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3月
閑話68.木村勇
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毛利先輩の目に何がとまったのかは知らないが、何故か生徒会長にはお前しかいないの一言でまあいいかと思ったのが間違いだった。対抗馬が出てくればそっちが生徒会長になって、なんて気楽に考えていたのに。なんと対抗馬すら出てこないで生徒会長に当確した上に、副会長に選ばれたのが生真面目の型にはまったような真見塚孝なのだ。野球部仲間の浦野太一からは聞いていたが、生真面目警察官かと言いたくなるような実直質実剛健を地で行く孝はお気楽極楽・何事も何とかなるが座右の銘と言い張る勇とは正反対だった。
「申し送り事項は期間がなかったから、ファイリングしてあるから。」
毛利前会長がそう言ったから、勇は正直なところそのファイルを眺めて思った。これはそのまま生徒会運営のマニュアルに組み込んでしてしまえばいいなと。ところが孝は違った、それを完全に読み込んだかと思うと、既存のマニュアルとの齟齬を生じる部分を検討するべきだと進言してきたのだ。
「じゃ、それは来月で。」
「来月は年度末の決算かあるし、生徒総会をしないとならないから今月中に検討して議題提出するべきだと思う。」
「……真面目か!」
思わずそう言ってしまったが、やればすぐ終わると知りつつ勇は脱兎の如く逃げ出した。面倒臭い上に何で孝が生徒会長にならないで副会長なのか、と思う。
「トッシー、どうよ?孝の方が適任じゃん?」
担任の土志田に生徒指導室に匿って貰って嘆くと、土志田は可笑しそうにそうかなぁと言う。土志田に言わせると孝は確かに管理者としては有能だろうが、完全管理に固執するタイプだから会長には向かないらしい。完全管理出来るならいいじゃんと思うが、思うとおりにならない時の対応が上手く出来ないからその点では副会長はいいポストだと考えているようだ。それにしても浦野太一と勇は野球部では有名なコンビで決断力に欠ける太一といいじゃんそれでいこう!の勇な訳で。つまりは勇は基本能天気のノンビリなのだ!それがこう早くこれを決めよう、こうしたらどうかとあれはどうすると追いたてられるのは勘弁してほしい。
香坂智美に孝の捜索の癖と回避術を伝授されてなければ、日々生徒会室に軟禁されるところだ。とは言えやらなきゃならないことを放棄しているわけではなく、目下土志田に相談しながら卒業式の送辞だけは作成中だ。
「トッシーの時の生徒会長ってなんて人?どんな奴だった?」
「風間って奴で真見塚の一回り正義感の強い生真面目なおとこだったなぁ。」
うへぇ?!孝より一回り?!ブレインなしで運営してそうと言ったら、当時も香坂張りのブレインになる人間はいたと言う。しかも、会計長になって三日で会計監査を終わらせたかと思うと、それ迄のズボラ会計をひっくり返す改革まで五月までに終わらせたのだ。
「もしかしてそれって、あの運営マニュアル作成した人?」
「ああ、普段はお前みたいに呑気な顔してんだけどな、頭ん中は香坂張りだからな。」
「そんな人間って今何やってんの?政府高官?」
自分の言葉に土志田は笑いながら、そんな大層なこと誰も考えねぇよと言う。
因に土志田の同級生の生徒会長は警察官、ブレインは出版社で働いているのだと教えてもらう。しかも、大卒なのに、生徒会長はエリート街道でなく平の警察官を選んだと言うから唖然としてしまった。元々キャリア官僚を目指して居たらしいが、大学生の間に考えが変わることがあったようだと土志田は話す。人間ってものは本当にちょっとしたことで、道が完全に切り替わるものらしい。そういう意味では勇にとっても今年は大きな変化のあった年だった。自分が行方不明事件を起こしてから既に4ヶ月以上だが、あれは中々予想外の事件だったのだ。既に記憶は朧で何で奇妙な出来事に巻き込まれたのか、半分記憶がない。女の人が居て助けに入った筈だったが、何しろその人がいた筈の二階が存在しないときた。しかも、その人らしき姿を他の場所で見かけて、勇は自分の浅はかさに悶絶しそうになったのはここだけの話だ。
初恋だったんだよなぁ、あの黒髪の人。
初恋は実るか実らないかで先日クラスメイトが盛り上がっていたが、正直実らないものなんじゃないかと勇は考える。と言うのも大分初恋は思い込みで動いていて、勇のように後から考えると悶絶と言うことが多いような気がするのだ。まあ、孝と志賀のような特例もあるのだろうけれど。そんなことはさておき、ふと土志田に声をかける。
「トッシーは?最初から先生?」
「あー、…………違うな。」
土志田は日々天職みたいに働いているから、てっきり教師がずっとなりたい職業だったのかと思っていた。本当は何になりたかったのと問いかけると、土志田は笑いながらオリンピック選手かなと言う。
「そう言えばトッシーって国体とか強化選手だったんだろ?何でやめたの?」
「よく有ることだ、怪我だよ。」
今の日常の動きを知っている上に、文化祭でキグルミでバック転していて何処が怪我なんだよと内心思ってしまう。生徒から密かに体力お化け呼ばわりされていても、オリンピック選手の夢には届かない理由になるほどの怪我だったのだろうかと勇は眺める。やっと書き上げた送辞を手に土志田に礼を言って生徒指導室を出た途端、間の悪いことに孝と鉢合わせてしまったのは運命だったのだろうか?
「申し送り事項は期間がなかったから、ファイリングしてあるから。」
毛利前会長がそう言ったから、勇は正直なところそのファイルを眺めて思った。これはそのまま生徒会運営のマニュアルに組み込んでしてしまえばいいなと。ところが孝は違った、それを完全に読み込んだかと思うと、既存のマニュアルとの齟齬を生じる部分を検討するべきだと進言してきたのだ。
「じゃ、それは来月で。」
「来月は年度末の決算かあるし、生徒総会をしないとならないから今月中に検討して議題提出するべきだと思う。」
「……真面目か!」
思わずそう言ってしまったが、やればすぐ終わると知りつつ勇は脱兎の如く逃げ出した。面倒臭い上に何で孝が生徒会長にならないで副会長なのか、と思う。
「トッシー、どうよ?孝の方が適任じゃん?」
担任の土志田に生徒指導室に匿って貰って嘆くと、土志田は可笑しそうにそうかなぁと言う。土志田に言わせると孝は確かに管理者としては有能だろうが、完全管理に固執するタイプだから会長には向かないらしい。完全管理出来るならいいじゃんと思うが、思うとおりにならない時の対応が上手く出来ないからその点では副会長はいいポストだと考えているようだ。それにしても浦野太一と勇は野球部では有名なコンビで決断力に欠ける太一といいじゃんそれでいこう!の勇な訳で。つまりは勇は基本能天気のノンビリなのだ!それがこう早くこれを決めよう、こうしたらどうかとあれはどうすると追いたてられるのは勘弁してほしい。
香坂智美に孝の捜索の癖と回避術を伝授されてなければ、日々生徒会室に軟禁されるところだ。とは言えやらなきゃならないことを放棄しているわけではなく、目下土志田に相談しながら卒業式の送辞だけは作成中だ。
「トッシーの時の生徒会長ってなんて人?どんな奴だった?」
「風間って奴で真見塚の一回り正義感の強い生真面目なおとこだったなぁ。」
うへぇ?!孝より一回り?!ブレインなしで運営してそうと言ったら、当時も香坂張りのブレインになる人間はいたと言う。しかも、会計長になって三日で会計監査を終わらせたかと思うと、それ迄のズボラ会計をひっくり返す改革まで五月までに終わらせたのだ。
「もしかしてそれって、あの運営マニュアル作成した人?」
「ああ、普段はお前みたいに呑気な顔してんだけどな、頭ん中は香坂張りだからな。」
「そんな人間って今何やってんの?政府高官?」
自分の言葉に土志田は笑いながら、そんな大層なこと誰も考えねぇよと言う。
因に土志田の同級生の生徒会長は警察官、ブレインは出版社で働いているのだと教えてもらう。しかも、大卒なのに、生徒会長はエリート街道でなく平の警察官を選んだと言うから唖然としてしまった。元々キャリア官僚を目指して居たらしいが、大学生の間に考えが変わることがあったようだと土志田は話す。人間ってものは本当にちょっとしたことで、道が完全に切り替わるものらしい。そういう意味では勇にとっても今年は大きな変化のあった年だった。自分が行方不明事件を起こしてから既に4ヶ月以上だが、あれは中々予想外の事件だったのだ。既に記憶は朧で何で奇妙な出来事に巻き込まれたのか、半分記憶がない。女の人が居て助けに入った筈だったが、何しろその人がいた筈の二階が存在しないときた。しかも、その人らしき姿を他の場所で見かけて、勇は自分の浅はかさに悶絶しそうになったのはここだけの話だ。
初恋だったんだよなぁ、あの黒髪の人。
初恋は実るか実らないかで先日クラスメイトが盛り上がっていたが、正直実らないものなんじゃないかと勇は考える。と言うのも大分初恋は思い込みで動いていて、勇のように後から考えると悶絶と言うことが多いような気がするのだ。まあ、孝と志賀のような特例もあるのだろうけれど。そんなことはさておき、ふと土志田に声をかける。
「トッシーは?最初から先生?」
「あー、…………違うな。」
土志田は日々天職みたいに働いているから、てっきり教師がずっとなりたい職業だったのかと思っていた。本当は何になりたかったのと問いかけると、土志田は笑いながらオリンピック選手かなと言う。
「そう言えばトッシーって国体とか強化選手だったんだろ?何でやめたの?」
「よく有ることだ、怪我だよ。」
今の日常の動きを知っている上に、文化祭でキグルミでバック転していて何処が怪我なんだよと内心思ってしまう。生徒から密かに体力お化け呼ばわりされていても、オリンピック選手の夢には届かない理由になるほどの怪我だったのだろうかと勇は眺める。やっと書き上げた送辞を手に土志田に礼を言って生徒指導室を出た途端、間の悪いことに孝と鉢合わせてしまったのは運命だったのだろうか?
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