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11月
閑話45.宇野智雪
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腹立たしい。それが今の心境に最も適した感情だ。
最初は仕事の手伝いをかって出てくれた、世にも親切なパソコンを熟知した総務課のスタッフだった。その時点でパソコンを熟知したシステムエンジニアが、何故総務なんて雑用課にいるのか気がつけばよかったのだ。しかし、あの時は死に物狂いでその違和感に気がつけなかった。その次には仕事の打ち上げで余計な申し出をした総務課の女、その時点でこいつは危険だと薄々感じていたのに。そして最後には退職届を机の上に置いて雲隠れしたかと思いきや、わざとらしいしなを作って麻希子の前で話しかけてきた厄介な女だ。
打ち上げの酔っ払ったふりは今考えると最悪だった。ベッドなんか貸してやらなきゃよかったと正直思うが、残念なことにベットは貸してやっていた。しかも、あの部屋には雪が持つ唯一の卒業アルバムが棚に置いてある。そう、都立第三高校の卒業アルバムだ。あの女がそれを見ただろうと思うのは、あのアルバムが1番高い棚に置いてあって普段は触らないから。流石に薄く積もる埃までは元通りに出来ないから、あの女は丁寧に棚の埃を全て拭き取った。まあ、埃を拭き取らなかったとしても、雪の目には移動されたものは見分けることが可能だと知らないのは誤算だろうが。それにしてもアルバムを見て何を知りたかったのか疑問だ。都立第三高校の卒業アルバムには残念だが、1学年の生徒数が400人を越すこともあって住所録は載せていない。だが、宮井智雪と鳥飼信哉が同級生なのは明らかだし、それを確認したかったとすればあの女は鳥飼澪が鳥飼信哉だと知っていることになる。
胡散臭い癖に、何が知りたいのか読めないな。
既に会社から消え去った竜胆貴理子のことを考え、舌打ち混じりに最後の手段に電話をかけた。相手は数回の呼び出し音の後に電話を受ける。
「もしもし、僕です。」
『何だよ、久しぶりだな、雪。』
電話の向こうの掠れ声は、相変わらず人を食ったような口調で低く笑う。電話口でゴソゴソと身の回りの何かを動かしながら、外崎宏太はなんか用かとノンビリした口調で問いかけてきた。その様子に逆に雪はおやと眉を潜める。外崎から何かようかと問いかけたのが珍しい訳ではなく、その口調が僅かに普段と違うのだ。
「誰かお客ですか?」
『おお、そんなもんだ。』
「僕、後にしましょうか?」
『いいや、たいしてかわんねえよ。』
どうやら電話の向こうには丁度誰かが来客している様子だが、外崎が気にしないと言うので雪も気にしないことにする。今更胡散臭い外崎の交遊関係を気にするつもりはないし、外崎が雪に話さないと言うことは知らなくてもいい相手と言うことだろう。
「外崎さん、竜胆ってライター知ってますか?」
『りんどう?林か?』
「いいえ、花の方。」
竜胆貴理子は本当は総務課の何でも係なんかをするような大人しい女ではなかった。それほど表に名前を出して活動はしていないが、列記としたフリーライター。しかも、胡散臭い政治家や汚職関係、政治の裏側に滅法強いと言う腕利きのフリーライターだ。それが枕営業の成果かどうかまでは雪には予想も出来ないが、何故そんな腕利きのライターが態々平凡な事務員を装ったのか。そこまでして自分や信哉の周りを嗅ぎ回る理由がなんなのか、全くもって理解できない。
確かに雪は自分が波瀾万丈な人生を送っている自覚はあるが、自分の人生は政治には関わっていない筈だ。勿論信哉の方も同じく政治に関わる筈もない。どちらも今では両親がいないが、元はシングルマザーの子供、とは言え政治家の御落胤ではけしてない。まあ、信哉の方はある意味歴史の長い旧家の末裔ではあるが、血筋に政治家の絡みはない筈だ。雪の本当の父親にしたって、ただの地方公務員・刑事は目指していたらしいが制服警察官になって1年位の若者だった。その両親は今のところどうしているのか調べたこともない。政治汚職に関わるには階級が交番勤務の警察官じゃ無理がある。どちらにしても政治関係のライターが、喜んで飛び付くようなネタなんか肩に背負っていない。
『竜胆…竜胆ねぇ……珍しい名前だな。んん…。ん。』
流石の外崎の情報網も政治の世界には疎いのかとチラリと考えた瞬間、外崎がああと溜め息に似た声をあげる。その答えは雪には、もっと予想外の方面からの答えだった。
『確か船舶事故の関係の訴訟で、関係者にそんな名前をした女がいたような気がしたなぁ。船舶運行プログラムをプログラミングしたとか言う。』
元プログラマーの女、しかも珍しい苗字で記憶していたといから竜胆貴理子と関係ないとは思えない。しかし、外崎の情報網に、思わず感心してしまう。耳ざといとは思っていたが、まさか訴訟関係までアンテナをたてていたとは思わなかった。雪の記憶力も人並外れてかなり良い方だが、流石に興味のない訴訟関係までは記憶しない。
「いい記憶力ですね。」
『その船舶会社にちと投資してたからな、俺ぁ大損したんだよな。』
なるほどそれなら分かる。外崎が投資なぞと言う、対外的な活動をしていた故の記憶だったようだ。今は外崎にそんな様子はないが、投資は其に懲りてもうやめたのだろうか。兎も角その時の女の記憶は、外崎にとっても確かなものらしいことは分かった。元はプログラマーをするほどパソコンを熟知した女は、何故フリーライターなんて不安定な転職したのか。しかも、何故雪や信哉の事を調べようとするのか。
『その女、調べとこうか?ん?』
「出来れば。」
『おお、ついでに調べといてやるよ。』
ついで?何のついでにですかと問いかけそうになったが、相手が珍しく先に電話を切ったのに雪は目を丸くする。どうやら向こうの来客も急ぎの件だったようだ。
そうして、仕事を終えて帰宅したら玄関には見慣れた麻希子の靴がキチンと揃えて置かれていて目を丸くする。
日曜まで会えないと思っていたのに。
唐突な来訪をした雪のお姫様は、リビングで息子と頭を付き合わせて何かを覗きこんでいる。2人並んで何かを覗きこんでいる姿はなんとも可愛らしいが、何故今そんな一生懸命眺めるものがあるのかと考えると少し違和感が生まれた。
あの女、まさか麻希子にちょっかい出してるんじゃ。
そう考えるのが手っ取り早い気がする。麻希子の性格だと疑問に感じたら放置はしないだろうから、恐らく疑問は自分の事だ。しかも、麻希子と衛が並んで見るものがあるとすれば、衛の父親の香坂衛の写真に違いない。あの写真は確かに知らないで見れば、自分と見間違う位の男が写っている。だけど、あの女は何処からそれを知ったのだろう。宇野静子の友人や同僚には香坂衛と交流があった人間はいたかもしれないが、宇野智雪はそれらの人間と交流はない。しかも、宇野智雪の本当の父親の名前が香坂智春だと知っている人間は、更にもっと少ない筈なのだ。
知らない場所から調べられて、つきまとわられるのは正直不快だな。
心の中で呟いた言葉を飲み込んで、可愛らしい2人の背後に歩み寄る。やっぱり2人が覗き込んでいるのは、衛の母宇野静子が大切にしていたアルバムだった。それには衛の父親と宇野静子が仲良く写っている写真がある。
「何2人でアルバム眺めてるの?」
「雪ー、まーちゃんにね、本当のお父さんの写真見せてた!」
へぇーと言う唐突に頭上から響く声に思わず麻希子が凍りつくのが分かる。決まり悪いんだろうなとは思うが、仕方がない。何時もと変わらぬ微笑みで見下ろすと、ぎこちない顔をした麻希子がソロソロと視線をあげていた。
※※※
衛がベットに入ってから、予想通り麻希子は竜胆貴理子から話を聞いたと白状した。竜胆という女は、衛の父親と雪の父親の事は何かを知っているようだ。しかし、それ以上にあの船舶事故で彼女も許嫁を失ったとは予想外だった。
それだから何か変わるわけではないが、実はあの八年前の大ニュースになった船舶事故には雪のもう一人の幼馴染みが大きく関係している。あの大事故は大型客船が海洋航行中に原因不明の破損により、たった数時間で乗員乗客の4割と共に海の底に沈んだ。原因はいまだ不明だが航海路線を大きく外れていたこともあって、船舶運行のプログラミングに不備があったのてはないかとか、船底を流氷が削ったのだとか様々な憶測が乱れとんでいた。
あの事故は偶然にしては残酷な現実を、幼馴染みの土志田悌順に突きつけていた。あの客船での旅は悌順自身が両親の銀婚式への贈り物として勧めたもので、しかも沈む直線の映像に悌順の両親が逃げたくても逃げられない船尾で叫ぶ姿を悌順に残した。あの画像をどんな思いで悌順が見ていたか、雪にも正直なところは答えられない。しかし、あの船舶事故を防ぐ方法があったかもしれないとは、フリーライタ-としても事故関係者としても飛び付くのは必然だろう。でも、それに何故自分や信哉まで関わるのかは、この状況では判断材料が少なすぎる。
それにしても、そこまで彼女に話させる麻希子は凄い
出来ることなら接触しないでいて欲しいのに、困ったことに今更ながら雪のお姫様は案外巻き込まれ安い体質のようだ。頭を掻きながらどうにか接触しない方法はないかと雪が思案すると、目の前の彼女は不安そうな視線で上目遣いに雪のことを見つめる。
そんな可愛い顔して、参るな。
1つ溜め息をついてから麻希子に向かって手まねくと、大人しく近づくものだから調子に乗ってポンと膝を叩いてここに座ってと示す。大人しく素直に膝に座るけど、男の膝に簡単に座ったらいけないと思うよ、お姫様。心の中でそう呟く。
「で、衛に聞いて何かわかったの?僕のお姫様。」
膝に座った麻希子が思わず立ち上がろうとしたのに、細い腰を手で引き留める。折れてしまいそうな細い腰を捕まえられて、アタフタする麻希子の様子は小動物みたいで本当に愛らしい。こんなに簡単に捕まえられて、全く困ったお姫様だ。
「あの人に言われて衛の父親が僕じゃないかって心配になった?」
その言葉に麻希子はピタリと動きを止めて、真っ直ぐに雪のことを見つめる。どうやらこの指摘は図星だったようだ。
「あ、それはさっき写真見たときちょっと。」
「だろうね。」
自分だって静子に初めて見せられた時は、唖然としたものだ。世の中には3人似た人間が居るとは聞くが、本当にソックリの人間がいるのを見せられると正直な感想としては不気味だ。しかも、相手はもう故人とは言え眼鏡以外間違い探しみたいな顔で名前も香坂と来たら、恐らく自分の本当の父親・香坂智春と親戚だったのではないかとは自分も思った。だが、香坂の家の人間と宮井の両親は何も関わりがなかったし、母親は香坂には親戚がいなかったと聞いていた。兎も角、今の自分には関係のない話なのだ。
それを知らぬ間に吹き込まれて、勝手に疑心暗鬼にでもなられては天使の笑顔が曇りかねない。抱き止めていた腰を引き寄せ腕の中にしておいてから、少し不満を露にする。
「何であの女の話を聞いちゃうのかな、麻希子。」
え?だって、隣で勝手に話したんだよ、話してくださいってお願いした訳じゃないんだけど。そう麻希子の顔が言っているが、そういう意味じゃない。あの女に関わらないようさっさと逃げてくれればいいのに、何で素直にあの女の話を聞いてるのかな。あえて目の前で近寄るなって釘を指したのは、麻希子だって近寄らないようにしてもらうためなのに。
「近寄るなってあいつに釘指しても、麻希子がこんな無防備じゃ俺は心配だよ。」
真剣な顔でそう言うと、麻希子は初めて疑問を感じたように首を傾げる。今更腕の中に抱き締められているのに気がついて、もがいても遅すぎる。腕の中の柔らかな体はもがくにも、華奢で儚い花のように無力で可愛らしい。
「雪ちゃんと衛の本当のパパが兄弟とか?」
「まさか。俺の親父は子供は俺だけ、しかも若い時に死んだから他に奥さんも子供もいないけど?」
そうなんだって納得した麻希子の顔は、あどけなくて無垢な天使そのものだ。大体にして名前と自分に似た顔立ちの父親の存在は幼い頃に母から聞いたが、産まれる前に死んでしまった人間の話をどうしろというのか。父もその事を知っていて母と結婚したと堂々と宣言するような両親だったのだ。そこにどんな他意が生じるのか、こちらの方が聞きたい。抱き締められて雪の膝に座っていることすら忘れている様だから、雪はあえて彼女に顔を寄せて抱き締めたまま柔らかい唇を奪っていた。
そのままなだれ込むところまでって正直なところ考えていたのは事実だ。何せ麻希子は大人しく抱っこされたままキスされて、そのままソファーに押し倒せてしまいそうな雰囲気。それを我慢しろという方が残酷なタイミングだった。腰を支えたままソファーに意図も容易くコテンと押し倒された麻希子の柔らかな髪が、手を擽るのを自覚しながらもう一度覆い被さりキスをする。
可愛いなぁ、大人しくキスされるのを待ってて。
肩に滑らせた手に目を閉じていた麻希子が、我に返ったように目を丸くして上目遣いに雪を見つめた。それって先に進んでいいの合図なんだろうか、そう都合よく判断しようとした瞬間麻希子が真っ赤になりながら告げたのだ。
「お嫁さんになるまではこれ以上はダメ!」
いや、うん麻希子。今ここでその反応はちょっと酷い。酷いというか、君はここまで来て気がついたのかと思わず脱力してしまう。大分その気になってしまっていた自分が、正直恥ずかしくなる絶妙のタイミングだった。
絶妙のタイミングで心を折られた雪は大人しく引き下がり、麻希子にパジャマを貸していつぞやのように寝室を提供する。勿論あのあとシーツは取り替えてあるし、あの女のいた気配なんて1つも残していない。
「雪ちゃぁん…。」
「なに?ま……。」
見た瞬間、悶絶しそうになったのはやむを得ない。
何しろ雪のパジャマの上だけを着た麻希子がオズオズと戸口から、雪の事を眺めているのだ。なんだ、この可愛いの。小柄な麻希子が着た俺のパジャマは袖を捲ってもまだ余る長さで、膝の少し上まででタフッと揺れている。下は恐らく大きすぎて履けなかったのは分かるが、分かるが!
「ベット借りちゃっていいの?」
目に毒だ。その格好、あれか?彼シャツとか言うやつか。野郎共が彼シャツいいって言う意味が、今さらだけど自分にも痛切に分かった。もうその姿は襲ってくださいって言われてるようにしか見えない。って言うかその格好で自分のベットで寝てる麻希子の姿の写メ欲しい。いや、これは個人的な妄想で、実行するかどうかは兎も角、
「お願いだから、ベットで寝てください。」
思わず頭を下げてそう言うので自分には精一杯だったが、自分ではよく我慢したものだと思うのだ。男としては情けないことこの上ないけど、相手は大事な麻希子なのだから涙を呑んで堪えるしかない。折角両思いなのにここで、嫌われでもしたら本当に目も当てられないじゃないか。ソファーの上でそう自分に言い聞かせて、目を腕で覆って寝ることにする。麻希子が自分のベットで寝てると想像するだけで、悶々とするのは仕方がないから必死に欲望を飲み込んだ。
そのせいでその夜の雪の見た夢は、はっきりいって欲望まみれだった。自分のパジャマの上だけを羽織った麻希子が、躊躇いがちに扉をあける。素足は細くて白くて、裾をはためかせると危うく下着が見えてしまいそう。上は下着はつけているのだろうかなんて、男なんだから考えてしまっても仕方がない。
…えと、雪ちゃん…。
躊躇いがちに上目遣いで囁く声が、ふっくらした唇から溢れ落ちてくる。咄嗟に腕を伸ばすと簡単に自分の上に乗ってしまう柔らかな肌は、薄手のパジャマなんかないに等しい。恥ずかしそうに裾を直そうとするけど、綺麗にしなって反り返る背中の先には色っぽい腰が捲れて見える。
ああ、最高、この眺め。
思わず神様に礼を言いたくなるような、扇情的な光景。可愛い雪の天使が薔薇色に頬を染めて、薄いパジャマ一枚羽織った姿で自分の腰の上に跨がっている。彼シャツの襟元から覗く白い柔らかそうな胸元に、捲れた腰の先に柔らかそうな丸みを薄い桃色の布が覆っている。
胸の上に乗っかってる麻希子の白い腰の辺りに手を滑らせた。
雪ちゃん、雪ちゃぁん。
甘えるようにねだるように名前を呼ぶ。可愛い甘い声が耳元に擽るように聞こえてくるのに、思わず顔を起こして薔薇色の頬に口づける。
たまんないなぁ、可愛いくて柔らかくて。夢の中なら先を続けてもバチは当たらないよな。
雪は少し上半身を起こして麻希子の頬だけでなく、いろんなところにキスをし始めた。腰に回した手はしっかり麻希子の事を自分の体に押し付け、押さえ込んだまま。熱をもった下半身に反応しているのか、はたまたキスのせいか天使は力がドンドン抜けていく。ヘニャンと雪の胸に崩れ落ちた薔薇色の頬は、色っぽく泣き出しそうに頭を振る。
たまんない、可愛すぎ。エロいし、そんな可愛く泣きそうな顔したら、我慢なんて出来るわけないでしょ。
腰から上に向かって素肌の背中に手が滑っていくと、擽ったさに思わずひゃぁっなんて可愛い声をあげる。胸の上で大分ずり上がったパジャマを押さえようとジタバタする麻希子の可愛らしさが欲望を刺激し過ぎて、もう半端な破壊力じゃない。こうなったらこの先に残るのが虚しい夢精でもなんでもかまわないと欲望のまま肌をなぞり、雪は喉の辺りに噛みつくように唇が触れさせた。
「やぁ…っ。」
「……ふふ、……可愛い…。」
甘い肌に赤く後が残ったのが、あまりにも現実的過ぎて雪は感激してしまう。俺の天使に首筋のキスマークなんて、天国だとしか思えない。雪の掠れた声に真っ赤になってしまった麻希子の顔が見える。もー出来ることなら今直ぐにお嫁さんにしてあげるから、このまま思いを一気にそいとげてしまいたい。
「雪ちゃん!寝惚けてじゃやぁっ!」
「えっ………。」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。寝惚けてない、これは夢な筈と言いたかった頭は、ほぼ同時に麻希子の言葉の意味を理解した。力が抜けた雪の手から抜け出したパジャマをグシャグシャにした麻希子が、自分の腰の上にあられもなく跨がってプルプルしている。
あれ?
乱れたパジャマの裾から覗いている太股が絶景なんて思ってる場合じゃない?首元に凄く鮮明なキスマークがついてる天使の姿は現実?そう思った瞬間、腰の辺りにあったクッションでボスッと殴りつけられていた。
最初は仕事の手伝いをかって出てくれた、世にも親切なパソコンを熟知した総務課のスタッフだった。その時点でパソコンを熟知したシステムエンジニアが、何故総務なんて雑用課にいるのか気がつけばよかったのだ。しかし、あの時は死に物狂いでその違和感に気がつけなかった。その次には仕事の打ち上げで余計な申し出をした総務課の女、その時点でこいつは危険だと薄々感じていたのに。そして最後には退職届を机の上に置いて雲隠れしたかと思いきや、わざとらしいしなを作って麻希子の前で話しかけてきた厄介な女だ。
打ち上げの酔っ払ったふりは今考えると最悪だった。ベッドなんか貸してやらなきゃよかったと正直思うが、残念なことにベットは貸してやっていた。しかも、あの部屋には雪が持つ唯一の卒業アルバムが棚に置いてある。そう、都立第三高校の卒業アルバムだ。あの女がそれを見ただろうと思うのは、あのアルバムが1番高い棚に置いてあって普段は触らないから。流石に薄く積もる埃までは元通りに出来ないから、あの女は丁寧に棚の埃を全て拭き取った。まあ、埃を拭き取らなかったとしても、雪の目には移動されたものは見分けることが可能だと知らないのは誤算だろうが。それにしてもアルバムを見て何を知りたかったのか疑問だ。都立第三高校の卒業アルバムには残念だが、1学年の生徒数が400人を越すこともあって住所録は載せていない。だが、宮井智雪と鳥飼信哉が同級生なのは明らかだし、それを確認したかったとすればあの女は鳥飼澪が鳥飼信哉だと知っていることになる。
胡散臭い癖に、何が知りたいのか読めないな。
既に会社から消え去った竜胆貴理子のことを考え、舌打ち混じりに最後の手段に電話をかけた。相手は数回の呼び出し音の後に電話を受ける。
「もしもし、僕です。」
『何だよ、久しぶりだな、雪。』
電話の向こうの掠れ声は、相変わらず人を食ったような口調で低く笑う。電話口でゴソゴソと身の回りの何かを動かしながら、外崎宏太はなんか用かとノンビリした口調で問いかけてきた。その様子に逆に雪はおやと眉を潜める。外崎から何かようかと問いかけたのが珍しい訳ではなく、その口調が僅かに普段と違うのだ。
「誰かお客ですか?」
『おお、そんなもんだ。』
「僕、後にしましょうか?」
『いいや、たいしてかわんねえよ。』
どうやら電話の向こうには丁度誰かが来客している様子だが、外崎が気にしないと言うので雪も気にしないことにする。今更胡散臭い外崎の交遊関係を気にするつもりはないし、外崎が雪に話さないと言うことは知らなくてもいい相手と言うことだろう。
「外崎さん、竜胆ってライター知ってますか?」
『りんどう?林か?』
「いいえ、花の方。」
竜胆貴理子は本当は総務課の何でも係なんかをするような大人しい女ではなかった。それほど表に名前を出して活動はしていないが、列記としたフリーライター。しかも、胡散臭い政治家や汚職関係、政治の裏側に滅法強いと言う腕利きのフリーライターだ。それが枕営業の成果かどうかまでは雪には予想も出来ないが、何故そんな腕利きのライターが態々平凡な事務員を装ったのか。そこまでして自分や信哉の周りを嗅ぎ回る理由がなんなのか、全くもって理解できない。
確かに雪は自分が波瀾万丈な人生を送っている自覚はあるが、自分の人生は政治には関わっていない筈だ。勿論信哉の方も同じく政治に関わる筈もない。どちらも今では両親がいないが、元はシングルマザーの子供、とは言え政治家の御落胤ではけしてない。まあ、信哉の方はある意味歴史の長い旧家の末裔ではあるが、血筋に政治家の絡みはない筈だ。雪の本当の父親にしたって、ただの地方公務員・刑事は目指していたらしいが制服警察官になって1年位の若者だった。その両親は今のところどうしているのか調べたこともない。政治汚職に関わるには階級が交番勤務の警察官じゃ無理がある。どちらにしても政治関係のライターが、喜んで飛び付くようなネタなんか肩に背負っていない。
『竜胆…竜胆ねぇ……珍しい名前だな。んん…。ん。』
流石の外崎の情報網も政治の世界には疎いのかとチラリと考えた瞬間、外崎がああと溜め息に似た声をあげる。その答えは雪には、もっと予想外の方面からの答えだった。
『確か船舶事故の関係の訴訟で、関係者にそんな名前をした女がいたような気がしたなぁ。船舶運行プログラムをプログラミングしたとか言う。』
元プログラマーの女、しかも珍しい苗字で記憶していたといから竜胆貴理子と関係ないとは思えない。しかし、外崎の情報網に、思わず感心してしまう。耳ざといとは思っていたが、まさか訴訟関係までアンテナをたてていたとは思わなかった。雪の記憶力も人並外れてかなり良い方だが、流石に興味のない訴訟関係までは記憶しない。
「いい記憶力ですね。」
『その船舶会社にちと投資してたからな、俺ぁ大損したんだよな。』
なるほどそれなら分かる。外崎が投資なぞと言う、対外的な活動をしていた故の記憶だったようだ。今は外崎にそんな様子はないが、投資は其に懲りてもうやめたのだろうか。兎も角その時の女の記憶は、外崎にとっても確かなものらしいことは分かった。元はプログラマーをするほどパソコンを熟知した女は、何故フリーライターなんて不安定な転職したのか。しかも、何故雪や信哉の事を調べようとするのか。
『その女、調べとこうか?ん?』
「出来れば。」
『おお、ついでに調べといてやるよ。』
ついで?何のついでにですかと問いかけそうになったが、相手が珍しく先に電話を切ったのに雪は目を丸くする。どうやら向こうの来客も急ぎの件だったようだ。
そうして、仕事を終えて帰宅したら玄関には見慣れた麻希子の靴がキチンと揃えて置かれていて目を丸くする。
日曜まで会えないと思っていたのに。
唐突な来訪をした雪のお姫様は、リビングで息子と頭を付き合わせて何かを覗きこんでいる。2人並んで何かを覗きこんでいる姿はなんとも可愛らしいが、何故今そんな一生懸命眺めるものがあるのかと考えると少し違和感が生まれた。
あの女、まさか麻希子にちょっかい出してるんじゃ。
そう考えるのが手っ取り早い気がする。麻希子の性格だと疑問に感じたら放置はしないだろうから、恐らく疑問は自分の事だ。しかも、麻希子と衛が並んで見るものがあるとすれば、衛の父親の香坂衛の写真に違いない。あの写真は確かに知らないで見れば、自分と見間違う位の男が写っている。だけど、あの女は何処からそれを知ったのだろう。宇野静子の友人や同僚には香坂衛と交流があった人間はいたかもしれないが、宇野智雪はそれらの人間と交流はない。しかも、宇野智雪の本当の父親の名前が香坂智春だと知っている人間は、更にもっと少ない筈なのだ。
知らない場所から調べられて、つきまとわられるのは正直不快だな。
心の中で呟いた言葉を飲み込んで、可愛らしい2人の背後に歩み寄る。やっぱり2人が覗き込んでいるのは、衛の母宇野静子が大切にしていたアルバムだった。それには衛の父親と宇野静子が仲良く写っている写真がある。
「何2人でアルバム眺めてるの?」
「雪ー、まーちゃんにね、本当のお父さんの写真見せてた!」
へぇーと言う唐突に頭上から響く声に思わず麻希子が凍りつくのが分かる。決まり悪いんだろうなとは思うが、仕方がない。何時もと変わらぬ微笑みで見下ろすと、ぎこちない顔をした麻希子がソロソロと視線をあげていた。
※※※
衛がベットに入ってから、予想通り麻希子は竜胆貴理子から話を聞いたと白状した。竜胆という女は、衛の父親と雪の父親の事は何かを知っているようだ。しかし、それ以上にあの船舶事故で彼女も許嫁を失ったとは予想外だった。
それだから何か変わるわけではないが、実はあの八年前の大ニュースになった船舶事故には雪のもう一人の幼馴染みが大きく関係している。あの大事故は大型客船が海洋航行中に原因不明の破損により、たった数時間で乗員乗客の4割と共に海の底に沈んだ。原因はいまだ不明だが航海路線を大きく外れていたこともあって、船舶運行のプログラミングに不備があったのてはないかとか、船底を流氷が削ったのだとか様々な憶測が乱れとんでいた。
あの事故は偶然にしては残酷な現実を、幼馴染みの土志田悌順に突きつけていた。あの客船での旅は悌順自身が両親の銀婚式への贈り物として勧めたもので、しかも沈む直線の映像に悌順の両親が逃げたくても逃げられない船尾で叫ぶ姿を悌順に残した。あの画像をどんな思いで悌順が見ていたか、雪にも正直なところは答えられない。しかし、あの船舶事故を防ぐ方法があったかもしれないとは、フリーライタ-としても事故関係者としても飛び付くのは必然だろう。でも、それに何故自分や信哉まで関わるのかは、この状況では判断材料が少なすぎる。
それにしても、そこまで彼女に話させる麻希子は凄い
出来ることなら接触しないでいて欲しいのに、困ったことに今更ながら雪のお姫様は案外巻き込まれ安い体質のようだ。頭を掻きながらどうにか接触しない方法はないかと雪が思案すると、目の前の彼女は不安そうな視線で上目遣いに雪のことを見つめる。
そんな可愛い顔して、参るな。
1つ溜め息をついてから麻希子に向かって手まねくと、大人しく近づくものだから調子に乗ってポンと膝を叩いてここに座ってと示す。大人しく素直に膝に座るけど、男の膝に簡単に座ったらいけないと思うよ、お姫様。心の中でそう呟く。
「で、衛に聞いて何かわかったの?僕のお姫様。」
膝に座った麻希子が思わず立ち上がろうとしたのに、細い腰を手で引き留める。折れてしまいそうな細い腰を捕まえられて、アタフタする麻希子の様子は小動物みたいで本当に愛らしい。こんなに簡単に捕まえられて、全く困ったお姫様だ。
「あの人に言われて衛の父親が僕じゃないかって心配になった?」
その言葉に麻希子はピタリと動きを止めて、真っ直ぐに雪のことを見つめる。どうやらこの指摘は図星だったようだ。
「あ、それはさっき写真見たときちょっと。」
「だろうね。」
自分だって静子に初めて見せられた時は、唖然としたものだ。世の中には3人似た人間が居るとは聞くが、本当にソックリの人間がいるのを見せられると正直な感想としては不気味だ。しかも、相手はもう故人とは言え眼鏡以外間違い探しみたいな顔で名前も香坂と来たら、恐らく自分の本当の父親・香坂智春と親戚だったのではないかとは自分も思った。だが、香坂の家の人間と宮井の両親は何も関わりがなかったし、母親は香坂には親戚がいなかったと聞いていた。兎も角、今の自分には関係のない話なのだ。
それを知らぬ間に吹き込まれて、勝手に疑心暗鬼にでもなられては天使の笑顔が曇りかねない。抱き止めていた腰を引き寄せ腕の中にしておいてから、少し不満を露にする。
「何であの女の話を聞いちゃうのかな、麻希子。」
え?だって、隣で勝手に話したんだよ、話してくださいってお願いした訳じゃないんだけど。そう麻希子の顔が言っているが、そういう意味じゃない。あの女に関わらないようさっさと逃げてくれればいいのに、何で素直にあの女の話を聞いてるのかな。あえて目の前で近寄るなって釘を指したのは、麻希子だって近寄らないようにしてもらうためなのに。
「近寄るなってあいつに釘指しても、麻希子がこんな無防備じゃ俺は心配だよ。」
真剣な顔でそう言うと、麻希子は初めて疑問を感じたように首を傾げる。今更腕の中に抱き締められているのに気がついて、もがいても遅すぎる。腕の中の柔らかな体はもがくにも、華奢で儚い花のように無力で可愛らしい。
「雪ちゃんと衛の本当のパパが兄弟とか?」
「まさか。俺の親父は子供は俺だけ、しかも若い時に死んだから他に奥さんも子供もいないけど?」
そうなんだって納得した麻希子の顔は、あどけなくて無垢な天使そのものだ。大体にして名前と自分に似た顔立ちの父親の存在は幼い頃に母から聞いたが、産まれる前に死んでしまった人間の話をどうしろというのか。父もその事を知っていて母と結婚したと堂々と宣言するような両親だったのだ。そこにどんな他意が生じるのか、こちらの方が聞きたい。抱き締められて雪の膝に座っていることすら忘れている様だから、雪はあえて彼女に顔を寄せて抱き締めたまま柔らかい唇を奪っていた。
そのままなだれ込むところまでって正直なところ考えていたのは事実だ。何せ麻希子は大人しく抱っこされたままキスされて、そのままソファーに押し倒せてしまいそうな雰囲気。それを我慢しろという方が残酷なタイミングだった。腰を支えたままソファーに意図も容易くコテンと押し倒された麻希子の柔らかな髪が、手を擽るのを自覚しながらもう一度覆い被さりキスをする。
可愛いなぁ、大人しくキスされるのを待ってて。
肩に滑らせた手に目を閉じていた麻希子が、我に返ったように目を丸くして上目遣いに雪を見つめた。それって先に進んでいいの合図なんだろうか、そう都合よく判断しようとした瞬間麻希子が真っ赤になりながら告げたのだ。
「お嫁さんになるまではこれ以上はダメ!」
いや、うん麻希子。今ここでその反応はちょっと酷い。酷いというか、君はここまで来て気がついたのかと思わず脱力してしまう。大分その気になってしまっていた自分が、正直恥ずかしくなる絶妙のタイミングだった。
絶妙のタイミングで心を折られた雪は大人しく引き下がり、麻希子にパジャマを貸していつぞやのように寝室を提供する。勿論あのあとシーツは取り替えてあるし、あの女のいた気配なんて1つも残していない。
「雪ちゃぁん…。」
「なに?ま……。」
見た瞬間、悶絶しそうになったのはやむを得ない。
何しろ雪のパジャマの上だけを着た麻希子がオズオズと戸口から、雪の事を眺めているのだ。なんだ、この可愛いの。小柄な麻希子が着た俺のパジャマは袖を捲ってもまだ余る長さで、膝の少し上まででタフッと揺れている。下は恐らく大きすぎて履けなかったのは分かるが、分かるが!
「ベット借りちゃっていいの?」
目に毒だ。その格好、あれか?彼シャツとか言うやつか。野郎共が彼シャツいいって言う意味が、今さらだけど自分にも痛切に分かった。もうその姿は襲ってくださいって言われてるようにしか見えない。って言うかその格好で自分のベットで寝てる麻希子の姿の写メ欲しい。いや、これは個人的な妄想で、実行するかどうかは兎も角、
「お願いだから、ベットで寝てください。」
思わず頭を下げてそう言うので自分には精一杯だったが、自分ではよく我慢したものだと思うのだ。男としては情けないことこの上ないけど、相手は大事な麻希子なのだから涙を呑んで堪えるしかない。折角両思いなのにここで、嫌われでもしたら本当に目も当てられないじゃないか。ソファーの上でそう自分に言い聞かせて、目を腕で覆って寝ることにする。麻希子が自分のベットで寝てると想像するだけで、悶々とするのは仕方がないから必死に欲望を飲み込んだ。
そのせいでその夜の雪の見た夢は、はっきりいって欲望まみれだった。自分のパジャマの上だけを羽織った麻希子が、躊躇いがちに扉をあける。素足は細くて白くて、裾をはためかせると危うく下着が見えてしまいそう。上は下着はつけているのだろうかなんて、男なんだから考えてしまっても仕方がない。
…えと、雪ちゃん…。
躊躇いがちに上目遣いで囁く声が、ふっくらした唇から溢れ落ちてくる。咄嗟に腕を伸ばすと簡単に自分の上に乗ってしまう柔らかな肌は、薄手のパジャマなんかないに等しい。恥ずかしそうに裾を直そうとするけど、綺麗にしなって反り返る背中の先には色っぽい腰が捲れて見える。
ああ、最高、この眺め。
思わず神様に礼を言いたくなるような、扇情的な光景。可愛い雪の天使が薔薇色に頬を染めて、薄いパジャマ一枚羽織った姿で自分の腰の上に跨がっている。彼シャツの襟元から覗く白い柔らかそうな胸元に、捲れた腰の先に柔らかそうな丸みを薄い桃色の布が覆っている。
胸の上に乗っかってる麻希子の白い腰の辺りに手を滑らせた。
雪ちゃん、雪ちゃぁん。
甘えるようにねだるように名前を呼ぶ。可愛い甘い声が耳元に擽るように聞こえてくるのに、思わず顔を起こして薔薇色の頬に口づける。
たまんないなぁ、可愛いくて柔らかくて。夢の中なら先を続けてもバチは当たらないよな。
雪は少し上半身を起こして麻希子の頬だけでなく、いろんなところにキスをし始めた。腰に回した手はしっかり麻希子の事を自分の体に押し付け、押さえ込んだまま。熱をもった下半身に反応しているのか、はたまたキスのせいか天使は力がドンドン抜けていく。ヘニャンと雪の胸に崩れ落ちた薔薇色の頬は、色っぽく泣き出しそうに頭を振る。
たまんない、可愛すぎ。エロいし、そんな可愛く泣きそうな顔したら、我慢なんて出来るわけないでしょ。
腰から上に向かって素肌の背中に手が滑っていくと、擽ったさに思わずひゃぁっなんて可愛い声をあげる。胸の上で大分ずり上がったパジャマを押さえようとジタバタする麻希子の可愛らしさが欲望を刺激し過ぎて、もう半端な破壊力じゃない。こうなったらこの先に残るのが虚しい夢精でもなんでもかまわないと欲望のまま肌をなぞり、雪は喉の辺りに噛みつくように唇が触れさせた。
「やぁ…っ。」
「……ふふ、……可愛い…。」
甘い肌に赤く後が残ったのが、あまりにも現実的過ぎて雪は感激してしまう。俺の天使に首筋のキスマークなんて、天国だとしか思えない。雪の掠れた声に真っ赤になってしまった麻希子の顔が見える。もー出来ることなら今直ぐにお嫁さんにしてあげるから、このまま思いを一気にそいとげてしまいたい。
「雪ちゃん!寝惚けてじゃやぁっ!」
「えっ………。」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。寝惚けてない、これは夢な筈と言いたかった頭は、ほぼ同時に麻希子の言葉の意味を理解した。力が抜けた雪の手から抜け出したパジャマをグシャグシャにした麻希子が、自分の腰の上にあられもなく跨がってプルプルしている。
あれ?
乱れたパジャマの裾から覗いている太股が絶景なんて思ってる場合じゃない?首元に凄く鮮明なキスマークがついてる天使の姿は現実?そう思った瞬間、腰の辺りにあったクッションでボスッと殴りつけられていた。
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