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3月
303.アセビ
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3月9日 木曜日
やっぱり学校が少し慣れない静けさで、なんだか私だけでなく皆も落ち着かない。何でかな、去年も卒業式の後もこうだったハズなんだけど、何でか今年は静けさを強く感じてしまうみたい。小学校とか中学校の時や去年までとは、感じ方が変わってしまったみたいな気がする。
何でかなぁ、段々子供じゃなくなってくからなのかなぁ。
ボンヤリと綺麗に整えられた花壇を窓から眺めて考える。第一体育館は完全に撤去されて、工事現場みたいなフェンスだけが中庭の向こうに少しだけ覗いてて。
あの事件では犠牲になった人は皆いないって思ってるけど、実際には木崎さんが犠牲になっている。それを知ってるのは、私と鳥飼さんとセンセだけ。あの手紙が届いたから私は本当に木崎さんはあの場所で亡くなったんだろうって思ってるし、鳥飼さん達もそう考えていると思う。
実は暫く後の警察の発表では遺体は、みつからなかったってなったんだ。だから、もしかして爆弾だけ残して逃げたのではないかなんてマスコミの報道があって、何処かの空港で彼女がカメラに映ったなんてものまであった。でも、同時に爆弾のせいで木っ端微塵に吹き飛んだっていう話しもある。結局どっちが本当か有耶無耶のまま、いつの間にかニュースでは全く取り上げなくなってしまった。つまりは何も本当のことは解明されないままだけど、全て終わったと誰しもが思っている。
そういうのって考えてみると結構あるんだよね、10月の時の街中の落盤の話だってそう。結局本当の落盤の原因は報道されなかったし、あの時どれくらい人や建物に被害があったのかもこんなに近くにいるのに分からない。
身近な事件でそんなんだから、もっと世界では沢山こういうことが起きてるのかもしれない。今見下ろしている花壇の花は穏やかに風に揺れてるけど、あの綺麗さを保つのに園芸部の子達がお世話して一年もかけて腐葉土を作ってるのを知らない子も沢山いる。そんなのと同じで、自分達が普通だと思って生きてる中にも、知らないで過ごしていることは沢山あるような気がしてしまう。
鳥飼さんの本にもあったなぁ………
去年の終わりに出た鳥飼さんの新刊の中に、
『幸せは時に裏側に献身が存在していても、知らずに過ごすこともある。同時に不幸の中にも密かに犠牲があり、それに後から気がつくこともある。自分がここにいるということは、何かがそっと寄り添ってあるのだと思うのだ。』
って、書いていた。
凄く難しい事だけど、つまりは私達が知らないことって本当は沢山あって、知らずに生きていけることでもあるけど、幸せも不幸せも何かの結果ってことなのかもしれない。
木崎さんの願った結果はなんだったのかな。
誰もが竜胆貴理子さんが犯人だと信じてて、一部ではその人はまだ生きてるかもって思われてて。でも、本当の木崎さんは弟さんの行方を必死に探してて、弟さんの死を看取ってくれた人に言葉を残したかった。まるで2人は別人みたいに感じてしまって、木崎さんと竜胆さんはけして2人で旅をしましょうって一緒に過ごしている訳じゃないように感じてしまうんだ。まるで双子みたいにそっくりな2人がいて、それぞれに違う方向を向いているみたいに感じてしまう。だから、木崎さんではなくて竜胆さんが、また姿を見せてくるような気がしてしまうのかもしれない。
そんな筈はないんだけど。
木崎さんと竜胆さんが最初から別人って可能性がない訳じゃないのは分かってるんだよ。だって、木崎さんの手紙は竜胆さんが私達の前から姿を消してから届いたものだしね。それでもあの手紙を信じたのは、読んだ時に嘘じゃないって感じたから。そんなことだけって思うかもしれないけど、でもそう感じたんだ。なんでこんな風に私は時々、木崎さんのことをふっと思い出すのかな。そう考えることはあるんだけど、理由はハッキリしない。木崎さんを悪いことに引き込んだのは誰なのかなとか、どうしてそんなことをするのかなっていうのも考えることはある。でも、結局は答えは分かんないんだ。
「麻希ちゃん、どうしたの?」
早紀ちゃんの声に私は我に返って振り返って、花壇が綺麗で眺めてるんだって笑う。少しずつこうやって時間を重ねていくと腐葉土みたいに別な姿になって、他の役割に変わるものも多い。それなら、こうして考えたり思ったりすることも、いつかは別な姿に変わっていくのかもしれないと思う。
「本当、凄く綺麗ね。」
「うん。」
「……何だか先輩達がいないと寂しいわね、静かで。」
「うん、私もそう思う。」
2人で並んで窓辺から花壇を眺めながら、そんなことを話す。本当は多分お互いにそれだけじゃないのかもしれないけど、その事はそっと自分の胸だけに納めたまま。こうするようになるのが大人になっていくってことなのかなって、何だか少しだけほろ苦いような気持ちで考えていた。
やっぱり学校が少し慣れない静けさで、なんだか私だけでなく皆も落ち着かない。何でかな、去年も卒業式の後もこうだったハズなんだけど、何でか今年は静けさを強く感じてしまうみたい。小学校とか中学校の時や去年までとは、感じ方が変わってしまったみたいな気がする。
何でかなぁ、段々子供じゃなくなってくからなのかなぁ。
ボンヤリと綺麗に整えられた花壇を窓から眺めて考える。第一体育館は完全に撤去されて、工事現場みたいなフェンスだけが中庭の向こうに少しだけ覗いてて。
あの事件では犠牲になった人は皆いないって思ってるけど、実際には木崎さんが犠牲になっている。それを知ってるのは、私と鳥飼さんとセンセだけ。あの手紙が届いたから私は本当に木崎さんはあの場所で亡くなったんだろうって思ってるし、鳥飼さん達もそう考えていると思う。
実は暫く後の警察の発表では遺体は、みつからなかったってなったんだ。だから、もしかして爆弾だけ残して逃げたのではないかなんてマスコミの報道があって、何処かの空港で彼女がカメラに映ったなんてものまであった。でも、同時に爆弾のせいで木っ端微塵に吹き飛んだっていう話しもある。結局どっちが本当か有耶無耶のまま、いつの間にかニュースでは全く取り上げなくなってしまった。つまりは何も本当のことは解明されないままだけど、全て終わったと誰しもが思っている。
そういうのって考えてみると結構あるんだよね、10月の時の街中の落盤の話だってそう。結局本当の落盤の原因は報道されなかったし、あの時どれくらい人や建物に被害があったのかもこんなに近くにいるのに分からない。
身近な事件でそんなんだから、もっと世界では沢山こういうことが起きてるのかもしれない。今見下ろしている花壇の花は穏やかに風に揺れてるけど、あの綺麗さを保つのに園芸部の子達がお世話して一年もかけて腐葉土を作ってるのを知らない子も沢山いる。そんなのと同じで、自分達が普通だと思って生きてる中にも、知らないで過ごしていることは沢山あるような気がしてしまう。
鳥飼さんの本にもあったなぁ………
去年の終わりに出た鳥飼さんの新刊の中に、
『幸せは時に裏側に献身が存在していても、知らずに過ごすこともある。同時に不幸の中にも密かに犠牲があり、それに後から気がつくこともある。自分がここにいるということは、何かがそっと寄り添ってあるのだと思うのだ。』
って、書いていた。
凄く難しい事だけど、つまりは私達が知らないことって本当は沢山あって、知らずに生きていけることでもあるけど、幸せも不幸せも何かの結果ってことなのかもしれない。
木崎さんの願った結果はなんだったのかな。
誰もが竜胆貴理子さんが犯人だと信じてて、一部ではその人はまだ生きてるかもって思われてて。でも、本当の木崎さんは弟さんの行方を必死に探してて、弟さんの死を看取ってくれた人に言葉を残したかった。まるで2人は別人みたいに感じてしまって、木崎さんと竜胆さんはけして2人で旅をしましょうって一緒に過ごしている訳じゃないように感じてしまうんだ。まるで双子みたいにそっくりな2人がいて、それぞれに違う方向を向いているみたいに感じてしまう。だから、木崎さんではなくて竜胆さんが、また姿を見せてくるような気がしてしまうのかもしれない。
そんな筈はないんだけど。
木崎さんと竜胆さんが最初から別人って可能性がない訳じゃないのは分かってるんだよ。だって、木崎さんの手紙は竜胆さんが私達の前から姿を消してから届いたものだしね。それでもあの手紙を信じたのは、読んだ時に嘘じゃないって感じたから。そんなことだけって思うかもしれないけど、でもそう感じたんだ。なんでこんな風に私は時々、木崎さんのことをふっと思い出すのかな。そう考えることはあるんだけど、理由はハッキリしない。木崎さんを悪いことに引き込んだのは誰なのかなとか、どうしてそんなことをするのかなっていうのも考えることはある。でも、結局は答えは分かんないんだ。
「麻希ちゃん、どうしたの?」
早紀ちゃんの声に私は我に返って振り返って、花壇が綺麗で眺めてるんだって笑う。少しずつこうやって時間を重ねていくと腐葉土みたいに別な姿になって、他の役割に変わるものも多い。それなら、こうして考えたり思ったりすることも、いつかは別な姿に変わっていくのかもしれないと思う。
「本当、凄く綺麗ね。」
「うん。」
「……何だか先輩達がいないと寂しいわね、静かで。」
「うん、私もそう思う。」
2人で並んで窓辺から花壇を眺めながら、そんなことを話す。本当は多分お互いにそれだけじゃないのかもしれないけど、その事はそっと自分の胸だけに納めたまま。こうするようになるのが大人になっていくってことなのかなって、何だか少しだけほろ苦いような気持ちで考えていた。
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