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10月
158.ミセバヤ
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文化祭までは残り2週間の金曜日。教室の後ろのベニヤ板と大道具や小道具の量は日に日に増えている。慎ましさなんて何処吹く風で置かれている小道具の衣装は、夜に見回りに来た先生が驚くからと段ボールに入れなさいと言われる出来だ。確かに薄暗いところにこれがハンガーにかかってて、ハンガーの頭の部分にウィッグが乗ってたら正直誰かが立ってると思っても可笑しくない。って私だったら悲鳴を上げる自信があるけど、どうやら音楽の岸野先生が実際に昨日悲鳴を上げたらしい。先生も災難だなぁ、きっと夕暮れ過ぎの薄暗いところで、これがぶら下がってるのをみたんだろうなぁ。早紀ちゃんの様子は何時もとかわりなく見えてるし、香苗や智美君も特にかわりなく接してる。孝君は相変わらず女の子に追い回されているから、変化は分からないけど。それにしても孝君の追っかけが、逆に日に日に増えてる気がするのは何でだろう。孝君がウンザリ顔でいるのに、それでも追っかけをしている子達は気がつかないのか呼び出しに来ている。孝君も流石に我慢仕切れないんじゃないだろうかって智美君と話してだけど、ヤッパリ限界間近だったみたいだ。
「もういい加減にしてくれないか?!」
教室の入り口でそう声をあらげた孝君に、クラスの皆が目を丸くする。優等生仮面が限界になることがあるって誰も考えなかったってとこは、正直なところ孝君が怒るのも仕方ない。大切なあなたに一番の存在にして欲しかったって気持ちは分かるけど、相手にだって感情ってものがあるんだもん。四六時中追い回されたら流石に疲れるよ。
「皆に伝えてくれればいい。僕にだって好きな人くらいいるって!」
あーあ、遂に半ギレして盛大に孝君が女の子達に向かって宣言してる。女の子達は毎回一人ずつ孝君を呼び出して告白してるんだから、毎回孝君はあの時みたいに同じ事を答えてるんだよね。先月からここ迄に何回同じことを言ったんだろうって、孝君だってウンザリだよね、確かに。それにしても大声になってる辺り案外孝君って短気なとこがあるんだなぁって、染々してたら早紀ちゃんが心配そうに孝君を見てる。そうだね、孝君の事だもん、早紀ちゃんだって気になるよ。私の視線に気がついたみたいに、早紀ちゃんが少し苦い微笑みを浮かべてる。難しいよね、確かに。
女の子達は流石にスゴスゴと皆散り散りになったけど、孝君の不機嫌は完全に顔に出てる。スタスタ戻ってきて不貞腐れた顔で座る孝君に、皆が何と反応していいか分からない顔で眺めていて。不機嫌になるのは仕方がないけど、クラスの雰囲気まで落ち込むのは困る。何か無いかなぁって考えてた私は、思い出したようにお昼に出すつもりだった物を取り出した。
「ねぇ孝君、アーンして。」
「はぁ?!」
不機嫌満載で答えなくてもいいから口開けてって言うと、少し孝君が恥ずかしそうに赤くなったのが分かる。いいから口開けてよって追い討ちをかけると渋々口を開けてくれたから、その口にビスコッティを捩じ込んだ。細長いビスコッティは一口でゴックンとはいかないから、不貞腐れた顔してるのなんて無理なんだ。大人しくモグモグしてる孝君に、智美君が自分にもと手を出してる。って言うかいつの間にか皆して手を出してるけど、食後の分がなくなるよ?折角食後のデザートって思って焼いてきたビスコッティが、二時間目の休憩時間に全部消えることに。
「ビスコッティっていうの?ドライフルーツ入ってる?」
「こっちのアーモンド?」
ワイワイしてたら不機嫌だった孝君が諦めたみたいな溜め息をついて、少しだけ機嫌が戻ったような顔をする。
「全く、宮井には敵わないよ。」
「え?かなうも何も、お腹へると不機嫌になるじゃん。」
「子供じゃあるまいし。」
そうは言いながらも孝君の不機嫌は解消したんだから、正直なところ甘いもののお陰で機嫌がくなったようにしかみえない。ただ、その向こうで少しだけ早紀ちゃんの表情が、暗いのに気がついた私はあれって少し疑問に感じた。何か早紀ちゃんの表情が暗くなったのは、私のせいじゃないかって気がしたんだ。
※※※
孝君と早紀ちゃんが文化祭実行委員会に行った放課後、図面をみながら脱出ゲームのやり方を具体的に手順として作っている智美君達が見える。ベランダからは運動部の練習の声が聞こえていて、曇り空の重さとはかけ離れている感じ。香苗と2人で並んで、ベランダから下を眺めながら私は小さい声で香苗と話す。
「何か私、悪いことしたかな?」
「多分してない。」
香苗も同じように小さな声で答える。多分ってとこが不服だけど、早紀ちゃん本人に聞いてる訳じゃないから妥当な答え方なんだろう。悪いことはしてない、それなら早紀ちゃんはどうして暗い顔をしたんだろうって呟く。
「本人に聞けば?」
「答えてくれるかな?」
その質問に香苗が少し考え込む。もし自分が早紀ちゃんだったらって香苗が考えてるんだってことは、私も横を見なくても分かる。
「私だったら言わない。」
「駄目じゃん。」
「駄目だね。」
んー、と悩んでみるけどヤッパリ答えは早紀ちゃんに聞くしかない。野球部の練習の隅で浦野君と木村君が顔をあわせて何か話しているのを眺めながら、私はヤッパリ早紀ちゃんに聞いてみると香苗に告げる。そう言うと香苗は麻希子らしいってまた笑っていた。
※※※
香苗はおばさんの腰の具合が今一だって先に帰って、私だけが早紀ちゃんが来るのを待った。早紀ちゃんは戻ってきて少し驚いた見たいたけど、一緒に帰ろうって言った言葉にはにかむように微笑む。孝君は生徒会の仕事に行ったらしくて、私と早紀ちゃんは2人で並んで歩き出した。何て聞いたらいいか迷っていたら、早紀ちゃんは少し微笑みながら私にごめんねと小さく呟いた。
「あの時麻希ちゃん、気がついてたの分かったの。」
早紀ちゃん自身も暗い表情を浮かべたのに気がついてたんだ。それに、私も気がついてしまったのも。早紀ちゃんは少しだけ俯いて言葉を続けた。
「麻希ちゃんが羨ましい。」
「え?!」
予想外って言うか、早紀ちゃんは前にも同じような事を私に言ったことがある。何で完璧なお嬢様で綺麗な早紀ちゃんは、私のことが羨ましい何て思うのか私にも分からない。お互いに違う部分があるから羨ましいのかな。私は早紀ちゃんみたいな大和撫子が羨ましいし、今は香苗のサッパリした感じで隠し事のない性格も羨ましいなって感じてしまう。全然違うから羨ましくなるのかな。
「今日だって、あんな不機嫌なタカちゃんの機嫌をよくするなんて私には出来ないもの。」
え?あれってただ口にお菓子を捩じ込んだだけだよって私が言うと、それを考え付きもしないし実行も出来ないって早紀ちゃんは言う。そっか、遠慮もしないであんなことするとこは、確かに早紀ちゃんみたいにおしとやかな子には出来ないよね。そう納得した私に、予期しない言葉が聞こえた。
「だから、タカちゃんは、麻希ちゃんが好きなんだよ。」
「もういい加減にしてくれないか?!」
教室の入り口でそう声をあらげた孝君に、クラスの皆が目を丸くする。優等生仮面が限界になることがあるって誰も考えなかったってとこは、正直なところ孝君が怒るのも仕方ない。大切なあなたに一番の存在にして欲しかったって気持ちは分かるけど、相手にだって感情ってものがあるんだもん。四六時中追い回されたら流石に疲れるよ。
「皆に伝えてくれればいい。僕にだって好きな人くらいいるって!」
あーあ、遂に半ギレして盛大に孝君が女の子達に向かって宣言してる。女の子達は毎回一人ずつ孝君を呼び出して告白してるんだから、毎回孝君はあの時みたいに同じ事を答えてるんだよね。先月からここ迄に何回同じことを言ったんだろうって、孝君だってウンザリだよね、確かに。それにしても大声になってる辺り案外孝君って短気なとこがあるんだなぁって、染々してたら早紀ちゃんが心配そうに孝君を見てる。そうだね、孝君の事だもん、早紀ちゃんだって気になるよ。私の視線に気がついたみたいに、早紀ちゃんが少し苦い微笑みを浮かべてる。難しいよね、確かに。
女の子達は流石にスゴスゴと皆散り散りになったけど、孝君の不機嫌は完全に顔に出てる。スタスタ戻ってきて不貞腐れた顔で座る孝君に、皆が何と反応していいか分からない顔で眺めていて。不機嫌になるのは仕方がないけど、クラスの雰囲気まで落ち込むのは困る。何か無いかなぁって考えてた私は、思い出したようにお昼に出すつもりだった物を取り出した。
「ねぇ孝君、アーンして。」
「はぁ?!」
不機嫌満載で答えなくてもいいから口開けてって言うと、少し孝君が恥ずかしそうに赤くなったのが分かる。いいから口開けてよって追い討ちをかけると渋々口を開けてくれたから、その口にビスコッティを捩じ込んだ。細長いビスコッティは一口でゴックンとはいかないから、不貞腐れた顔してるのなんて無理なんだ。大人しくモグモグしてる孝君に、智美君が自分にもと手を出してる。って言うかいつの間にか皆して手を出してるけど、食後の分がなくなるよ?折角食後のデザートって思って焼いてきたビスコッティが、二時間目の休憩時間に全部消えることに。
「ビスコッティっていうの?ドライフルーツ入ってる?」
「こっちのアーモンド?」
ワイワイしてたら不機嫌だった孝君が諦めたみたいな溜め息をついて、少しだけ機嫌が戻ったような顔をする。
「全く、宮井には敵わないよ。」
「え?かなうも何も、お腹へると不機嫌になるじゃん。」
「子供じゃあるまいし。」
そうは言いながらも孝君の不機嫌は解消したんだから、正直なところ甘いもののお陰で機嫌がくなったようにしかみえない。ただ、その向こうで少しだけ早紀ちゃんの表情が、暗いのに気がついた私はあれって少し疑問に感じた。何か早紀ちゃんの表情が暗くなったのは、私のせいじゃないかって気がしたんだ。
※※※
孝君と早紀ちゃんが文化祭実行委員会に行った放課後、図面をみながら脱出ゲームのやり方を具体的に手順として作っている智美君達が見える。ベランダからは運動部の練習の声が聞こえていて、曇り空の重さとはかけ離れている感じ。香苗と2人で並んで、ベランダから下を眺めながら私は小さい声で香苗と話す。
「何か私、悪いことしたかな?」
「多分してない。」
香苗も同じように小さな声で答える。多分ってとこが不服だけど、早紀ちゃん本人に聞いてる訳じゃないから妥当な答え方なんだろう。悪いことはしてない、それなら早紀ちゃんはどうして暗い顔をしたんだろうって呟く。
「本人に聞けば?」
「答えてくれるかな?」
その質問に香苗が少し考え込む。もし自分が早紀ちゃんだったらって香苗が考えてるんだってことは、私も横を見なくても分かる。
「私だったら言わない。」
「駄目じゃん。」
「駄目だね。」
んー、と悩んでみるけどヤッパリ答えは早紀ちゃんに聞くしかない。野球部の練習の隅で浦野君と木村君が顔をあわせて何か話しているのを眺めながら、私はヤッパリ早紀ちゃんに聞いてみると香苗に告げる。そう言うと香苗は麻希子らしいってまた笑っていた。
※※※
香苗はおばさんの腰の具合が今一だって先に帰って、私だけが早紀ちゃんが来るのを待った。早紀ちゃんは戻ってきて少し驚いた見たいたけど、一緒に帰ろうって言った言葉にはにかむように微笑む。孝君は生徒会の仕事に行ったらしくて、私と早紀ちゃんは2人で並んで歩き出した。何て聞いたらいいか迷っていたら、早紀ちゃんは少し微笑みながら私にごめんねと小さく呟いた。
「あの時麻希ちゃん、気がついてたの分かったの。」
早紀ちゃん自身も暗い表情を浮かべたのに気がついてたんだ。それに、私も気がついてしまったのも。早紀ちゃんは少しだけ俯いて言葉を続けた。
「麻希ちゃんが羨ましい。」
「え?!」
予想外って言うか、早紀ちゃんは前にも同じような事を私に言ったことがある。何で完璧なお嬢様で綺麗な早紀ちゃんは、私のことが羨ましい何て思うのか私にも分からない。お互いに違う部分があるから羨ましいのかな。私は早紀ちゃんみたいな大和撫子が羨ましいし、今は香苗のサッパリした感じで隠し事のない性格も羨ましいなって感じてしまう。全然違うから羨ましくなるのかな。
「今日だって、あんな不機嫌なタカちゃんの機嫌をよくするなんて私には出来ないもの。」
え?あれってただ口にお菓子を捩じ込んだだけだよって私が言うと、それを考え付きもしないし実行も出来ないって早紀ちゃんは言う。そっか、遠慮もしないであんなことするとこは、確かに早紀ちゃんみたいにおしとやかな子には出来ないよね。そう納得した私に、予期しない言葉が聞こえた。
「だから、タカちゃんは、麻希ちゃんが好きなんだよ。」
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