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二度目の7月
426.ホオズキ
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7月8日 土曜日
昨日の夜は雪ちゃんは何時になるかわからないから、先に寝ててって誤魔化さないで電話で話してくれて。外崎さんが何か掴めそうだから、少し手伝ってくるって言うんだけど、出来たら危ないことはして欲しくないって私の気持ちも伝えておいた。分かってるよって言ってはくれたんだけど、それでも親友が行方不明のままなのは我慢できないって言うのもよく分かる。それに、仁君をこのままにしておけないのも事実だった。偽りの記憶の中で過ごすのは本当は正しくないってことくらいは分かるけど、それでも衛が何処にも行かないよねって念をおしてるのにうんと言った言葉を信じていたいと思う。
そんな訳で雪ちゃんのベットに潜り込んでいた私は、とっても不思議な夢を見た。夢は雪ちゃんのお家の中なんだけど、凄く不思議な音楽が流れてて。その音楽が何処からなんだろうって私は雪ちゃんのお家の中を歩き回ってる。虹色っていうかこういうのなんて言うのかな?五色?不思議な光が溢れてて、まるでお家の中に五色の雲が漂ってるみたい。
なんだろう、これ。
お家の中に雲って凄くメルヘンだけど、冷たいわけでもなければ湿度もない。綿の中を歩いてるみたいなんだけど、雲だから体に触れると溶けるように別れて私の体の回りに浮いている。そこを漂ってくるような音楽。音楽っていってるのは、歌詞もない音だけだからなんだけど、でも楽器の音ではないみたい。それに不思議な香りがする。礼慈さんの作ってくれた匂袋の白檀のようにも感じるけど、全然違うようにも感じる香り。甘酸っぱい果実みたいな匂いもしてる気がするけど、ここまで来るといい匂いだけどなんの匂いだかわからない。
それにしても夢の中で色や匂いって凄いなぁ……
あんまり夢って覚えてないものじゃない?それに基本的にこんなにカラフルな夢って中々見ないものだからハワワーッてなりながら私は辺りを見渡す。雪ちゃんちがこんなにメルヘンになってて、何処かのドアが異世界とかに通じてたらどうしよう。そんな馬鹿なことを考えてしまうけど、これってまさにその感じなんだよねぇ。ドアを開けたら異世界でした!チートで異世界で勇者に!!なんて感じの小説一杯あるよね?……だけど……鳥飼さんとかじゃあるまいしっていうか、鳥飼さんだったら異世界じゃなくても充分出来そう…………私が行っても村娘Aとか街娘B程度にしかならなそうな気がするなぁ。
それにしても音はどこからしてるんだろう。
部屋を出ても音の出所かハッキリしなくて、私は戸惑いながら衛の部屋を開けてみる。そうしたら衛が待ってたみたいにベットの上に座ってて、ニコニコしながら駆け寄ってきた。
「まーちゃん、これなに?ワタアメみたいなのに、触れないよ?」
あー、確かにワタアメっぽい。雪ちゃんちがワタアメまみれかぁ、楽しそうだけど後の掃除が大変そうだなぁ。暢気にそんなことを考えてるけど夢だもんね、それにしても雪ちゃんちの夢だから、普通に衛がいるのかなあ?なんて事を考えたけどてを繋いで廊下に出た私と衛。仁君が寝ている筈の静子さんの元お部屋を覗いてみたけど、やっぱり夢だから仁君はそこにはいないし、お部屋の中が少しいつもと違う香りがする。ここにはこんな風な薫りはしてないんだけど、少し甘い柑橘の微かな匂いが柔らかく漂っていた。
「まーちゃん、これ、ママの匂いだよ!」
「ええ?!静子さんの?」
ゆ、夢だから何でもありなんだろうけど、それにしたって匂い鮮明でビックリしちゃうなぁ。リビングに行ってもし静子さんが昔の姿でいたら、う、ちょっと心積もりしておかないと凹みそう。それでも衛は香りで同じことを期待したらしく、私の手をグイグイと引っ張る。
扉開いたら、何か凄く何か起きそう…………。
こういうのってフラグッて言わない?とか思いながら扉を開いたら、ドワッて勢いで五色の雲が溢れだして、流石の衛も悲鳴を上げて私にしがみついた。濃くてビックリするくらい濃密なのに、五つの色が煌めいてる雲。一つは月下美人みたいな純白で、一つは木瓜の花みたいな真紅、熨斗蘭の実のラピスラズリみたいな青、ビロードみたいな黒薔薇の漆黒、それにまるで菜の花畑を視ているみたいな鮮やかな黄色。
不意にそれが渦を巻いて私達の視界を遮ったかと思うと、目の前が目映い程の黄色一色で埋め尽くされた。
アブラナ……?でも、こんなの、何処かで……
そうだ、ゲーム。フォークロア・ゲートのエンディングで、リリアが見つめていた菜の花畑みたい。風が吹いているみたいに揺れるアブラナの花畑。菜の花って言わないのは、目の前のがセイヨウアブラナって普段私達がよく見る菜の花とは違うから。古事記とか万葉集にもアブラナは出てくるんだけど、確か弥生時代から日本でも育てられてるんだって雪ちゃんが教えてくれた。
それにしてもヤッパリ夢で、雪ちゃんのお家のリビングは跡形もなくてアブラナの花畑に私と衛は立ち尽くしている。気がつけば入ってきた筈の扉もなくて、これってヤッパリ異世界?!的な?!
「まーちゃん、ここどこ?」
「何処だろう……ねぇ?」
呆気にとられたまま二人で手を繋いでいるけど、夢だからは兎も角、どうやったら目が覚めるんだろうって思わず私は首を傾げてしまう。寒くないし暑くもない、ただ一面のアブラナの花畑の先は、靄で煙っていて何があるか見渡すことが出来ないのだった。
昨日の夜は雪ちゃんは何時になるかわからないから、先に寝ててって誤魔化さないで電話で話してくれて。外崎さんが何か掴めそうだから、少し手伝ってくるって言うんだけど、出来たら危ないことはして欲しくないって私の気持ちも伝えておいた。分かってるよって言ってはくれたんだけど、それでも親友が行方不明のままなのは我慢できないって言うのもよく分かる。それに、仁君をこのままにしておけないのも事実だった。偽りの記憶の中で過ごすのは本当は正しくないってことくらいは分かるけど、それでも衛が何処にも行かないよねって念をおしてるのにうんと言った言葉を信じていたいと思う。
そんな訳で雪ちゃんのベットに潜り込んでいた私は、とっても不思議な夢を見た。夢は雪ちゃんのお家の中なんだけど、凄く不思議な音楽が流れてて。その音楽が何処からなんだろうって私は雪ちゃんのお家の中を歩き回ってる。虹色っていうかこういうのなんて言うのかな?五色?不思議な光が溢れてて、まるでお家の中に五色の雲が漂ってるみたい。
なんだろう、これ。
お家の中に雲って凄くメルヘンだけど、冷たいわけでもなければ湿度もない。綿の中を歩いてるみたいなんだけど、雲だから体に触れると溶けるように別れて私の体の回りに浮いている。そこを漂ってくるような音楽。音楽っていってるのは、歌詞もない音だけだからなんだけど、でも楽器の音ではないみたい。それに不思議な香りがする。礼慈さんの作ってくれた匂袋の白檀のようにも感じるけど、全然違うようにも感じる香り。甘酸っぱい果実みたいな匂いもしてる気がするけど、ここまで来るといい匂いだけどなんの匂いだかわからない。
それにしても夢の中で色や匂いって凄いなぁ……
あんまり夢って覚えてないものじゃない?それに基本的にこんなにカラフルな夢って中々見ないものだからハワワーッてなりながら私は辺りを見渡す。雪ちゃんちがこんなにメルヘンになってて、何処かのドアが異世界とかに通じてたらどうしよう。そんな馬鹿なことを考えてしまうけど、これってまさにその感じなんだよねぇ。ドアを開けたら異世界でした!チートで異世界で勇者に!!なんて感じの小説一杯あるよね?……だけど……鳥飼さんとかじゃあるまいしっていうか、鳥飼さんだったら異世界じゃなくても充分出来そう…………私が行っても村娘Aとか街娘B程度にしかならなそうな気がするなぁ。
それにしても音はどこからしてるんだろう。
部屋を出ても音の出所かハッキリしなくて、私は戸惑いながら衛の部屋を開けてみる。そうしたら衛が待ってたみたいにベットの上に座ってて、ニコニコしながら駆け寄ってきた。
「まーちゃん、これなに?ワタアメみたいなのに、触れないよ?」
あー、確かにワタアメっぽい。雪ちゃんちがワタアメまみれかぁ、楽しそうだけど後の掃除が大変そうだなぁ。暢気にそんなことを考えてるけど夢だもんね、それにしても雪ちゃんちの夢だから、普通に衛がいるのかなあ?なんて事を考えたけどてを繋いで廊下に出た私と衛。仁君が寝ている筈の静子さんの元お部屋を覗いてみたけど、やっぱり夢だから仁君はそこにはいないし、お部屋の中が少しいつもと違う香りがする。ここにはこんな風な薫りはしてないんだけど、少し甘い柑橘の微かな匂いが柔らかく漂っていた。
「まーちゃん、これ、ママの匂いだよ!」
「ええ?!静子さんの?」
ゆ、夢だから何でもありなんだろうけど、それにしたって匂い鮮明でビックリしちゃうなぁ。リビングに行ってもし静子さんが昔の姿でいたら、う、ちょっと心積もりしておかないと凹みそう。それでも衛は香りで同じことを期待したらしく、私の手をグイグイと引っ張る。
扉開いたら、何か凄く何か起きそう…………。
こういうのってフラグッて言わない?とか思いながら扉を開いたら、ドワッて勢いで五色の雲が溢れだして、流石の衛も悲鳴を上げて私にしがみついた。濃くてビックリするくらい濃密なのに、五つの色が煌めいてる雲。一つは月下美人みたいな純白で、一つは木瓜の花みたいな真紅、熨斗蘭の実のラピスラズリみたいな青、ビロードみたいな黒薔薇の漆黒、それにまるで菜の花畑を視ているみたいな鮮やかな黄色。
不意にそれが渦を巻いて私達の視界を遮ったかと思うと、目の前が目映い程の黄色一色で埋め尽くされた。
アブラナ……?でも、こんなの、何処かで……
そうだ、ゲーム。フォークロア・ゲートのエンディングで、リリアが見つめていた菜の花畑みたい。風が吹いているみたいに揺れるアブラナの花畑。菜の花って言わないのは、目の前のがセイヨウアブラナって普段私達がよく見る菜の花とは違うから。古事記とか万葉集にもアブラナは出てくるんだけど、確か弥生時代から日本でも育てられてるんだって雪ちゃんが教えてくれた。
それにしてもヤッパリ夢で、雪ちゃんのお家のリビングは跡形もなくてアブラナの花畑に私と衛は立ち尽くしている。気がつけば入ってきた筈の扉もなくて、これってヤッパリ異世界?!的な?!
「まーちゃん、ここどこ?」
「何処だろう……ねぇ?」
呆気にとられたまま二人で手を繋いでいるけど、夢だからは兎も角、どうやったら目が覚めるんだろうって思わず私は首を傾げてしまう。寒くないし暑くもない、ただ一面のアブラナの花畑の先は、靄で煙っていて何があるか見渡すことが出来ないのだった。
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