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二度目の5月
閑話82.ゴールデンウィークの出来事・男子side
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その1、真見塚孝の出来事
早紀との交際は順調と言えば順調にデートも回数を重ねているし、手も繋げるようになったし、キスもした。こう考えると高校生としては清く正しい順調交際ではあるが、時々だがその先の事を考えてしまうのは年頃の男子としてはやむを得ない。とは言えそう言う面では自分がかなりの奥手なのだということは、最近の友人達との会話で薄々理解しつつもある。目下目の前には生徒会長・木村勇と会計長・若瀬透、おまけに男子運動部部長の近藤雄二まで加わってきてしまった。
「で?どうなんだよ?志賀と進展。」
「進展って言われても……。」
「かーっ!白の君とお付き合いだけでも垂涎なんだぞ?キスくらいはしたか?まさか一緒に帰ってるだけとか言わないだろうな?真見塚。」
「他の学校の奴等も羨ましがってるってのに、相手が孝だもんなぁ。」
ちょっと待て、なんだその最後の言葉はと若瀬を睨むと、若瀬と来たらだってお前相当鈍いじゃんと平然と言いきるのだ。奥手だとか鈍いとか随分な言い方じゃないかと不貞腐れると、近藤まで呆れ顔で孝の顔を眺める。
「そういわれても、仕方ないって。」
「何で。」
「志賀がいっつもお前のこと見てたの知らないのは、お前だけだぞ?孝。流石の宮井姫だって気がついてんだから。」
若瀬の言葉に孝はギョッとしたように目の前の面々を眺める。いや、宮井が姫と呼ばれているのに驚いたわけではけしてない。何でか白の君とか呼ばれていた早紀が一番に心を開いた宮井麻希子は、男女問わず密かに人気があって愛くるしい宮井姫なんて呼ばれているらしいのだ。背後に実は恐ろしい溺愛彼氏がいると知っていたら、そんな呼び方してたら恐ろしい目にあうと思うがそこは孝も触れない。何度か鉢合わせた時に氷のような視線で値踏みされた気がしたのと、兄に問いかけ苦笑いされたので触れないと決めているのはここだけの話だ。
「宮井が?」
「仲良くなって直ぐに気がついてたぞ?宮井姫。」
正直なところ若瀬は、実は以前は早紀のことが好きだったと打ち明けた。だけど見ていたら早紀の気持ちはどうみても明らかで、告白するまでもなく失恋したんだけど。そう言いながら直ぐ後ろの席の宮井が早紀の視線に気がついていたのは知っていたらしい。
「だよなー。」
しかも暢気に近藤まで同意するが、実は近藤も早紀に失恋したと言い出す始末だ。近藤の方は去年智美に喧嘩を吹っ掛けたあの時孝が助けに入ったのに、早紀が助けに入ったので確信したという。そんな前から?と口にした孝に、とんでもなく鈍すぎると二人は更に口を揃える。流石に旗色の悪い孝に木村が助け船を出す。
「まあまあ、あんまり近いと逆に分かんないもんなんだよな?」
と気を使って木村が言うが実際には去年の今頃は、孝と早紀は奇妙な距離をおいていた時分なのだ。そんな風にはちっとも感じていなかったと呟く孝に、やっぱり鈍いと若瀬と近藤は連呼してくる。
「大体にして、いつから好きだったんだよ?孝こそ。」
「そうそう、小学生前から一緒にいたんだろ?自覚は?」
自覚。いや、自覚するしないというよりもだ、正直なことを言うとまだ幼稚園位の時に、早紀にこう言ったのは実は覚えている。
僕は早紀ちゃんをお嫁さんにするからね。
それから色々と事態が変わったりして疎遠になった時期があったが、本当はその気持ちには一つも変わりがない。ただ早紀はきっと疎遠になってから、もう自分には興味がないのだと思っていた。
「はぁ?!鈍感な上に、なんだそりゃ?」
「し、仕方がないだろ?色々家にも事情があってだな!」
「っていうか孝、付き合う前に結婚から入んなよ!!すっ飛ばし過ぎだろ!何時の時代だよ!戦国武将かお前!」
えええ?!とそれぞれがそれぞれの言葉に面食らって声を挙げてしまう。
「だ、だって普通そこ考えるだろ?!」
「考えねぇよ!お前、時代錯誤は家だけにしろよ!!」
「忍者屋敷なんか住んでるから、頭がまだ戦国時代なんだよ!お前!」
「信じらんねぇ!家の事情で疎遠になってたのか?!」
三者三様に非難轟々で、孝の方が考え込んでしまう有り様だ。確かに忍者屋敷のような旧家に産まれ育っているし、父は道場師範・母は体を壊す前はお茶にお花を教えていたり日本舞踊をしていたり……それに、実際二人は婚前のお付き合いというものがなく結婚していて。そんな状態が孝の普通であって、そんなことを話したら、目の前の三人がポカーンとしている。
「冗談じゃなく、お前、戦国時代の人間?」
「お見合い結婚なんて、今時まだいたんだ?」
「……お前、恋愛小説読め。最近は鳥飼澪がいいらしいぞ?」
呆れたようにそんなことを言われ、孝は思わず肩を落としてしまう。そんなにも自分が普通とかけ離れているとは、今まで一度も思ったことがないのだ。そう言えば鳥飼澪とか言う作家の本は、早紀も宮井も智美も読んでいるらしい……。
「……と、言われたんです。」
昼間の事の顛末を久々に『茶樹』で出会った異母兄・鳥飼信哉に話した途端、目の前の信哉が突然むせこんで次の瞬間顔を赤くしたのに気がついた。暫く言葉にならない信哉が実は必死に笑いを堪えているのを知って、孝は思わず不貞腐れてしまう。
「やっぱり可笑しいですか。」
「い、いや、悪い、お前、本当に素直と言うか純心というか。」
結局は信哉ですら、自分の思考過程は現代的でないと暗に言っているようなものだ。思わず不貞腐れたまま、ずっと疑問に思っていた事を問いかける。
「……大体にして兄さんこそ、お付き合いとか経験あるんですか?」
「ないわけないだろ、二十八にもなって。」
「ええ?!」
なんだその驚きと信哉が冷ややかに言うが、これまでの付き合いで信哉が誰か女性と過ごしている気配を感じた経験がない。自宅に女性が来た風でもないしと言うと、呆れたように信哉は目の前の弟に向かって口を開く。
「あのなぁ幾らなんでもお前の前にわざわざ彼女連れて行くかよ。」
「ええ?!何でですか?!」
「……お前、そこからして既に古めかしいな……彼女を紹介して歩くのが普通と思ってるだろ?まさか親父に早紀と付き合ってますって言ってないだろうな?」
うっ!と信哉に鋭く指摘された事に、孝は言葉に詰まってしまい二の句が継げない。そのまさかだとはもう言わなくても、信哉にはお見通しのようだ。まあ早紀だから言っても変わりないだろうけど、と呆れたように笑われてしまう。
「恋愛小説でも読めと言われました、鳥飼澪の本がいいって。」
ゲホッと目の前の信哉が再び盛大にむせこみ、孝は何かおかしな事を言ったろうかと考え込む。
「な、なんで、鳥飼澪だ、恋愛小説?」
「最近は鳥飼澪が恋愛小説でいいと、クラスメイトが言ってます。」
「麻希ちゃんか?」
「何で宮井ですか?」
お互いにあれ?という顔をしてしまうが、なんだか微妙に話がずれているような。そう言えば信哉の生母の名前も、澪だった。成る程それで信哉はむせたのかと納得してしまう。
「随分偶然ですね、兄さんのお母さんと同じ名前でしたね。」
「…………そうだな。」
あれ?なんだか妙な反応のようなと孝は思うが、信哉は苦笑いで珈琲を飲みながら、お前はそのままでいた方がいいよと言い始める。恋愛小説なんか読まなくても、お前らしくやった方が早紀には伝わると信哉は言うのだ。なんだか少し煙にまかれた気がしなくもないが、確かに恋愛小説で何か仕入れても使いこなせる自信はない。
確かに自分らしくやる方が正しい気がする。
そう考えながら流石兄としての助言だと染々考えながら、兄の恋人とは一体どんな人なのだろうと首を捻っていたのだった。
※※※
その2、五十嵐海翔の出来事
先月一騒動起こしてしまったせいで、保護者で身元保証人の社長・藤咲信夫の目が厳しい。勿論やったのは事実だから自業自得なのだけれど、普段のマネージャーが別なタレントの対応中は別のマネージャーにバトンタッチする筈なのに、最近は大概藤咲が来る。
「社長、………仕事暇なの?」
「そんなことないわよ?忙しい日々だけど?」
「じゃなんで、外回り?」
賑やかに笑って海翔の話を寸断しておいて、藤咲がスタッフやキャストに笑顔で挨拶を交わしている。どうやら外回りに自分がやってくる理由は、海翔には話す気がないらしい。
どうせなら、あのウィルだか言う外人の方に行けばいいのに。
あの業界の常識を知らない外人は、目下ポスターモデル専門でCMはやらないなんて選り好みした仕事のしかたをしている。本気でこの業界でやっていく気がないとしか思えないが、その選び方がまたミステリアスとか訳の分からない事を言われて妙に仕事が集まっていた。
NISEIDOU にPANEDOLL、大手の新商品ばっかりなんてどんな幸運だよ。
自分にだって出来ると思うのに藤咲と来たら、お前はまだ全く色気がないの一言でオーディションすら却下だというのに。あの生意気外人が確かにパッと目を惹く容姿なのは認めてもいいが、歳が一つしか変わらないのにこの差はなんだろう。身長か?筋肉か?確かに立端も均整のとれた筋肉も、驚いたのは事実だけど、あれは産まれ持った遺伝子なんだってこの間そっくりの従兄弟を見たし。
「カイト、ほら撮影。」
おっと集中しないと。学生業のため海翔は撮影期間が限定されているので、休みとなると一気に撮影に押し込まれている。海翔としてはこの仕事は嫌ではないのだが、ふと合間に宮井の顔が見たくなるのはやむを得ない。芸能人だろうとなんだろうと、自分をまるで特別扱いもしないし、変にちやほやもしない宮井麻希子。姿形とかじゃなくて、誰もを内面で判断している風にも見える。依怙贔屓もしないし、悪いことはちゃんと認めて謝りなさいなんて、正直親にも言われたことがないし、人からそんなこと初めて言われた。
それにしてもあの体力馬鹿だと思った担任の土志田って、一体何者なんだろうか。元は都立第三の卒業生で、担当教科は保健体育、柔道部の部活顧問、しかも生徒指導担当。聞いた噂によるとカンニングセンサーがついてるとか、危険察知の防犯センサーがついてて街の夜回りをすることもあるとか、全身着ぐるみでバク転できるとか。どれもこれも尾ひれはひれがついてて、結局はちょっと勘のいい筋肉教師って事だろうけど
そんな熱血教師はドラマだけで十分
だが顔に被ったと思った筈の湯を海翔には気がつかない程の一瞬で避けたということは、かなり俊敏な奴ということだ。かといって生徒指導担当としては夜回り要因で体力担当かと思いきや、書類作成や進学指導・就職指導もキチンとこなすらしい。ということは正直なところただの脳筋ではないかもしれない。大体にして三年一組は国公立大学進学目的の生徒が殆どだというから、本来なら主要教科か学年主事の教師が担当する筈。それをたかが体育教師がやっているのは、土志田に何かあるからかもしれない。聞けば生徒からも教師からもかなり人気が高く、生徒や卒業生からもトッシーとかヤスさんとか呼ばれて慕われてもいる。
後ろ暗いとこがなさ過ぎだよな、人格者過ぎっていうか
何一つ後ろ暗い面がないなんて、あり得ない。人間は誰しも何か一つ位は秘密がありそうなものだ。朝から晩まで全くの聖人君子なんて、信じたくもない。以前の学校にいた生徒指導の教師も、一見すると土志田のような教師だった。皆から慕われ兄貴のように誰もが話しかける、そんなドラマのような教師。その教師は海翔が学業やクラスでのことを相談しにいったら誰にも言わないと和やかに内容を聞いていた癖に、全てを第三者に話して聞かせてしまったのだ。しかもその第三者は、それを他の人間に噂話として流した。
SNSに垂れ流されて、クラス全員から遠巻きにされたのはあいつのせい。
芸能人だからお高く止まってと誰からも話しかけられなくなったし、連絡網すら回されなくなって。学校に行くこと自体苦痛になる原因を作った癖に、あの教師はその原因を作ったことを認めなかった。全て悪いのは海翔の方だとなった上に、更に追い討ちをかけてクラスメイトに自分を仲間外れにするよう仕向けていたのだ。そうして結局海翔はあの学校に通うことが出来なくなった。クラスメイトの親から芸能活動なんかするような海翔が、同じ授業を受けているのはクラスメイトに悪影響だと言い出したのだ。海翔の両親はそれに抵抗することより、まず先に海翔に転校をすすめてきた。
親ですら、俺の事を手に終えないと思っていたんだ。
撮影が押して大分暗くなってから帰途につき、それでも頭の中では不快なことばかりが巡っていて不貞腐れたくなる。藤咲の監視も腹立たしいし、他の同級生が楽しくゴールデンウィークを過ごしていると思うと余計だ。
「五十嵐。」
不意にそんなことを考えていた矢先、聞き覚えのある声に海翔は眉をしかめた。何でこんな時に限ってと思うのは仕方がない、目の前にいるのはあの脳筋教師だ。藤咲はあの騒動の翌日直接会っているから、迷わず頭を下げる始末。
「先生は夜回りですか?」
「ええ、まあ。生徒もフワフワする時期なんで。」
藤咲と殆ど身長の変わらない土志田は、少し背の低い柄の悪そうな青年達に囲まれていて一見するとかつあげでもされてるかと思うような状況だ。そんな状況で海翔に声をかけるなんて、やっぱり頭が足りないんじゃないかと海翔は舌打ちしたくなる。ところが柄の悪そうだと思った青年達が、呑気に笑いだすのだ。
「やっべ、ヤスが、真面目にセンセしてる。」
「ああ?お前、人が真面目に教師してて悪いかよ。」
「はは、最近信哉とか雪は元気かよ?」
「かわんねぇ。うちんとこの生徒見たら、教えてくれよ。」
「あー、お前んとこの生徒も面倒だなぁ、ヤスが教師じゃ。」
うるせえとチンピラに見える青年達に返事を投げている姿に唖然とする海翔を横に、藤咲が面白そうに口を開く。
「交遊関係が広いですね、先生。」
「あー、今のはここいらの同じ年の奴等です。高校時代に友人と喧嘩したような相手ですよ。」
平然とそんなことを話す。なんだって?高校時代に喧嘩?こいつ、不良?よくあるドラマみたいな元ヤンキー教師?等と思っていたら次々と通りかかりの奴等が土志田に声をかけてくる。飲み屋街のごつい体の親父や通りかかりの警察官、それ以外にもスーツ姿の若い男とか多種多様過ぎて呆気にとられてしまう。しかも完全金髪の目付きの悪い男まで
「ヤース、夜回りごくろーさん。」
「なんだ、忠志、バイト帰りか。」
「まーね、あれ?見たことない顔。」
「あ、うちの生徒と保護者さん。」
何なんだこいつと海翔が思っているのをよそに、藤咲は賑やかにご苦労様ですと頭を下げて歩き出す。暫く離れてありゃ喧嘩慣れしてるなと藤咲が呟いたのに、海翔は目を丸くしてしまう。実は藤咲は高校時代は空手部主将だったのだ。
少なくとも、ここら辺で悪さをするのは部が悪そうってことだけは理解した。
そう苦い気分で海翔は、苛立ちをのみこんだのだった。
※※※
その3、木村勇の出来事
去年の十月頃、実は勇は恋に落ちた。恋と言うには随分と遠すぎる関係で、顔しか知らず名前も知らなければ幾つなのかも知らない。相手は綺麗な黒髪の涼やかな顔立ちの人だった。何時も登下校の時に二階の窓際に腰かけて、道路を見下ろしていた彼女。微かに微笑みを浮かべているかのように見える瞳に、頬にかかる絹糸のような黒髪。
彼女に会いたくて、同じ時間に同じように道を通り続けた勇は、ちょっとした事故に巻き込まれることになってしまった。数日間の行方不明の後、左足の骨折という代償を払って戻ると彼女は姿を消してしまったのだ。というか、彼女がいた筈の場所が煙のように消えてしまった。ずっと見上げていた筈の彼女のいた二階の出窓が、その家には存在しなかったというのだ。それから何度同じ場所から見上げても、場所をずらしても、彼女がいた部屋を見つけることが出来なくなってしまった。
立木のせいで見え方が違うのかとも思ったけど
近くの建物と間違って見ていたのかとも考えたけど、全くそう見える場所が見つからない。しかもこの道を毎日通っていたのかどうかも、自信が持てなくなってしまっていた。
あの人何処に行ったのかな……
自分よりほんの少し年上に見えた黒髪の人は、何時も寂しげに窓から道を眺めていた。もう一度で会えたら今度こそ名前を聞きたいと、勇はずっと密かに思っている。だけどそうできなくても本当は構わない。
それこそ鳥飼澪の小説みたいに、ただずっと傍で見守り続けているだけでもいい
彼女が何かを待つように見つめ続けるものは一体なんだろう。鳥飼澪を手に取ったのは、本屋のポップで信頼と愛情の狭間で揺れる切ない大人の恋なんて煽り文句があったからだ。自分はまだ愛なんて分からないけれど、大人の恋というのには興味があった。だって少なくとも窓際の彼女は大人に見えるから。でも読んでみたら自分の気持ちと重なる部分が多すぎて、勇はもう一度彼女に会いたいと更に強く思うようになってしまった。
ここにいなければ街中でも、どこででもいいから。
そんな風に彼女の事を始終探してしまう。黒髪の自分より年上の女性を見かけると、つい顔を確認してしまうのだ。
「…お前、恋愛小説読め。最近は鳥飼澪がいいらしいぞ?」
そうつい真見塚孝に口走ってしまったけれど、実際には自分の恋愛は何一つ進展すらない。そう考えれば孝は行動は大分前時代的でアナログな思考だけど、手も繋いでデートを重ね、なんとキスまで済ませたなんて言う。しかもあの性格だから、律儀に真摯に結婚迄を思案にいれているに違いないのだ。戦国武将だとかなんとかと散々馬鹿にしたものの、若瀬も近藤も勇自身も本音は孝の純粋さが羨ましい。
だってあいつは迷わず相手を好きで幸せにすると考えている。
そんな思考は今時の付き合いでは、中々直ぐには決心できないものだ。もし彼女に出会って話が出来るとして、自分は好きだと言えるか?自分はあなたを幸せに出来る何て言えるんだろうか。そう考えると正直なところ、勇には出来ないかもしれない。そんなことをボンヤリ考えながら駅前を歩いていた勇は、視界の先に艶やかな黒髪の人がユッタリと歩いてるのに気がついた。背中しか見えないが髪の長さは彼女に通じるし、艶やかな髪は黒い絹糸のよう
どうする?違うかもしれない、でも。
そう自分に繰り返すように問いかけてから、勇は覚悟を決めたようにその後ろ姿に向かって駆け出していた。
早紀との交際は順調と言えば順調にデートも回数を重ねているし、手も繋げるようになったし、キスもした。こう考えると高校生としては清く正しい順調交際ではあるが、時々だがその先の事を考えてしまうのは年頃の男子としてはやむを得ない。とは言えそう言う面では自分がかなりの奥手なのだということは、最近の友人達との会話で薄々理解しつつもある。目下目の前には生徒会長・木村勇と会計長・若瀬透、おまけに男子運動部部長の近藤雄二まで加わってきてしまった。
「で?どうなんだよ?志賀と進展。」
「進展って言われても……。」
「かーっ!白の君とお付き合いだけでも垂涎なんだぞ?キスくらいはしたか?まさか一緒に帰ってるだけとか言わないだろうな?真見塚。」
「他の学校の奴等も羨ましがってるってのに、相手が孝だもんなぁ。」
ちょっと待て、なんだその最後の言葉はと若瀬を睨むと、若瀬と来たらだってお前相当鈍いじゃんと平然と言いきるのだ。奥手だとか鈍いとか随分な言い方じゃないかと不貞腐れると、近藤まで呆れ顔で孝の顔を眺める。
「そういわれても、仕方ないって。」
「何で。」
「志賀がいっつもお前のこと見てたの知らないのは、お前だけだぞ?孝。流石の宮井姫だって気がついてんだから。」
若瀬の言葉に孝はギョッとしたように目の前の面々を眺める。いや、宮井が姫と呼ばれているのに驚いたわけではけしてない。何でか白の君とか呼ばれていた早紀が一番に心を開いた宮井麻希子は、男女問わず密かに人気があって愛くるしい宮井姫なんて呼ばれているらしいのだ。背後に実は恐ろしい溺愛彼氏がいると知っていたら、そんな呼び方してたら恐ろしい目にあうと思うがそこは孝も触れない。何度か鉢合わせた時に氷のような視線で値踏みされた気がしたのと、兄に問いかけ苦笑いされたので触れないと決めているのはここだけの話だ。
「宮井が?」
「仲良くなって直ぐに気がついてたぞ?宮井姫。」
正直なところ若瀬は、実は以前は早紀のことが好きだったと打ち明けた。だけど見ていたら早紀の気持ちはどうみても明らかで、告白するまでもなく失恋したんだけど。そう言いながら直ぐ後ろの席の宮井が早紀の視線に気がついていたのは知っていたらしい。
「だよなー。」
しかも暢気に近藤まで同意するが、実は近藤も早紀に失恋したと言い出す始末だ。近藤の方は去年智美に喧嘩を吹っ掛けたあの時孝が助けに入ったのに、早紀が助けに入ったので確信したという。そんな前から?と口にした孝に、とんでもなく鈍すぎると二人は更に口を揃える。流石に旗色の悪い孝に木村が助け船を出す。
「まあまあ、あんまり近いと逆に分かんないもんなんだよな?」
と気を使って木村が言うが実際には去年の今頃は、孝と早紀は奇妙な距離をおいていた時分なのだ。そんな風にはちっとも感じていなかったと呟く孝に、やっぱり鈍いと若瀬と近藤は連呼してくる。
「大体にして、いつから好きだったんだよ?孝こそ。」
「そうそう、小学生前から一緒にいたんだろ?自覚は?」
自覚。いや、自覚するしないというよりもだ、正直なことを言うとまだ幼稚園位の時に、早紀にこう言ったのは実は覚えている。
僕は早紀ちゃんをお嫁さんにするからね。
それから色々と事態が変わったりして疎遠になった時期があったが、本当はその気持ちには一つも変わりがない。ただ早紀はきっと疎遠になってから、もう自分には興味がないのだと思っていた。
「はぁ?!鈍感な上に、なんだそりゃ?」
「し、仕方がないだろ?色々家にも事情があってだな!」
「っていうか孝、付き合う前に結婚から入んなよ!!すっ飛ばし過ぎだろ!何時の時代だよ!戦国武将かお前!」
えええ?!とそれぞれがそれぞれの言葉に面食らって声を挙げてしまう。
「だ、だって普通そこ考えるだろ?!」
「考えねぇよ!お前、時代錯誤は家だけにしろよ!!」
「忍者屋敷なんか住んでるから、頭がまだ戦国時代なんだよ!お前!」
「信じらんねぇ!家の事情で疎遠になってたのか?!」
三者三様に非難轟々で、孝の方が考え込んでしまう有り様だ。確かに忍者屋敷のような旧家に産まれ育っているし、父は道場師範・母は体を壊す前はお茶にお花を教えていたり日本舞踊をしていたり……それに、実際二人は婚前のお付き合いというものがなく結婚していて。そんな状態が孝の普通であって、そんなことを話したら、目の前の三人がポカーンとしている。
「冗談じゃなく、お前、戦国時代の人間?」
「お見合い結婚なんて、今時まだいたんだ?」
「……お前、恋愛小説読め。最近は鳥飼澪がいいらしいぞ?」
呆れたようにそんなことを言われ、孝は思わず肩を落としてしまう。そんなにも自分が普通とかけ離れているとは、今まで一度も思ったことがないのだ。そう言えば鳥飼澪とか言う作家の本は、早紀も宮井も智美も読んでいるらしい……。
「……と、言われたんです。」
昼間の事の顛末を久々に『茶樹』で出会った異母兄・鳥飼信哉に話した途端、目の前の信哉が突然むせこんで次の瞬間顔を赤くしたのに気がついた。暫く言葉にならない信哉が実は必死に笑いを堪えているのを知って、孝は思わず不貞腐れてしまう。
「やっぱり可笑しいですか。」
「い、いや、悪い、お前、本当に素直と言うか純心というか。」
結局は信哉ですら、自分の思考過程は現代的でないと暗に言っているようなものだ。思わず不貞腐れたまま、ずっと疑問に思っていた事を問いかける。
「……大体にして兄さんこそ、お付き合いとか経験あるんですか?」
「ないわけないだろ、二十八にもなって。」
「ええ?!」
なんだその驚きと信哉が冷ややかに言うが、これまでの付き合いで信哉が誰か女性と過ごしている気配を感じた経験がない。自宅に女性が来た風でもないしと言うと、呆れたように信哉は目の前の弟に向かって口を開く。
「あのなぁ幾らなんでもお前の前にわざわざ彼女連れて行くかよ。」
「ええ?!何でですか?!」
「……お前、そこからして既に古めかしいな……彼女を紹介して歩くのが普通と思ってるだろ?まさか親父に早紀と付き合ってますって言ってないだろうな?」
うっ!と信哉に鋭く指摘された事に、孝は言葉に詰まってしまい二の句が継げない。そのまさかだとはもう言わなくても、信哉にはお見通しのようだ。まあ早紀だから言っても変わりないだろうけど、と呆れたように笑われてしまう。
「恋愛小説でも読めと言われました、鳥飼澪の本がいいって。」
ゲホッと目の前の信哉が再び盛大にむせこみ、孝は何かおかしな事を言ったろうかと考え込む。
「な、なんで、鳥飼澪だ、恋愛小説?」
「最近は鳥飼澪が恋愛小説でいいと、クラスメイトが言ってます。」
「麻希ちゃんか?」
「何で宮井ですか?」
お互いにあれ?という顔をしてしまうが、なんだか微妙に話がずれているような。そう言えば信哉の生母の名前も、澪だった。成る程それで信哉はむせたのかと納得してしまう。
「随分偶然ですね、兄さんのお母さんと同じ名前でしたね。」
「…………そうだな。」
あれ?なんだか妙な反応のようなと孝は思うが、信哉は苦笑いで珈琲を飲みながら、お前はそのままでいた方がいいよと言い始める。恋愛小説なんか読まなくても、お前らしくやった方が早紀には伝わると信哉は言うのだ。なんだか少し煙にまかれた気がしなくもないが、確かに恋愛小説で何か仕入れても使いこなせる自信はない。
確かに自分らしくやる方が正しい気がする。
そう考えながら流石兄としての助言だと染々考えながら、兄の恋人とは一体どんな人なのだろうと首を捻っていたのだった。
※※※
その2、五十嵐海翔の出来事
先月一騒動起こしてしまったせいで、保護者で身元保証人の社長・藤咲信夫の目が厳しい。勿論やったのは事実だから自業自得なのだけれど、普段のマネージャーが別なタレントの対応中は別のマネージャーにバトンタッチする筈なのに、最近は大概藤咲が来る。
「社長、………仕事暇なの?」
「そんなことないわよ?忙しい日々だけど?」
「じゃなんで、外回り?」
賑やかに笑って海翔の話を寸断しておいて、藤咲がスタッフやキャストに笑顔で挨拶を交わしている。どうやら外回りに自分がやってくる理由は、海翔には話す気がないらしい。
どうせなら、あのウィルだか言う外人の方に行けばいいのに。
あの業界の常識を知らない外人は、目下ポスターモデル専門でCMはやらないなんて選り好みした仕事のしかたをしている。本気でこの業界でやっていく気がないとしか思えないが、その選び方がまたミステリアスとか訳の分からない事を言われて妙に仕事が集まっていた。
NISEIDOU にPANEDOLL、大手の新商品ばっかりなんてどんな幸運だよ。
自分にだって出来ると思うのに藤咲と来たら、お前はまだ全く色気がないの一言でオーディションすら却下だというのに。あの生意気外人が確かにパッと目を惹く容姿なのは認めてもいいが、歳が一つしか変わらないのにこの差はなんだろう。身長か?筋肉か?確かに立端も均整のとれた筋肉も、驚いたのは事実だけど、あれは産まれ持った遺伝子なんだってこの間そっくりの従兄弟を見たし。
「カイト、ほら撮影。」
おっと集中しないと。学生業のため海翔は撮影期間が限定されているので、休みとなると一気に撮影に押し込まれている。海翔としてはこの仕事は嫌ではないのだが、ふと合間に宮井の顔が見たくなるのはやむを得ない。芸能人だろうとなんだろうと、自分をまるで特別扱いもしないし、変にちやほやもしない宮井麻希子。姿形とかじゃなくて、誰もを内面で判断している風にも見える。依怙贔屓もしないし、悪いことはちゃんと認めて謝りなさいなんて、正直親にも言われたことがないし、人からそんなこと初めて言われた。
それにしてもあの体力馬鹿だと思った担任の土志田って、一体何者なんだろうか。元は都立第三の卒業生で、担当教科は保健体育、柔道部の部活顧問、しかも生徒指導担当。聞いた噂によるとカンニングセンサーがついてるとか、危険察知の防犯センサーがついてて街の夜回りをすることもあるとか、全身着ぐるみでバク転できるとか。どれもこれも尾ひれはひれがついてて、結局はちょっと勘のいい筋肉教師って事だろうけど
そんな熱血教師はドラマだけで十分
だが顔に被ったと思った筈の湯を海翔には気がつかない程の一瞬で避けたということは、かなり俊敏な奴ということだ。かといって生徒指導担当としては夜回り要因で体力担当かと思いきや、書類作成や進学指導・就職指導もキチンとこなすらしい。ということは正直なところただの脳筋ではないかもしれない。大体にして三年一組は国公立大学進学目的の生徒が殆どだというから、本来なら主要教科か学年主事の教師が担当する筈。それをたかが体育教師がやっているのは、土志田に何かあるからかもしれない。聞けば生徒からも教師からもかなり人気が高く、生徒や卒業生からもトッシーとかヤスさんとか呼ばれて慕われてもいる。
後ろ暗いとこがなさ過ぎだよな、人格者過ぎっていうか
何一つ後ろ暗い面がないなんて、あり得ない。人間は誰しも何か一つ位は秘密がありそうなものだ。朝から晩まで全くの聖人君子なんて、信じたくもない。以前の学校にいた生徒指導の教師も、一見すると土志田のような教師だった。皆から慕われ兄貴のように誰もが話しかける、そんなドラマのような教師。その教師は海翔が学業やクラスでのことを相談しにいったら誰にも言わないと和やかに内容を聞いていた癖に、全てを第三者に話して聞かせてしまったのだ。しかもその第三者は、それを他の人間に噂話として流した。
SNSに垂れ流されて、クラス全員から遠巻きにされたのはあいつのせい。
芸能人だからお高く止まってと誰からも話しかけられなくなったし、連絡網すら回されなくなって。学校に行くこと自体苦痛になる原因を作った癖に、あの教師はその原因を作ったことを認めなかった。全て悪いのは海翔の方だとなった上に、更に追い討ちをかけてクラスメイトに自分を仲間外れにするよう仕向けていたのだ。そうして結局海翔はあの学校に通うことが出来なくなった。クラスメイトの親から芸能活動なんかするような海翔が、同じ授業を受けているのはクラスメイトに悪影響だと言い出したのだ。海翔の両親はそれに抵抗することより、まず先に海翔に転校をすすめてきた。
親ですら、俺の事を手に終えないと思っていたんだ。
撮影が押して大分暗くなってから帰途につき、それでも頭の中では不快なことばかりが巡っていて不貞腐れたくなる。藤咲の監視も腹立たしいし、他の同級生が楽しくゴールデンウィークを過ごしていると思うと余計だ。
「五十嵐。」
不意にそんなことを考えていた矢先、聞き覚えのある声に海翔は眉をしかめた。何でこんな時に限ってと思うのは仕方がない、目の前にいるのはあの脳筋教師だ。藤咲はあの騒動の翌日直接会っているから、迷わず頭を下げる始末。
「先生は夜回りですか?」
「ええ、まあ。生徒もフワフワする時期なんで。」
藤咲と殆ど身長の変わらない土志田は、少し背の低い柄の悪そうな青年達に囲まれていて一見するとかつあげでもされてるかと思うような状況だ。そんな状況で海翔に声をかけるなんて、やっぱり頭が足りないんじゃないかと海翔は舌打ちしたくなる。ところが柄の悪そうだと思った青年達が、呑気に笑いだすのだ。
「やっべ、ヤスが、真面目にセンセしてる。」
「ああ?お前、人が真面目に教師してて悪いかよ。」
「はは、最近信哉とか雪は元気かよ?」
「かわんねぇ。うちんとこの生徒見たら、教えてくれよ。」
「あー、お前んとこの生徒も面倒だなぁ、ヤスが教師じゃ。」
うるせえとチンピラに見える青年達に返事を投げている姿に唖然とする海翔を横に、藤咲が面白そうに口を開く。
「交遊関係が広いですね、先生。」
「あー、今のはここいらの同じ年の奴等です。高校時代に友人と喧嘩したような相手ですよ。」
平然とそんなことを話す。なんだって?高校時代に喧嘩?こいつ、不良?よくあるドラマみたいな元ヤンキー教師?等と思っていたら次々と通りかかりの奴等が土志田に声をかけてくる。飲み屋街のごつい体の親父や通りかかりの警察官、それ以外にもスーツ姿の若い男とか多種多様過ぎて呆気にとられてしまう。しかも完全金髪の目付きの悪い男まで
「ヤース、夜回りごくろーさん。」
「なんだ、忠志、バイト帰りか。」
「まーね、あれ?見たことない顔。」
「あ、うちの生徒と保護者さん。」
何なんだこいつと海翔が思っているのをよそに、藤咲は賑やかにご苦労様ですと頭を下げて歩き出す。暫く離れてありゃ喧嘩慣れしてるなと藤咲が呟いたのに、海翔は目を丸くしてしまう。実は藤咲は高校時代は空手部主将だったのだ。
少なくとも、ここら辺で悪さをするのは部が悪そうってことだけは理解した。
そう苦い気分で海翔は、苛立ちをのみこんだのだった。
※※※
その3、木村勇の出来事
去年の十月頃、実は勇は恋に落ちた。恋と言うには随分と遠すぎる関係で、顔しか知らず名前も知らなければ幾つなのかも知らない。相手は綺麗な黒髪の涼やかな顔立ちの人だった。何時も登下校の時に二階の窓際に腰かけて、道路を見下ろしていた彼女。微かに微笑みを浮かべているかのように見える瞳に、頬にかかる絹糸のような黒髪。
彼女に会いたくて、同じ時間に同じように道を通り続けた勇は、ちょっとした事故に巻き込まれることになってしまった。数日間の行方不明の後、左足の骨折という代償を払って戻ると彼女は姿を消してしまったのだ。というか、彼女がいた筈の場所が煙のように消えてしまった。ずっと見上げていた筈の彼女のいた二階の出窓が、その家には存在しなかったというのだ。それから何度同じ場所から見上げても、場所をずらしても、彼女がいた部屋を見つけることが出来なくなってしまった。
立木のせいで見え方が違うのかとも思ったけど
近くの建物と間違って見ていたのかとも考えたけど、全くそう見える場所が見つからない。しかもこの道を毎日通っていたのかどうかも、自信が持てなくなってしまっていた。
あの人何処に行ったのかな……
自分よりほんの少し年上に見えた黒髪の人は、何時も寂しげに窓から道を眺めていた。もう一度で会えたら今度こそ名前を聞きたいと、勇はずっと密かに思っている。だけどそうできなくても本当は構わない。
それこそ鳥飼澪の小説みたいに、ただずっと傍で見守り続けているだけでもいい
彼女が何かを待つように見つめ続けるものは一体なんだろう。鳥飼澪を手に取ったのは、本屋のポップで信頼と愛情の狭間で揺れる切ない大人の恋なんて煽り文句があったからだ。自分はまだ愛なんて分からないけれど、大人の恋というのには興味があった。だって少なくとも窓際の彼女は大人に見えるから。でも読んでみたら自分の気持ちと重なる部分が多すぎて、勇はもう一度彼女に会いたいと更に強く思うようになってしまった。
ここにいなければ街中でも、どこででもいいから。
そんな風に彼女の事を始終探してしまう。黒髪の自分より年上の女性を見かけると、つい顔を確認してしまうのだ。
「…お前、恋愛小説読め。最近は鳥飼澪がいいらしいぞ?」
そうつい真見塚孝に口走ってしまったけれど、実際には自分の恋愛は何一つ進展すらない。そう考えれば孝は行動は大分前時代的でアナログな思考だけど、手も繋いでデートを重ね、なんとキスまで済ませたなんて言う。しかもあの性格だから、律儀に真摯に結婚迄を思案にいれているに違いないのだ。戦国武将だとかなんとかと散々馬鹿にしたものの、若瀬も近藤も勇自身も本音は孝の純粋さが羨ましい。
だってあいつは迷わず相手を好きで幸せにすると考えている。
そんな思考は今時の付き合いでは、中々直ぐには決心できないものだ。もし彼女に出会って話が出来るとして、自分は好きだと言えるか?自分はあなたを幸せに出来る何て言えるんだろうか。そう考えると正直なところ、勇には出来ないかもしれない。そんなことをボンヤリ考えながら駅前を歩いていた勇は、視界の先に艶やかな黒髪の人がユッタリと歩いてるのに気がついた。背中しか見えないが髪の長さは彼女に通じるし、艶やかな髪は黒い絹糸のよう
どうする?違うかもしれない、でも。
そう自分に繰り返すように問いかけてから、勇は覚悟を決めたようにその後ろ姿に向かって駆け出していた。
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