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11月

193.オトギリソウ

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11月19日 金曜日
私自身はそう迷信を信じる方じゃないし、敵意のある恨みが人に悪さをするなんて事はあんまり信じたくない。勿論そういう行動自体が怖いからって言うのは本音だけど、そればっかりを信じて生活するのは正直辛いんじゃないかなって思う。何でこんな話をしてるかと言うと、再び私の前に竜胆さんが姿を見せたからだ。何で竜胆さんが私の目の前に姿を見せるのか、正直私にもわからない。だって雪ちゃんに話があるなら雪ちゃんに話した方がいいし、鳥飼さんに会いたいなら正直にお願いした方がずっと早い。何にしても私に何が出来る訳じゃないんだよね、というのが本音。

「こんにちわ、麻希子ちゃん。」
「こんばんわ。何かご用ですか?」

目の前の竜胆さんは私の言葉に口元に手を当ててわざとらしくコロコロと笑う。

「随分素っ気ないわ、嫌われちゃったかしら?」
「好き嫌いの問題じゃないと思いますけど。」

そうなんだよね、好き嫌いとかじゃなくて、意味がわかんないんだよ。何で私なのかな?私に話しかけて何か特になるのかな?

「智雪にお父さんのお話聞けた?」

何で雪ちゃんの事を呼び捨てにするのかなぁ、この人。ちょっとそこは個人的に嫌なんだよね。大体にして雪ちゃんに呼び捨てにしていいって言われてるのかな。しかも雪ちゃんのお父さんの話って、雪ちゃんが話してくれたわけでもないんだよね?勝手に調べたことなんだよね?きっと。

「それも関係ないですよね。」
「あら、聞けなかったの?殉職されて、まだ犯人が捕まってないって?」
「え?」

殉職って警察官とか刑事とかってこと?え?犯人が捕まってないって言っても、雪ちゃんのお父さんって雪ちゃんが産まれる前に亡くなってるんだよね?つまり30年位、違う雪ちゃんが今28歳だから29年前の話なんだよね?え?でもそしたら犯人さんは、今は普通に生活してるってこと?殺人って時効あるよね?何年だっけ?あれ?え?どう言うこと?
ポカーンとしている私の顔に、竜胆さんがしめたっていうような笑顔を浮かべている。秘密を知りたかったら教えてあげてもいいわよって言わんばかりの笑顔は、私には少し腹立たしい。それにしてもそれを教えて、私に見返りに何を聞きたいんだろう?

「やっぱりいいです、聞きたくないです。その話。」
「あらぁ、遠慮しなくても。」 

うー、やっぱりしつこい。私は聞かなくてもいいっていってるじゃん。

「余計なお世話ですよ、僕の事情は自分で話しますから。」

不意に私の背後から刺々しい声が言う。思わず振り返ると冷え冷えとした視線で雪ちゃんが、竜胆さんを真っ直ぐに見据えている。

「あら、智雪。お姫様と楽しくお話ししてたのよ?」
「ちっとも楽しそうに見えませんけど?」

私の肩に手を乗せた雪ちゃんの声は何時もと違って底冷えするみたいで、私は少しだけ不安になって見上げた。雪ちゃんは私の視線に気がつかずに、凄く怖い顔で彼女を見つめている。

「僕と香坂家は何も繋がってませんから、調べるだけ無駄ですよ。」
「あらそうかしら?案外縁って切れないものよ?」
「縁自体が無いんで。」

香坂ってやっぱり雪ちゃんのお父さんも香坂さんだったんだ。ってことは衛のお父さんとは親戚?ってことは智美君とも親戚ってこと?じゃ雪ちゃんと智美君も親戚ってこと?

「そうでもないわよ?彼女の方が縁がありそうだもの。」

雪ちゃんの表情が訝しげに眉を潜める。竜胆さんは私の同級生に智美君がいるのを知ってるんだ。智美君はあの話し方からすると、彼女の調べてるお家ってことなんじゃないだろうか。でも、何で智美君のお家を調べてるの?智美君のお家と船の事故がどう繋がるんだろう。そんなことを考えている私の表情に、雪ちゃんが心配そうに見つめている。

「私はね、本当のことが知りたいだけなの。」
「本当のこと?」

思わず私が反応すると、彼女は笑顔を消して呟く。

「ええ、そうよ。あの事故の起きた本当の理由。」

それが船舶事故のことを言っているのはわかるけど、智美君のお家が関係しているってどうして彼女は確信してるみたいに話すんだろう。智美君も知っているのかわからないけど、私が直接聞いても教えてはくれなさそうな気がする。しかも、竜胆さんだって素直に教えて下さいとはいわなさそうな気がしてるんだ。つまりは智美君は知っていても話さないだろうし、彼女も自分が納得するまでは絶対に諦めない。それに巻き込まれている私や雪ちゃんが、どんなに困ってても気にしないんだ。下手すると衛のことまで巻き込みそう。

あれ?じゃなんで鳥飼さんが、巻き込まれているんだろう?

鳥飼さんは香坂さんとは何も関係がないはずだ。だって、お父さんは孝君のお父さんだし、お母さんはもう亡くなってるって聞いた。話を聞けば聞くほど訳がわからなくなって、困り顔になってしまう。何だか彼女に力一杯放っておいてって叫びたくなるのは私だけなんだろうか?
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