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4月

338.ハルシャギク

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4月13日 木曜日
美術室にそれぞれがキャンバス並べながらの今年度初の部活動。入部希望の新入生が見学に来たりするから、部長の香苗は動き回って説明したりで忙しそうだ。智美君は私の隣でノンビリデッサン中なんだけど、黙って座って作業している智美君の姿に一目惚れしそうな新入生の視線を感じる。そうなんだよね、智美君がこんな美形なのに毒舌だってもう知ってる三年生は兎も角、二年生でも智美君目的の子が入部したわけで。そのくせ智美君は興味がないと全然愛想もふらない人なので、知らない子には笑いもしない。それが格好いいって子もいるらしいから、人の好みって不思議だよね。そうは言いつつ実はそういうところも、雪ちゃんと智美君って似てると思う。雪ちゃんも興味が無いことには余り反応しないし、嫌いな事には無反応だもんね。身長が伸びたせいか智美君は、顔立ちも少し大人びたみたい。こうしてみるとヤッパリ顔も雪ちゃんと似てるって思うんだけどね、そんな視線の先で智美君は何かした?って私に問いかける。

「智美君、やっぱりデッサン上手い。」

キャンバスを覗きこんだ智美君のデッサンはかなり緻密。まるで寸法をとったみたいに真っ直ぐ迷いのない歪みがない線に、初めて見た時私も香苗も驚いたくらいだ。このまま描き込んでいったら、きっと写真みたいに見えちゃいそうなんだよね。

「頭の中の映像をなぞってるだけ。香苗みたいのを絵が上手いって言うんだよ。」

あのぉ、私にしてみたら二人とも充分に上手なんですが。そう思いながら私は苦笑いしてしまう。

「それは昔っから知ってるけど、智美君も上手だよ。」

これは模写と変わんないと智美君は平然と言う。あのねぇ模写できること自体が、既に上手だと思うんだけどなぁ私は。そんなことを考えていたら新入生の対応を終えて、香苗が溜め息混じりに戻ってくる。

「もー、智美・目的多すぎだよー。」
「そんなに?」
「だって、美術部のことより、あの先輩何年生ですかだって。」

それは凄い。目敏いというか、そこで智美君の事を聞いちゃう辺り、新入生の女の子が来るのが多い理由が分かる気がする。まあ、そこから美術に興味が沸いてくれてもいいんだけどって私が言うと、香苗は呆れたように智美の見た目でつられてもねぇと呟く。うーん、確かに素っ気なくされたら、部活辞めちゃうとか言われたら困るなぁ。智美君はなんたって智美君だし。呑気にそんなことを考えていたら、ふと頭の中に浮かんだことに口を開く。

「あ、そう言えば槙山さんってさぁ?」
「槙山さんって忠志?」

そうそうと言うけど、智美君は気にするでもない。そっか、槙山さんのこと知ってるのは、私と香苗だけだったか。

「高校の時美術部だったって話してた。」
「はぁ?忠志が?全然似合わない!」

まあ、いつも陽気で賑やかな金髪お兄さんの槙山さんが、美術部でキャンバス相手って辺り想像もできないのは事実なんだけど。でも、問題はそこじゃないんだよね。

「しかも、体操部と兼部してたって。」

えーって言ってる香苗と殆ど同時に智美君がツボに入ったらしくて吹き出した。え?智美君、鳥飼さんだけじゃなくて槙山さんとも顔見知り?って思ったけど、どうやらツボに入ったのは美術部兼体操部だったみたい。確かにマトモな人なら運動部だけの兼部はあり得るかもしれないけど、基本が美術部で兼部が体操部だもんね。智美君てば久々にツボに入ったらしくて、笑いが止まらなくなってる。

「なんだよ、それ、普通・体操部主体だろ?」
「私もそう言ったけど、美術部主体だっていうんだもん。でもさ、公園の鉄棒でムーンサルト出来るんだよ?その人。」

智美君が更に大爆笑しているけど、考えれば考えるほど凄くない?だって今更だけどさ、体操部だって体育館で鉄棒の下にマットレス敷いてるじゃない?槙山さんってば、公園の鉄棒でマットレスなしでやったんだよ?しかも、その後ケロッとしてて普通に鳥飼さんの家の方に歩いていったし。足いたくないのかなぁ?って言ったら、香苗が成る程と言いたげに溜め息をつく。

「忠志といい、土志田といいなんだろね、体力馬鹿?」

香苗がそんなことを呆れたように言ったもんだから、智美君の爆笑が完全に止まらなくなってる。智美君笑ってるのは良いけど、あんまり何時までも笑ってると、見る間にギャラリーが増えてますよー。私達にしてみると智美君が実は笑い上戸なのは既に周知の事実なんだけど、他の学年の子とか二年の時離れたクラスの子達には衝撃的らしい。お陰でその後再び智美君目当ての新入生がワラワラしてて、香苗だけではどうにもならなくなって私まで駆り出される事になってしまった。智美君はそれを横目に澄まし顔だけど、どう見てもまだ笑いの発作が治まりきってない。あれって車の中とかで再発作起きるんじゃないかな……、敷島さん、驚くんじゃないだろうか。
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