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11月

187.デンドロビウム

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11月13日 土曜日
我が儘な美人に振り回された昨日の私。勝手に一人で話を終えて去っていったのではあるけど、気になる事を言い残してはいたんだ。雪ちゃんのお父さんの話。雪ちゃんのお父さんの伯父さんは、宮井浩一さんといってパパのお兄さんだ。伯母さんは外人さんでアリシアさんと言う名前だった。家には少しだけ写真が残ってだけど、伯父さん達の結婚式の写真はなくてママに聞いたら二人だけで結婚式をしてたみたいで誰も結婚式を見てないんだっていう。伯父さん達は雪ちゃんが産まれた辺りは、家からそう離れてない場所に住んでたみたいだ。雪ちゃんが中学になってから、駅の西側の山際の辺りに引っ越して喫茶店を始めてる。その辺りに私が遊びにいっているので、私の記憶の中の森の中のような喫茶店はその記憶なんだと思う。中学生の雪ちゃんの記憶もあるから、そこら辺は確か。でも、私が知ってるのは伯父さん夫婦だから、雪ちゃんに他にお父さんがいたなんてついこの間雪ちゃんが話してくれるまで知らなかった位だ。言われれば確かにパパに良く似た伯父さんは真っ黒の髪と真っ黒の瞳。確か黒い眼とか黒い髪って優勢遺伝なんじゃなかったっけ?あんまり生物得意ではないけど、確か青い目の人と黒い目の人が結婚すると殆ど黒い目になるんじゃなかったっけ?こんなことを竜胆さんに言われたからって考えてるなんて、自分でもおかしいなっては思うんだけど。

雪ちゃんの本当のパパさんは目の色が黒くないのかな?

それと衛の話は何が繋がるんだろう。気にしても無駄なことなのかもしれないって思うけど、正直なところ気になる。気になるのを放置しててモヤモヤするのも、何だか気持ちが悪い。

「ママ、私衛のとこに行ってくるねー、遅くなったら泊まってくるから。」
「麻希子ー、まーくんにこれ持っていってあげて。夜更かししたらダメよ?」

ママに衛へのお土産の梨を持たされ、しかも子供のお泊まり会みたいなことを言われて送り出される私。これってママはなんとも思ってないってことなのか、いいのかなぁ。いや、騒動になるよりはいいんだろうけど。



※※※



「僕の写真?」

衛のアルバムを見せてもらっていると、その先に宇野静子さんが写っている。宇野さんは病気で入院する前の看護師さんの姿の写真もあって、溌剌とした白衣姿は看護師が好きだったんだろうなって思う。それを遡って見ていたら、衛が乗り出すようにして指差した。

「まーちゃん、この人ね、僕の本当のお父さんだよ。」

その写真を見た瞬間、え?雪ちゃんじゃんって正直者思ったけど、よくよく顔を見てみると確かに雪ちゃんに似てはいるけど別な人だ。でも、この人は眼鏡をかけてないけど、顔は凄く雪ちゃんに似てる。あの女の人が言ってたのはこの事なんだろうか?雪ちゃんと良く似た衛のお父さんは、雪ちゃんと何か関係があるとか?そんなドラマみたいな展開あるのかな。

「僕の名前ね、本当のお父さんの名前なんだよ。」
「衛?」
「うん、お父さんね、香坂衛って言うんだよ。」

え?

「こうさか?」
「うん、お母さん言ってた、かおるさかで、香坂衛。お父さんはイケメンなのにちょっと残念な人だったのよーって。」

残念ってイケメンなのに何が残念なの?それより香坂って名字、そんなにあるものなんだろうか?私の頭に浮かんだのは智美君の顔で、香坂って名字は彼が初めて聞いた人だ。でも、智美君の顔と雪ちゃんの顔が何処と無く似てるってずっと思ってたし、衛は血が繋がってない筈なのに雪ちゃんと似てるよなぁって何処と無く思ってた。いや、智美君が大人になったら雪ちゃんみたいになるんだろうなぁ位は考えてた、正直なところ。グルグルしてるけど、もしかしたら雪ちゃんの本当のお父さんと衛のお父さんは関係があるとか?いや、ちょっと待ってこの写真って今から8年前とかでしょ?衛のお父さんって殆ど雪ちゃんと年が変わらないように見える気がする。

「衛のお父さん若いよね?」
「うん。」

素直に頷かれるけどどう見ても雪ちゃんと同じくらいだ。そう考えると余計に頭がグルグルしてしまう。雪ちゃんと衛のパパは、兄弟くらいの年に見えるんだけど。雪ちゃんの本当のお父さんが、衛のお祖父ちゃんだとか?うー、ワケわかんない。

「何2人でアルバム眺めてるの?」
「雪ー、まーちゃんにね、本当のお父さんの写真見せてた!」

へぇーと言う唐突に頭上から響く声に思わず私は凍りつく。なんか、決まり悪いよね、この状況。だって、竜胆さんの話が気になって、コソコソ調べてるみたいなものだもんね。見上げた視線の先には雪ちゃんが普段と変わらない笑顔で私達を見下ろしていて、余計に決まり悪い感じ。その顔に気がついた雪ちゃんが首を傾げて、私の顔を見下ろしていた。



※※※



衛がベットに入ってから、私は素直に竜胆さんから聞いた話を雪ちゃんに全部話した。暫くすると雪ちゃんは少しあきれたみたいに頭を掻くと、溜め息をついてから私を手まねく。大人しく近づくと、ポンと膝を叩いてここに座ってと示された。

「で、衛に聞いて何かわかったの?僕のお姫様。」

うえ?!何言い出すの雪ちゃん。頭どうかした?!思わず立ち上がろうとした私の腰を雪ちゃんの手が引き留める。アワアワしてる私を何ともない顔で膝にのせて、雪ちゃんは私を見上げると口を開いた。

「あの人に言われて衛の父親が僕じゃないかって心配になった?」
「あ、それはさっき写真見たときちょっと。」

だろうね、と雪ちゃんが呟く。雪ちゃん自身も初めて写真を見た時には驚いたらしい。そりゃ、凄く似てるもん、驚いちゃうよね、普通。って雪ちゃんも驚いたんだって納得してたら、雪ちゃんは私の事を抱き寄せて少し不満げな顔をする。

「何であの女の話を聞いちゃうのかな、麻希子。」

え?だって、隣で勝手に話したんだよ、話してくださいってお願いした訳じゃないんだけど。そう言う意味じゃないって、私を抱きしめたまま雪ちゃんが言う。あれ?ならどういう意味なの?

「近寄るなってあいつに釘指しても、麻希子がこんな無防備じゃ俺は心配だよ。」

真剣な顔でそう言われて、あれ?私雪ちゃんに抱っこされて話をしてる?って気がついた。しかも、雪ちゃんが僕から俺に変わってるんだけど。そして、抱き締める力が強いんだけどね?

「雪ちゃんと衛の本当のパパが兄弟とか?」
「まさか。俺の親父は子供は俺だけ、しかも若い時に死んだから他に奥さんも子供もいないけど?」

あ、そうなんだっていつの間にか、雪ちゃんの顔が近いです!目の前の雪ちゃんの顔に驚く間もなく、雪ちゃんに抱きしめられて膝の上に乗せられたまま唇を奪われていた。


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