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10月
152.ホトトギス
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人の気持ちって本当に難しい。早紀ちゃんと香苗と『茶樹』に来てしまったのは、孝君の事が気になっていたのは大きい。でも、何時に来るかも分からないし、本当に『茶樹』に来るかも実は分かっていないんだ。美味しいケーキと紅茶で楽しもうって思ったけれど、浮かない顔の早紀ちゃんに香苗も私も心配するしか出来ない。
「あー、こうしてても何にも始まんないよ。早紀が告白するしかないって。」
そう香苗が言うのに早紀ちゃんはグラスの中の氷をつつくようにしている。早紀ちゃんは秘めた意思っていうのか凄く強い芯みたいなのがあると思うんだけど、本当に孝君の事になると慎重になってしまう。早紀ちゃんみたいな綺麗でおしとやかな子に告白されたら普通の男の子なら、直ぐ受け入れてくれそうだけど。相手はその早紀ちゃんが、日常的に傍に居るのが普通の孝君だ。私の好きな人の基準が雪ちゃんで、早紀ちゃんの好きな人の基準が孝君なのと同じで、孝君の基準が早紀ちゃんだったりもするのかな。そうだと、早紀ちゃん以上の女の子って、普通はいない気がするのは私だけだろうか。
「告白…した方が良いのかな。」
早紀ちゃんの戸惑うような声は、凄く気弱で小さくて消えてしまいそう。その声に香苗も少し考え込んで、私の方を見る。
「麻希子は従兄さんに何て言って聞いたの?」
「私?!」
何故唐突にって私が目を丸くすると、香苗が小さな声で内緒を打ち明けるみたいに呟く。
「あたし、正直なところ告白して付き合ったことないから分かんないんだもん。あいつに告白して付き合った訳じゃないから。」
少し険しい顔で呟く香苗の言うあいつは、矢根尾って人の事で告白無しでどうやって付き合うのって疑問に思うけど流石にそれは聞けない。以前の彼氏も相手から言われてるっていうから香苗が言いたいのはこの3人の中で、告白の経験があるのは私だけってことなんだ。私のしたことが早紀ちゃんの参考になるのかな?ちょっとそれを話すのは恥ずかしくて、赤くなってしまうけど。
「私はそのまま雪ちゃんに『好き』って言って、私の事をどう思ってますか?って、聞いた。」
「うー、流石麻希子だ。」
香苗が私の言葉に頭を抱えるのに、私はどういう意味って香苗の顔を覗きこむ。香苗が苦笑いしながら私の顔を覗きこんで、口を開く。
「それは、麻希子が麻希子だから聞けるんだよ。」
「聞いといてそれ?!」
態々聞いててその台詞は酷いと私がむくれていると、不意に人影がさしてトスンと早紀ちゃんの横に人が座った。香苗は見覚えがあるというより、2人が良く似てるのに目を丸くしてポカーンと口を開けている。
「はぁい、さっちにまーちゃん。あと初めまして?」
松理さんは何時もと変わりなく呑気な様子で微笑んだけど、香苗の名前を聞いてて早紀ちゃんの様子に気がついたみたい。隣で唐突に早紀ちゃんの顔を両手で挟むようにして、マジマジと覗きこんだ。相変わらず松理さんのする事って予想の斜め上を行ってる。
「さっち、悩み事?」
「松理ちゃん。」
「ははぁ?恋の悩みね?叔母ちゃんに相談してみる?」
「茶化すから相談しないわ、松理ちゃん。」
おやと松理さんは目を細めて微笑むと、手を離して顎と頬に指を添えて珍しく真面目な顔をする。こうしてみると松理さんは本当に年齢不詳で、40才になったのかどうか知らないけど不思議だ。珍しく真面目な顔をした松理さんに、好きな人に告白するかどうか決心がつかないのだと早紀ちゃんは告げた。
「有名な女優がこんなこと言ってるのよ、さっち。愛は行動なのよ、言葉だけでは駄目なのって。」
松理さんは妖艶に見える微笑みで、マスターさんが運んできてくれた珈琲に口をつける。マスターさんに美味しいと答えると、少し微笑んでマスターさんがカウンターに戻っていく。そう言えば松理さんとマスターさんは内縁の夫婦だってこの間松理さんから聞いたんだった。
「綺麗な言葉は簡単に並べられるけど言わないと伝わらないわよね。そうなると勇気を出して行動する方が、しないより数倍効果があるわ。」
「でも、断られるのが怖いの。断られて今やっと普通に話せるようになったのに、また話せなくなっちゃうかもしれない。」
「さっちが一番欲しいのはお友達のタカちゃん?まぁそれもありよね。永遠にお友達でいられるのは役得だわ。」
友達という孝君。それは今のままずっと好きな人の友達でしかいられないってことだ。早紀ちゃんは松理さんの言葉に黙り込んでしまった。好きな人に他の誰かが寄り添って、自分は永遠に友達で居続ける。今の早紀ちゃんにはそれは何もしなくても可能なのかもしれない。でも、好きだという早紀ちゃんの気持ちの行き場は?
「さっち、四十年も生きるとね、色々経験するのよね。恋愛も沢山経験したけど、何をやっても後悔するわよ?」
珍しく真剣な顔で松理さんは珈琲を片手に囁く。それは私達にもひっそり内緒話をしているみたいに、酷く穏やかで静かな口調だった。
「でもね、しないでする後悔よりはまし。やってもやらなくても後悔無しなんてひとっつもないわ。だからこそ、やってする後悔の方が良いわよ?ね、惣一くん。」
彼女が声を上げるとマスターさんがにこやかに微笑んでいる。今の話は松理さんが長い間の経験から忠告してくれてるんだろう、私や香苗とは全然違う重みがある言葉に早紀ちゃんは考え込んだ。
永遠にあなたのものにはならない友達を選ぶか、玉砕しても良いから告白するか。私は一度前者を選んで雪ちゃんを傷つけてしまって、今度は後者を選んだ様なもんなんだろうな。確かに最初の方を選んだ時の雪ちゃんの驚愕の顔は、今でも思い出すと胸が痛いんだ。
「まあ、どちらにしても選ぶのはさっちよね。惣一くん、何か素敵なのうら若きバンビーナ奢ってちょうだーい。」
話を切り替えたかったのか、松理さんがそんなことを口にする。
「あー、こうしてても何にも始まんないよ。早紀が告白するしかないって。」
そう香苗が言うのに早紀ちゃんはグラスの中の氷をつつくようにしている。早紀ちゃんは秘めた意思っていうのか凄く強い芯みたいなのがあると思うんだけど、本当に孝君の事になると慎重になってしまう。早紀ちゃんみたいな綺麗でおしとやかな子に告白されたら普通の男の子なら、直ぐ受け入れてくれそうだけど。相手はその早紀ちゃんが、日常的に傍に居るのが普通の孝君だ。私の好きな人の基準が雪ちゃんで、早紀ちゃんの好きな人の基準が孝君なのと同じで、孝君の基準が早紀ちゃんだったりもするのかな。そうだと、早紀ちゃん以上の女の子って、普通はいない気がするのは私だけだろうか。
「告白…した方が良いのかな。」
早紀ちゃんの戸惑うような声は、凄く気弱で小さくて消えてしまいそう。その声に香苗も少し考え込んで、私の方を見る。
「麻希子は従兄さんに何て言って聞いたの?」
「私?!」
何故唐突にって私が目を丸くすると、香苗が小さな声で内緒を打ち明けるみたいに呟く。
「あたし、正直なところ告白して付き合ったことないから分かんないんだもん。あいつに告白して付き合った訳じゃないから。」
少し険しい顔で呟く香苗の言うあいつは、矢根尾って人の事で告白無しでどうやって付き合うのって疑問に思うけど流石にそれは聞けない。以前の彼氏も相手から言われてるっていうから香苗が言いたいのはこの3人の中で、告白の経験があるのは私だけってことなんだ。私のしたことが早紀ちゃんの参考になるのかな?ちょっとそれを話すのは恥ずかしくて、赤くなってしまうけど。
「私はそのまま雪ちゃんに『好き』って言って、私の事をどう思ってますか?って、聞いた。」
「うー、流石麻希子だ。」
香苗が私の言葉に頭を抱えるのに、私はどういう意味って香苗の顔を覗きこむ。香苗が苦笑いしながら私の顔を覗きこんで、口を開く。
「それは、麻希子が麻希子だから聞けるんだよ。」
「聞いといてそれ?!」
態々聞いててその台詞は酷いと私がむくれていると、不意に人影がさしてトスンと早紀ちゃんの横に人が座った。香苗は見覚えがあるというより、2人が良く似てるのに目を丸くしてポカーンと口を開けている。
「はぁい、さっちにまーちゃん。あと初めまして?」
松理さんは何時もと変わりなく呑気な様子で微笑んだけど、香苗の名前を聞いてて早紀ちゃんの様子に気がついたみたい。隣で唐突に早紀ちゃんの顔を両手で挟むようにして、マジマジと覗きこんだ。相変わらず松理さんのする事って予想の斜め上を行ってる。
「さっち、悩み事?」
「松理ちゃん。」
「ははぁ?恋の悩みね?叔母ちゃんに相談してみる?」
「茶化すから相談しないわ、松理ちゃん。」
おやと松理さんは目を細めて微笑むと、手を離して顎と頬に指を添えて珍しく真面目な顔をする。こうしてみると松理さんは本当に年齢不詳で、40才になったのかどうか知らないけど不思議だ。珍しく真面目な顔をした松理さんに、好きな人に告白するかどうか決心がつかないのだと早紀ちゃんは告げた。
「有名な女優がこんなこと言ってるのよ、さっち。愛は行動なのよ、言葉だけでは駄目なのって。」
松理さんは妖艶に見える微笑みで、マスターさんが運んできてくれた珈琲に口をつける。マスターさんに美味しいと答えると、少し微笑んでマスターさんがカウンターに戻っていく。そう言えば松理さんとマスターさんは内縁の夫婦だってこの間松理さんから聞いたんだった。
「綺麗な言葉は簡単に並べられるけど言わないと伝わらないわよね。そうなると勇気を出して行動する方が、しないより数倍効果があるわ。」
「でも、断られるのが怖いの。断られて今やっと普通に話せるようになったのに、また話せなくなっちゃうかもしれない。」
「さっちが一番欲しいのはお友達のタカちゃん?まぁそれもありよね。永遠にお友達でいられるのは役得だわ。」
友達という孝君。それは今のままずっと好きな人の友達でしかいられないってことだ。早紀ちゃんは松理さんの言葉に黙り込んでしまった。好きな人に他の誰かが寄り添って、自分は永遠に友達で居続ける。今の早紀ちゃんにはそれは何もしなくても可能なのかもしれない。でも、好きだという早紀ちゃんの気持ちの行き場は?
「さっち、四十年も生きるとね、色々経験するのよね。恋愛も沢山経験したけど、何をやっても後悔するわよ?」
珍しく真剣な顔で松理さんは珈琲を片手に囁く。それは私達にもひっそり内緒話をしているみたいに、酷く穏やかで静かな口調だった。
「でもね、しないでする後悔よりはまし。やってもやらなくても後悔無しなんてひとっつもないわ。だからこそ、やってする後悔の方が良いわよ?ね、惣一くん。」
彼女が声を上げるとマスターさんがにこやかに微笑んでいる。今の話は松理さんが長い間の経験から忠告してくれてるんだろう、私や香苗とは全然違う重みがある言葉に早紀ちゃんは考え込んだ。
永遠にあなたのものにはならない友達を選ぶか、玉砕しても良いから告白するか。私は一度前者を選んで雪ちゃんを傷つけてしまって、今度は後者を選んだ様なもんなんだろうな。確かに最初の方を選んだ時の雪ちゃんの驚愕の顔は、今でも思い出すと胸が痛いんだ。
「まあ、どちらにしても選ぶのはさっちよね。惣一くん、何か素敵なのうら若きバンビーナ奢ってちょうだーい。」
話を切り替えたかったのか、松理さんがそんなことを口にする。
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