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10月

166.タマスダレ

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10月23日土曜日。今日は初めて孝君のお家にお邪魔することになった。って言うのも孝君のお家から、幾つか小道具をお借りすることになったのだ。お化け屋敷に使う簾とか、桶とか古い襖とか使わないから倉にあるって。って言うか倉まであるのか、あのお家凄い大きい上に忍者屋敷で倉って時代劇の世界だなぁ。男子も含めて数人で、少し期待しながら孝君の家の門の前に立つ。

ふえー、やっぱり門からしてお屋敷。

私と香苗は見てたから知ってるけど、流石に知らない子もいて唖然としている。門から玄関までだって、大きな敷石があってどう見たって時代劇の様相なのだ。お庭が日本庭園みたいになってる上に、その先に玄関とは違う大きな出入り口のある道場迄見えてる。

「おはようございます。」

玄関前を竹箒で掃いていた女の人が、にこやかな微笑みを浮かべ私達の姿を見つけて箒を置くと近づいてきてくれた。そうじゃなかったら私には、玄関まで行くのだって躊躇ってしまいそう。綺麗で可愛らしい感じの女の人はニコニコしながら私達を中に促してくれるけど、お着物を着こなしているせいか年齢が分かりにくい。何処かで見た気がするけど、何処でだったか思い出せない。若そうに見えるけど孝君のお姉さん?あれ?お姉さんなんていたんだっけ?鳥飼さんがお兄さんだとは聞いたけど、他の家族構成って余り聞いたことがないなぁ。浦野くんは小学校が一緒だったらしいけど、お家に来たのは初めてらしくて緊張顔でその人を不思議そうに見ている。

「どうしたの?」
「あ、いや、お姉さんいたっけ?って。」

浦野君も私と同じこと考えてたみたい。以前孝君と喧嘩(一方的に転ばされた?)した近藤君も、孝君のお家の凄さに唖然としながら口を開いた。

「剣道場ですか?お姉さん。」

あらぁとニコニコしながらその女性は振り返ると近藤君に、純真無垢みたいな微笑みを向けて気がついたように私達を見渡した。純白な愛の象徴みたいな白の割烹着に、もしかしてお姉さんじゃなくて、まさかの若いお手伝いさん?!と私がドキドキしていると慌てたような声が響いた。

「母さん!何やってるの!」

ええ?!まさかのお母さん?!若いよ?!どう見たって綺麗で若くて、子供産んでる人に見えない。孝君が慌てて出てくるのに、どうやらお母さんは同級生を見たくて玄関のお掃除をしていたみたいだ。お、お母さんなのかぁ。子供みたいな可愛い人だなぁ。

「タカちゃんのお友達と会いたかったんですもの。」
「家の中でも紹介できるでしょ!何も表で待ち構えなくてもいいって!」

慌てふためく孝君の服装が普段の洋装じゃなくて、白地の袴姿なのに近藤くんが目を丸くする。そっか、孝君合気道の練習してたんだって私が言うと、孝君は一先ず入ってとお母さんごと私達を家の中に通してくれた。ふえー、早紀ちゃんの時も思ったけど、それ以上だった。玄関からして家の3倍あるし、廊下も2倍だ。しかも、やっぱり家政婦さんがいる!お着物の家政婦さんが2人もいるなんて!思わずかしこまってしまう私達に、着替えに行ってくると姿を消した孝君の代わりにニコニコしながら孝君のお母さんが私達を歓迎してくれる。

「タカちゃん、中々お友達連れてきてくれないのよ。心配してたの。」

なんかすっごいイメージと違うお母さんに、私達はポカーンとしてしまう。なんでだろお屋敷の奥様だと考えてたからなのか、もっと怖い感じの女傑が着物を着ているイメージだった。と、突然お母さんの背後の障子を開いて、こちらはハッキリお父さんだと分かる男性が顔を覗かせる。

「あら、成孝さん。タカちゃんのお友達ですって。」

おはようございますと私達が頭を下げると、成孝さんと呼ばれた人は人懐っこい笑顔を浮かべた。あ、その笑顔、孝君もだけど凄く鳥飼さんに似てるかも。やっぱりこの人鳥飼さんと孝君のお父さんなんだなあって私が一人で感心してたら、お父さんは私の事を不思議そうに眺め返した。

「何か顔についとるかね?」
「あ、いえ、孝君の笑い顔に似てるなって。」

それを聞いたお父さんは何故か少し驚いた様子で、そうかねと再びニッコリと微笑むとゆっくりしていきなさいと皆に声をかけて家政婦さんに茶菓子を出すようにと言って歩いて行ってしまった。その様子をお母さんは少し可笑しそうに見送るのを、私達がなんでだろって眺める。

「ごめんなさいね、成孝さんたら恥ずかしがっちゃって。」

え?そうなの?そうは見えないんだけど、そっかこんなに一気に見られたら確かに恥ずかしいかも。って思ったらどうも違ったみたいで、お母さんが内緒話みたいに私に教えてくれる。あんまり孝君と似てるって言う人がいないから、私に言われて照れちゃったのよって。ええ?そうなんだって思っていたら、孝君が濡れた頭にタオルを乗せて何時もみないラフな格好で姿を見せる。

「母さん、まさか父さんまで来てないよね?」
「もう来て、恥ずかしがっちゃっていっちゃったわよ?」

呆れたように孝君が2人とも何してんですかと言いながら、部屋にはいってきた。その後お茶とケーキをいただいてから、いよいよ倉にって廊下を歩いている最中、私と香苗はハッと思い出して孝君の腕を掴んだ。

「なっ何?!」
「孝君!孝君の家忍者屋敷なんでしょ?!」
「みたい!クルンって回るの!!」
「はあ?!さ、早紀だな?」

孝君が私達が誰から聞いたか気がついたみたいに眉をしかめたが、もう遅い。クラスメイト皆の期待の目に、孝君は諦めたみたいに仕方がないと呟いた。


本当に床の間の壁がクルンって回る仕掛けがある家が、普通の住んでる家であるなんて。って皆で大盛り上がりしてるのに、何故か孝君のお父さんがそんなんで盛り上がっとるのかと参加していた。お父さんは案外子供みたいな人で、別に隠すもんでもないとここを踏むとなと教えてくれて孝君が今まで知らない床に扉があるのを見せてくれた。

「おじさん、何でこんなに色々仕掛けがあるの?」

もうなんか盛り上がりが凄くて、ワイワイしてたけど孝君のお父さんは古武術って言うのも教えてるんだそうだ。詳しくはわからないけど合気道とは少し違って、忍術みたいなものも含まれてるみたい。それを教えるってことは元は忍者さんなわけ?!って事なのか。元々長く住んでいてリフォームはしてるけど、家屋自体も古いのでこういう仕掛けは勿体ないから残してきたみたい。全部で幾つあるんですかって皆がワクワクしながら問いかけたら、それは内緒って言われて息子の孝君までエエって顔してたのは何でなんだろう。


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