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4月

326.サクラ

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4月1日 土曜日
早紀ちゃんが来て一緒にお茶しにいこうと誘われた今日。衛も一緒に久々に『茶樹』に行くことにしたんだ。春休みは後ほんの少ししかないし、少しは外の空気を吸いたいしね。早紀ちゃんは少し会わないでいたらちょっと大人びたみたい。優美な女性って表現が似合う早紀ちゃんが、あんまり変化のない私には羨ましい。って言うかさ!4月なの!!つまり、もう3年生なんだよ?!信じられる?!だって後5日で新学期なんだよ?!信じらんない!もう3年生だなんて!!なんて精神の美どころか成長なんて欠片も見えない状態でいるわけですが。

『茶樹』に辿りついてあの深碧のドアを開くと、何でか中には香苗と智美くんと孝君、仁君がいて皆で私の快気祝いだって。何があったか知っている三人は兎も角、孝君と仁君はインフルエンザからの肺炎で入院って考えてるみたい。おまけに何でかマスターさんだけじゃなくて松理さんと松尾さんと、鈴徳さんまで加わって……これって『茶樹』貸し切り?!って驚いたら、マスター権限で本日は貸し切りって…いいの?!今日は春休み真っ最中の土曜日ですよ?!ってことになっている。しかも、鈴徳さんの本気……それほどの量じゃないって言うけどシャンパングラス入りのオレンジと生ハムのカルパッチョにサーモンと野菜のパイ包み焼き、トマトとアボカドとモッツァレラのカプレーゼ・ピンチョス、デニッシュのサンドイッチってこれ絶対、これって本気でつくってますよね?!これ、普通にフレンチとかイタリアンとかのお店で出したらアペタイザーとかアペリティフとかアントレとか、完璧に前菜料理ですよね?!しかも、代金は快気祝いですってマスターさん?!鈴徳さんの料理ですよ?!

「ハムちゃんが来てくれないと、良二くんがやる気がでないんですよ。」

いや!そういう問題なんですか?!しかも、鈴徳さんケーキ出そうとしてませんか?!皆もこの状況に唖然としているんだけど、最初は『茶樹』でケーキを買って快気祝いをしようって香苗が持ち出したんだって。で、折角だから特別なのって注文に来たら、マスターさんや鈴徳さんが揃ってちょっと待って!!快気祝いするなら!!ってなったんだって言うんだけど。い、いいのかなぁ?って顔したら松理さんがいいのよって断言する。

「モチベーションが上がるために必要なんだから、祝って貰いなさいな。良二君のやる気のない賄いなんか、つまんないのよ?」

やる気のない賄いって一体……っていったら、賄いなのに普段はちゃんと別に作るんだって。ランチメニューを賄いに出されたって松理さんが不満そうだけど、それって普通なんじゃ…。

「少し痩せた?麻希子。」
「あ、そうかも?何日か熱がさがんなかったんだ。」

初めて出会った仁君に衛が私の腰にベッタリくっついていて、仁君は不思議そうに覗きこむ。

「衛、澤江仁君だよ。」
「はじめまして、仁でいいよ。」
「……はじめまして。宇野衛です。」

あれー、なんかご挨拶へたっぴになってるー!って言ったら、衛は慌てたみたいにちゃんとペコリと頭を下げて、おずおずと智美君に歩み寄る。なんか、衛もちょっと様子が変なんだよなぁ。

「大事なお姉ちゃんとられると思ったかな?」
「え?」
「なんか、そんな感じ。入院したんだろ?衛ちゃんも寂しかったんじゃない?」

香苗がそう言うのに、そっかって私も納得する。やっぱり衛だってまだ小学一年生だもんね、色々あったから寂しくなっちゃったんだなー。って考えてたら背後から松尾さんにぎゅうってされてしまう。

「ハムちゃーん!寂しかったよー!ミニハムちゃんもお店に来てくんないんだもん!」

ミニハム?!もしかして、衛のことですか?!なんてこった、二人でハムって呼ばれてるの?!衛は智美君に何やら不満顔で話してるのは…雪ちゃんの事?うーん、どうみても智美君が苦笑いしてるなぁ。そんな辺りでどうみてもフルパワーの鈴徳さんのケーキが!

「す、鈴徳さん?これは、流石に……。」
「マスターが採算度外視って言うからさぁ。出来る限りで!」
「ハムちゃん、安心していいですよ、良二の技術が落ちてないか確認するためですからね。」

えええ?!そういうもの?!っていうか、智美君の目がハンターの目になってる。どうみても獲物をみてるよね?その視線。それにしたって鈴徳さんの本気って半端ない。目の前には勿論ケーキなんだけど、サイズはやや小ぶりのケーキが何種類も。あの、どうみてもケーキバイキングになってますけど。少なくとも見間違いでなければ七種類くらい見える気がする……見直しても変わんなかった……。鈴徳さんてば食べきれなかったら持って帰ってねって言うけど、私の後ろにハンターがいます……絶対残さない気がする、智美君。驚いたのは智美君の食欲と仁君がほぼ同じくらいで食べれること。ついでに小学生にしては今の衛の食事量も半端ない。ついこの間までプリンアラモード半分こしていたのが嘘みたいなんだけど、こんなに食べるから身長グングン延びてるのかも。どうみても私の三倍くらい食べてる智美君と仁君を眺めながら、元気になって良かったって何気なく孝君が言う。香苗や早紀ちゃんに皆も心配してくれてたって言われて、ちょっとウルッとなる私に何でか松理さんが頭をナデナデし始めてて。

良かったなぁ、こうしていられて……。

染々そんなふうに思ってしまったのだった。
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