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10月

174.ヘリコニア オレンジ

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10月31日 日曜日
文化祭2日目のお昼前、雪ちゃんと衛が来ると約束していた時間が来て私は慌てて昇降口に向かおうとしていた。そしたら予想外の場所から人が出てきて、思わず体当たりしてしまう。

「きゃあ!」
「おっと!ごめん!」

予想外に屋上からの階段から降りてきたのは、昨日と同じ女装姿の源川先輩だった。屋上から降りてきたってことはコッソリ隠れて休憩してたのかな。注目の的だった源川先輩の女装姿だけど、あんまり脚光を浴びすぎて屋上くらいしか隠れる場所が無かったのかも。咄嗟に先輩が転びそうになっている私の腕をとって、転ばないように引き留めてくれた。

「仁聖、お前本当に注意力散漫だな。」
「えー、恭平が言う?」

あれ?先輩ってこんな風に人に甘えるような喋り方するんだ、なんて考えてた私の視界には先輩より少し年上だろう黒髪の男の人がいる。まあ、そんなことを思うほど先輩の喋る所を知ってるわけじゃないんだけど、全校集会の時の凛とした声とは全然違って優しくて甘える感じ。これなら確かに女の人が放っておかないんだろうなって声だ。一緒な所を見るとお家の人なのかなって思うけど、源川先輩が名前で呼んだところを見るとお友達なのかもしれない。源川先輩から大丈夫?って優しく微笑みかけられて、私は慌ててペコンと頭を下げて大丈夫ですって返事をする。

「まーちゃん!玄関まで来てくれる約束だよぉ!」
「まー、ごめん!中々出られなかったんだよ!」

先輩の背後から衛の声が響いて、私が慌てて声をあげる。その声の先にいる雪ちゃんが少し驚いたような顔で、源川先輩達を見て頭を下げたのに私は気がついた。それ以上言葉を交わした訳じゃないけど、後から聞いたら雪ちゃんが驚いたのは源川先輩じゃなくて後ろの男の人の方でお仕事で関わりがある人だったんだって。鳥飼さんといい松理さんといい出版社が近いから、そう言う関係の人がそこら辺近くに多いのかなぁ。そんなことを考えてたら、衛のたっての願いで再びお化け屋敷の洗礼を受けるはめに。
一回やってるから大丈夫だって思う?甘い!だって雪ちゃんが何でか《極小》を引いちゃうんだもの。衛がいるから色々なカウントダウンがゆっくりで助かったけど、明かりが殆ど明かりとしての役割を果たしてくれない。結局散々悲鳴を上げて雪ちゃんの腕にしがみついて歩いた私と衛。雪ちゃんが悶絶してるのは私達の事で笑い出すのを必死で堪えてたんだと分かるけど、だってしょうがない怖いんだもん!バックヤードの笑い声が本気で恨めしかった、2回目だって分かってるけど!分かってるけどーっ!
雪ちゃんと衛と校内を歩いて、衛が3年6組で縁日のヨーヨー釣りとか、わたあめをねだったり。ジェットコースターをしたクラスもヤッパリあって、手製のコースターって案外スリル満点だったり。楽しんだ所で雪ちゃんとピンクのウサギが出会って、雪ちゃんが大爆笑する珍しい姿を見ることになった。昇降口で二人を見送って教室にもどると、丁度パパ達が私と香苗の絵を見てきたよーって顔を見せてくれたり。


※※※



あっという間に文化祭の喧騒が終わって、後夜祭開始の放送が流れてる。後夜祭は校庭に出るのも、ベランダから見るのも自由なんだけど。2年生の特権で3階ベランダから皆で眺める。
結局3年1組の底力には勝てなかった。それでもうちのクラスはだいぶ健闘して2年ではダントツの1位だったけど、総合ではギリギリ接戦の3位だった。3年6組が縁日で後半結構集客してたのに、前半で引き離していたのを最終的に追い付かれてしまったみたい。でも、脱出ゲームがあった分お化け屋敷としては集客は良かった。負けちゃったのは脱出ゲームの難易度で、回転率が悪かったところだって智美君が肩を落としてる。難しければいいって訳でもなくて、集客力と回転率のバランスをとらないと駄目だったんだ。2日間しかないからって簡単にしすぎては、2日目にお客さんが飽きちゃうし。本当こういうのって企画がしっかりしてないと。
部活動部門は基本集客数を見てるんだけど、茶道部がダントツで1位で毎年1位の家庭部に雪辱を果たしたって盛り上がっている。食品関係が強いかと思えば、3位は写真部の現像体験が集客したみたい。アイデア次第で美術部も何か出来たかも。書道部なんて、でっかい筆で書き初めショーをしてたそうだ。
センセ達は勿論うちの担任って言いたいところだけど、キグルミは持続性が低くて余り面白くなかったらしい。体力お化けの土志田センセは置いといて、何故か越前先生のペンギンキグルミが個人特別賞。ヨチヨチ歩く姿が可愛かったんだって。
センセチーム戦は、ミズ櫻井チームのフルメイクゾンビの3人組に軍配が上がった。2日間ゾンビメイクで過ごしたミズ櫻井達は、確かに凄いなぁ暑くなかったのかな。

後夜祭の放送を聞きながら、校庭の真ん中で篝火にベニヤ板借りだしではない木材とかを持ち出して燃やしてるのをベランダに並んで眺めている。何だか色々な事が準備の時に起きたけど、何とか無事終了出来て良かったなぁって皆で話していた。智美君も2日間お化け屋敷のライト係りとか、色々な事をしてたけど楽しかったみたい。

「文化祭、面白かった?」
「うん、楽しかった。初めてこんなのやったよ。」

穏やかな笑顔で篝火を眺めてる智美君。初めてだって言うのは文化祭自体なのかなってその横顔を眺める。そんな智美君の横顔は、少し雪ちゃんと似てるところが見える。何で似てるって思うのかな、そう言えば源川先輩も似てる感じって思ったけど。確かに雪ちゃんと智美君は顔もちょっと似てるけど、源川先輩は顔も全然似てないのになぁ。そんなことを考えながら皆で篝火を眺めていると、終わりかけている文化祭の事を考えて少し感傷的になる。雪ちゃんと衛も来てくれたし、直前の事故のことも木村君の事も。あっという間に終わってしまうんだって思ったら、思わず涙が溢れてしまう。

「何泣いてんの?」
「そう言う香苗も泣いてるじゃん~。」

何でか皆で泣いてる女子を眺めて、若瀬君や智美君が呆れたように笑っている。これで文化祭はもうお仕舞いで、この後は明日後片付けだ。来年も楽しい事が出来るようだといいなって思いながら、篝火を見下ろして皆で顔を寄せあって泣いてしまった。




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