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二度目の7月
431.ホテイアオイ
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7月13日 木曜日
テスト一日目。
智美君も今日から登校していて、朝から皆に落雷で家が焼けるなんてどんな不運だと散々に騒がれていた。それでも智美君はどこも怪我はしてないし、見た目には元気一杯で何時もと変わらない。落雷のお陰で住む場所がないから、今はホテル暮らしなんて智美君が答えたもんだから、皆からお前は何処のセレブかと呆れられている。センセも相変わらず包帯とガーゼまみれだけど顔色もいいし、孝君も変わらない。
そう前と何も変わらない日常。
違うのは仁君の席がポツンと窓側の後ろに空いたままなだけ。
誰も未だに仁君のことに触れないのは、皆がそれぞれに揺れる心を隠しているからなのかなと私はボンヤリとその席を見つめる。鳥飼さんに仁君が完全に記憶を取り戻せたのかどうかを、あの時に聞くのを忘れていたことに気がついた。でも、もう行かなきゃって言葉はきっと現実で、記憶を思い出したっていうことなんじゃないかって思う。あのアブラナの花畑の部分だけは夢の中で、仁君の横に座ったところは本当のことなのかなって今では思うんだ。その事を考えるとまるで恋の悲しみ見たいに胸が少し締め付けられる。勿論仁君に恋してたって事じゃなくて、あの場所があんまりにも綺麗過ぎて現実場馴れしてるのに、余りにも儚く消えてしまって胸がいたいんだと思う。
※※※
結果としてなんだけど、勉強する時間がなかったから今一になるだろうと思ってたんだ。何しろテスト勉強をするべき時に入院してて二日間も眠り呆けてたわけだもん、できるわけないって思うでしょ?ところが苦手な筈の数学がアッサリ解けてしまったものだから、調子は鰻登り。密かに言うと数学、ちょっと簡単だったと思うんだよね、皆も今回の簡単だよなって終わってから顔を見合わせている。
「内川、過去問ないから捻ってられなかったんだろ?」
「はは、ダサっ!女子高生とラブホなんかで遊んでるからだよ!」
まあ皆から散々なことを言われているけど、でも実際には以前より解けやすいのは事実。それが過去問を手本にできなくての結果だとしたら、確かに先生として何もないところから一から問題を作るって大変なんだろう。
「智美に頼んだらあっという間なのにな。」
「冗談、教師なんだから自分で捻りまでやってもらいたいね。」
うーん、コンピューターウィルスって大変なんだねぇと私が早紀ちゃんに言ったら、早紀ちゃんってば冷ややか~にそうかしらって。
「櫻井先生や越前先生は同じ条件でも、レベルが高かったわ。」
「確かに、越前ガニのテスト厳しかった。ノート見直してなかったらヤバかった。」
「うーん、ミズ櫻井も確かに。」
同じ状況でテストをまるっと作り直した筈の越前先生や櫻井先生は、確かに何時ものテストと遜色ない難易度だった。それにしても実は早紀ちゃんって嫌いな人への発言が結構シビアなんだよね、内川先生が生徒からお弁当やお菓子を貰って当然って顔してる様子がどうやら気に入らないらしい。
「だって、皆から貰って当然って可笑しいわよね?香苗ちゃん。」
「んー、貰えるからってのもあるかなぁ?」
「なら、それなりにお礼とか感謝があるべきだわ。」
うううん?貰って当然って、どういうことを示すかなぁ?って思ってたら、早紀ちゃんが見てる前で内川先生は、相手に向かって当然みたいに手を出して「早く寄越せよ」みたいな事を言ったんだって。ええ?!ちょっとそれはやだ!しかも内川先生ってば、目の前で中身を見てこれは美味しくないからって突き返したんだって。
「文句言ったり、これをつくってこいって言うなんて、メイドじゃあるまいし!」
「ええ!?それはアウト!信じらんない!」
「私もやだなぁ、それは。」
作ってきてくれるのを貰って先ずは文句かぁ。それは確かに相手にするにはキツいかもしれない。それに美味しかったからまた作ってねって言われるのと、これが食いたいから明日作ってこいは違うよね。内川先生そんなことしてたら騒ぎになるんじゃないかな?まあ、実際既に騒ぎになっているんだけどね。
因みに内川先生のお相手は、佐藤すみれではなかったらしい。うちの学校の生徒ではなくて、少しバスで離れたミッションスクールの女の子らしいんだ。お陰で他校まで巻き込んで大騒ぎだし、相手がミッションスクールの女の子って事なんだけど内川先生は結婚する気なのかな?木内梓から手紙が来たら、今度そういうのってよくあるのって試しに聞いてみようと思う。何でか私の頭の中ではミッションスクール=シスターになってて、シスターは結婚しないになっちゃってるんだよね。ま、生徒の全員がシスターになるわけじゃないのは分かってるんだけど。それにしてもどこでそんな子と出会うのかなぁ?学校の先生って忙しそうなのに。
「女子バスケの応援に来てた子らしいよ。」
「瑠璃ちゃん何でも知ってるねー。」
「ほほ、人徳かなぁ。」
うーん、瑠璃ちゃんがそんなこと言っているけど、ほんと瑠璃ちゃんってなんでも知ってるんだよね。兎も角滑り出しが良かったせいか、いい感じに順調にテストは進んでいる。でも、心の片隅が依然として落ち着かないのは、…………私はどうしたらいいのかなぁ
テスト一日目。
智美君も今日から登校していて、朝から皆に落雷で家が焼けるなんてどんな不運だと散々に騒がれていた。それでも智美君はどこも怪我はしてないし、見た目には元気一杯で何時もと変わらない。落雷のお陰で住む場所がないから、今はホテル暮らしなんて智美君が答えたもんだから、皆からお前は何処のセレブかと呆れられている。センセも相変わらず包帯とガーゼまみれだけど顔色もいいし、孝君も変わらない。
そう前と何も変わらない日常。
違うのは仁君の席がポツンと窓側の後ろに空いたままなだけ。
誰も未だに仁君のことに触れないのは、皆がそれぞれに揺れる心を隠しているからなのかなと私はボンヤリとその席を見つめる。鳥飼さんに仁君が完全に記憶を取り戻せたのかどうかを、あの時に聞くのを忘れていたことに気がついた。でも、もう行かなきゃって言葉はきっと現実で、記憶を思い出したっていうことなんじゃないかって思う。あのアブラナの花畑の部分だけは夢の中で、仁君の横に座ったところは本当のことなのかなって今では思うんだ。その事を考えるとまるで恋の悲しみ見たいに胸が少し締め付けられる。勿論仁君に恋してたって事じゃなくて、あの場所があんまりにも綺麗過ぎて現実場馴れしてるのに、余りにも儚く消えてしまって胸がいたいんだと思う。
※※※
結果としてなんだけど、勉強する時間がなかったから今一になるだろうと思ってたんだ。何しろテスト勉強をするべき時に入院してて二日間も眠り呆けてたわけだもん、できるわけないって思うでしょ?ところが苦手な筈の数学がアッサリ解けてしまったものだから、調子は鰻登り。密かに言うと数学、ちょっと簡単だったと思うんだよね、皆も今回の簡単だよなって終わってから顔を見合わせている。
「内川、過去問ないから捻ってられなかったんだろ?」
「はは、ダサっ!女子高生とラブホなんかで遊んでるからだよ!」
まあ皆から散々なことを言われているけど、でも実際には以前より解けやすいのは事実。それが過去問を手本にできなくての結果だとしたら、確かに先生として何もないところから一から問題を作るって大変なんだろう。
「智美に頼んだらあっという間なのにな。」
「冗談、教師なんだから自分で捻りまでやってもらいたいね。」
うーん、コンピューターウィルスって大変なんだねぇと私が早紀ちゃんに言ったら、早紀ちゃんってば冷ややか~にそうかしらって。
「櫻井先生や越前先生は同じ条件でも、レベルが高かったわ。」
「確かに、越前ガニのテスト厳しかった。ノート見直してなかったらヤバかった。」
「うーん、ミズ櫻井も確かに。」
同じ状況でテストをまるっと作り直した筈の越前先生や櫻井先生は、確かに何時ものテストと遜色ない難易度だった。それにしても実は早紀ちゃんって嫌いな人への発言が結構シビアなんだよね、内川先生が生徒からお弁当やお菓子を貰って当然って顔してる様子がどうやら気に入らないらしい。
「だって、皆から貰って当然って可笑しいわよね?香苗ちゃん。」
「んー、貰えるからってのもあるかなぁ?」
「なら、それなりにお礼とか感謝があるべきだわ。」
うううん?貰って当然って、どういうことを示すかなぁ?って思ってたら、早紀ちゃんが見てる前で内川先生は、相手に向かって当然みたいに手を出して「早く寄越せよ」みたいな事を言ったんだって。ええ?!ちょっとそれはやだ!しかも内川先生ってば、目の前で中身を見てこれは美味しくないからって突き返したんだって。
「文句言ったり、これをつくってこいって言うなんて、メイドじゃあるまいし!」
「ええ!?それはアウト!信じらんない!」
「私もやだなぁ、それは。」
作ってきてくれるのを貰って先ずは文句かぁ。それは確かに相手にするにはキツいかもしれない。それに美味しかったからまた作ってねって言われるのと、これが食いたいから明日作ってこいは違うよね。内川先生そんなことしてたら騒ぎになるんじゃないかな?まあ、実際既に騒ぎになっているんだけどね。
因みに内川先生のお相手は、佐藤すみれではなかったらしい。うちの学校の生徒ではなくて、少しバスで離れたミッションスクールの女の子らしいんだ。お陰で他校まで巻き込んで大騒ぎだし、相手がミッションスクールの女の子って事なんだけど内川先生は結婚する気なのかな?木内梓から手紙が来たら、今度そういうのってよくあるのって試しに聞いてみようと思う。何でか私の頭の中ではミッションスクール=シスターになってて、シスターは結婚しないになっちゃってるんだよね。ま、生徒の全員がシスターになるわけじゃないのは分かってるんだけど。それにしてもどこでそんな子と出会うのかなぁ?学校の先生って忙しそうなのに。
「女子バスケの応援に来てた子らしいよ。」
「瑠璃ちゃん何でも知ってるねー。」
「ほほ、人徳かなぁ。」
うーん、瑠璃ちゃんがそんなこと言っているけど、ほんと瑠璃ちゃんってなんでも知ってるんだよね。兎も角滑り出しが良かったせいか、いい感じに順調にテストは進んでいる。でも、心の片隅が依然として落ち着かないのは、…………私はどうしたらいいのかなぁ
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