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1月9日 火曜日
智美君のリクエスト聞かなきゃなんて事を朝から考えながら、昇降口に向かって歩いていた矢先。突然背後から誰かに思いっきり体当たりされて、私は思わず前のめりに転びそうになってしまう。

ええ!こんな朝から転んだら、制服がぁ!

転んで怪我とか言うよりも、こんな初っぱなから制服が汚れるのは正直いたい。だって、ここからホームルームで、始業式で、汚れたからって今から帰るわけにもいかないし。半日だけど、朝から汚れたまま過ごすのは切ない。そんな風に考えた瞬間、ヒョイッて感じで腕がとられて軽々と体が支えられたのに驚く。

「大丈夫か?モモ。」

頭上から降り落ちたのは聞き覚えのある源川先輩の声で、ありがとうございますと呟きながら私は視線をあげる。今日は始業式だし、生徒会の次年度の役員候補者の発表もあるし、3年生も登校日なんだった。源川先輩は私の前の人混みを眺めていて、危ない奴だなって呟くように言う。実は誰にぶつかられたのか私には見えなかったけど、どうやら源川先輩は丁度後ろを歩いていて見てたみたい。
朝からボーッと歩いてたからぶつかっちゃったんだなぁって思ってそう言ったら、源川先輩が何でか少し苦笑いする。

「素直で愛らしいモモらしいけどな、そういうとこは。」
「はぁ、ありがとうございます。」

何かもう段々抵抗してモモを訂正するのが、馬鹿馬鹿しくなってきた気が。だって源川先輩ってばちゃんと名前覚えてて、そっちで呼べるのにわざとモモって呼んでるのがもう分かっちゃったんだもん。私が素直にそう答えたら、何故かヨシヨシと頭を撫でられて気を付けろよと先輩に念を推される。確かにボーッとしてたら危ないから、気を付けないとなぁ。それにしても誰にぶつかったのかなあ?って思ってたら何処からか見てたのか教室にいった途端に香苗に神妙な顔で詰め寄られた。

「麻希子、あんた保住先輩となんかあったの?」
「保住先輩?」

ポカーンとしたら私に、香苗があんたの背中にわざとらしくぶつかったの保住先輩だよって話す。え?保住先輩ってあの源川先輩にフラれて源川先輩が男の人と付き合ってるって噂を流してて、しかも本人は女版源川先輩って言われてるあの保住先輩?何で?一度も話したこともないよ?私の顔に香苗は呆れたみたい眺める。香苗は暫く考えこんだかと思うと、気がついたみたいに目を細めた。

「麻希子、あんたもしかして最近源川先輩と二人っきりで話したり歩いたりしてない?」

え?源川先輩と?二人っきり?えーっと?初詣の時は皆が一緒だったけど。香苗に聞かれて暫く考えてみてたら、そう言われればそんな風な場面が確かにあった気がする。最初に学校の中で話しかけられたのも二人っきりだったし、あの爆弾騒ぎの最中も二人で話したし、雪ちゃんとデートの最中にも会ったし、お正月なんかお散歩中に出会って一緒に暫く話しながら歩いた。

え?もしかしてそのせい?

そんなぁ、私がそうしたくてしてたわけじゃないのに。しかも私には雪ちゃんって言う彼氏がちゃんといて、源川先輩とは何にも関係してないよ?そう言ったら香苗が呆れたように源川先輩、あんたの事気に入って直ぐ頭撫でたりしてるしって言う。いや、あれは源川先輩はただエゾモモンガを愛でてるだけなんだってば!源川先輩にも私にも別に恋人がいるんです!!

「あんたがそういっても最近女の子と仲良くしてない源川先輩が、坂本先輩以外でちょっかいかけてるのあんたぐらいだよ、きっと。」

ガーン!そんなぁ、そんなことで保住先輩の体当たりに曝されてるのか。かなりショック、しかも相手にも私にも何にも恋愛感情とかないのに。私は机の上にグターッと伸びて脱力感に包まれる。そうしてたら何か周りがザワザワしたなぁッて思ったけど、突然私の頭に手が乗るのに気がつく。最近皆して何で私の頭に手をのせるのか、ここに来て突然頭を撫でられる機会が増えてるよね。雪ちゃんは兎も角、源川先輩とか坂本先輩とか。

「撫でられて過ぎて頭が剥げたらどうしよう……。」
「剥げるくらい撫でられてるのか、麻希子は。」
「…そう言うことじゃ………。」

無意識に会話を交わしたけど、私は突然顔を持ち上げて目の前の相手を見上げた。そこにいるのはいつもと変わらない智美君で、少し皮肉な口調と笑顔でおはようと呟く。

「おはよう!智美君!」

私はその姿に一瞬で直前までの事をすっかり忘れ去って、満面の微笑みで智美君の事を見上げた。



※※※



天然の巻き込まれ体質と巻き込み体質って言う不名誉な渾名だけは、迅速に外して欲しいって思っていたのに。折角智美君が来てくれて皆もホッとした矢先、満足して普段の生活って考えていた私を他人経由で呼び出したのは噂の保住結衣先輩その人だった。

ああ、もうまた巻き込まれた

心の中で思わずそう言いたくなる。私より10センチ位背の高い先輩はスタイルもいいけど、少しキツそうな目元で私を睨み付けるようにして見下ろしている。先輩ってば、源川先輩に直接求愛とかしてくれたらいいのに。だって、私的には源川先輩の方からチョコチョコかまって来るわけで、お願いしてるわけでもない。それにしても近くで見ると、尚更スカート短いなぁ。何かずっと前に矢根尾って人とカラオケボックスに行った時の木内梓みたい。

「何ボーッとしてんのよ、あんた。」

え?何って先輩が呼び出したんじゃん。って思った自分は、こういうのって今だけしか出来ない格好で、永遠の美ってことじゃないんだよねなんて事を考えてる始末。香苗は制服はこんなに短くしてないし、なんか、こう、もうちょっと恥じらいが欲しいかなぁ。

「ちょっと!あんた何か私に言うことあるでしょ?!」
「え?言うこと?」

ポカーンとしてる私に先輩の顔は怒りに変わる。え?何で怒るの?私本当に先輩に言わなきゃならないことある?ええ?あったっけ?今まで話したことないのに?大体にして今初めて会話したんだと思うんだけど。そう考えてるのが何時もの如く私の顔に出たのか、保住先輩はプルプルと顔を強張らせている。

「あんたねぇ!何にも知らない顔して源川君までたらしこんでんじゃないわよ!」
「はいい?!」

たらしこむってなに?!何かとんでもなく失礼な事を言われたよね。しかも、私は一生懸命雪ちゃんと愛情の絆を結ぼうとしてるわけで、それに私は後誰をたらしこんだと先輩は言うわけなんだろうか。何か凄くカチンとくる、その言葉。

「しらばっくれても無駄なんだから。あんた、何人も社会人のイケメンとやってて、香坂君とか学校で何人もイケメンはべらせて、源川君まで…。」
「何でもかんでも、そう言うのに直結するのおかしいです。」

私は思わずそう口を開いていた。この寒い最中に中庭に呼び出されて、とんでもなく失礼な言葉を投げつけられて。
確かに社会人の人と交流はあるよ、雪ちゃんは別としても、鳥飼さんとか槙山さんとかマスターさんとか鈴徳さんとか。でも、その人達とは色々な話をするし相談にのってもらったりするけど、保住先輩が言うような関係はない。大体ね彼氏の雪ちゃんとだって、まだそういう関係にもなってないんですけど!しかも、学校で何人もイケメンって智美君とか孝君とか仁君のこと?!なんかスッゴい失礼じゃない?!しかも、孝君は早紀ちゃんの彼氏なんですけど。

「そういう風にしか自分が見れないからって、短絡的に何でもかんでもそこに結びつけるのって下品です。」
「なっ!」
「そういう風な視点でしか見ないのは、物事をそういう方向でしか考えないからですよね、そういうのカッコ悪いです。」

腹がたって仕方がない私は、思ったままの事をどんどん口に出した。保住先輩は思わぬ反論に何故かポカーンとして、私の事を見下ろしている。

「本当にそう言うことをしてるなら兎も角、何にもしてないことで叱責されるの心外です、私。」
「な、な…だっ………、あんた…。」

予想外の反論に保住先輩は言葉が出てこない。それって、結局自分が言いがかりをつけてる証拠だよね?私がそういうことしてる人間なら、私の方が言葉がでなくなるはずだもの。

「保住、いい加減にしなよ。モモちゃんの言う通り言いがかりのなにものでもないわよ、カッコ悪い。」

私の背後から唐突に投げつけられた声に、保住先輩が顔をひきつらせて私の背後を睨むようにして坂本と呟く。後ろから歩み寄った坂本先輩がナデナデと私の頭を撫でながら、保住先輩に視線を向ける。

「あんたさぁ?フラれて即この行動なら兎も角、なに今更あがいてんの?仁聖が急に男前になったからって、あんたに靡くわけないじゃん、こんなことしてたら尚更。」

え?そういうことなの?私が唖然とするのに、保住先輩はプルプルと顔をひきつらせた。つまり、保住先輩は大分前に告白してフラれてるんだけど、最近の源川先輩が格好よくなってしまったから再アタック?でも、変な噂流したり、こんなことしてたら駄目じゃない?もしかして他のライバルを噂で諦めさせようとか?!えー………?

「あは、モモちゃんてば顔に全部出てるからね?こんな風に素直な可愛げもないのに、今の仁聖が振り向く訳ないわよ。しかもあいつ、今恋人溺愛中なんだから。」

呆れたように坂本先輩に言われて、保住先輩はプルプルしたまま踵を返して駆け去った。って言うか源川先輩溺愛中って、自分こそ溺愛彼氏なんじゃ…あ、まった、先輩自身が雪ちゃんと同じだから気持ちが分かるかもって言ってた気がする。兎も角好き勝手言ってしまってなんだけど、坂本先輩に助けられた私。坂本先輩は3年は登校日はそれほどないから、そんなに何かしてくるとは思えないけど気を付けてねって。
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