鵺の哭く刻

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末期

131.★

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運命の坂を転がり落ちる。

そんな表現が現実の中で、本当に起こりうるとは実は一つも考えもしなかった。ある意味では自分の生活はその言葉に表現されるもので、順風満帆に進む筈の航路を外れ荒波に揉まれたようなものだ。何しろそうなって当然の評価をされない不遇の人生の中で、手にいれた筈のものは失われて行くばかり、しかも自分を評価しないのは社会だけではなく身内まで含まれている。

既に離婚からは数年が経とうとしているが、アキコからはあれから一度も連絡は来ないままだった。

よくもまぁここまで我慢して暮らせていると思うが、それこそアキコがまだ病を有しているのか、はたまたあの糞親父に何か洗脳されているのかとも考えてしまう。何しろあの女は真性のマゾヒストの雌奴隷でマンコと口だけでなく尻の穴まで調教され、しかも自分を奴隷としても妻としても愛していると宣言したのだ。

ネットリと絡み付くマンコとケツマンコ

フシダラな言葉で犯されるのを散々ねだっていたアキコの痴態を、シュンイチは常々妄想の中で思い起こしながら今は暮らしている。主にそんな生活を送らせるなんて、シュンイチから色々なことを教えてもらったくせに、それにここまで優秀な逸材のシュンイチを堕落までさせて知らんぷりをしていたとは何て恩知らずな女だろうと思う日々が続く。

…………あいつが大人しく、雌犬奴隷1号をしてればこんなことにはならなかったのに。

父親がシュンイチの事を見る目が明らかにかわったのは、アキコがタガの両親と一緒に離婚したいとぬけぬけと言いに来た時からだと思う。アキコはあの糞親父どもに洗脳されて自分の体が完璧な淫乱な雌豚に躾られているくせに、シュンイチに楯突いて馬鹿な離婚を押しきった。
最初は馬鹿な女だ、俺から離れて誰がお前を満足させるんだ?と思ったものだ。でも、何時までたっても女は戻りたいと泣きついても来ないままだ。今でも昨日の事のように思い出せるのが、あの時のアキコがそれまで見たなかで一番凛として美人だと思わせた瞬間なのが忌々しい。あの女が最低限の物を持って引き上げた後、シュンイチは当然だが女が居なかった前の生活に戻ろうとした。が、一度味わってしまった他人が自分の身の回りの世話を全てやってくれる便利さは、もうどうしても忘れられないのに気がつかされてしまったのだ。

料理だって作りたての暖かい物を出されるのと、コンビニの弁当じゃ違いは歴然だ。

ならば自分で作ればいいだけだが、アキコはかなり料理が上手かったのだ。アキコ程の料理はシュンイチにはどうやっても出来なくて、試してみてもかけ離れた屑飯しか生み出されない。しかもアキコならば僅かな時間でキチンと整えられ清潔にすることが可能だったろうが、家の中はあっという間に汚れてゴミで埋まっていく。あの女が病気の間に一時的にゴミが溢れていたのとは、全く別物の蓄積する汚れにシュンイチは一人で暮らしていた昔と同じで見て見ないふりをする。
まずアキコと暮らしていたアパートを追い出されるはめになったのは、蓄積したゴミが排水溝を何回か詰まらせ床を汚水の洪水で完全に洗ったのが二度目を数えた後の事だった。当然のように母親に泣きつき資金を出させて新しいアパートに移り住むが、行動が変わらないのだから環境は変わっても辿る道も変わらない訳でもある。再びアルバイトで塾の講師をしながら、シュンイチはあの女に似た女がなんとか手に入らないか何時までも思案し行動をし続けていた。

「ねぇ、バック欲しいんだけどなぁ。」
「ああ?何いってんの、自分でそんなの買えよ。」
「はぁ?彼氏でしょ?」

でも新しい女はどいつもこいつもシュンイチには何か金品を求めるくせに、自分から何かしようとはしない女ばかりなのだ。寝るにしても汚いシュンイチの部屋には連れ込めないし、かといって場末のラブホテルなんぞを一度目の性行為の場所に選ぼうものなら女どもは不快感を示して拒絶する。

「…………ラブホはちょっと…………。あ、私用事あるんで帰りますぅ。」

そう何度か作り笑いで帰っていった女もいるし、ラブホテルで最初の調教を受けている最中にこんな予定じゃなかったと泣きながら逃げ出した女もいる。仕方がないからホテルに持ち込めた時は迷わず薬なんかを仕込んで写真に撮ってやったりして何回か数をこなして調教することもあるのだが、そんな女は基本的には泣きじゃくるばかりで痛みを快楽には変換できないことが多いのだ。それに自分からシュンイチの部屋を掃除して綺麗に整えて暖かい食事を作ろうとした女は、実際にはアキコだけであれ以来一人も見つからない。
そう久々の連絡で二人で顔を遭わせ飲みの席で、スーツ姿のコバヤカワに愚痴を言う。すると昔の上司でもあったヤハタが室長をこなす塾の正社員になって働き続けて行く内に、急に老けたコバヤカワは年下だというのにシュンイチに向かって諭すように口を開く。

「ヤネちゃん、アキさんみたいな人は普通は居ないんだよ?ヤネちゃんが変わんなきゃ。」
「俺が?何を変われっての?」

思わずシュンイチが不機嫌にそう返すと、溜め息をついたコバヤカワはそれが当然のようにクドクドとシュンイチに向かって説教をし始めるのだ。

「アキさんみたいな一生懸命やってくれる人を、あんな風に追い詰めたのはヤネちゃんでしょ?大事にしてあげなかったのはヤネちゃんだよ?」

そんなことは世間の常識での話で、自分は主になるべき存在なのだし、アキコは実際にシュンイチに自分から尽くしてきたのだ。他の女だけでなくアキコだってもし自分に大事にされたかったら、それなりの行動をして、大事にしたくなるような存在になるべきだというとコバヤカワは苦々しい口調でいう。

「馬鹿なこと言ってないで、相手の事をキチンと大事にしてあげなきゃ…………誰もヤネちゃんと一緒にいてくれないよ?」

年下の癖に訳知り顔で諭す口ぶりが勘に障る。大事にはしてやったのだ、妻にもしてやったし奴隷にもしてやったし、自分の傍にいられることに感謝してしかるべきなのだというとコバヤカワはおかしいんじゃないのと言う始末。仕方がないから少しだけアキコにしてやった調教についてもほんのさわり程度に話してやったら、コバヤカワの顔色が少し変わったのに溜飲が下がる。

「あの女は、どんなことでも従うように躾てあるんだよ。」
「躾…………?」
「そうそう、躾。従わない時は鞭でぶって調教してあるから、なんでも言うこと聞くんだ。」
「は?鞭?」
「そう、乗馬鞭とかバラ鞭とか。」
「鞭って、真面目な話?鞭って本気のこと?」

馬鹿みたいな質問をしてくるから、鞭に関しての自分の知識を披露してやるとコバヤカワは納得したのか黙り込んでじまった。

「バラ鞭は音がいいけど、痛みが少ないんだよな。だから、乗馬鞭の方が言うこと聞くんだ。」

それで打たれてヒイヒイ泣きながら四つん這いで言うことを聞いていたアキコのマンコやケツマンコを犯してやったことを、話ながら頭の中で思い浮かべる。それが顔にニヤニヤと優越感の笑みとして浮かびあがったのに、コバヤカワは言葉を失っていた。

「それよかさ?」

他の仲間のコイズミはいつの間にか結婚し子供ができたというし、ハルカワも塾の整社員として別な地区で有望な株として働いているという。目の前のコバヤカワにしても実は結婚を予定しているのだとは聞いていたのだが、その先の予定に関しては何も言わないから既に結婚したのかどうかすら知らないでいた。
久々にこうして顔を遭わせたから結婚式は何時やるんだと問いかけたら。とうに結婚していて子供が出来たのだというのだ。それでかと思うのはコバヤカワは子供が出来た途端、こうして偉そうに説教するようになったのだと気がついたからだ。

子供ができたからなんだっていうんだ。

大体にして本当ならシュンイチにもかなり昔に子供が出来ていたのだが、シュンイチは頭がいいから経済的な事とか様々な事情を諭してあの女に中絶させてやった。あの時子供なんか作っていたら金も稼がないアキコと子供にかかる費用で、シュンイチの世話もろくに出来ないに違いない。だから中絶は適切な判断で、それを出来るシュンイチは先見の明に明るい人間なのだ。そう酒の肴に話したら、一瞬で完全に顔色を変えてコバヤカワは怒りだしたのだ。

「何考えてんの?」
「あ?」
「ヤネちゃん、子供が出来てたんなら尚更生活改めなきゃ駄目でしょ?しかもアキさんがよく我慢してくれてたって感謝するべきだろ?何やってんの?」
「うるせえな、お前にあいつの何が分かるんだよ?あいつは俺なしではいられない体に俺がしてやったんだ。」
「意味分かんないよ、ヤネちゃんなんて捨てられてんじゃん。」

シュンイチがしてきたアキコへの調教を理解もせずに、久々に連絡がとれて顔を会わせればこんな説教ばかり。しかも最後の言葉は聞き捨てならなくて長い付き合いの友人だったが、言われた言葉に逆に激怒してシュンイチはコバヤカワに思わず殴りかかってしまった。



※※※



それから、ふっつりコバヤカワケイとは縁が切れてしまった。
仕方がないから謝ってやろうと電話をしても、いつの間にかコバヤカワは電話番号まで変えてしまっていたのだ。まさか家に行ってまで謝ってやる筋合いはないし、と飲みながらのシュンイチは言葉を続ける。

「謝ってやろうとおもったのにさ、あいつは電話番号まで変えてんだよ。それに仕方がないからあいつにも許してやるから戻ってこいってメールしてやったら、メアド変えてやがるし。」
「…………ヤネちゃん、本気でそう思ってんの?」

同じくらい長い付き合いになって、普段はなしのつぶてだったのに久々に連絡がとれたコイズミが小さい声で問いかける。コイズミもアキコが姿を消してから次第に家には来なくなって段々と疎遠になりつつあるが、まだ幾分他のハルカワ達と違って僅かな交流が続いていたのだ。いつの間にかコイズミも知らぬ間に別な塾に就職先を変えていて、正社員として既にその一つの教室の室長になりそうなのだという。

「何が?」
「本気でアキさんが戻ってくるって考えてんの?しかもメール?」

コバヤカワと同じように姐さんではなくアキさんと呼ぶように変わっていたコイズミ。コバヤカワの方は以前アキコと夜道で抱き合っていたと昔の仲間内で噂になったことがあったし、コイズミも若い頃から女に手が早く何度かシュンイチの彼女を奪ったこともある男なのは言うまでもない。それを忘れたふりをしてシュンイチは今もこうして付き合ってやっているし、密かにこいつらがアキコを名前で呼ばなくなって随分経つがあえて何も言わない。

「は?何で戻って来ないんだよ?俺の命令だぞ?」

昔からコイズミとコバヤカワも、アキコをものにするのを狙っていたのは知っていた。二人ともが別な女と結婚して子供を作ってもいるから、アキコを諦めたのを認めてやるつもりいる。それなのに目の前のコイズミまでも冷え冷えとした視線でシュンイチを眺めると、深々と呆れていると言いたげに溜め息をついた。

「ヤネちゃんさ?…………現実見た方がいいよ?アキさんはきっとヤネちゃんの事なんか思い出したくもないと思うよ。俺だったらそう思う。」
「は?何いってんだよ?」

シュンイチがそう口にしたらコイズミは音をたてて立ち上がると、まだ数品しか口にしていないのに伝票を片手にしてシュンイチを見下ろす。まだほんの一杯しか飲みもしていないだろといいかけたシュンイチに、コイズミは淡々とした口調でコバから話を聞いてたけどと呟く。どうやら梨の礫で連絡がとれないでいたコイズミが、突然こうして顔を合わせたのはコバヤカワケイから何か連絡がきたからのようだった。

「俺、あんたとはこれで完全に縁きるから。二度と連絡しないでくれる?」
「は?」

唐突なその言葉に訳が分からずに声をあげたが、伝票を手にしたコイズミはさっさと席を立つと会計を済ませてその場を立ち去っていた。文句を言ってやろうにもその後コイズミの奴は連絡先を代えて、シュンイチからの電話もメールも受け取らないようになってしまったのだ。
街中で見かけようにもシュンイチもバイトで塾講師をしているから鉢合わせにもならないし、シュンイチの方から必死にアプローチするようなことでもない。そうして大学時代までの友人は一人、また一人とこのシュンイチとの縁を切り捨てていく。

何でだ?

そう一人射干玉の闇の中で考えながら眠ると何故か必ずあの湿った空気の漂う土蔵の夢を見ていると思うのだが、奇妙なことに以前のような淫らな夢を見た記憶は残らず、不快でスッキリしない戸惑いだけが頭の底に澱のように溜まっていく。、
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