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感染
3.★
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小学生五年生のアキコは、百五十センチと小柄で、体つきは年頃のわりに全体的にふっくらしている。色白で真っ黒な濡れたような黒髪、目は二重でパッチリと大きく顔立ちのはっきりした可愛い少女だった。黙って大人しく本を読んでいれば、日本人形で大和撫子なんて言われるほど。
相変わらず自宅の周囲には、同じ年代の女児はいないし普段の遊び相手はあまり多くない。それでも次第に男女の体力の差が生まれて、男の子は四六時中山で駆け回りアキコには木に登ったり沢を越えるのにも追い付けない事も増えていた。
「アキコ、追い付けないなら、くんなー。」
そう言われるとこが増えた矢先丁度人より早く月経を迎えたせいで、それは大きな変化になって彼女をあまり外遊びに向かわせなくなって行く。だがそれはアキコにとっても時間の流れの結果で別段嫌な変化ではなかったし、体の変化と共に男女差が生まれるのは仕方がないことだった。
※※※
丁度その辺りのことだ。
アキコの父は、元は東北の生まれではなく別の土地の生まれだった。何故海を越えてまで父がこちらに一人で移り住んだのかは知らないが、ちょうどその夏アキコの父の父に当たる人物・つまり父方の祖父が病で臥せっていた。
父方の祖父は炭坑で働いていた元炭鉱夫。
父に言わせれば大酒のみで手のつけられないような人だというが、アキコには何時も優しい祖父だった。見つかったのは肺の病で、炭鉱夫にはよくある病が発端だったという。既に病は手の施しようがなく余命は後僅か。孫の中で唯一の女児だったアキコを祖父が心底可愛がっていたこともあって、父はアキコを連れて祖父に会いに行ったのだと言う。知らない土地、何十年と離れていた土地ではアキコを連れてでは父は思うように活動ができず、アキコは父の兄にあたる伯父夫婦の家に一晩やむを得ず預けられたのだった。
何か…………、やだな
父の実の兄である伯父もその妻である伯母も、暮らしている土地からは遠方過ぎていて産まれてから数回しか会ったことがない。ましてや伯父の子供である三人は年の近い従兄弟・アキコを挟むように上と下の年の二人と、弟と同じ年の末っ子が一人。そんな夫妻と子供の五人で暮らすアパートに連れてこられたアキコは戸惑いながら、薄暗い玄関を潜り父の後を追ってリビングに入る。
そこには殆どアキコには見覚えのない伯父と伯母がいる。
件の従兄弟達はリビングやキッチンにはいないが、家の中には居るらしく何か別な部屋からは人の気配がしている。従兄弟達は自分達の部屋に籠って三人で何をしているのか、居間で挨拶をする父とアキコの気配に気がつかないのか顔すら見せない。やがてやっと気がついたのたか、一人がチラリとキッチン脇の扉の向こうの子供部屋から顔を出した。
それはアキコより1つ年上の従兄弟の長兄だと言う。ところが顔を出したというのに、やはり挨拶もせずに値踏みするように父とアキコをジロリと眺め、興味がないといいたげに扉の奥にその人物はノソリと姿を消した。
なんなの?あの人
それは今まで自宅の傍で遊ぶ近所の子供達とはあまりにも毛色が違って、アキコは戸惑いすら感じてしまう。よく知る自分の家の近くの子達は顔をあわせれば、誰しも大きすぎる位の声で「こんちわー!!」と挨拶くらいはする。こんな風に胡散臭そうに値踏みして、引っ込んでしまうなんてみたことがなかったのだ。それを父はどう感じているのか口には出さず、静かに伯父と祖父の話をしている。
父や祖父と同じ血筋が良くわかる顔立ちの伯父。
それに対して横に座る伯母は異常なほどにずんぐりと太っていて一回り大きく見えた。横に座って愛想笑いを浮かべるが、その瞳は爬虫類のように一片の暖かみも感じない。血のつながりなのか先程の従兄弟のように、いつまでもジロジロとアキコ達を値踏みしているみたいな視線にアキコは内心酷く居心地が悪く戸惑う。
「アキコ、伯父さんの言うことを聞くんだぞ?」
そうして明日の朝には迎えに来ると置いていかれたアキコは戸惑いながら、伯父一家と長い一夜を過ごすことになったのだ。
伯父は「俺も女の子が欲しかったんだよ」と祖父によく似た笑顔で接してくれる。しかし、その後も伯母や従兄弟達はどことなく値踏みするような視線でアキコを眺め、話しかけても来ない。やっぱりお父さんと一緒がいいと伯父に言おうにも、父は祖父の入院に必要な荷物を運んだり洗濯など祖母の手伝いのため今夜は戻って来ないと子供ながらにアキコは理解していた。そこに我儘を言うほど自己中心的には育っていない上に、物わかりのいい良い子であると言う自覚がアキコにあるのも事実なのだ。
何気なくキョロリと伯父夫婦のマンションの中を見渡す。
4LDKのアパート。
それにしても自分の家との余りの違いに驚いてしまったのは、ここだけの話だ。アキコ自身の家は実際は3LDKだが、伯父の家はどこもかしこも荷物が積み上げられて圧迫感が強かった。
四方の壁際には様々な物が積み上げられて、どこも窓の半分が埋まって見えない状態。どこも埃っぽく、足の裏に何かがへばりつく油のように滑った感触がして、どこもかしこも湿っぽくてカビ臭さに満ち生臭く淀んだ空気。正確には物が雑然積み上げられて整理されていないから印象ではなく雑然としているのだといえるが、アキコはそんなことをあからさまに口に出すような子供ではない。
キッチンの隅の扉から入る子供部屋には三兄弟が籠って何かをしているらしい。キッチンの横にある扉は開いたままで漏れ聞こえる声に仲間にいれてもらおうかと思ったが、声をかけるにはあの何を考えているのかわからない従兄弟の長兄に接しなきゃいけない。そうするくらいなら、まだ父に似た伯父の傍に居る方がアキコには安心だった。結局従兄弟達とは食事も一緒にとらなかったし、風呂にも入れて貰えなかったが一晩我慢すれば明日の朝には父が来てくれる。そう考えて必死に我慢するしかなかった。
「そこで寝るんだよ。」
伯母の素っ気ない言葉に従い、アキコは不安の中でリビングの隅に敷かれた布団にくるまる。壁際の様々な荷物が今にも自分に向かって崩れ落ちて来そうな影の中で、これで眠って朝になれば父が迎えに来てくれるし明後日は断固として父の傍にいようとアキコは心に誓う。こんな場所では眠れないとは内心思うが、朝になるまでこうしていることも難しいのはまだアキコが子供だったからだ。
電気が消えてやっと寝付いた闇の中で、ふと浅い眠りの淵から意識が浮かぶ。一瞬世界は頭の中で作り上げた、アキコの空想の世界の中のような気がした。それが何故かと言えば、自分の上に巨大な黒い影がのし掛かっていたからだ。
青黒い薄闇の中、逆光なのか人相も顔色も黒一色に沈んでいる大きな影は自分より遥かに巨大。
そんなものにのし掛かられている状況が呑み込めず驚き過ぎているせいか、それとも跨がられて重さのせいなのか全く体が動かない。
ヌルリ……
視線を向けると薄暗い闇の中に、自分の体が白々と浮かんでいた。汗なのかなんなのか湿って不快に滑る温度の分からない黒い手が、アキコのパジャマを幼い肌から引き剥がしている。そして前をはだけられ、まだ専用の下着を身に付けてもいない幼い乳房をまさぐる卑猥な滑る手があった。
ヌルリ………
アキコは凍ったように、それを見つめていた。性的なことはなにも知らない無垢と言えればよかったかもしれないが、豊富な読書による知識の中には残念ながら性的な豊富に知識もある。何せあの青年教師の学級文庫の中にはそれを暗に示す場面があって、それで親達の一部が苦情を申し立てていたのももう今では知っていた。
ヌルリ……ヌルリ……
それでも知識と経験は別物。まだ乳房といえるほどでもない硬い平らな胸を執拗に揉んだり、体を屈みこませてアキコの胸にモゾモゾと何かをしている。やがて目がなれて眠りから覚めてきた視界で、それは影の中の口を開いて犬のように真っ赤な舌を出しているのが分かった。何かヌルリとしたものが乳房を撫でるのが影の舌なのだと分かって、影が自分の体を舐めているのに気がつく。
ベロ、ジュル……ジュルジュル……
体を、特に乳房の先端を摘まみ上げ、舐めたり吸ったりするのが何が楽しいのかは分からない。ただ身動きがとれないのに相手がアキコの上半身をはだけさせ、フゥフゥと奇妙な生臭い息を吐い乳房を弄くりまわしているのだけは理解できた。
チュパチュパッ……ジュルル……
闇の中では相手もアキコがそれをみているのに気がつかないのだろうかと、呆然としながら手のすることを見つめる。腹の上に跨がられて動けないでいるのに黒い手が執拗に乳房とその先端を指先で摘まみグニグニと捏ね回し、刺激に慣れない乳首をビンビンと指で何度も挫くのが不快だ。この不快な音をたてている影は現実なのか、それとも自分の頭の中だけのことなのかアキコ自身がよく分からないでいた。
ジュルッ……ジュパ………
そして何故執拗に乳を吸うのかも分からない。膨らみもないし母乳が出るわけでもなければ、性的な小説のように痺れを伴う快感もないのに、この影は執拗にアキコの体をまさぐる。やがて満足したのか胸から顔と手を離した影に、内心ではホッとしたのに今度は不快な感触が下半身も裸にしようと腰のパジャマのズボン縁を探り出していた。湿った不愉快な感触の指が足の間に滑り込み、服の上から股を擦りあげる。そして何とか下着を下げようと腰の辺りを探りたてるのに、アキコはこの影が何をしようとしているのだろうかと考え込む。
ハァ……ハァ………
まるで全速力で駆けているような生臭い息を吐きながら、股間を執拗に指らしきものが前後に擦りあげて何かをしようとしている。何度か読んだ物語には時にここを擦られると全身に甘い快感が走るとか、なんとか。だけど今のアキコにはただ意味もなく擦られる事への不快感しか感じないのは、影がしていることが間違っているからなのか。
ヒョ……ゥ………
不意に何処かから掠れた哭き声がして、アキコは無意識に視線を影から離し夜の闇に向けていた。何処かから聞こえる掠れた哭き声は、アキコの体内の奥に何故か響くようで芯が震えるのが感じられたのだ。
そこには天井が見え、下の闇の中にアキコの顔がポカリと浮かんでいる。顔は中空に浮かび、自分を覗きこむ能面のように見下ろしていた。確か明るいときに見たがそこに鏡はなかった筈だったが、見知らぬ家の中ではハッキリなかったとは流石にアキコも言い切れない。それはアキコ自身を見下ろして、微かに唇を歪め掠れた声で再び哭く。
ヒョウ………
アキコは怖いよりも呆然とそれを見つめ、なすがままに股間を擦られ胸を揉みしだかれ続けていた。何かがゾロリと闇の中から這い出して、汚泥のように体を濡らして行くように感じる。そして不意に探り続けていた下半身を覆う衣類の縁に指をかけ、影が服を脱がしにかかるのに気がつかされた。ここで脱がされたら、下も上と同じく舐め回され弄くられる事に気がつく。ズルズルとズボンを下げられ下着姿になってしまった肌に、息も荒くハァハァと生臭い吐息が吹きかかる。そして影は顔を下げて執拗にアキコの股間を指で擦りながら、今度は下着を脱がしにかかっていた。
「……やめてよ。」
パジャマのズボンを下げてついに下着にかかる手に、低いがハッキリした声が漏れた。突然のアキコの声に、のしかかっていた黒い影がビクリと震えて凍りつく。この黒い影はこんなことをしていてアキコの顔は全く見ていないと今更気がつくが、こちらにしても影の顔は闇に沈んでいて見えない。それでも何故か相手が怯えて戸惑うのは、アキコの真っ直ぐに見据えている視線にはありありと浮かんで見えた。
ヒョゥ………
また哭き声が聞こえて影は跳ねるように音もなく飛び上がって、居間を駆け抜けキッチンの横の扉に消えた。青い闇の中でそれを確かに確認して、それがそっと音をたてないように扉を閉じるのを見守る。小さなカチャリという音をたてて扉が完全にしまったのに、アキコはやっと安堵したように体を起こして自分の体を見下ろした。
腕にだけ絡み付いたパジャマの上着、膝まで下ろされたパジャマのズボン、完全に捲り上げられたキャミソール。キチンと変わらずにあるのはショーツだけの姿は、自分でもマトモには見えなかった。
これは一体どういうこと?
何かに濡れたような上半身が不快だった。どれくらい寝ていて弄られていたのか、それを知りたくはないが、騒ぎ立てるのは何故か怖かった。この家の中にはアキコには信頼できる人間がいないのは本能的によく分かっているし、この不快な滑りを流すために風呂に入ることもできない。
ヒョウ……
哭き声にふと視線を向けると闇の中にはまだ自分の顔が浮かび上がっていて、その周囲だけが濃く深い闇に沈み込んでいた。そして、やっとそれが鏡ではないことに気がついたのは、身を起こして対面で顔を見合わせて初めてその顔がずっと上下も変わらずそこにあったのに気がついたからだ。さっき寝転がって見た時、あの顔は逆さまに見えた。鏡なら自分と同じ向きになる筈がなっていなかったのだ。それに気がついた瞬間、アキコの意識は闇の中にプツリと途切れてしまっていた。
相変わらず自宅の周囲には、同じ年代の女児はいないし普段の遊び相手はあまり多くない。それでも次第に男女の体力の差が生まれて、男の子は四六時中山で駆け回りアキコには木に登ったり沢を越えるのにも追い付けない事も増えていた。
「アキコ、追い付けないなら、くんなー。」
そう言われるとこが増えた矢先丁度人より早く月経を迎えたせいで、それは大きな変化になって彼女をあまり外遊びに向かわせなくなって行く。だがそれはアキコにとっても時間の流れの結果で別段嫌な変化ではなかったし、体の変化と共に男女差が生まれるのは仕方がないことだった。
※※※
丁度その辺りのことだ。
アキコの父は、元は東北の生まれではなく別の土地の生まれだった。何故海を越えてまで父がこちらに一人で移り住んだのかは知らないが、ちょうどその夏アキコの父の父に当たる人物・つまり父方の祖父が病で臥せっていた。
父方の祖父は炭坑で働いていた元炭鉱夫。
父に言わせれば大酒のみで手のつけられないような人だというが、アキコには何時も優しい祖父だった。見つかったのは肺の病で、炭鉱夫にはよくある病が発端だったという。既に病は手の施しようがなく余命は後僅か。孫の中で唯一の女児だったアキコを祖父が心底可愛がっていたこともあって、父はアキコを連れて祖父に会いに行ったのだと言う。知らない土地、何十年と離れていた土地ではアキコを連れてでは父は思うように活動ができず、アキコは父の兄にあたる伯父夫婦の家に一晩やむを得ず預けられたのだった。
何か…………、やだな
父の実の兄である伯父もその妻である伯母も、暮らしている土地からは遠方過ぎていて産まれてから数回しか会ったことがない。ましてや伯父の子供である三人は年の近い従兄弟・アキコを挟むように上と下の年の二人と、弟と同じ年の末っ子が一人。そんな夫妻と子供の五人で暮らすアパートに連れてこられたアキコは戸惑いながら、薄暗い玄関を潜り父の後を追ってリビングに入る。
そこには殆どアキコには見覚えのない伯父と伯母がいる。
件の従兄弟達はリビングやキッチンにはいないが、家の中には居るらしく何か別な部屋からは人の気配がしている。従兄弟達は自分達の部屋に籠って三人で何をしているのか、居間で挨拶をする父とアキコの気配に気がつかないのか顔すら見せない。やがてやっと気がついたのたか、一人がチラリとキッチン脇の扉の向こうの子供部屋から顔を出した。
それはアキコより1つ年上の従兄弟の長兄だと言う。ところが顔を出したというのに、やはり挨拶もせずに値踏みするように父とアキコをジロリと眺め、興味がないといいたげに扉の奥にその人物はノソリと姿を消した。
なんなの?あの人
それは今まで自宅の傍で遊ぶ近所の子供達とはあまりにも毛色が違って、アキコは戸惑いすら感じてしまう。よく知る自分の家の近くの子達は顔をあわせれば、誰しも大きすぎる位の声で「こんちわー!!」と挨拶くらいはする。こんな風に胡散臭そうに値踏みして、引っ込んでしまうなんてみたことがなかったのだ。それを父はどう感じているのか口には出さず、静かに伯父と祖父の話をしている。
父や祖父と同じ血筋が良くわかる顔立ちの伯父。
それに対して横に座る伯母は異常なほどにずんぐりと太っていて一回り大きく見えた。横に座って愛想笑いを浮かべるが、その瞳は爬虫類のように一片の暖かみも感じない。血のつながりなのか先程の従兄弟のように、いつまでもジロジロとアキコ達を値踏みしているみたいな視線にアキコは内心酷く居心地が悪く戸惑う。
「アキコ、伯父さんの言うことを聞くんだぞ?」
そうして明日の朝には迎えに来ると置いていかれたアキコは戸惑いながら、伯父一家と長い一夜を過ごすことになったのだ。
伯父は「俺も女の子が欲しかったんだよ」と祖父によく似た笑顔で接してくれる。しかし、その後も伯母や従兄弟達はどことなく値踏みするような視線でアキコを眺め、話しかけても来ない。やっぱりお父さんと一緒がいいと伯父に言おうにも、父は祖父の入院に必要な荷物を運んだり洗濯など祖母の手伝いのため今夜は戻って来ないと子供ながらにアキコは理解していた。そこに我儘を言うほど自己中心的には育っていない上に、物わかりのいい良い子であると言う自覚がアキコにあるのも事実なのだ。
何気なくキョロリと伯父夫婦のマンションの中を見渡す。
4LDKのアパート。
それにしても自分の家との余りの違いに驚いてしまったのは、ここだけの話だ。アキコ自身の家は実際は3LDKだが、伯父の家はどこもかしこも荷物が積み上げられて圧迫感が強かった。
四方の壁際には様々な物が積み上げられて、どこも窓の半分が埋まって見えない状態。どこも埃っぽく、足の裏に何かがへばりつく油のように滑った感触がして、どこもかしこも湿っぽくてカビ臭さに満ち生臭く淀んだ空気。正確には物が雑然積み上げられて整理されていないから印象ではなく雑然としているのだといえるが、アキコはそんなことをあからさまに口に出すような子供ではない。
キッチンの隅の扉から入る子供部屋には三兄弟が籠って何かをしているらしい。キッチンの横にある扉は開いたままで漏れ聞こえる声に仲間にいれてもらおうかと思ったが、声をかけるにはあの何を考えているのかわからない従兄弟の長兄に接しなきゃいけない。そうするくらいなら、まだ父に似た伯父の傍に居る方がアキコには安心だった。結局従兄弟達とは食事も一緒にとらなかったし、風呂にも入れて貰えなかったが一晩我慢すれば明日の朝には父が来てくれる。そう考えて必死に我慢するしかなかった。
「そこで寝るんだよ。」
伯母の素っ気ない言葉に従い、アキコは不安の中でリビングの隅に敷かれた布団にくるまる。壁際の様々な荷物が今にも自分に向かって崩れ落ちて来そうな影の中で、これで眠って朝になれば父が迎えに来てくれるし明後日は断固として父の傍にいようとアキコは心に誓う。こんな場所では眠れないとは内心思うが、朝になるまでこうしていることも難しいのはまだアキコが子供だったからだ。
電気が消えてやっと寝付いた闇の中で、ふと浅い眠りの淵から意識が浮かぶ。一瞬世界は頭の中で作り上げた、アキコの空想の世界の中のような気がした。それが何故かと言えば、自分の上に巨大な黒い影がのし掛かっていたからだ。
青黒い薄闇の中、逆光なのか人相も顔色も黒一色に沈んでいる大きな影は自分より遥かに巨大。
そんなものにのし掛かられている状況が呑み込めず驚き過ぎているせいか、それとも跨がられて重さのせいなのか全く体が動かない。
ヌルリ……
視線を向けると薄暗い闇の中に、自分の体が白々と浮かんでいた。汗なのかなんなのか湿って不快に滑る温度の分からない黒い手が、アキコのパジャマを幼い肌から引き剥がしている。そして前をはだけられ、まだ専用の下着を身に付けてもいない幼い乳房をまさぐる卑猥な滑る手があった。
ヌルリ………
アキコは凍ったように、それを見つめていた。性的なことはなにも知らない無垢と言えればよかったかもしれないが、豊富な読書による知識の中には残念ながら性的な豊富に知識もある。何せあの青年教師の学級文庫の中にはそれを暗に示す場面があって、それで親達の一部が苦情を申し立てていたのももう今では知っていた。
ヌルリ……ヌルリ……
それでも知識と経験は別物。まだ乳房といえるほどでもない硬い平らな胸を執拗に揉んだり、体を屈みこませてアキコの胸にモゾモゾと何かをしている。やがて目がなれて眠りから覚めてきた視界で、それは影の中の口を開いて犬のように真っ赤な舌を出しているのが分かった。何かヌルリとしたものが乳房を撫でるのが影の舌なのだと分かって、影が自分の体を舐めているのに気がつく。
ベロ、ジュル……ジュルジュル……
体を、特に乳房の先端を摘まみ上げ、舐めたり吸ったりするのが何が楽しいのかは分からない。ただ身動きがとれないのに相手がアキコの上半身をはだけさせ、フゥフゥと奇妙な生臭い息を吐い乳房を弄くりまわしているのだけは理解できた。
チュパチュパッ……ジュルル……
闇の中では相手もアキコがそれをみているのに気がつかないのだろうかと、呆然としながら手のすることを見つめる。腹の上に跨がられて動けないでいるのに黒い手が執拗に乳房とその先端を指先で摘まみグニグニと捏ね回し、刺激に慣れない乳首をビンビンと指で何度も挫くのが不快だ。この不快な音をたてている影は現実なのか、それとも自分の頭の中だけのことなのかアキコ自身がよく分からないでいた。
ジュルッ……ジュパ………
そして何故執拗に乳を吸うのかも分からない。膨らみもないし母乳が出るわけでもなければ、性的な小説のように痺れを伴う快感もないのに、この影は執拗にアキコの体をまさぐる。やがて満足したのか胸から顔と手を離した影に、内心ではホッとしたのに今度は不快な感触が下半身も裸にしようと腰のパジャマのズボン縁を探り出していた。湿った不愉快な感触の指が足の間に滑り込み、服の上から股を擦りあげる。そして何とか下着を下げようと腰の辺りを探りたてるのに、アキコはこの影が何をしようとしているのだろうかと考え込む。
ハァ……ハァ………
まるで全速力で駆けているような生臭い息を吐きながら、股間を執拗に指らしきものが前後に擦りあげて何かをしようとしている。何度か読んだ物語には時にここを擦られると全身に甘い快感が走るとか、なんとか。だけど今のアキコにはただ意味もなく擦られる事への不快感しか感じないのは、影がしていることが間違っているからなのか。
ヒョ……ゥ………
不意に何処かから掠れた哭き声がして、アキコは無意識に視線を影から離し夜の闇に向けていた。何処かから聞こえる掠れた哭き声は、アキコの体内の奥に何故か響くようで芯が震えるのが感じられたのだ。
そこには天井が見え、下の闇の中にアキコの顔がポカリと浮かんでいる。顔は中空に浮かび、自分を覗きこむ能面のように見下ろしていた。確か明るいときに見たがそこに鏡はなかった筈だったが、見知らぬ家の中ではハッキリなかったとは流石にアキコも言い切れない。それはアキコ自身を見下ろして、微かに唇を歪め掠れた声で再び哭く。
ヒョウ………
アキコは怖いよりも呆然とそれを見つめ、なすがままに股間を擦られ胸を揉みしだかれ続けていた。何かがゾロリと闇の中から這い出して、汚泥のように体を濡らして行くように感じる。そして不意に探り続けていた下半身を覆う衣類の縁に指をかけ、影が服を脱がしにかかるのに気がつかされた。ここで脱がされたら、下も上と同じく舐め回され弄くられる事に気がつく。ズルズルとズボンを下げられ下着姿になってしまった肌に、息も荒くハァハァと生臭い吐息が吹きかかる。そして影は顔を下げて執拗にアキコの股間を指で擦りながら、今度は下着を脱がしにかかっていた。
「……やめてよ。」
パジャマのズボンを下げてついに下着にかかる手に、低いがハッキリした声が漏れた。突然のアキコの声に、のしかかっていた黒い影がビクリと震えて凍りつく。この黒い影はこんなことをしていてアキコの顔は全く見ていないと今更気がつくが、こちらにしても影の顔は闇に沈んでいて見えない。それでも何故か相手が怯えて戸惑うのは、アキコの真っ直ぐに見据えている視線にはありありと浮かんで見えた。
ヒョゥ………
また哭き声が聞こえて影は跳ねるように音もなく飛び上がって、居間を駆け抜けキッチンの横の扉に消えた。青い闇の中でそれを確かに確認して、それがそっと音をたてないように扉を閉じるのを見守る。小さなカチャリという音をたてて扉が完全にしまったのに、アキコはやっと安堵したように体を起こして自分の体を見下ろした。
腕にだけ絡み付いたパジャマの上着、膝まで下ろされたパジャマのズボン、完全に捲り上げられたキャミソール。キチンと変わらずにあるのはショーツだけの姿は、自分でもマトモには見えなかった。
これは一体どういうこと?
何かに濡れたような上半身が不快だった。どれくらい寝ていて弄られていたのか、それを知りたくはないが、騒ぎ立てるのは何故か怖かった。この家の中にはアキコには信頼できる人間がいないのは本能的によく分かっているし、この不快な滑りを流すために風呂に入ることもできない。
ヒョウ……
哭き声にふと視線を向けると闇の中にはまだ自分の顔が浮かび上がっていて、その周囲だけが濃く深い闇に沈み込んでいた。そして、やっとそれが鏡ではないことに気がついたのは、身を起こして対面で顔を見合わせて初めてその顔がずっと上下も変わらずそこにあったのに気がついたからだ。さっき寝転がって見た時、あの顔は逆さまに見えた。鏡なら自分と同じ向きになる筈がなっていなかったのだ。それに気がついた瞬間、アキコの意識は闇の中にプツリと途切れてしまっていた。
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