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11月
200.ホタルブクロ
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11月26日 金曜日
授業中ふと横を見ると智美君が机に突っ伏して居眠りをしている。しかも教科書も何にも出してないのに、国語の冬里先生も気がついたようだ。若い冬里先生は歩み寄ると、戸惑いながら智美君の肩に触れる。まだ若い冬里先生は基本に忠実な真面目な先生だから、流石に机の上に教科書すらも出てないのに戸惑ってるみたい。
「香坂君?教科書を出して、居眠りしないでね。」
「教科書紛失しました。週末には準備します。」
智美君の言葉にえ?って皆が目を丸くして彼の事を見つめる。しれっと智美君は平気な顔でそんなことを言うけど、紛失って普通じゃないよね?紛失って無くしたってことでしょ?車で通学してる智美君が、何処で紛失するタイミングがあるのか皆も疑問に感じている。
「じゃ、じゃあ隣の真美塚君に見せてもらって?」
冬里先生は戸惑っているけど、至極まっとうな正論で智美君に指示した。孝君が大人しく机を寄せて間に教科書を差し出す。どこか不機嫌顔なまま授業を受けきった智美君に、休み時間になった私達は戸惑いながら彼を囲む。
「教科書紛失ってどうしたの?智美君。」
早紀ちゃんの心配そうな声に、面倒くさそうに智美君は紛失したと言っていた筈の国語の教科書を出して見せた。あるじゃんって呟いた香苗に、智美君は開いてみろと不機嫌満載で口を開く。うえ?!何これ?!殆どのページがノリか何かでビッチリ貼り付けられてて、教科書の形の本の置物になっている。どうやら足の悪い智美君は教科書を持って歩くのが大変なので、何冊かの教科書は廊下の個人用ロッカーに置いていたらしい。廊下のロッカーは個人で何を置くかは、その人次第のところは大きい。人によっては普段は何も入ってない人もいれば、教科書一式おいてる人もいるとか。ただ高校のロッカーに鍵なんて防犯は無くって、開ける気になれば無防備な置場所。勿論自前で鍵をつけてる人もいるけど、そこまでするなんて自意識過剰なんて思われたりするのも嫌だし。
兎も角、智美君がロッカーに置いていた教科書全てがこの状況らしい。
「これって、虐めっていうんじゃないの?香坂。」
香苗の心配そうな声に智美君は苛立ち半分だけど、思わず視線をあげて私達を見上げる。
「こう言う低レベルな嫌がらせを虐めっていうのか?」
「低レベルって、確かに低レベルではあるけど。教科書を駄目にしたり、靴を隠したりなんかは定番じゃないかしら。」
へぇと何故か妙に納得したみたいな智美君が、腕を組んで考え込む。考え込むその姿に私は、何だか彼が考えていることが手に取るように分かる気がした。
「同じレベルの仕返しは駄目だよ?智美君。」
「え?駄目なのか?」
やっぱり同じレベルの嫌がらせを思案してた。先にやられたから、やり返すのが正義みたいな顔を智美君がしてる。でも、それやったら同レベルだよ?といったら、なるほどと納得したみたいだ。あ、でも、倍返しとかしそう。智美君の倍返しは怖いなぁ。孝君が呆れたように教科書を持ち上げ、ここまでやる手間のほうが面倒くさいなと呟く。確かにページを1枚1枚張り付ける労力は結構大変だろう。しかも、前使ったのは前日だから、ほんとに短時間で張り付けたってことだ。
「誰がやったのかは分かるのか?智美。」
「まあね。おおよその検討位は。」
そっか、仕返しを考えてるくらいだから、相手が誰かわかってたんだ。そうはいってもおおよそで検討ってことは間違ってたら、相手にはただ災難になりかねないんだけど。智美君てば、そこら辺大事なところじゃないの?
「先生に相談するか?」
「相談してどうにかなるもの?」
孝君の言葉に智美君が平然とした顔で言い、その言葉には自分から相談する気はないっていっているみたいに聞こえてしまう。どうなんだろう、自分がこんなことをされたことがないから自分でもどうするのが1番なのか分からない。でも、自分がされたら凄く嫌だし、これが最初の嫌がらせでどんどん酷くなっていったら凄く怖い。そんなことを思うと私は相談したほうが言いと思うと、智美君の腕をとり教科書型の置物を手にとって歩き出した。
「やった奴に痛い目でも見せなきゃ止まらなくないか?麻希。」
「おおよそなんでしょ?間違ってたら、智美君が虐めたことになるよ?それにやり返したら、余計やって来るかもしれないでしょ?」
「そんなものなんだ?」
何か仁君と話している気分になる。智美君もこう言うことには結構疎いっていうか、今まで学校でこんなことなかったのかなって思う。生徒指導室に乗り込んだ私と智美君を、書類を整理していたセンセは目を丸くしている。
「お前ら、ここを喫茶店と間違ってるんじゃないだろうな?」
呆れたような声に反対に声をあげたのは智美君じゃなくて、私の方だった。
「センセ!智美君がロッカーに置いてた教科書に悪戯した人がいるの。」
歩み寄って差し出した教科書を受け取って見たセンセは、ノリ付けされた教科書を受けとると溜め息混じりにそれを眺めた。
「俺んときと比べたら、こりゃぁ随分と手間のかかる嫌がらせだなぁ。」
「先生の時はどんな嫌がらせだった?」
「あー、良くあったのはジャージ切られたりかな。」
「それどうしたの?センセ」
「そのまんま着てやった。」
えー、切られたジャージそのまま着て体育したのって、言うよりもなんでセンセ嫌がらせうけてんの?って聞いたらセンセは学生時代柔道で国体選手になったりしたらしい、それを僻んだ人がやったんだって。えー、そんなのでも僻まれるの?頭良くても運動できても僻みって。人間ってわかんないなーっ!
「それ、どうやってとめたの?センセ。」
「んー?俺の時は雪が情報収集してくれて、犯人が分かったら信哉が殴り込みに……いやいや、あーっと。」
あっ!誤魔化したけど雪ちゃん?!鳥飼さんまで?!何やってんのって私が睨んだら、センセそ知らぬふりでいる。結局倍返しの方向じゃん!一先ず犯人がはっきりしないことには動けないってのだけはわかったけどー。
授業中ふと横を見ると智美君が机に突っ伏して居眠りをしている。しかも教科書も何にも出してないのに、国語の冬里先生も気がついたようだ。若い冬里先生は歩み寄ると、戸惑いながら智美君の肩に触れる。まだ若い冬里先生は基本に忠実な真面目な先生だから、流石に机の上に教科書すらも出てないのに戸惑ってるみたい。
「香坂君?教科書を出して、居眠りしないでね。」
「教科書紛失しました。週末には準備します。」
智美君の言葉にえ?って皆が目を丸くして彼の事を見つめる。しれっと智美君は平気な顔でそんなことを言うけど、紛失って普通じゃないよね?紛失って無くしたってことでしょ?車で通学してる智美君が、何処で紛失するタイミングがあるのか皆も疑問に感じている。
「じゃ、じゃあ隣の真美塚君に見せてもらって?」
冬里先生は戸惑っているけど、至極まっとうな正論で智美君に指示した。孝君が大人しく机を寄せて間に教科書を差し出す。どこか不機嫌顔なまま授業を受けきった智美君に、休み時間になった私達は戸惑いながら彼を囲む。
「教科書紛失ってどうしたの?智美君。」
早紀ちゃんの心配そうな声に、面倒くさそうに智美君は紛失したと言っていた筈の国語の教科書を出して見せた。あるじゃんって呟いた香苗に、智美君は開いてみろと不機嫌満載で口を開く。うえ?!何これ?!殆どのページがノリか何かでビッチリ貼り付けられてて、教科書の形の本の置物になっている。どうやら足の悪い智美君は教科書を持って歩くのが大変なので、何冊かの教科書は廊下の個人用ロッカーに置いていたらしい。廊下のロッカーは個人で何を置くかは、その人次第のところは大きい。人によっては普段は何も入ってない人もいれば、教科書一式おいてる人もいるとか。ただ高校のロッカーに鍵なんて防犯は無くって、開ける気になれば無防備な置場所。勿論自前で鍵をつけてる人もいるけど、そこまでするなんて自意識過剰なんて思われたりするのも嫌だし。
兎も角、智美君がロッカーに置いていた教科書全てがこの状況らしい。
「これって、虐めっていうんじゃないの?香坂。」
香苗の心配そうな声に智美君は苛立ち半分だけど、思わず視線をあげて私達を見上げる。
「こう言う低レベルな嫌がらせを虐めっていうのか?」
「低レベルって、確かに低レベルではあるけど。教科書を駄目にしたり、靴を隠したりなんかは定番じゃないかしら。」
へぇと何故か妙に納得したみたいな智美君が、腕を組んで考え込む。考え込むその姿に私は、何だか彼が考えていることが手に取るように分かる気がした。
「同じレベルの仕返しは駄目だよ?智美君。」
「え?駄目なのか?」
やっぱり同じレベルの嫌がらせを思案してた。先にやられたから、やり返すのが正義みたいな顔を智美君がしてる。でも、それやったら同レベルだよ?といったら、なるほどと納得したみたいだ。あ、でも、倍返しとかしそう。智美君の倍返しは怖いなぁ。孝君が呆れたように教科書を持ち上げ、ここまでやる手間のほうが面倒くさいなと呟く。確かにページを1枚1枚張り付ける労力は結構大変だろう。しかも、前使ったのは前日だから、ほんとに短時間で張り付けたってことだ。
「誰がやったのかは分かるのか?智美。」
「まあね。おおよその検討位は。」
そっか、仕返しを考えてるくらいだから、相手が誰かわかってたんだ。そうはいってもおおよそで検討ってことは間違ってたら、相手にはただ災難になりかねないんだけど。智美君てば、そこら辺大事なところじゃないの?
「先生に相談するか?」
「相談してどうにかなるもの?」
孝君の言葉に智美君が平然とした顔で言い、その言葉には自分から相談する気はないっていっているみたいに聞こえてしまう。どうなんだろう、自分がこんなことをされたことがないから自分でもどうするのが1番なのか分からない。でも、自分がされたら凄く嫌だし、これが最初の嫌がらせでどんどん酷くなっていったら凄く怖い。そんなことを思うと私は相談したほうが言いと思うと、智美君の腕をとり教科書型の置物を手にとって歩き出した。
「やった奴に痛い目でも見せなきゃ止まらなくないか?麻希。」
「おおよそなんでしょ?間違ってたら、智美君が虐めたことになるよ?それにやり返したら、余計やって来るかもしれないでしょ?」
「そんなものなんだ?」
何か仁君と話している気分になる。智美君もこう言うことには結構疎いっていうか、今まで学校でこんなことなかったのかなって思う。生徒指導室に乗り込んだ私と智美君を、書類を整理していたセンセは目を丸くしている。
「お前ら、ここを喫茶店と間違ってるんじゃないだろうな?」
呆れたような声に反対に声をあげたのは智美君じゃなくて、私の方だった。
「センセ!智美君がロッカーに置いてた教科書に悪戯した人がいるの。」
歩み寄って差し出した教科書を受け取って見たセンセは、ノリ付けされた教科書を受けとると溜め息混じりにそれを眺めた。
「俺んときと比べたら、こりゃぁ随分と手間のかかる嫌がらせだなぁ。」
「先生の時はどんな嫌がらせだった?」
「あー、良くあったのはジャージ切られたりかな。」
「それどうしたの?センセ」
「そのまんま着てやった。」
えー、切られたジャージそのまま着て体育したのって、言うよりもなんでセンセ嫌がらせうけてんの?って聞いたらセンセは学生時代柔道で国体選手になったりしたらしい、それを僻んだ人がやったんだって。えー、そんなのでも僻まれるの?頭良くても運動できても僻みって。人間ってわかんないなーっ!
「それ、どうやってとめたの?センセ。」
「んー?俺の時は雪が情報収集してくれて、犯人が分かったら信哉が殴り込みに……いやいや、あーっと。」
あっ!誤魔化したけど雪ちゃん?!鳥飼さんまで?!何やってんのって私が睨んだら、センセそ知らぬふりでいる。結局倍返しの方向じゃん!一先ず犯人がはっきりしないことには動けないってのだけはわかったけどー。
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