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2月

286.シャクナゲ

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2月20日 月曜日
威厳があると言うには元々痩せ過ぎで、ちょっと貧相に見えなくもないからなのか誰かが貧乏神なんて渾名をつけてしまった福上教頭先生。いつもそう見えるように頑張っているらしいと噂の荘厳な雰囲気を、あの年末の時に折れてしまったという左腕のギプスが邪魔をしていた。どうみてもアニメみたいなんだもんね、もう少しギプスの巻き方考えたら良かったのにどうみてもアニメ。そんな福上教頭先生の左手のギプスがやっと外れたらしいんだけど、この間の木村君の足の時と同じくただでさえ細い先生の腕が枯れ枝!なんて八幡瑠璃ちゃんと三澄かおるちゃんが言ったもんだから、皆で申し訳ないけど笑ってしまった。木村君の足は日々孝君から逃げ回っているせいなのか、大分左右差は感じないけど、大人の人の筋力って中々戻らないんじゃないかなぁ。確か先生ってもう60歳位なんじゃなかったっけ?あれ?定年退職って何歳?
そんなことを言いながら智美君と2人で並んで帰りながら、道を歩いていると智美君がおやって顔をする。

「麻希子。」
「ん?何?」

クイッと智美君は私の手をとると歩いていた道を方向転換させた。ええ?!かえってテスト勉強するんですがって思ったら、いいから付き合ってと。いや、智美君は頭がいいからいいけど、私はピンチなのにー。でも、少し智美君の顔色が思わしくないのに気がついたら、そうは言えなくなってしまった。結局今日は来る予定ではなかった『茶樹』迄連れてこられて、マスターさんが話していた新しい茶葉の紅茶をいただいこうとしたら、今日はちょっと準備が出来ないみたい。残念だけど、新しい茶葉の試飲は次回ということで。それにしても暫くピリピリしてる感じだった智美君が、少し気を緩めたのに気がつく。

「この間も見た男がいた。」
「この間……いつも見るって言ってた男の人?」

今日は店の中には入ってこなかったって言うから振り返るけど、振り返っても分かる筈がない。気を付けるようにしてって言われたけど、用心のために道を変えたって言うのは理解できた。でも、どうせならあの男だよって教えてくれたらいいのに。

「顔見せたら危険かと思った。」
「でも、どんな人か全然分かんないんじゃ用心できないよ?」

あっという風に智美君が気がついたように目を丸くする。そうなんだよ、智美君が何度も見ていても、私一度も見てないからどんな人かすら分かんないんだよね。大体にして、智美君が一緒に帰って気がつくようになったってことは。

「智美君が綺麗な顔してるから、モデルのスカウトだったりして!」
「はぁ?!」
「あり得なくないよ?だって、智美君の事見てるから気になるんじゃない?」

ええーって、嫌な顔した智美君はそう言われると、実は否定のしようがないみたい。一緒に必ずいるけど智美君か早紀ちゃんならモデルのスカウトはあり得なくないんだよね、だってよく駅前の辺りでスカウトされるって話は聞くしさ。何かのモデルさんが道を歩いてたなんて話もなくはない。大体にして駅前の何処かに撮影スタジオがあるらしいなんて噂もあるし。

「モデルかぁ、智美君なら人気者になりそうだよね。」
「麻希子、夢見すぎ。どっちかって言うと須藤の方がモデル向きだろ。」

そう言われると確かにお正月の香苗のホットパンツでニーハイブーツ姿はお洒落だった。香苗は私より10センチは背が高いし、細身なのに胸はあるし。いいなぁあんな格好は私には出来ないなぁ、何せ身長が低いしチンチクリンだし。ショボンってしてると智美君が苦笑いしながら、人それぞれ似合うものがあるから気にするなって。なんで、顔見ただけでそこまで伝わるかなぁ。

「麻希子の表情は分かりやすいんだよ。」

しかも、智美君の記憶力だと同じような感情の時があれば、すぐ分かるって言われてしまう。それと私が考える方向性を組み合わせると大体分かっちゃうんだって言われる。ううー、それっていいのかなぁ。智美君的には気を使わなくて凄く楽チンなんだって言う、最初分かりにくかったのは孝君と早紀ちゃんだったってこっそり教えてくれた。早紀は話ができるようになったら分かりやすくなったけど、孝は能面で鉄火面だったらら分かりにくくてって言う。

「そうなんだ。」
「嫌味を言っても顔色がちっとも変化しなかったから、麻希子のお陰で助かった。」

ええ?!嫌味?!って思ったけど、段々素が出るようになって感情が判断できるからいいって。ある意味で記憶力が良すぎるから、あまりにも表情に変化がないと気味が悪いんだって智美君が言うのに思わず成る程ってなってしまった。その瞬間を切り取ったように記憶してて比較できるのに、何を言われても同じ表情は確かに怖い。でも、今は嫌味を言うと顔に出るから安心だと言うんだけど、どんな嫌味を言ってるかちょっと気になる。

「簡単だ、早紀は人気者だねとか、早紀に関係して言うと嫌な顔するかな?」

いや、それあんまりいい確認方法じゃないと思う。いつか孝君がキレちゃうかもよっていったら、そうでもしてやらないとあの2人何時までたっても変化なしだと平然としてる。何か…裏で企んでそうな気がしちゃったのはなんでかなぁ。
そうして智美君は、確かに気のせいだったかなって呟く。

「時間が偶々あうだけかもしれないしな……。」

そうは言ってもなんとなく納得していない風な口振りなのは、何処か引っ掛かりがあるのかななんて私には感じられたのだった。

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