538 / 591
二度目の7月
433.ササユリ
しおりを挟む
7月15日 土曜日
鳥飼さんのマンションの傍の公園まで衛にお強請りされて二人で散歩に来たら、そこで予想外の人に出会った。公園のベンチで穏やかに辺りを眺めているのは、友村礼慈さん。智美君の親代わりの人で、十二月に目の怪我で視力をなくしてしまった礼慈さんだ。会った時は何時も和服のイメージだったけど、ベンチに腰かけた礼慈さんは洋服でそれに誰も周りにいない。敷島さんも何処にも居ないし、勿論智美君もいない。男の人なんだけど清浄な上品さを漂わせた礼慈さんは緩く束ねた黒髪はそのままで、薄い色のついた眼鏡をかけている。
「こんにちは。」
そう声をかけたら、礼慈さんはシッカリと私の顔を見たのに気がつく。まるで目が見えているみたいな動きに私は思わず目を丸くしてしまったけど、礼慈さんの方もは声で私だとわかったみたいだ。そう言えば去年の夏休み中に、学校で一度挨拶もしてるんだった。
「こんにちは、宮井さん。」
愛らしさ抜群の衛が私の横でこんにちはとご挨拶をすると、礼慈さんは驚いたように目を丸くした。ああ、そうか。衛と智美君は凄くよく似てるんだけど、礼慈さんは衛には初めて会ったんだ。これで雪ちゃんに会ったら礼慈さん、ビックリしそうだなぁって思わず考えたけど、そこまで考えてヤッパリ目が見えてるって気がついた。
「礼慈さん、目が。」
「ああ、そうでした、また見えるようになったんです。色は分からないんですが。」
それに昼間は光が眩しいので眼鏡が必要だけど、礼慈さんはまた目が見えるようになったんだって教えてくれた。衛は目が見えなかったの?なんてズバリと直球で聞いているけど、礼慈さんは全然気にした風でもなくそうなんですって穏やかに微笑む。それにしてもこんなところでどうしてって思ったら、そういえば落雷の起こした火事であの立派なお家はなくなってしまったんだって私も気がついた。それが言わなくても顔に出てたみたいで、礼慈さんは穏やかに笑う。
「引っ越しの邪魔になるので、時間を潰してます。」
「引っ越し?もしかして、ここら辺にですか?」
「ええ、知り合いがそこのマンションが空いているからと。」
もしかしなくてもこの場合、その知り合いって鳥飼さんなんだよね。ちょっと待った、鳥飼さんがマンションが空いてるからって、礼慈さんに教えてくれたってこと?何で鳥飼さんがそんなこと知ってるの?っていうか、それはつまり智美君もそこのマンションに住むってことでしょうか。
「はい。智美さんは、今ご自分のお部屋の配線の指示を。」
配線?!配線の指示って何って思うけど、礼慈さんは長閑な辺りをユックリ眺めながら、こういう場所には初めて来たんですって笑う。こういう場所って公園ってこと?衛が友達とブランコを楽しそうに漕いでいるのを眺めて、礼慈さんはそうなんですと改めて笑う。実はあのお家から殆ど出たことがなくてと苦笑いしながらいう礼慈さんは、殆どの生活をあのお屋敷だけで過ごしていたんだっていう。智美君は足が悪いから仕方がないと思うけど、礼慈さんも何か子供の頃にあったのかなぁ……。そう言われれば凄く儚げな感じに見えるのは、そう言うことなのかもなんて勝手に考えてしまう。でも何にせよ、公園のベンチで長閑にしていられるように今はなったってことだし、眺めているだけで少し楽しそうだ。
「楽しそうですね、礼慈さん。」
「そうですね、明るいし穏やかだ……。」
そう口にして礼慈さんは眼鏡の奥で目を細める。色が分からないと話していたけど、それでも全く見えないのとは違うんだろうなっておもう。
「敷島さんは一緒に住むんですか?」
「そうなるかもしれないですね、今少し入院してます。」
えって私が言葉を放ったのに礼慈さんは不思議そうに私を見つめた。なんだか、自分もだけど凄く最近身の回りに病院に入院ってことがチラチラしてて、少し怖くなってしまう。だって、自分も二回も入院してるけど、ママに雪ちゃんに、衛だってそうだし、その上源川先輩も。これが多いのか少ないのかは分からないけど、何だか不安になってしまう。
「病気ですか?……お見舞い行けますか?」
「怪我です、お見舞いに行く前にきっと退院ですよ。」
もう殆ど良くなってて早く退院させてほしいと敷島さんはお医者さんにごねているんだって。そういうところはみんな同じなのかなぁ?それに智美君の車を西警察病院で見た理由はここにあったみたい、敷島さんが今入院してるのが西警察病院なんだって。もしかして、運転してて事故ですか?っていうと違うけどお仕事中のことだって礼慈さんが教えてくれた。それにしてもここからだと学校までの車の送り迎えは必要ないかもって思ったら、自分だけだとまだ家事が覚束ないって礼慈さんは苦笑いしている。敷島さんって運転だけじゃなくて、家事まで出来るのか…………もう執事みたいだなぁ。
「あー、智美くーん!!」
そんな矢先に衛の歓声で公園に杖をついて智美君が顔を見せたのに、私達は気がついた。鳥飼さんのお家は直ぐそこで、今までは仁君と出会うこともあったのに……仁君は今何処でどうしているのかな。お父さんとお母さんと一緒に暮らせているのかな、なんて私は考えていた。
鳥飼さんのマンションの傍の公園まで衛にお強請りされて二人で散歩に来たら、そこで予想外の人に出会った。公園のベンチで穏やかに辺りを眺めているのは、友村礼慈さん。智美君の親代わりの人で、十二月に目の怪我で視力をなくしてしまった礼慈さんだ。会った時は何時も和服のイメージだったけど、ベンチに腰かけた礼慈さんは洋服でそれに誰も周りにいない。敷島さんも何処にも居ないし、勿論智美君もいない。男の人なんだけど清浄な上品さを漂わせた礼慈さんは緩く束ねた黒髪はそのままで、薄い色のついた眼鏡をかけている。
「こんにちは。」
そう声をかけたら、礼慈さんはシッカリと私の顔を見たのに気がつく。まるで目が見えているみたいな動きに私は思わず目を丸くしてしまったけど、礼慈さんの方もは声で私だとわかったみたいだ。そう言えば去年の夏休み中に、学校で一度挨拶もしてるんだった。
「こんにちは、宮井さん。」
愛らしさ抜群の衛が私の横でこんにちはとご挨拶をすると、礼慈さんは驚いたように目を丸くした。ああ、そうか。衛と智美君は凄くよく似てるんだけど、礼慈さんは衛には初めて会ったんだ。これで雪ちゃんに会ったら礼慈さん、ビックリしそうだなぁって思わず考えたけど、そこまで考えてヤッパリ目が見えてるって気がついた。
「礼慈さん、目が。」
「ああ、そうでした、また見えるようになったんです。色は分からないんですが。」
それに昼間は光が眩しいので眼鏡が必要だけど、礼慈さんはまた目が見えるようになったんだって教えてくれた。衛は目が見えなかったの?なんてズバリと直球で聞いているけど、礼慈さんは全然気にした風でもなくそうなんですって穏やかに微笑む。それにしてもこんなところでどうしてって思ったら、そういえば落雷の起こした火事であの立派なお家はなくなってしまったんだって私も気がついた。それが言わなくても顔に出てたみたいで、礼慈さんは穏やかに笑う。
「引っ越しの邪魔になるので、時間を潰してます。」
「引っ越し?もしかして、ここら辺にですか?」
「ええ、知り合いがそこのマンションが空いているからと。」
もしかしなくてもこの場合、その知り合いって鳥飼さんなんだよね。ちょっと待った、鳥飼さんがマンションが空いてるからって、礼慈さんに教えてくれたってこと?何で鳥飼さんがそんなこと知ってるの?っていうか、それはつまり智美君もそこのマンションに住むってことでしょうか。
「はい。智美さんは、今ご自分のお部屋の配線の指示を。」
配線?!配線の指示って何って思うけど、礼慈さんは長閑な辺りをユックリ眺めながら、こういう場所には初めて来たんですって笑う。こういう場所って公園ってこと?衛が友達とブランコを楽しそうに漕いでいるのを眺めて、礼慈さんはそうなんですと改めて笑う。実はあのお家から殆ど出たことがなくてと苦笑いしながらいう礼慈さんは、殆どの生活をあのお屋敷だけで過ごしていたんだっていう。智美君は足が悪いから仕方がないと思うけど、礼慈さんも何か子供の頃にあったのかなぁ……。そう言われれば凄く儚げな感じに見えるのは、そう言うことなのかもなんて勝手に考えてしまう。でも何にせよ、公園のベンチで長閑にしていられるように今はなったってことだし、眺めているだけで少し楽しそうだ。
「楽しそうですね、礼慈さん。」
「そうですね、明るいし穏やかだ……。」
そう口にして礼慈さんは眼鏡の奥で目を細める。色が分からないと話していたけど、それでも全く見えないのとは違うんだろうなっておもう。
「敷島さんは一緒に住むんですか?」
「そうなるかもしれないですね、今少し入院してます。」
えって私が言葉を放ったのに礼慈さんは不思議そうに私を見つめた。なんだか、自分もだけど凄く最近身の回りに病院に入院ってことがチラチラしてて、少し怖くなってしまう。だって、自分も二回も入院してるけど、ママに雪ちゃんに、衛だってそうだし、その上源川先輩も。これが多いのか少ないのかは分からないけど、何だか不安になってしまう。
「病気ですか?……お見舞い行けますか?」
「怪我です、お見舞いに行く前にきっと退院ですよ。」
もう殆ど良くなってて早く退院させてほしいと敷島さんはお医者さんにごねているんだって。そういうところはみんな同じなのかなぁ?それに智美君の車を西警察病院で見た理由はここにあったみたい、敷島さんが今入院してるのが西警察病院なんだって。もしかして、運転してて事故ですか?っていうと違うけどお仕事中のことだって礼慈さんが教えてくれた。それにしてもここからだと学校までの車の送り迎えは必要ないかもって思ったら、自分だけだとまだ家事が覚束ないって礼慈さんは苦笑いしている。敷島さんって運転だけじゃなくて、家事まで出来るのか…………もう執事みたいだなぁ。
「あー、智美くーん!!」
そんな矢先に衛の歓声で公園に杖をついて智美君が顔を見せたのに、私達は気がついた。鳥飼さんのお家は直ぐそこで、今までは仁君と出会うこともあったのに……仁君は今何処でどうしているのかな。お父さんとお母さんと一緒に暮らせているのかな、なんて私は考えていた。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
見知らぬ男に監禁されています
月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。
――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。
メリバ風味のバッドエンドです。
2023.3.31 ifストーリー追加
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる