは主殿の別名なのは承知…………ううう、け、警戒を…………了殿ぉ、そこは、…………らめぇだ……ふにぁあ。ゴロゴロと喉をならし腹を出してしまう了殿の手練手管に蕩けている吾輩を、何故か了殿はヒョイと前足の下に手を入れ抱き上げてしまう。にゃ?了殿?一体何を?そして目の前に差し出されたのは吾輩が警戒するべき影の御仁。初めて顔の前に抱きかかえられ付き出されたが、なんと影の御仁の双眸には他の人とは異なり意思の光が感じられない。これはかなり危険人物なのでは?!この御仁!

「警戒してるんじゃないか?唸ってるだろ?」
「ゴロゴロしてるだけだよ。なー?ビー。ビーは人懐っこいから、大丈夫だよ。」

けけ警戒しております、了殿!何故吾輩をこの御仁に向けて盾にされるのかっ!試しに撫でてみろとなぞ何故そんな危険な…………!フニャッ…………?この、影の御仁………にゃんたる……………ふにゃぁ………撫で繰り回されて…………ふにゃぁ……。

はっ!!暫し忘我の境地に!!

この吾輩が一瞬で我を忘れて撫で回されるとは、この影の御仁了殿の護衛だけあってやはり侮れぬ。しかもこの御仁は別段意図してこうしようと狙い、吾輩を撫でているつもりでもないと来ている。無意識に撫でて吾輩を蕩けさせるとは、なんたる恐ろしい手練手管!!…………今度であったら、な、撫でさせてやっても……少しだけなら…………。
さ、さて、吾輩は了殿達と分かれても若干忘我から戻れずにフワフワとした足取りで、再び近郊の巡視を再開するのであった。後はあそことあそこによって、あそこで一服して…………そんな感じで吾輩が帰宅するのは午後になってから。午後には衛殿が学童とやらからやって来たり主殿がご学友をお供に帰宅されたりするので、吾輩は香苗殿や早紀殿の接待をせねばならない。誠に吾輩の日常は日々忙しなく、

「びゃっくーん!ほらほら!」

おおお!!香苗殿!それは最高級・至上の『猫まっしぐら!ニャオチュール・プレミアム』!!!香苗殿ー!!!それを早くーっ!!!

そうして吾輩の忙しい日常は、毎日同じ様に過ぎていくのだった。
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