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8月
111.サルスベリ
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昨日の箸を転げても笑う女子会のお陰で、嫌な空気も吹き飛んだみたいな私。スッキリ目が覚めて階段をおりると、愛嬌たっぷりの衛がニコニコしながらママが焼いたパンケーキにかぶりついている。
「おはよう、まー。」
「おはよう、まーちゃん。雪が怖いオバチャンをやっつけてくれて良かったね!」
うんって返事したらママがちょっと怖い目で睨むけど、衛も怖かったんだろうからこの返事は撤回しない事にした。雪ちゃんが何をどうしたのかは、今度改めてキチンと聞くべきかなって考えてるけど。何か最近わかってきたけど、案外雪ちゃんは普段猫被りの癖に結構キレてるんだと思う。鳥飼さんとか土志田センセはそれをよく知ってるんだろうなって、正直に私も思い始めた。
土志田センセは写真を見てても昔から3人の中では、ムードメーカーだったんじゃないのかな?そんなことを考えていた真っ最中、玄関のチャイムが鳴ってこんな朝早くに誰かと思いながら扉を開ける。
「お、はようございます?」
「おう、おはよう、悪いなこんな朝早くに。」
目の前にいる土志田センセの姿に、私の思考が止まって場違いな挨拶をしてしまう。だって、こんな朝早くに何で目の前にスーツのセンセ?しかも、センセのスーツ姿は卒業式とか入学式でしか見られないかなりのレアモノだ。香苗、昨日泊まっとけば良かったな。
「宮井、お袋さんは?」
「あ、えと、中に、います。あれ?センセ、ママに何かようなの?」
不用意だったもんだから、ちっとも思考回路が追い付かない私の頭をポンとセンセが撫でて私の口から出たのは唐突な疑問だった。
「センセ、45番だったの?54番だったの?」
「はあ?お前本当に質問の脈絡が分からんな?」
「麻希子?お客様どなたなの?あらぁ!」
パンケーキを焼き上げたママが廊下に顔を出して、目を丸くする。パタパタと駆け寄ってきたママが私の無作法な格好にペチンとお尻を叩いてから、スリッパを取り出すと微笑む。
「まあ、そんな格好だとあまり変わらないわねぇ。」
ママの言葉に土志田センセは少し苦笑いを浮かべ、お邪魔しますと頭を下げる。そっかセンセはこの間のママが入院中の時に病院では会ってないし、2年になった時の担任紹介は学生にしかないから直に会うのはこれが初めてなんだ。なんか変な気分、ママが私の学校の先生や好きな作家さんの高校生の時を知ってるなんて。
リビングのソファーに通された土志田センセの事を、ダイニングテーブルでパンケーキと格闘中の衛が不思議そうに眺めている。流石の衛も鳥飼さん以外の雪ちゃんの同級生とは、顔を会わせてないみたい。
「今回は、こちらの不手際でお騒がせしました。申し訳ありませんでした。」
お茶を前に丁寧に頭を下げた土志田センセに、私はポカーンとしてしまった。だって、何で先生が謝るの?センセは何もしてないし、香苗を助けてくれて守ってくれただけでしょ?木内梓の件だって木内の嘘ッぱちだったんだよ?私がポカーンとしてる横で、ママはセンセの下げられた頭を見つめる。
「うちの麻希子の疑いははれたんですか?麻希子から話を聞くと大分麻希子が考えているのと違う話だったみたいですけど。」
え?ママ?センセが嘘ついたわけでもないし、センセに何で詰問?やったのは木内梓だよ?
「木内には両親と一緒に詳細を確認しましたが、木内梓自身が宮井さんに嫉妬して、置き手紙に嘘を書いたと話しています。」
「嘘を書いてこんな騒ぎを起こして、済ませますか?」
センセが申し訳ありませんてしたともう一度頭を下げながら、ママと私を真っ直ぐに見つめる。
「本来なら木内梓を連れて謝罪も考えておりましたが、木内梓が昨日急遽転居にともない転校願いが提出されました。木内の母親に連絡を取りましたが、謝罪はしたの一点張りで、申し訳ありません。」
あの雄弁な木内のスタンプみたいな母親なら、そういいそうだなって私は正直考えるけど。転校って木内梓転校するの?唖然としている私の横で、ママは普段の呑気なのが嘘みたいに険しい顔をしている。
「転校するから良しとは納得できません。」
「ごもっともだと思います。今後は同じことが起きないよう、早急な対応に勤めます。」
頭を下げる土志田センセに、私は意味がわからない。センセがセンセとして謝ってるのは分かったけど、非難されるようなことはしてないし非常識なのは木内梓でしょ?センセはできる限りしてたんじゃないの?でも、そこまで話して、ママの顔がやっと何時ものママに戻ったのに私はホッとする。
「難しい話はここまでにして、立派になったわねぇ、悌順君。」
「いえ、まだまだ未熟者で。お加減はよろしいんですか?入院されてたと伺ってます。」
うわぁ、センセが敬語でママと話してる!とか思ってるとママはニコニコ顔になってて、今までの話は大人の話なんだなって私にも分かった。一応形だけでも筋を通さないといけない話って、言うやつなんだろうなって私でも思う。でも、木内梓がいなくなったからいいって訳じゃないんだよなぁ。
「もうすっかり元気よ。」
「それは良かった。雪にとっては宮井さんが母親と同じですからね。」
「あら、あなたや信哉君だって同じように子供みたいに思ってるわよ?」
「はは、ありがとうございます。」
ピョコンとソファーの手摺から衛が覗きこんで、センセの顔を見上げたのにセンセがニッと笑いかける。
「よお、衛、大きくなったなぁ?最近は会ってなかったから、驚いたぞ。」
「ヤス君?」
あれ?やっぱり会ったことあるの?雪ちゃんって案外友達付き合いしっかりなんだなぁ。変なところで感心してしまうけど、衛はオズオスしてるから最近は会ってなかったみたい。でも、名前まで知ってるところを見ると全く知らない訳じゃないみたいだ。暫く世間話をして、センセは学校に行くからと帰っていった。
夏休み殆ど学校に行ってるのかなぁ、センセって大変な仕事なんだ。結局私はセンセが45番なのか54番なのか、答えを聞くのを忘れてしまっていた。
「おはよう、まー。」
「おはよう、まーちゃん。雪が怖いオバチャンをやっつけてくれて良かったね!」
うんって返事したらママがちょっと怖い目で睨むけど、衛も怖かったんだろうからこの返事は撤回しない事にした。雪ちゃんが何をどうしたのかは、今度改めてキチンと聞くべきかなって考えてるけど。何か最近わかってきたけど、案外雪ちゃんは普段猫被りの癖に結構キレてるんだと思う。鳥飼さんとか土志田センセはそれをよく知ってるんだろうなって、正直に私も思い始めた。
土志田センセは写真を見てても昔から3人の中では、ムードメーカーだったんじゃないのかな?そんなことを考えていた真っ最中、玄関のチャイムが鳴ってこんな朝早くに誰かと思いながら扉を開ける。
「お、はようございます?」
「おう、おはよう、悪いなこんな朝早くに。」
目の前にいる土志田センセの姿に、私の思考が止まって場違いな挨拶をしてしまう。だって、こんな朝早くに何で目の前にスーツのセンセ?しかも、センセのスーツ姿は卒業式とか入学式でしか見られないかなりのレアモノだ。香苗、昨日泊まっとけば良かったな。
「宮井、お袋さんは?」
「あ、えと、中に、います。あれ?センセ、ママに何かようなの?」
不用意だったもんだから、ちっとも思考回路が追い付かない私の頭をポンとセンセが撫でて私の口から出たのは唐突な疑問だった。
「センセ、45番だったの?54番だったの?」
「はあ?お前本当に質問の脈絡が分からんな?」
「麻希子?お客様どなたなの?あらぁ!」
パンケーキを焼き上げたママが廊下に顔を出して、目を丸くする。パタパタと駆け寄ってきたママが私の無作法な格好にペチンとお尻を叩いてから、スリッパを取り出すと微笑む。
「まあ、そんな格好だとあまり変わらないわねぇ。」
ママの言葉に土志田センセは少し苦笑いを浮かべ、お邪魔しますと頭を下げる。そっかセンセはこの間のママが入院中の時に病院では会ってないし、2年になった時の担任紹介は学生にしかないから直に会うのはこれが初めてなんだ。なんか変な気分、ママが私の学校の先生や好きな作家さんの高校生の時を知ってるなんて。
リビングのソファーに通された土志田センセの事を、ダイニングテーブルでパンケーキと格闘中の衛が不思議そうに眺めている。流石の衛も鳥飼さん以外の雪ちゃんの同級生とは、顔を会わせてないみたい。
「今回は、こちらの不手際でお騒がせしました。申し訳ありませんでした。」
お茶を前に丁寧に頭を下げた土志田センセに、私はポカーンとしてしまった。だって、何で先生が謝るの?センセは何もしてないし、香苗を助けてくれて守ってくれただけでしょ?木内梓の件だって木内の嘘ッぱちだったんだよ?私がポカーンとしてる横で、ママはセンセの下げられた頭を見つめる。
「うちの麻希子の疑いははれたんですか?麻希子から話を聞くと大分麻希子が考えているのと違う話だったみたいですけど。」
え?ママ?センセが嘘ついたわけでもないし、センセに何で詰問?やったのは木内梓だよ?
「木内には両親と一緒に詳細を確認しましたが、木内梓自身が宮井さんに嫉妬して、置き手紙に嘘を書いたと話しています。」
「嘘を書いてこんな騒ぎを起こして、済ませますか?」
センセが申し訳ありませんてしたともう一度頭を下げながら、ママと私を真っ直ぐに見つめる。
「本来なら木内梓を連れて謝罪も考えておりましたが、木内梓が昨日急遽転居にともない転校願いが提出されました。木内の母親に連絡を取りましたが、謝罪はしたの一点張りで、申し訳ありません。」
あの雄弁な木内のスタンプみたいな母親なら、そういいそうだなって私は正直考えるけど。転校って木内梓転校するの?唖然としている私の横で、ママは普段の呑気なのが嘘みたいに険しい顔をしている。
「転校するから良しとは納得できません。」
「ごもっともだと思います。今後は同じことが起きないよう、早急な対応に勤めます。」
頭を下げる土志田センセに、私は意味がわからない。センセがセンセとして謝ってるのは分かったけど、非難されるようなことはしてないし非常識なのは木内梓でしょ?センセはできる限りしてたんじゃないの?でも、そこまで話して、ママの顔がやっと何時ものママに戻ったのに私はホッとする。
「難しい話はここまでにして、立派になったわねぇ、悌順君。」
「いえ、まだまだ未熟者で。お加減はよろしいんですか?入院されてたと伺ってます。」
うわぁ、センセが敬語でママと話してる!とか思ってるとママはニコニコ顔になってて、今までの話は大人の話なんだなって私にも分かった。一応形だけでも筋を通さないといけない話って、言うやつなんだろうなって私でも思う。でも、木内梓がいなくなったからいいって訳じゃないんだよなぁ。
「もうすっかり元気よ。」
「それは良かった。雪にとっては宮井さんが母親と同じですからね。」
「あら、あなたや信哉君だって同じように子供みたいに思ってるわよ?」
「はは、ありがとうございます。」
ピョコンとソファーの手摺から衛が覗きこんで、センセの顔を見上げたのにセンセがニッと笑いかける。
「よお、衛、大きくなったなぁ?最近は会ってなかったから、驚いたぞ。」
「ヤス君?」
あれ?やっぱり会ったことあるの?雪ちゃんって案外友達付き合いしっかりなんだなぁ。変なところで感心してしまうけど、衛はオズオスしてるから最近は会ってなかったみたい。でも、名前まで知ってるところを見ると全く知らない訳じゃないみたいだ。暫く世間話をして、センセは学校に行くからと帰っていった。
夏休み殆ど学校に行ってるのかなぁ、センセって大変な仕事なんだ。結局私はセンセが45番なのか54番なのか、答えを聞くのを忘れてしまっていた。
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