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8月

107.ルドベキア

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8月25日で夏期講習も残り2日。なんか殆ど夏期講習で学校に来て過ごしていた気がしなくもない。それでも、夏の思いでは、プールも行ったし水族館にも行った。夏休みの間に智美君とLINE交換もしたし、香苗ともまた仲良くなれそうな気がする。それに、ママは入院するし、香苗は救急車で運ばれるし、雪ちゃんはワケわかんないことを沢山して……波瀾万丈な夏休みと言えなくもない。
正義の味方みたいに現れて毒舌吐いて悪い人をやっつけてみたり、突然布団の中に引っ張りこまれたり、キスしてきたり。なんか、考えてたら段々頭が混乱しそう。
人を好きってどうやったら証明できるのかな、智美君を初めて見た時ドキドキして恋をしたんだって思った。でも、智美君に恋をした筈なのに、雪ちゃんの事もやっぱり好きなんだ。どっちが本当の恋なのか公平に考えてみようとするけど、正直私にも分からない。早紀ちゃんみたいに孝君を一途に思い続けてるのって、凄いことなんだなって今更のように考える。香苗の新しい好きも同じように一途な気がするのは、どうしてなのかな。上手いことタイミングが合わなくて、1人でそんなことを考えながらトボトボ歩く。

雪ちゃんと智美君、どっちの方が本当の好きなんだろう。

夏休みで智美君と会う時間が減ったのと、普段から会うことの多い雪ちゃん。2人を比べるなんて私がするにはおこがましいような気もして、ボンヤリ空を見あげながら考える。そんな風にボンヤリしてたから、私を待ち構えている姿に気がついたのはホンの目と鼻の先だった。

「宮井、あんた何したの?ネットでさらしたの?」

木内梓の血相を変えた顔に、私はポカーンと立ち尽くした。だって、昨日も関係ないって言ったのに、こんなところで待ち構えて同じこと聞くの?正直訳がわかんない。でも、木内梓の瞳は今にも泣き出しそうで、私はその瞳を覗きこんだ。

「さらすって何を?」
「とぼけないでよ!あんた以外に考えらんないんだから!」

何でこんなに木内梓は私のこと目の敵にしてるのかな、夏の陽射しのせいかウンザリしながら私は彼女を眺めた。あなたを見つめるのが好きな訳ではないんだけど、と心の中で呟くと、木内梓は苛立つように爪を噛んだ。

「何時もあんたが絡むとダメになるんだから!」
「え?それってまるっきり八つ当たりじゃん。」

ああ、いけない、つい心の声がそのまま口に。木内梓は私の声に真っ赤になってブルブルと震えながら、上目遣いに睨み付ける。でも、正直それ八つ当たりだよね?だって私が絡んだっていうけど、特にこっちから絡んでないんだし。どっちかっていうと、そっちが絡んできてるよね?出禁になったとかいう話だって、自分達がそういう結果になる事をしたんでなったわけだよね。大体にして私に何が出来るって思ってるんだろうか?

「ねぇ、私が何をどうしたと思ってんの?出禁になったとかネットで曝すっていうけど、大体にして何か曝されると困ることしたの?」
「えっ?!」

えっ?!って何?何で私の質問にそっちが驚くの?私が聞きたいんだけどと考えていると木内梓の顔がみるみる元気を失って行く。何か勘違いして絡んだのに気がついて、更に落ち込んだっていうのが当てはまる木内梓の顔に私は困ったままだ。夏の陽射しの中で、立ってジリジリしながら話す事でもないような気がしてきた。

「ねぇ。」
「何よ。」
「暑いから、どっか行って話さない?」

私の言葉に木内梓が唖然とした顔をする。だって暑いんだもん、話したいならどっか避難して続けて欲しい。炎天下で立ち話してたら、日射病になりそうなんだけど。木内梓は毒気を抜かれたみたいに、もういいと呟いて私に背を向けて歩き出す。
暑さにウンザリしながら木内梓の背中を見送って、私はボーッとする頭で何がどうすると木内梓をあんなに困らせるのかなって考える。高校生が出来ることなんてたかが知れてるけど、あの合コンするカラオケボックスとかを出入り禁止にされたんだろうか。出入り禁止になるようなことって何かな。マイク壊したとか?備品持って帰ったとか?自分で考えてもつまらないことしか思い浮かばない。でも、そんなつまらないことでお店を出入り禁止になるくらいなら、普通に楽しんでればいいんじゃないかなー。

「あー、暑い。」

思わず口からそう呟く。もう少しで夏休みも終わるのに木内梓は補習受けなくて大丈夫なのかな。香苗はギリギリ補習が間に合いそうだけど、越前ガニとミズ櫻井に殺意を感じるってLINEしてきた。でも、そういうこと言ってるくらいが高校生っぽい気がする。学校の事とか恋の事とか、お互いにワチャワチャ話してるくらいで丁度いいんじゃないかな。

ごめんね。

不意に頭の中に女の人の声がして私は立ち止まる。誰の声だか分かってるけど、そんな言葉を本当に聞いたかどうかは記憶にはない。

あなたが麻希子ちゃんね。

そう女の人が言う。

ごめんね。少しの間許してね。

そうあの人は言った。中学生になるかならないかの私に、あの人は確かに申し訳なさそうな微笑みを浮かべて掠れそうな弱い声で。少しの間と、確かに彼女は私に言った。あれは何を意味したんだろう。

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