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11月
185.カラスウリ
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11月11日 木曜日
香苗はインフルエンザのせいで少し痩せたと話していたけど、見た感じは変わらず元気そう。良き便りって訳じゃないけど、うちのクラスは今のところ新しいインフルエンザ患者は出てないし、3年生のクラス閉鎖も解除になったみたい。だけど、インフルエンザウイルスは男嫌いなのか、ミズ櫻井がインフルエンザになったらしい。先生お気の毒、確か独り暮らしな筈。
私達のお昼タイムに仁君が加わったのは、この日。仁君はまだ他の子とは慣れていないし、お弁当を食べるほど一緒にいる人もまだ出来ていない。私と香苗が誘ったらいいのって子犬みたいな顔をするし、いい案だと思う。まあ、不貞腐れた顔をした人は勿論いたんだけど、孝君には爽やかに仁君に好い人って思われたら鳥飼さんにポイント高いよねといったら簡単に折れた。ほんと、孝の鳥飼さん好き過ぎって、ちょっと時々ひく位だよね。だけど、仁君がしっかりお弁当持参なのには、一瞬ドキドキした。まさか鳥飼さんてばお弁当作ってくれるの?!って心のなかで突っ込み入れてしまう。
「義人が作ってくれた。」
「えー、義人さんのお弁当なの?」
あ、安心した、流石にお弁当はセンセの従弟のお兄さんが自分達の分のついでに作ってくれるらしい。これで仁君が鳥飼さんにお弁当作ってもらってたら、絶対孝君が仁君のお弁当を取り上げてしまいそうだ。そんなことを考えもするけど仁君は案外人懐っこい感じで、香苗とはもう仲良くしてるし智美君とも普通だ。こうしてみると全然記憶喪失だなんて見えない。
「何で居候してんの?」
「ん、家の事情。」
「土志田センセの家でも良かったんじゃない?」
「うん、でも、信哉がいいからって。」
仁君、上手いこと自分の記憶喪失には、触れてないけど違うものに触れてる。孝君の顔が能面に変わってるけど、あえて気にしないでおこう。
思ったより誠実な感じのする仁君が、驚愕の運動能力を見せたのは、その後の体育の時間のことだった。女子はバレーボールで、男子はバスケットボールの体育の時間。ワッと歓声が上がったのに振り替えると、ボールを持った仁君が全くディフェンスをものともしない速度でドリブルしたかと思うと軽々とゴールポストのゴールに片手をかけてダンクシュートをしたのだ。ってどんな風にジャンプするとあのゴールのとこに手が届くの?あそこって3メートル位あるよね?その後もスリーポイントなんか迷いもなく軽々入れるし、他のメンバー交代するまで仁君は大人気だ。
ネットの横に座って眺めてた見学の智美君の横に、私はネット越しに座って小さい声で囁く。
「何か、仁君って運動神経破格過ぎじゃない?」
「確かにね。」
「智美君が学力なら、仁君は運動かな?」
思わずそういうと智美君は、溜め息混じりに呟く。
「自分のスペックが理解できてないんだろ、きっと。」
その言葉から智美君も恐らく鳥飼さんから、仁君が記憶喪失なのは聞いているみたいだ。確かに仁君は自分の余力とか能力とかを全く気にもとめてないように見える。何かそうだな、火事場の何とかって言うのでフル活動している感じなんだ。記憶がないから自分はこれくらいまで出来るっていうのが分からないって言うのは、確かに見ていても感じるけど。知らなかったらただスーパーマンみたいに見えちゃうだろうな。
「ハイスペックかもしれないけど、過剰発揮の可能性もあるんだろうね。」
「止めないの?」
「止めて止まるもんか。そういうのは子供の時から自分で体感して学ぶんだよ。普通は記憶がなくても体が覚えてる筈だ。」
そっか、そういわれれば確かに、筋肉痛とか疲労感って他人が言うことじゃない。そう言うのって自分の体で感じて分かるものではある。でも、記憶がなくなったらそれも忘れちゃうんだろうか。だとしたら色々な経験をもう一度やり直さないといけない事になる。それってある意味では凄く可哀想なことなのかも。
「何で、私と智美君に相談なのかな?」
「麻希は周りをよく見てるから、異常なら止められるだろ?」
「智美君は?」
「まあ、経験値かな。」
経験値って仁君みたいな人を見たことがあるってこと?どちらにしても、あんまり私が便りになりそうな気はしない。もしかしたら、仁君的には周りより破格の運動神経でも普通の事なのかもしれないし。そんなことを考えながら膝に頬杖をついていると、彼がまたゴールリングに手をかけてぶら下がるのが見えた。見てると凄く不思議なヒトだなぁって染々、周りがキャアキャアしてるけど流石に土志田センセが仁君を交代させてる。仁君はキョロキョロと辺りを見渡したかと思うと、子犬がお母さん犬を見つけたみたいに私達の方に駆け寄ってきた。
「何でこんなに離れて見てるんだ?麻希子、智美も。」
「僕は体育見学。」
「私、休憩中。」
当然みたいに智美君の隣に座った仁君は、流石に息がきれてて汗だくだ。やっぱり見てるとフルパワーで駆け回ってる子供っぽい。
「もう少し力抜かないとぶっ倒れるよ?仁。」
「んー?そっか、よくわかんないけど、なんか走れるの楽しかった。」
智美君の声に素直に頷いた仁君だけど、楽しかったらまあいいのかなぁ?
香苗はインフルエンザのせいで少し痩せたと話していたけど、見た感じは変わらず元気そう。良き便りって訳じゃないけど、うちのクラスは今のところ新しいインフルエンザ患者は出てないし、3年生のクラス閉鎖も解除になったみたい。だけど、インフルエンザウイルスは男嫌いなのか、ミズ櫻井がインフルエンザになったらしい。先生お気の毒、確か独り暮らしな筈。
私達のお昼タイムに仁君が加わったのは、この日。仁君はまだ他の子とは慣れていないし、お弁当を食べるほど一緒にいる人もまだ出来ていない。私と香苗が誘ったらいいのって子犬みたいな顔をするし、いい案だと思う。まあ、不貞腐れた顔をした人は勿論いたんだけど、孝君には爽やかに仁君に好い人って思われたら鳥飼さんにポイント高いよねといったら簡単に折れた。ほんと、孝の鳥飼さん好き過ぎって、ちょっと時々ひく位だよね。だけど、仁君がしっかりお弁当持参なのには、一瞬ドキドキした。まさか鳥飼さんてばお弁当作ってくれるの?!って心のなかで突っ込み入れてしまう。
「義人が作ってくれた。」
「えー、義人さんのお弁当なの?」
あ、安心した、流石にお弁当はセンセの従弟のお兄さんが自分達の分のついでに作ってくれるらしい。これで仁君が鳥飼さんにお弁当作ってもらってたら、絶対孝君が仁君のお弁当を取り上げてしまいそうだ。そんなことを考えもするけど仁君は案外人懐っこい感じで、香苗とはもう仲良くしてるし智美君とも普通だ。こうしてみると全然記憶喪失だなんて見えない。
「何で居候してんの?」
「ん、家の事情。」
「土志田センセの家でも良かったんじゃない?」
「うん、でも、信哉がいいからって。」
仁君、上手いこと自分の記憶喪失には、触れてないけど違うものに触れてる。孝君の顔が能面に変わってるけど、あえて気にしないでおこう。
思ったより誠実な感じのする仁君が、驚愕の運動能力を見せたのは、その後の体育の時間のことだった。女子はバレーボールで、男子はバスケットボールの体育の時間。ワッと歓声が上がったのに振り替えると、ボールを持った仁君が全くディフェンスをものともしない速度でドリブルしたかと思うと軽々とゴールポストのゴールに片手をかけてダンクシュートをしたのだ。ってどんな風にジャンプするとあのゴールのとこに手が届くの?あそこって3メートル位あるよね?その後もスリーポイントなんか迷いもなく軽々入れるし、他のメンバー交代するまで仁君は大人気だ。
ネットの横に座って眺めてた見学の智美君の横に、私はネット越しに座って小さい声で囁く。
「何か、仁君って運動神経破格過ぎじゃない?」
「確かにね。」
「智美君が学力なら、仁君は運動かな?」
思わずそういうと智美君は、溜め息混じりに呟く。
「自分のスペックが理解できてないんだろ、きっと。」
その言葉から智美君も恐らく鳥飼さんから、仁君が記憶喪失なのは聞いているみたいだ。確かに仁君は自分の余力とか能力とかを全く気にもとめてないように見える。何かそうだな、火事場の何とかって言うのでフル活動している感じなんだ。記憶がないから自分はこれくらいまで出来るっていうのが分からないって言うのは、確かに見ていても感じるけど。知らなかったらただスーパーマンみたいに見えちゃうだろうな。
「ハイスペックかもしれないけど、過剰発揮の可能性もあるんだろうね。」
「止めないの?」
「止めて止まるもんか。そういうのは子供の時から自分で体感して学ぶんだよ。普通は記憶がなくても体が覚えてる筈だ。」
そっか、そういわれれば確かに、筋肉痛とか疲労感って他人が言うことじゃない。そう言うのって自分の体で感じて分かるものではある。でも、記憶がなくなったらそれも忘れちゃうんだろうか。だとしたら色々な経験をもう一度やり直さないといけない事になる。それってある意味では凄く可哀想なことなのかも。
「何で、私と智美君に相談なのかな?」
「麻希は周りをよく見てるから、異常なら止められるだろ?」
「智美君は?」
「まあ、経験値かな。」
経験値って仁君みたいな人を見たことがあるってこと?どちらにしても、あんまり私が便りになりそうな気はしない。もしかしたら、仁君的には周りより破格の運動神経でも普通の事なのかもしれないし。そんなことを考えながら膝に頬杖をついていると、彼がまたゴールリングに手をかけてぶら下がるのが見えた。見てると凄く不思議なヒトだなぁって染々、周りがキャアキャアしてるけど流石に土志田センセが仁君を交代させてる。仁君はキョロキョロと辺りを見渡したかと思うと、子犬がお母さん犬を見つけたみたいに私達の方に駆け寄ってきた。
「何でこんなに離れて見てるんだ?麻希子、智美も。」
「僕は体育見学。」
「私、休憩中。」
当然みたいに智美君の隣に座った仁君は、流石に息がきれてて汗だくだ。やっぱり見てるとフルパワーで駆け回ってる子供っぽい。
「もう少し力抜かないとぶっ倒れるよ?仁。」
「んー?そっか、よくわかんないけど、なんか走れるの楽しかった。」
智美君の声に素直に頷いた仁君だけど、楽しかったらまあいいのかなぁ?
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