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4月

350.ブルーベル

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4月25日 火曜日
昨日ちゃんと五十嵐君は謝ってきたよって宣言して、五十嵐君をお弁当タイムに引きずりこんだ私。勿論直ぐに全部わだかまりが消えるなんて思ってないし、五十嵐君が直ぐに打ち解けるなんて安易には考えてないよ。だってそれぞれ変わらない心はあるんだもん。でも五十嵐君らちゃんと謝ったから、一先ずは第一関門クリアと言う感じだよね。

「……宮井さんが謝ったって言ったら皆信じるわけ……?」

皆でお弁当を囲みながら微妙な顔で五十嵐君が呟いたのに、え?って私が言う横で仁君が当然みたいに口を開く。

「麻希子が言うなら本当だから信じる。」

今のどういう意味って首を傾げている私に、孝君が呆れたように五十嵐が謝ってないのにお前が謝ってきたって言うんじゃないかって思わないのかって聞かれたんだよって説明してくれる。ん?どういう事?謝んないのに謝ったって私が言うの?香苗が呆れたように笑いながら口を開く。

「そう言うところが天然なんだよね、麻希子は。」
「え?だって、謝ってないのに謝ったって言ったら嘘じゃん。」
「麻希子にそんな高等な駆け引き駆使する気があったら、散々巻き込まれてない。」

何か自分の発言の前後で凄く失礼な事言われている気がする。ムゥッ、二人のバナナパウンドケーキ半分ずつにしようかな………そう考えた瞬間、智美君が褒めてると賑やかに言い張った。いや、何か実際には褒められてないのは、最近もう理解したんだからねっ!



※※※



そんなわけで昨日は少し謙遜した感じで、お弁当に大人しく参加した五十嵐君。今日も朝から学校にちゃんと来てるし、少し変わったのは小さな声だけどクラスに入って私だけでなく仁君と孝君に自分からおはようって言ったんだよ。智美君と香苗と早紀ちゃんには暫く妙に緊張感を醸したけど、早紀ちゃんがおはようって声をかけたから素直に答えたし残りの二人にもおはようって言ったしね。それ見ていた久保ちゃんとか鈴木君もおはようって声をかけてくれたから、少しまた声は小さくなったけど五十嵐君は初めて他のクラスメイトにも返事をしていた。

うん、まず大事なところだよね。挨拶。

私が納得しているところに、智美君てばまたお人好しって呟く。そうかなぁ、そんなにお人好しってつもりじゃないんだけどなぁ。だって去年みたいな思いしたくないんだもの、私。早紀ちゃんの時だって、香苗の時だって、智美君の時だって、自分の時だって、嫌なものは嫌だったし。

「靴無くなった時は、流石に学校来るの嫌かもって思ったし。」
「まあ、僕としてはマメによくやるなとは思ってたけど。」
「そう言えば、黒木佑って三年になってから登校してないって。」

香苗の話にへぇと智美君が声あげる。黒木佑君って智美君の教科書を地味に一ページずつ糊付けしてみたり、智美君と孝君に喧嘩打って返り討ちにあっちゃった子ね。一応謝りに来てたけど一人だけ凄く不満そうな顔でそっぽ向きながら謝ってて、謝りたくないんだろうなぁって感じだったけど。しかもその後も地味ーに智美君に期末テストの結果を自慢されると言う嫌がらせをされてたけど。

「結果で嫌がらせ……?」
「智美君ね、黒木君に悪戯されてた腹いせに、地味にテストの点数自慢して嫌がらせしてたの。」
「嫌がらせじゃない。お前が学年トップになれるんなら、堂々とやってみろと言っただけだ。」

それにしても、黒木君って三年になってから来てないってことは病気とかなのかな?って思ったら香苗が呆れたように机に頬杖をついて口を開く。

「繁華街で遊び歩いてるって噂だよ、他のクラスの子達が見たって。」

噂ってほんと怖いよねぇと香苗が溜め息混じりに呟く。実際経験してる香苗だから余計にその口調が切実に聞こえて、思わず私も早紀ちゃんもそうだよねぇと同意する。何か凄く去年の今頃が、昔みたいに感じちゃうのは何でだろう。

「ま、自分で気がつかなきゃどうにもならないだろうな。」

最近は大分柔らかな表情で話すことの多い孝君まで久々の能面顔で冷ややかにそんなことを言うのは、うーん考えなくても去年の乱闘騒ぎの件のせいだよね。でもあの時は乱闘自体より、その後の出来事の方がとっても大変だったからなぁ。

「去年の事件って?」
「知らないの?五十嵐、学校に爆弾犯が侵入。」
「え?!あれってここ?!」

香苗の言葉に初めて声をあげて驚いた五十嵐君。え?知らないで転校してきたの?全国的にニュースになったと思ってたけどって言ったら、その辺りはドラマの撮影があってバタバタしてたり引っ越しの準備もあってってゴニョゴニョしてる。そっかぁお仕事してるんだもん、そうだよねぇって私が納得して言ったら、五十嵐君は何故か少し嬉しそうに笑う。あれ?何でそれで嬉しそう?

「宮井ちゃん、マジ天使だわぁ。」
「え?」
「何でもかんでも鵜呑みにするのが、巻き込まれ体質だって言うんだ。社会情勢に興味がないだけだろ。五十嵐が爆弾事件知らないのは。」

智美君の矢のような辛辣な言葉に、五十嵐君がグッと言葉に詰まって赤くなるのがわかる。あ、そうなの?それならそれでそう言えばいいのにって私が言ったら、それはそれで何でか周囲の笑いになったのは何で?
それにしても挨拶ひとつで、少し五十嵐君がクラスに馴染めてきたような気がする。正直あのままの嫌な雰囲気にドンドンなるよりは、皆で笑えるこっちの方がずっといいよね。
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