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10月
157.カトレア
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10月14日 木曜日
帰り道何気なく立ち寄った『茶樹』には、松理さんがいた。松理さんはカウンターに前で、優美な貴婦人みたいに足を組んでスツールに座っている。ドアを潜った私の顔を何気なく見る松理さんは、凄く魅惑的な微笑みを浮かべて手招きした。私はまるで魔力みたいな手招きに大人しく従って、松理さんの隣に誘われるままに座る。松理さんはカウンター越しの久保田さんに、彼女にも何時もの出してねっと笑いながら言う。横に座った松理さんはヤッパリ早紀ちゃんによく似ているけど、早紀ちゃんとは違って成熟した大人の魅力に溢れているみたい。久保田さんが私の前にアイスピーチティーのグラスを置いてくれて、私は少し常連客気分に頬が緩む。
「早紀は変わらない?」
何時もとは違う問いかけ方に、私は驚いたように少し目を丸くした。松理さんは何時も早紀ちゃんの事を『さっち』って呼んでいるのが、今日はちゃんと名前を呼んでいる。多分この間の話が、松理さんにも少し気になっているんだと私は気がついた。
「えっと、少し元気がないです。」
松理さんが叔母さんとはいえ早紀ちゃんの事を何処まで答えていいのか分からないから、私にはそうとしか言いようがない。松理さんはそっかと呟くと、何気ない仕草でカウンターに頬杖をつく。その様子には早紀ちゃんに何が起きたのかは、松理さんは当の昔に知っているって言う風に見えた。
「初恋ってヤッパリ特別よね、気持ちは分かるわ。」
松理さんはそう言うと溜め息混じりに言う。
初恋は特別っていうのは私にもよく分かる。私の初恋は雪ちゃんだけど、1度駄目だって考えた所で1回終わったのと同じで、その痛みは本当は自分にも凄く痛かった。早紀ちゃんが言った通りで孝君が他の子が好きなら、早紀ちゃんは今その痛みのなかにいるんだと思うのだ。
「私の初恋も苦かったわぁ。」
何気なく松理さんが口にした言葉に、私もカウンターの中の久保田さんも視線を向ける。その視線に松理さんは賑やかに微笑んで、遠くを見るように呟く。松理さんの初恋が何時の事かは分からないけど、どうやら久保田さんが相手ではなさそうだ。
「あんまり苦くてね、ぜーんぶ投げ捨てて家出しちゃった。」
えええ?!そんな初恋?!久保田さんが相手じゃないんだよね?だから、久保田さんも目を丸くして驚いてるんだよね?と私が顔で言っている。何もかも捨てたくなっちゃうくらい苦い初恋って一体どんな恋なの。
「い、家出って。」
あら、聞いてないの?と松理さんが平然と言う。早紀ちゃんは久々に出会ったとは言ってたけど、松理さんが家出をしたとは一言も言っていない。そう伝えると松理さんはあらぁと驚いた様に目を丸くして、さっちってば本当に常識的なお嬢様だことと笑う。
「十何年も前に家出して行方不明の叔母さんなんて、確かに説明しにくいわね。確かに。」
行方不明?呆気にとられた私の顔に、悪戯っ子のように松理さんが微笑みながら肩を竦める。どうやら
「まーちゃん、早紀の親友よね?」
呆気にとられながら頷くと松理さんは穏やかに微笑んで、私の顔を覗きこむ。その表情は早紀ちゃんに凄く似ていて、まるで早紀ちゃんと話しているみたいな気分になってしまった。
「じゃ、何があっても早紀と一緒にいてね?」
「はい。」
「いいお返事、あ、でも一緒って言ったってベッタリ百合になんなくていいわよ?お友だちとして一緒って事よ?」
百合って何ですかと聞く私に松理さんは、あらまあ純真と笑いながら知らないならいいのよと爽やかに言う。久保田さんは意味が分かっている見たいで苦い表情なのに、松理さんは平気な様子だ。そう言えば久保田さんと内縁のご夫婦ってことは、一緒に住んでるのかな。松理さんが奥さんしてるのってちょっと想像出来ない。
「松理さんと久保田さんって一緒に住んでるんですか?」
「あら、気になる?」
素直にちょっと気になりますと言うと、久保田さんが苦笑いしている。松理さんは少し考え込んだ様子だったけど、問いかけるように久保田さんを見つめた。
「半分くらいは一緒にいる?惣一くん。」
半分?!半分ってどういうこと?!久保田さんが私の顔色を見て松理は大袈裟だからと言ってるけど、いや、半分って何なのか唖然としてしまう。ヤッパリ松理さんは理解できる範疇を越えてるけど、半分だけだから内縁なのかな?悩んでしまった私に松理さんが意味深に微笑みかける。
「私は仕事柄籠るし、惣一くんはここにいるしね。」
ああ、なるほどそう言う意味なんだって素直に納得したけど、松理さんは籠るお仕事なんだ。それってまるで作家さんみたいですねって言うと松理さんがそうよって笑う。あれ?そうよってことは松理さんって作家さん?!驚いた様に目を丸くすると松理さんは何だ知らないのって言う。
「ホントに鳥飼君といい宇野君といい早紀といい、皆して口の堅いこと。驚いちゃうわよ、あたしの方が。」
「松理が気にしてないのを知らないんだよ。」
え?鳥飼さんとか雪ちゃんも知ってるの?って逆に驚きだけど、私はその後松理さんのお仕事での名前を聞いて後日サインを書いてもらう約束は忘れなかった。
帰り道何気なく立ち寄った『茶樹』には、松理さんがいた。松理さんはカウンターに前で、優美な貴婦人みたいに足を組んでスツールに座っている。ドアを潜った私の顔を何気なく見る松理さんは、凄く魅惑的な微笑みを浮かべて手招きした。私はまるで魔力みたいな手招きに大人しく従って、松理さんの隣に誘われるままに座る。松理さんはカウンター越しの久保田さんに、彼女にも何時もの出してねっと笑いながら言う。横に座った松理さんはヤッパリ早紀ちゃんによく似ているけど、早紀ちゃんとは違って成熟した大人の魅力に溢れているみたい。久保田さんが私の前にアイスピーチティーのグラスを置いてくれて、私は少し常連客気分に頬が緩む。
「早紀は変わらない?」
何時もとは違う問いかけ方に、私は驚いたように少し目を丸くした。松理さんは何時も早紀ちゃんの事を『さっち』って呼んでいるのが、今日はちゃんと名前を呼んでいる。多分この間の話が、松理さんにも少し気になっているんだと私は気がついた。
「えっと、少し元気がないです。」
松理さんが叔母さんとはいえ早紀ちゃんの事を何処まで答えていいのか分からないから、私にはそうとしか言いようがない。松理さんはそっかと呟くと、何気ない仕草でカウンターに頬杖をつく。その様子には早紀ちゃんに何が起きたのかは、松理さんは当の昔に知っているって言う風に見えた。
「初恋ってヤッパリ特別よね、気持ちは分かるわ。」
松理さんはそう言うと溜め息混じりに言う。
初恋は特別っていうのは私にもよく分かる。私の初恋は雪ちゃんだけど、1度駄目だって考えた所で1回終わったのと同じで、その痛みは本当は自分にも凄く痛かった。早紀ちゃんが言った通りで孝君が他の子が好きなら、早紀ちゃんは今その痛みのなかにいるんだと思うのだ。
「私の初恋も苦かったわぁ。」
何気なく松理さんが口にした言葉に、私もカウンターの中の久保田さんも視線を向ける。その視線に松理さんは賑やかに微笑んで、遠くを見るように呟く。松理さんの初恋が何時の事かは分からないけど、どうやら久保田さんが相手ではなさそうだ。
「あんまり苦くてね、ぜーんぶ投げ捨てて家出しちゃった。」
えええ?!そんな初恋?!久保田さんが相手じゃないんだよね?だから、久保田さんも目を丸くして驚いてるんだよね?と私が顔で言っている。何もかも捨てたくなっちゃうくらい苦い初恋って一体どんな恋なの。
「い、家出って。」
あら、聞いてないの?と松理さんが平然と言う。早紀ちゃんは久々に出会ったとは言ってたけど、松理さんが家出をしたとは一言も言っていない。そう伝えると松理さんはあらぁと驚いた様に目を丸くして、さっちってば本当に常識的なお嬢様だことと笑う。
「十何年も前に家出して行方不明の叔母さんなんて、確かに説明しにくいわね。確かに。」
行方不明?呆気にとられた私の顔に、悪戯っ子のように松理さんが微笑みながら肩を竦める。どうやら
「まーちゃん、早紀の親友よね?」
呆気にとられながら頷くと松理さんは穏やかに微笑んで、私の顔を覗きこむ。その表情は早紀ちゃんに凄く似ていて、まるで早紀ちゃんと話しているみたいな気分になってしまった。
「じゃ、何があっても早紀と一緒にいてね?」
「はい。」
「いいお返事、あ、でも一緒って言ったってベッタリ百合になんなくていいわよ?お友だちとして一緒って事よ?」
百合って何ですかと聞く私に松理さんは、あらまあ純真と笑いながら知らないならいいのよと爽やかに言う。久保田さんは意味が分かっている見たいで苦い表情なのに、松理さんは平気な様子だ。そう言えば久保田さんと内縁のご夫婦ってことは、一緒に住んでるのかな。松理さんが奥さんしてるのってちょっと想像出来ない。
「松理さんと久保田さんって一緒に住んでるんですか?」
「あら、気になる?」
素直にちょっと気になりますと言うと、久保田さんが苦笑いしている。松理さんは少し考え込んだ様子だったけど、問いかけるように久保田さんを見つめた。
「半分くらいは一緒にいる?惣一くん。」
半分?!半分ってどういうこと?!久保田さんが私の顔色を見て松理は大袈裟だからと言ってるけど、いや、半分って何なのか唖然としてしまう。ヤッパリ松理さんは理解できる範疇を越えてるけど、半分だけだから内縁なのかな?悩んでしまった私に松理さんが意味深に微笑みかける。
「私は仕事柄籠るし、惣一くんはここにいるしね。」
ああ、なるほどそう言う意味なんだって素直に納得したけど、松理さんは籠るお仕事なんだ。それってまるで作家さんみたいですねって言うと松理さんがそうよって笑う。あれ?そうよってことは松理さんって作家さん?!驚いた様に目を丸くすると松理さんは何だ知らないのって言う。
「ホントに鳥飼君といい宇野君といい早紀といい、皆して口の堅いこと。驚いちゃうわよ、あたしの方が。」
「松理が気にしてないのを知らないんだよ。」
え?鳥飼さんとか雪ちゃんも知ってるの?って逆に驚きだけど、私はその後松理さんのお仕事での名前を聞いて後日サインを書いてもらう約束は忘れなかった。
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