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1月

236.フクジュソウ

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1月1日 日曜日
「ふええ!苦しい!」
「最初が肝心!我慢なさいっ!」

新年早々何でこんな声をあげてるかは、多分分かる人は分かる筈。そうです、只今私はママに晴れ着を着付けて貰っている真っ最中。ママってば着付けなんて出来るのって驚いたけど、それ以上に着物がキチンと準備されているのにも驚いた。去年は着なかったなって思ったら、ママの若い時のお着物なんだって。去年は少し足りなかったって言うけど、どこが足りなかったんだろう。身長は対して変わりがないんだけど?
兎も角お着物って凄い大変。お振り袖自体が初めてな私には、着付けの大変さに悲しい思い出になりかねない状況。どっちかって言うとお年始だし幸せを招いて欲しいんだけど、帯って凄い長いし締めるまで他にも沢山紐とか小物もあって。しかも結構時間がかかるものなんだって知らなかった。下に襦袢って言うのを着せられて、その上から振り袖を羽織るけど。これがどうなるとあのお着物姿になるのってくらい、裾が引き摺るくらい長い。前を手繰り寄せて合わせると、今度はダランって胸元が開くし。

「最初がキチンとしてないと着崩れるのよ?」

そうなんだっては思うけど、着物って凄い不思議。だって、基本はビラッと羽織ったものを、紐とか帯とかで着崩れないように上手く締めてるんだよ。確かにキチンと締めておかないと、歩いてる内に崩れてカッコ悪い事になりそう。しかも、ママはママでサクッと着物を着てるわけで。ママって凄い!今度着付けも教えてもらわないと。グイグイ締めながら帯を結ばれてるけど、なんか正直格闘技みたいなんですけど。

「はい、出来上がり!」

ところが着付けてる最中の苦しさは、キチンと着付けが終わるとそれほどでもない。それよりは胸元が適度に締められてて、ビシッと背筋が伸びる感じなんだ。ママはよしと言いたげに私を和室から押し出すと、次は衛を手まねいてる。ええ?!衛にも着せる着物があるの?いつの間にって驚いている私に、ママが視線を向ける。

「麻希子、あんた雪ちゃんと先に初詣行きなさい、まーくんに着付けたらパパと一緒に出るから。」

え?一緒に出ないのって思ったけど、もしかしてわざと行けッて言ってる?そう言うわけでリビングでションボリ顔のパパを置いて、私と雪ちゃんは二人でお先する事にした。あ、勿論パパは着物だけど、雪ちゃんは背が高すぎるので丁度いい晴れ着がないんだって。残念、着物姿見れるかと思ったのに。

「まーちゃん、凄いキレーだよ!」
「ありがと、先に行ってるからねー。」
「はぁい!」

衛の声を背中に玄関に向かうと雪ちゃんが目を丸くしてる。お化粧は出来ないけど、口紅がわりに色のつくリップを塗って髪もママに結い上げて貰ったしおかしくないと思うんだけど。

「どこかおかしい?」
「う、ううん、おかしくないよ、凄く綺麗だ。」

雪ちゃんの言葉にちょっと照れてしまうけど、やっぱりこういう日の晴れ着っていいよね。着せてもらったお着物は吉祥文様っていって福を呼ぶ柄なんだって。雪ちゃんも普段着だけどやっぱり格好いいし、並んで歩くのにちょっと嬉しくなってしまう。

「麻希子。」

雪ちゃんが歩きやすいように手をひいて、私と歩調を合わせてくれる。お着物だからそんなに歩幅が広くできないから、自然とおしとやかになってるみたい。少し緊張して歩いてる私の手をひいてる雪ちゃんの顔が少し赤いような気がする。

「えと、智雪…ありがと。」

優しく手を引いてくれるのにオズオズと声をかけると、雪ちゃんは凄く嬉しそうに私を見下ろす。今年一回目だから少し緊張して呼んじゃったけど、心底嬉しそうに雪ちゃんは微笑む。

「少し慣れた?」
「まだ慣れないけど、前よりは慣れた…かも。」

さんってつけたらもっと呼びやすいって言ったら、爽やかに却下されてしまう。うう、何故そんなに雪ちゃんが名前だけに拘ってるのか、正直なところ本音が聞きたいよう。麻希子って呼ばれるのは全然平気なのに、何で恥ずかしくて雪ちゃんは呼べないのかなぁ。
二人で並んで参道を歩いていると沢山振り袖姿の人もいて、勿論恋人同士って言う感じの人もいる。手を引かれて人混みに紛れたのに、視界の先の方で1つ頭がとびだしてる姿に私が思わず雪ちゃんの袖をひく。

「雪ちゃん、鳥飼さん達がいるよ。」

鳥飼さんとセンセの頭1つ分くらい飛び抜けてるから、凄く目立つ。二人が振り返ったらきっと雪ちゃんも目が合いそうだけど、距離的には結構離れてるかな。雪ちゃんも気がついたみたいだけど、駆け寄るって訳にもいかないし向こうが気がついたらねって笑う。お詣り済ませてこっちを見たら気がつくかもって思うけど、どうかなぁ。でも、お正月から一緒に出歩いてるなんて、センセ達仲いいんだなって感心してしまう。
結局お詣りを済ませて振り返った鳥飼さん達が、雪ちゃんに気がついて手を振ってる。私達がお詣りを済ませるまで、人混みから離れて待っててくれたんだ。

「明けましておめでとうございます。」

振り袖姿の私が頭を下げる。同じ言葉を返してくれたのは、鳥飼さんとセンセと、槙山さんに宇佐川さんと仁君だ。5人で初詣って仲良しですねって声をかけたら、何でか鳥飼さんが苦笑いしてる。何でだろうって思ってたら、槙山さんがニヤニヤして言う。

「この面子で男だけで初詣ってのも虚しいだろ?」
「そうなんですか?」

仲良さそうでいいけどなぁ。永久の幸福って訳じゃないとは思うけど、そういう関係の友達がずっといたら幸せじゃないかな。私はいいと思うんだけど。
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