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11月
閑話47.鈴木貴寛
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9月に宮井麻希子にフラれてから2ヶ月以上が経つが、貴寛の恋心は実は断ち切れた訳ではなかった。何しろ彼女はとても目立つ。自分では分かっていないが、普段からクルクルと良く笑い誰とでも笑顔で話す姿は可愛らしいの一言だ。清楚な和風美人の志賀早紀とちょっと勝ち気そうな須藤香苗の間で、小さくてクリクリした瞳で話しかけている姿は愛くるしいのだ。ただでさえ目につく三人組が、次期生徒会長候補の真見塚孝なんかと一緒にいるのは諦めがつく。しかし、今年に入って転校してきた女みたいな顔をしている香坂とか言う奴とも、親しげに話して一緒に昼ごはんを食べていたと言う話が聞こえてくる。しかも、羨ましい事に宮井のお手製の菓子を、香坂やらクラスメイトは頻繁に食べていると言う。去年クラスが一緒だった女子が、半端なく上手と表した宮井の手作りお菓子を出来ることなら自分だって食べてみたい。
「なぁ、鈴木、あの香坂ってやつ毎日車で来てるらしいぞ。」
「ああ、足が悪そうだもんな。杖ついて歩いてるし。」
クラスメイトの黒木佑は、そういう意味じゃないと不満顔だ。黒木が言いたいのは香坂智美が、なにかと優遇され特別視されていると言うことらしい。
そういえば黒木は今まで期末テストで何とか名前張りだしにギリギリ載っていたのに、前回は150番以内に名前がなかった。今の黒木の話ではそれが香坂って奴が、急に来たせいだと息巻いている。内心それってとばっちりと言うか言いがかりだと、鈴木は思うが香坂が気に入らないのは事実だ。それ以外にも黒木にとっては学年の三人娘と仲が良いのも、香坂が気に入らない理由のひとつらしい。黒木は最近の須藤が気になっていて、告白して颯爽と須藤からフラれたばかりなのだ。
「毎日裏門に乗り付けってどうよ?しかも、トッシーに贔屓されてて、何にも言われないらしいぞ?」
車を正門から乗り付けたら目立つし生徒が多いから、足が悪くて車を使うしかないのなら裏門を使うのは当然。そんな障害があるなら土志田が気にするのは、生徒指導としては仕方がないような気がする。しかも、実際は言うほど土志田に贔屓されているようには見えないし、大体にして土志田は珍しく個別の生徒を贔屓しないのだ。しかし、それを指摘しても黒木は納得しないだろう。何せ黒木にすれば香坂は、何をしたって気に入らない存在なのだから。
「あいつさ、毎日車で来てるくせに教科書置いて帰ってんだと。生意気じゃね?」
そう言う黒木はロッカーにフルセット教科書を置いている口なのは、あえて指摘するのは止めておこう。しかし、足が悪い人間が教科書や辞書を何冊も持ち歩くのは、自分達よりずっと大変なのだろうと正直なところ貴寛は思う。
鈴木があまり乗り気で話を聞かないせいか、やがて黒木は別な奴に同じことを訴え始めた。内心黒木が何もしなきゃいいけどなと心の内で呟く。
※※※
ほのかに冬の気配を感じながら、教室に踏み入れた時普段はいない筈の黒木の鞄が既にあるのに気がついた。今日何かあったのだろうかと一瞬考えるのと同時に、なんとなく不安が沸き上がる。あんな風に香坂の活動や生活を監視していたのは、何かする気ではないかと貴寛は考えたのだ。
何する気か知らないけど、足が悪いような奴に下手に手を出さなきゃいいけど。
内心そんな風に考える。自分は加わってないのが幸いだが、下手に大事になるような行動をしたりして香坂が須藤や宮井に話すとは考えないのだろうか。話さなくても目に見えるような行動をしたら、同じクラスのメンツにだってバレない筈がない。何気なく机に鞄を置いた貴寛は、裏門が見える場所まで何気なく向かう。8時の少し前になろうとしている辺りで、黒塗りの高級車が裏門から滑り込んできたのを見下ろして貴寛は目を丸くする。
裏門につけて当然じゃないか、国産高級車で要人が乗る奴じゃないかよ。
車に詳しくなくても大概の人間なら、乗ってる人間には関わりたくない場合が多い車で通学してる学生なんて聞いた事がない。近郊でその系統の施設があるなんて聞いたことはないが、少なくとも余り関わらないでいるべき。そんなことは貴寛でも分かる。今のところ視界に黒木は見えないが、裏門から教室に行くには経路は2つだ。どちらを通るかは分からないが、一先ず裏門の通用口は通るのは変わらない。そこに向かって駆けていくと、驚くべき事に通用口の目の前で5人で香坂を囲んでいるのが目に入る。
馬鹿かよ!せめて他の場所でやれよ!
通用口は通称で、教師の下駄箱はこっちだ。既に教師連は朝のミーティングに入っているからまだしも、遅れて来る教師がいないわけではない。囲まれている香坂の全く動じてない顔からも、その可能性は十分に気がついている筈。
「お前、中間でも満点だったらしいな。」
黒木の普段より甲高い声が聞こえて、貴寛は逆に驚きに目を見張った。前回の期末テストの満点トップはかなりの衝撃だったが、今回も満点と言うことは本格的な天才と言うわけだ。
「お前、カンニングしてんだろ?!」
「黒木!」
貴寛の呼び掛けた声と黒木の甲高い声は完全に被っていた。まるで貴寛も囲みの為に来たみたいで、酷く気まずいタイミングだ。黒木の喜んだ顔が正直忌々しくすら感じる貴寛の顔を、香坂はおやと言いたげな視線で見つめている。自分は違うといいかけた瞬間、何とも格好いいタイミングで颯爽と姿を表した人間がいた。
「智美。どうしたんだ?お前がカンニング?」
「おはよう、孝。朝から言いがかりだ。」
香坂と黒木の間に入った真見塚は呆れたような視線で、黒木から貴寛までを眺める。黒木の甲高い声が響いたせいで言いがかりの内容まで全て聞き、しかもサラリと香坂には言いがかりと切り捨てられてしまった。大体にしてどんなテストだったとしても、カンニングで満点は採れない。教師が個人で作っている問題には、その教師の意図が何処にあるかは事前に分かるものではないと思う。しかもカンニングをするような人間なら、恐らく満点ではなく疑われないように逆に何問かは間違っておくに違いない。
つまりは黒木の言いがかりのなにものでもないのだ。黒木の顔が目に見えて赤黒くなったのは、今更だがそれに気が付いたからだろう。
「もう、用は済んだかな?」
香坂が平静な顔でサラリと告げるのに、黒木は無駄だと思う足掻きをした。
「ま、まだ話は終わってないぞ!お前。」
その言葉に不意に香坂の表情が冷ややかな物に変わって、綺麗な少女みたいな顔が黒木の顔を睨む。一瞬戸惑いながらその綺麗な顔に黙りこんだ黒木に向かって、予想外の毒舌が口を開いた。
「黙って聞いてれば、さっきからお前お前と失礼だな。人の名前くらい、こうやって囲む前に覚えろよ、同級生の名前も覚えられない低能か?黒木佑。」
「智美、放っとけ。相手にするなって。」
他のクラスのしかも7組の男子の名前を、接したこともない1組の香坂が覚えてるなんて囲んでいる方には思いもよらなかった。しかも直にフルネームで毒舌を吐かれた黒木は、ポカーンとしている。
それを真見塚が呆れたように香坂を伴って歩き出す。
「智美、お前一言が余計なんだよ。」
「低能に低能と言って何が悪い。」
遠ざかっていった辛辣な言葉に黒木が我に帰った瞬間、朝のホームルームの予鈴が爽やかに鳴り響いていた。
※※※
夕方教室に戻った貴寛の目の前に、黒木が何故か国語の教科書を一番上にして机の前で一人残っているのに目を丸くした。しかし黒木の動きは挙動不審で、何かがおかしい。貴寛がじっと見つめていると、黒木は苦笑いしながら視線を反らした。
荷物を取り上げ教室から出た貴寛は、何がおかしく感じたのかを考える。机の上に教科書は別段違和感ではないし、放課後一人残ったからと言って直ぐ様違和感に繋がるわけでもない。朝のホームルームの遅刻で担任から注意を受けた時から、黒木の不機嫌は変わらないからそれが違和感な訳でもないのだ。貴寛は見た筈の違和感を考えながら、昇降口を出て帰途を進み始める。違和感は机の上ではあるが、教科書ではない。自己学習していたにしては、筆記用具がないから違和感だったのか。ノートも出ていないのが違和感だったのか。国語の教科書の下も何冊か教科書らしかったのが違和感だったのかも知れない。何しろ黒木はロッカーにフルセット教科書を置いたままにして、テスト期間位しか持ち歩かない人間だ。テストも無いのに何で教科書を何冊も取り出していたのだろう。しかも、持ち帰るような感じでもなかったし、あれは何を握っていたのだろう。
ふとそんなことを考えながら、酷く嫌な予感がしていた。
「なぁ、鈴木、あの香坂ってやつ毎日車で来てるらしいぞ。」
「ああ、足が悪そうだもんな。杖ついて歩いてるし。」
クラスメイトの黒木佑は、そういう意味じゃないと不満顔だ。黒木が言いたいのは香坂智美が、なにかと優遇され特別視されていると言うことらしい。
そういえば黒木は今まで期末テストで何とか名前張りだしにギリギリ載っていたのに、前回は150番以内に名前がなかった。今の黒木の話ではそれが香坂って奴が、急に来たせいだと息巻いている。内心それってとばっちりと言うか言いがかりだと、鈴木は思うが香坂が気に入らないのは事実だ。それ以外にも黒木にとっては学年の三人娘と仲が良いのも、香坂が気に入らない理由のひとつらしい。黒木は最近の須藤が気になっていて、告白して颯爽と須藤からフラれたばかりなのだ。
「毎日裏門に乗り付けってどうよ?しかも、トッシーに贔屓されてて、何にも言われないらしいぞ?」
車を正門から乗り付けたら目立つし生徒が多いから、足が悪くて車を使うしかないのなら裏門を使うのは当然。そんな障害があるなら土志田が気にするのは、生徒指導としては仕方がないような気がする。しかも、実際は言うほど土志田に贔屓されているようには見えないし、大体にして土志田は珍しく個別の生徒を贔屓しないのだ。しかし、それを指摘しても黒木は納得しないだろう。何せ黒木にすれば香坂は、何をしたって気に入らない存在なのだから。
「あいつさ、毎日車で来てるくせに教科書置いて帰ってんだと。生意気じゃね?」
そう言う黒木はロッカーにフルセット教科書を置いている口なのは、あえて指摘するのは止めておこう。しかし、足が悪い人間が教科書や辞書を何冊も持ち歩くのは、自分達よりずっと大変なのだろうと正直なところ貴寛は思う。
鈴木があまり乗り気で話を聞かないせいか、やがて黒木は別な奴に同じことを訴え始めた。内心黒木が何もしなきゃいいけどなと心の内で呟く。
※※※
ほのかに冬の気配を感じながら、教室に踏み入れた時普段はいない筈の黒木の鞄が既にあるのに気がついた。今日何かあったのだろうかと一瞬考えるのと同時に、なんとなく不安が沸き上がる。あんな風に香坂の活動や生活を監視していたのは、何かする気ではないかと貴寛は考えたのだ。
何する気か知らないけど、足が悪いような奴に下手に手を出さなきゃいいけど。
内心そんな風に考える。自分は加わってないのが幸いだが、下手に大事になるような行動をしたりして香坂が須藤や宮井に話すとは考えないのだろうか。話さなくても目に見えるような行動をしたら、同じクラスのメンツにだってバレない筈がない。何気なく机に鞄を置いた貴寛は、裏門が見える場所まで何気なく向かう。8時の少し前になろうとしている辺りで、黒塗りの高級車が裏門から滑り込んできたのを見下ろして貴寛は目を丸くする。
裏門につけて当然じゃないか、国産高級車で要人が乗る奴じゃないかよ。
車に詳しくなくても大概の人間なら、乗ってる人間には関わりたくない場合が多い車で通学してる学生なんて聞いた事がない。近郊でその系統の施設があるなんて聞いたことはないが、少なくとも余り関わらないでいるべき。そんなことは貴寛でも分かる。今のところ視界に黒木は見えないが、裏門から教室に行くには経路は2つだ。どちらを通るかは分からないが、一先ず裏門の通用口は通るのは変わらない。そこに向かって駆けていくと、驚くべき事に通用口の目の前で5人で香坂を囲んでいるのが目に入る。
馬鹿かよ!せめて他の場所でやれよ!
通用口は通称で、教師の下駄箱はこっちだ。既に教師連は朝のミーティングに入っているからまだしも、遅れて来る教師がいないわけではない。囲まれている香坂の全く動じてない顔からも、その可能性は十分に気がついている筈。
「お前、中間でも満点だったらしいな。」
黒木の普段より甲高い声が聞こえて、貴寛は逆に驚きに目を見張った。前回の期末テストの満点トップはかなりの衝撃だったが、今回も満点と言うことは本格的な天才と言うわけだ。
「お前、カンニングしてんだろ?!」
「黒木!」
貴寛の呼び掛けた声と黒木の甲高い声は完全に被っていた。まるで貴寛も囲みの為に来たみたいで、酷く気まずいタイミングだ。黒木の喜んだ顔が正直忌々しくすら感じる貴寛の顔を、香坂はおやと言いたげな視線で見つめている。自分は違うといいかけた瞬間、何とも格好いいタイミングで颯爽と姿を表した人間がいた。
「智美。どうしたんだ?お前がカンニング?」
「おはよう、孝。朝から言いがかりだ。」
香坂と黒木の間に入った真見塚は呆れたような視線で、黒木から貴寛までを眺める。黒木の甲高い声が響いたせいで言いがかりの内容まで全て聞き、しかもサラリと香坂には言いがかりと切り捨てられてしまった。大体にしてどんなテストだったとしても、カンニングで満点は採れない。教師が個人で作っている問題には、その教師の意図が何処にあるかは事前に分かるものではないと思う。しかもカンニングをするような人間なら、恐らく満点ではなく疑われないように逆に何問かは間違っておくに違いない。
つまりは黒木の言いがかりのなにものでもないのだ。黒木の顔が目に見えて赤黒くなったのは、今更だがそれに気が付いたからだろう。
「もう、用は済んだかな?」
香坂が平静な顔でサラリと告げるのに、黒木は無駄だと思う足掻きをした。
「ま、まだ話は終わってないぞ!お前。」
その言葉に不意に香坂の表情が冷ややかな物に変わって、綺麗な少女みたいな顔が黒木の顔を睨む。一瞬戸惑いながらその綺麗な顔に黙りこんだ黒木に向かって、予想外の毒舌が口を開いた。
「黙って聞いてれば、さっきからお前お前と失礼だな。人の名前くらい、こうやって囲む前に覚えろよ、同級生の名前も覚えられない低能か?黒木佑。」
「智美、放っとけ。相手にするなって。」
他のクラスのしかも7組の男子の名前を、接したこともない1組の香坂が覚えてるなんて囲んでいる方には思いもよらなかった。しかも直にフルネームで毒舌を吐かれた黒木は、ポカーンとしている。
それを真見塚が呆れたように香坂を伴って歩き出す。
「智美、お前一言が余計なんだよ。」
「低能に低能と言って何が悪い。」
遠ざかっていった辛辣な言葉に黒木が我に帰った瞬間、朝のホームルームの予鈴が爽やかに鳴り響いていた。
※※※
夕方教室に戻った貴寛の目の前に、黒木が何故か国語の教科書を一番上にして机の前で一人残っているのに目を丸くした。しかし黒木の動きは挙動不審で、何かがおかしい。貴寛がじっと見つめていると、黒木は苦笑いしながら視線を反らした。
荷物を取り上げ教室から出た貴寛は、何がおかしく感じたのかを考える。机の上に教科書は別段違和感ではないし、放課後一人残ったからと言って直ぐ様違和感に繋がるわけでもない。朝のホームルームの遅刻で担任から注意を受けた時から、黒木の不機嫌は変わらないからそれが違和感な訳でもないのだ。貴寛は見た筈の違和感を考えながら、昇降口を出て帰途を進み始める。違和感は机の上ではあるが、教科書ではない。自己学習していたにしては、筆記用具がないから違和感だったのか。ノートも出ていないのが違和感だったのか。国語の教科書の下も何冊か教科書らしかったのが違和感だったのかも知れない。何しろ黒木はロッカーにフルセット教科書を置いたままにして、テスト期間位しか持ち歩かない人間だ。テストも無いのに何で教科書を何冊も取り出していたのだろう。しかも、持ち帰るような感じでもなかったし、あれは何を握っていたのだろう。
ふとそんなことを考えながら、酷く嫌な予感がしていた。
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