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10月
154.コリウス
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10月11日、月曜日。善良な家風で育ってきたお嬢様の早紀ちゃんは、見た目より遥かに健康で今迄1度も学校を休んだことがなかった。何しろ夏休み前のあの騒動の間も一度も休んだことがなかったくらい。だから、月曜日に早紀ちゃんが学校に来なかったのに、私と香苗は思わず顔を見合わせる。孝君は何も言わないし、智美君は事前に知っていたのか偶然なのか今日はお休みだ。
土志田センセに聞いたら風邪だって言うけど、昨日の午前中に会った時は元気だったから少しだけ違和感だった。センセが帰りに寄れるならプリントを渡して欲しいって言うから、私と香苗は2つ返事でプリントを受け取る。学校帰りに2人でお見舞いのケーキを買って、早紀ちゃんの家に向かおうとしたら香苗のお母さんからの電話が入った。
「えー?今から友達のお見舞いに行くとこだったんだよ。」
不貞腐れた香苗の声に聞き耳をたてていると、どうやらおばさんに何か起きたみたいで香苗は電話を切ると仕方ないみたいに頬を膨らませた。どうやらおばさんに、今すぐ来て欲しいって言われたみたい。
「おばさん大丈夫?」
「んー、わかんないけど腰痛くて動けないって。お見舞い任せていい?」
腰痛いってぎっくり腰とか?!それって呑気にしてていいの?早紀ちゃんの事も心配だけど、おばさんの動けないって言うのも凄く心配なんだけど。そんなわけでお見舞いに向かうのは私だけになってしまった。あ、ちょっと待って、あの豪邸に一人で入るの?!一瞬怖じ気づきそうになるけど、お見舞いだからと気合いを入れ直して私はあの豪邸のお庭に足を踏み入れる。
げ、玄関までが遠いよぉ
思わず小走りになって大きな石を飛び越えるみたいに、玄関に向かって行く。玄関の横のチャイムを押して、こういう家って小さい通用の玄関とかあるんじゃないのかななんて考えてたんだけど。引き戸の玄関を開けてくれたのは、以前来た時のお手伝いさんだった。相手も私の事を覚えててくれて、お見舞いに来たんですって言ったらニコニコしながらケーキを受け取って中に通してくれる。階段の下までは一緒に来てくれたけど、後から参りますと微笑まれて私はオズオズと大きな階段を上がって早紀ちゃんの部屋の前まで辿り着いた。小さくノックして躊躇いがちに早紀ちゃんの事を呼ぶ。具合が悪くて寝てたらどうしようって考えながら、暫く待っていると中で微かに歩く音が聞こえた。
「早紀ちゃん、あのね、お見舞いに来たんだけど。途中までは香苗も来てたんだけど。」
言葉を続けようとして扉が開いた瞬間、私は言葉がでなくなってしまう。目の前の早紀ちゃんは一杯泣いた後みたいに、目の回りを真っ赤にしていた。早紀ちゃんが少し掠れた声で恥ずかしそうに笑う。
「こんな顔で、ごめんね、麻希ちゃん。」
「ど、うしたの?」
私の声に早紀ちゃんは躊躇いながら、入ってと私を部屋の中に誘い入れてくれる。お部屋の中で腰を落ち着けていると、お手伝いさんの冨士野さんが良い匂いのする紅茶を入れて持ってきてくれた。お土産のケーキと一緒に出されて、一息つきながら早紀ちゃんは少し恥ずかしそうに目の下に触れる。
「こんな顔で学校に行けなくって、ごめんなさい、心配かけちゃって。」
「ううん、そんなことないけど、どうしたの?」
躊躇いながら聞く私に早紀ちゃんは、少し俯いて溜め息をつきながら紅茶に映る自分の顔を見下ろす。昨日の午前中は早紀ちゃんは何時もと変わらなかったから、その後に何かが起こったんだって思うけど。早紀ちゃんの瞳が少し潤んだように見えて、私は黙りこんだまま早紀ちゃんを見つめた。
「昨日、帰り道で、気がついちゃったの…。」
小さな声が震えてて、私は戸惑う。早紀ちゃんが何に気がついたのか分からないけど、それが早紀ちゃんを泣かせる原因になったんだ。早紀ちゃんは滲んだ涙を拭いながら、はーっと深い溜め息をついた。
「私、失恋しちゃった。」
ガンッと頭を石で殴られた気がして、私は唖然と目を見開く。確かに孝君が好きな人がいるのは、この間告白を聞いてたから知ってる。でも、私は何処かで孝君の好きな人は早紀ちゃんの事だと思っていたのに、早紀ちゃんは失恋したのだという。
「昨日告白したの?」
「ううん、する前に孝君が誰が好きなのか分かったの。」
それって告白する前に孝君の好きな人が、早紀ちゃんとは別な人だって知ったってことだよね。それってどうしたら良いの?私は叶わぬ恋を大事にしてた早紀ちゃんには、その恋を叶えられるはずって考えてた。こんなことってありうるの?そう思った瞬間、早紀ちゃんが堪えきれずに泣き出したのに私も一緒になって泣き出してしまった。暫く2人で泣いて落ち着いたら、早紀ちゃんは笑顔で明日は大丈夫と微笑んだ。詳しいことをそれ以上は私も聞けなくて、その言葉に頷いてまた明日としか言えなかった。私はトボトボと帰り道を独り歩きながら、孝君は同じクラスの誰を好きなんだろうと考え込む。何時も仲が良いし一緒にいてもおかしくないし、孝君が好きなのは絶対早紀ちゃんの事だと私は本当に思ってた。でも、孝君は別な子が好きなんだって言う。人の好きって予想とか見た目とかじゃ本当に分かんないものなんだって、今更なんだけど痛切に感じていた。
土志田センセに聞いたら風邪だって言うけど、昨日の午前中に会った時は元気だったから少しだけ違和感だった。センセが帰りに寄れるならプリントを渡して欲しいって言うから、私と香苗は2つ返事でプリントを受け取る。学校帰りに2人でお見舞いのケーキを買って、早紀ちゃんの家に向かおうとしたら香苗のお母さんからの電話が入った。
「えー?今から友達のお見舞いに行くとこだったんだよ。」
不貞腐れた香苗の声に聞き耳をたてていると、どうやらおばさんに何か起きたみたいで香苗は電話を切ると仕方ないみたいに頬を膨らませた。どうやらおばさんに、今すぐ来て欲しいって言われたみたい。
「おばさん大丈夫?」
「んー、わかんないけど腰痛くて動けないって。お見舞い任せていい?」
腰痛いってぎっくり腰とか?!それって呑気にしてていいの?早紀ちゃんの事も心配だけど、おばさんの動けないって言うのも凄く心配なんだけど。そんなわけでお見舞いに向かうのは私だけになってしまった。あ、ちょっと待って、あの豪邸に一人で入るの?!一瞬怖じ気づきそうになるけど、お見舞いだからと気合いを入れ直して私はあの豪邸のお庭に足を踏み入れる。
げ、玄関までが遠いよぉ
思わず小走りになって大きな石を飛び越えるみたいに、玄関に向かって行く。玄関の横のチャイムを押して、こういう家って小さい通用の玄関とかあるんじゃないのかななんて考えてたんだけど。引き戸の玄関を開けてくれたのは、以前来た時のお手伝いさんだった。相手も私の事を覚えててくれて、お見舞いに来たんですって言ったらニコニコしながらケーキを受け取って中に通してくれる。階段の下までは一緒に来てくれたけど、後から参りますと微笑まれて私はオズオズと大きな階段を上がって早紀ちゃんの部屋の前まで辿り着いた。小さくノックして躊躇いがちに早紀ちゃんの事を呼ぶ。具合が悪くて寝てたらどうしようって考えながら、暫く待っていると中で微かに歩く音が聞こえた。
「早紀ちゃん、あのね、お見舞いに来たんだけど。途中までは香苗も来てたんだけど。」
言葉を続けようとして扉が開いた瞬間、私は言葉がでなくなってしまう。目の前の早紀ちゃんは一杯泣いた後みたいに、目の回りを真っ赤にしていた。早紀ちゃんが少し掠れた声で恥ずかしそうに笑う。
「こんな顔で、ごめんね、麻希ちゃん。」
「ど、うしたの?」
私の声に早紀ちゃんは躊躇いながら、入ってと私を部屋の中に誘い入れてくれる。お部屋の中で腰を落ち着けていると、お手伝いさんの冨士野さんが良い匂いのする紅茶を入れて持ってきてくれた。お土産のケーキと一緒に出されて、一息つきながら早紀ちゃんは少し恥ずかしそうに目の下に触れる。
「こんな顔で学校に行けなくって、ごめんなさい、心配かけちゃって。」
「ううん、そんなことないけど、どうしたの?」
躊躇いながら聞く私に早紀ちゃんは、少し俯いて溜め息をつきながら紅茶に映る自分の顔を見下ろす。昨日の午前中は早紀ちゃんは何時もと変わらなかったから、その後に何かが起こったんだって思うけど。早紀ちゃんの瞳が少し潤んだように見えて、私は黙りこんだまま早紀ちゃんを見つめた。
「昨日、帰り道で、気がついちゃったの…。」
小さな声が震えてて、私は戸惑う。早紀ちゃんが何に気がついたのか分からないけど、それが早紀ちゃんを泣かせる原因になったんだ。早紀ちゃんは滲んだ涙を拭いながら、はーっと深い溜め息をついた。
「私、失恋しちゃった。」
ガンッと頭を石で殴られた気がして、私は唖然と目を見開く。確かに孝君が好きな人がいるのは、この間告白を聞いてたから知ってる。でも、私は何処かで孝君の好きな人は早紀ちゃんの事だと思っていたのに、早紀ちゃんは失恋したのだという。
「昨日告白したの?」
「ううん、する前に孝君が誰が好きなのか分かったの。」
それって告白する前に孝君の好きな人が、早紀ちゃんとは別な人だって知ったってことだよね。それってどうしたら良いの?私は叶わぬ恋を大事にしてた早紀ちゃんには、その恋を叶えられるはずって考えてた。こんなことってありうるの?そう思った瞬間、早紀ちゃんが堪えきれずに泣き出したのに私も一緒になって泣き出してしまった。暫く2人で泣いて落ち着いたら、早紀ちゃんは笑顔で明日は大丈夫と微笑んだ。詳しいことをそれ以上は私も聞けなくて、その言葉に頷いてまた明日としか言えなかった。私はトボトボと帰り道を独り歩きながら、孝君は同じクラスの誰を好きなんだろうと考え込む。何時も仲が良いし一緒にいてもおかしくないし、孝君が好きなのは絶対早紀ちゃんの事だと私は本当に思ってた。でも、孝君は別な子が好きなんだって言う。人の好きって予想とか見た目とかじゃ本当に分かんないものなんだって、今更なんだけど痛切に感じていた。
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