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9月

138.ペチュニア

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雪ちゃんのお仕事は結局今日は終わらなかったみたいで、衛はそのままお泊まり継続中だ。雪ちゃんからの連絡は忙しいのか、あれ以降は来ていない。ちょっとお仕事が立て込みすぎてて、雪ちゃんが体調を崩さないか心配になる。こういう時って自分がまだ子供なんだなって、凄く感じてしまうのは私だけかな。大人だったら何かお手伝いとか、心の安らぐような事が出来るんじゃないかなって考えてしまう。

「ママはパパが忙しい時に、何かしてあげたいって思う?」

私の言葉にママが意味深な視線で私の顔を見つめて、何だか少し考え込んでるみたい。あれ?なんか変なこと聞いたのかなって私が考えていると、ママはにっこり笑ってパパは家に帰ってくるのが1番なのよって胸を張った。

「あなたと一緒なら心がやわらぐし、楽になるって何時も言ってるわよ。」

流石ママと感心すると、溜め息混じりにママが私の顔を見ている。

「何?」
「何だか懐かしい感じだと思ったのよ。」

ママが私にそう言うのを首を傾げながら聞いているけど、腰の辺りにドーンって衛が飛び付いてきた。宿題が終わったらしい衛が、私に見てみてーってお願いしている。流石に小学生のドリル位ならって見直してあげるけど、衛ってば殆ど間違わないから見直す必要がない。なんだか衛ってば頭いいじゃんってワシャワシャ頭を撫でると、すっごい嬉しそうでこっちまで笑顔になる。なんか、本当に衛の成長が早くてビックリしてしまう。だって実は昨日衛は雪ちゃんが会社から帰って、私の家に連れてきたんじゃないんだって。雪ちゃんから連絡が来て衛は自分でお泊まりセットを背負って、一人で家まで来たらしい。正直あぶなっ!!て思いっきり衛に突っ込みたかったけど、学童保育に行くのと距離的に変わらないんだって。学童保育に行くのは独りだから変わんなかったよって平気な顔で言ってる衛が、ついこの間まで友達が出来ないって泣きべそかいてたなんて驚くしかない。

「正解ー、問題なしでーす。」
「やったー!僕偉い?」

偉いと撫でると嬉しそうなところは、前から変わんないんだけどなぁ。なんかどんどん大きくなって、まーちゃんって呼ぶのやだとか言い出したらどうしよう。

「まーちゃん?」
「ん?」
「雪とまーちゃん仲良しになったの?」

うん?仲良しは前から仲良しだよ?って私が言うと、何故か衛はママに内緒みたいに声を小さくして訳知り顔で話し始める。

「学校ね、貴史くんと優くんと清子ちゃんと恵ちゃんっているんだよ。」

ウンウンと話を聞いていると、衛は頬杖をついてすっごく大人びた顔で話を続けた。

「貴史くんと優くんは、清子ちゃんが好きなんだって。でも、清子ちゃんと恵ちゃんは僕が好きなんだって。」

何ですと?最近の小学生って1年生でもう初恋な訳?何ておませさんなんだって心の中で呟きながら、何でか溜め息混じりの衛を眺める。

「でもさぁ、僕は清子ちゃんも恵ちゃんも友達なんだよね。貴史くんと優くんとおなじ。」

あー、衛的には清子ちゃんは恋の相手にはならないんだ。それは残念だけど、人の気持ちだし仕方がないよねと、思わず暖かい目で見守ってしまう。衛は私の様子には気がつかない様子で、頬杖をつきながら可愛い頬を膨らませる。

「皆一緒に帰りたいのに、清子ちゃんは2人がいいって言うから僕こまるんだよねー。恵ちゃんも手つないで帰りたいっていうし。」

な、何て言っていいのか困る。そうか、衛は小学校ではモテモテなのか。お友達2人の恋のライバルにされているのは、小学生1年生としてはかなり凄い。衛は確かに可愛い顔してるし頭もいいみたいだから、うちでいう智美君とか孝君とかみたいな存在なんだろうな。思わず最近の小学生の恋事情に苦笑いした私に、衛は少しまた声を小さくして問いかける。

「まーちゃんと雪の仲良しは、清子ちゃんが僕にしてほしい仲良しなんでしょ?」

衛の言葉に私は本気で何て答えたらいいのか分からなくなってしまった。これって正直に言うべきなのか、それとも誤魔化すべきなのか、こうして衛から聞かれるまで考えてもみなかった私。でも、衛は雪ちゃんの息子で、これから雪ちゃんとの関係では必ずこの問題って突き当たるんじゃないだろうか。だって、衛は雪ちゃんの息子なんだよ?

「う、………うん。」

思わず出た言葉に、衛は満面の笑顔で納得したみたいだ。よ、良かったのかな?この答えで。正直なところこれが正しかったかどうか私、自分でも正解が分からない。もしかして大きな間違いって可能性もあるんだけど、衛は何でか一人で凄く納得したみたいに頷いて小さな声で内緒だねと呟いている。な、内緒にしておくべきなのかな、これってやっぱりって改めてキッチンのママを眺めて考え込んでしまう。

簡単に私、彼氏出来ましたとは、違うよねぇ。

考えてみたら香苗のあんたも同じ状況なんだからねっていった言葉が、頭をよぎるのが分かる。思わず高校生と大人の恋愛って、簡単じゃないんだって頭の中で私は呟いた。






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