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2月

291.ジャコウバラ

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2月25日 土曜日
金曜日の夜既に衛が家にきていて、今晩は雪ちゃんが鳥飼さん達とお酒を飲むからこっちに泊まるっていう。詳しくは聞かなかったけど、何でか最初から凄い飲むからってママに雪ちゃんが言ってたらしい。ちなみに夜にLINEしてみたけど、もう返事の意図が分かんなくなってたので、私も諦めました。どれだけ飲んでるんだろう…《ヤスがムライにぶちきれて超ウザい》ってセンセと鳥飼さんだけではないのだろうか。って言うかセンセがキレてって、1回だけキレ気味の姿を見たことあるけど超怖そう。ムライさんって誰か知らないけど、か、可哀想にと拝んでしまう。
と言うわけで翌日まだLINEに反応もないことですし、衛と二人で手を繋いで暖かくなり始めたような陽射しの中お味噌汁用の蜆を片手にお家に向かっているところ。衛がお泊まりはしないっていったし、家にはいると思うって言うんだよね。仁君にも試しに声かけたら、信哉さん留守だから今は義人さんの家にいるけど家に悌もいないよって。つまり3人して雪ちゃんちの可能性は高そうだ。

「まーちゃん、しじみってからだにいいの?」
「二日酔いとかにいいんだって。」
「二日酔いってなーに?」
「夜沢山お酒を飲んで、次の朝も酔っぱらっちゃったままのことかな。」

へーって感心してる衛と手を繋いで歩いていくと、衛は嬉しそうに最近増えた語彙満載で色々な話をする。

「貴士くんね、最近僕の友達から親友になったの。」
「へぇ、他の子は?」
「優くんとかは、普通の友達。恵ちゃんと清子ちゃんはなんかね、ファンクラブなんだって。」
「ファンクラブ?」
「うん、僕彼女はいらないなって言ったらファンクラブにするって。なんかね、他にも何人かクラスの女の子が入っててね。」

衝撃!!小学1年生にしてなんとファンクラブ?!……衛……成長して源川先輩みたいになったらどうしよう。せめて、フェロモン垂れ流すようなホスト系イケメンにはなりませんように。手を握った衛は胸を張って話を続ける。

「でも、雪がね、そういうのは本当は大事じゃないんだよって。」
「大事じゃない?」
「うん、1番大事な好きだったら、そんな風にキャーキャー騒いだりしないし、僕のこと考えてくれる筈だから気にしなくていいんだって。ファンクラブは遊んでるだけだからって。」

まあ、そうとも言うか。ファンクラブは結局アイドルの追っかけと同じだから、衛の恋愛とは関係しないんだもんね。そういう意味では雪ちゃんが言ったのは納得できるかなぁ。それにしても衛の初恋はいつか来るのかなぁ?好きな人いないのって聞いたら、まだいないなぁって呟く。

「僕、1番大事な好きならまーちゃんみたいな人がいいなぁ。お料理が上手で優しくて、いつもニコニコしてる人がいいんだよね。意地悪な顔して話してる子はやだなぁ。」

ファンクラブの気まぐれな愛情ではなくって、ちゃんとした恋愛観が衛にはあるのにちょっとホッとしてしまう。そんな風にしっかり考えているなら、きっと大丈夫かな。流石衛は賢いし、ちゃんと周りも見てるだけある。それで思い出したみたいに衛は私の顔を見上げた。

「まーちゃん、雪と仲良ししてる?」
「うん、仲良くしてるよ?」
「じゃ、お布団一緒に寝た?」

寝たって言うか……衛それ、あんまり意味が分かってないで聞いている気がするんだよね。ご夫婦のお布団で仲良くとは、意味が違うんだよ?っていうと、そんなことないと衛は強気だ。

「恵ちゃんちは時々恵ちゃんをお祖母ちゃんに預けて、お家で仲良しするんだって。だから、まーちゃんと雪と仲良しする時は僕おばちゃんち泊まるよ?この間そうしたよね。」

あー、えーと、そうとも言えるんですが、あれは。もーっ説明しにくーい!!ブラック雪ちゃんのばかーっ!

「ま、衛、それはね?まだ気にしなくていいよ。」
「なんで?」
「衛が居ても仲良しだから、別にいいの。」

いや、もう小学生の子供達の目って恐ろしい。結構しっかり見てるんだよ?世の中のお父さんお母さん!私の時は一体パパとママはどうやって仲良くしていたのか記憶にないのに。



※※※



そんな訳で辿り着いた雪ちゃんのお家。おっかなびっくり開けてみると靴が散乱してる。うーん、素晴らしく酔ってるなぁ、この感じ。もうワケわかんないで脱いで入った感。リビングを開けるとひええ!お酒臭い!って言うか以前の竜胆さん…木崎さん?の時の比じゃないくらいのお酒の臭いがするぅ!しかも、リビングに死屍累々ってこういうこと言うんだよねぇ。もう、だらしないなぁ大人3人。香苗に写メ送っとこうかなぁ、このだらしない大人なセンセの姿。

まぁ、いっか。

衛には容赦なく窓を開けるように言って、私はキッチンでお味噌汁と朝御飯の準備を始める。ママの受け売りだけど二日酔いの時はお酒のせいで水分不足になっているから、消化がよくて吸収のいい出汁で炊いたお粥と蜆のお味噌汁、後は卵焼きに大根おろし。付け合わせに梅干しとお茶を入れる準備をしてる辺りに流石に室内の急激な温度変化に1番に飛び起きたのは鳥飼さんだ。

「寒っ!!」
「おはよー、信哉くん。」

目を丸くした鳥飼さんがキッチンの私にも気がついて、決まり悪そうにおはようと答える。顔を洗ってくると衛がちゃんとお酒の瓶を片付けてるのに、イソイソお手伝いしてくれたりして案外二日酔いっぽくないかも。とか考えていたら、遂にセンセも震えながら飛び起きた。

「何であいてんだ?!寒っ!」
「おはよう、ヤス君。顔洗ってきてー。」
「お?おお、衛?何で宮井まで?」

いいからーと腰の後ろを押し出され顔を洗いにセンセが行っている内に、料理の準備は出来たんだけど雪ちゃん全く起きないなぁ。寒くないのかな?お酒の瓶やら缶やらが片付いて、顔を洗ってきたセンセが呆れたように雪ちゃんを眺める。

「凍死するぞ?あいつ。」

凍死するほど起きないって言われるのもどうかなぁ?よし、衛起こしとこうか?って鳥飼さんがけしかけたから、容赦ない衛の攻撃が。

「思ったより二日酔いっぽくないですね、鳥飼さん。」
「いや、結構来てる方だけどね。」
「くそー、説教しきれてない気がすんな、村井の奴。」

あ、そういえば昨日なんかセンセがキレたとかなんとか、朝食を準備して出してたらリビングで物凄い音が。ま、衛?飛び降りた?!

「死ぬ!そんなことしたら!」
「死んでないし!信哉くんが凍死する前に起こせって。まーちゃんがご飯作ってくれてんだから、さっさと起きろよ!」

思わず目を丸くする口の悪さだなぁ、衛ってば普段と別人。センセが呆れたみたいに似てきたなぁっていうけど、やっぱりそうなんだ。
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