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第三部
第四幕 都市下・公園
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正直なところ気を失っていてくれてなによりだが、グッタリしたままの女性をそこら辺に放置するわけにもいかず一端竹林からはかなり離れるしかなかった。豪雨の上に夜半近いお陰で人目がないのは何よりで、公園の木立に降りても恐らく人に見られるとは思えない。見慣れた公園の木立に降りて玄武は異装を解き、どうしたものかと思案する。あまりの情景に恐怖で失神しただけなら兎も角、聳孤の妖気に当てられて気絶したのなら何か起こっていないか確認もしなければならない。とは言え背筋には未だによくない気配が突き刺さるように感じていて、出来ることなら放っておいてしまいたくなってもいた。
「う…………。」
微かな女性の呻きに視線を下ろすと彼女は、少しボンヤリしたようすで目を覚ましキョロキョロと辺りを見渡す。
「…………あの……男は……?」
男と口にした彼女は何故か目の前の土志田悌順ではなく、方向も知らない筈なのに既に駅と住宅街の遥か彼方で視界にないあの竹林の方に自然に視線を向け目を細めた。気を失って居場所が変わっていることにも、まるで戸惑いすら見せないのはある意味でマトモな反応とは言えない。雨に濡れた髪を押さえながら眼金の水滴すら気にせず、ボンヤリと今来た方をみつめている。赤い縁の眼鏡をしたその女性は何処かで見覚えがあって酷く疲れはてていて青ざめていて、それでもその瞳が木気を放つのに、悌順は気がついてしまっていた。
「あんた…………その眼……。」
思わず悌順が口にした言葉に彼女は気がついていないのか答えもせずに、真っ直ぐに竹林の方向を見つめている。それがまるで青龍と同じような視線の向けかたで、その眼が左右に動くのが悌順にもわかった。彼女の眼には何が見えているのか、不意に雷光にその瞳が青く微かに光っているようにも見える。
「何が…………見えてるんです?あんたには……。」
「黒い…………影が、……。」
昔からあれは傍にいてとボンヤリと呟く彼女は、そこで初めて目の前に悌順がいたのに気がついたようにハッとして視線を向けた。誰と話しているかも意識していなかったようすの彼女の顔を正面から見た瞬間、暫く前にニュースに出たことのある女性だと気がつく。
確か都立総合病院の遺産の殆どを慈善団体に寄付したとかいう……。
名前は思い出せないし画面では木気なんて気がつかなかったが、随分悲しげに笑う女性だとは思った。それが最善だと思いますと言いながら自分にはその資格がないと言いたげに笑う彼女に、一緒に見ていた忠志は「勿体ねぇ、自分で好きに使えばいいのになぁ。」なんて言っていたのを思い出す。悌順としては見ていて、寂しげな笑顔に彼女にはそうしないといけない理由があるのだろうなんて考えていた。その彼女は昔から何か黒い影を見ていたのだと言う。もしかして自分達が本当に知らないだけで、自然とこんな風に気の力を持っている人間は実は多いんじゃないだろうか。無意識に一瞬だけ気を使うんなら、流石に間近に見ていなければ悌順だって気がつかない。
「…………元夫に鉢合わせて、襲われそうになっていたら…………若い男の方に助けられて……、怖くて気を失って。」
彼女は取り繕うように黒い影という言葉を打ち消そうとするように、そう口にするとよろめきながら立ち上がろうとする。咄嗟に支える手をかけた悌順に、すみませんと呟きながら思い出したように彼女は改めて多賀亜希子と名乗った。黒い影が窮奇のことだとも言い切れないし窮奇を知っているかとは問えないが、その影が何か見えたかと問いかけると彼女は少し黙って悌順の顔を真っ直ぐに見つめる。その様子が義人に似てると無意識に考えた瞬間、彼女は思い出したように辺りを見渡す。
「あの……矢根尾は……?」
その言葉に不意に不快な男が脳裏に浮かぶ。一年前に悌順が惚れる発端になった事件を巻き起こした男、須藤香苗をまるで奴隷か物のように扱っていた悌順にとってとても不快な男の名前が矢根尾俊一というのだ。それをどう見たのか目の前の彼女は何故か申し訳なさそうに俯いたが、彼女を襲った元夫というのが矢根尾というのだと気がついた。
「すみません……、俺は金髪の奴の方の友人で、あなたの事を頼まれた。」
それは確かに嘘ではない、ただ経過の全てを話していないだけだ。恐らくあの場にいたのだとしたら、残念だが窮奇の餌食になったと考えた方が早いのだろう。それを彼女が何処まで見ていたのかが問題で、それを聞き出したいのだが彼女の様子が義人に似通っていて言葉を選びにくい。彼女は視線をあげると悌順の顔をもう一度真っ直ぐに見つめ、微かに目を細めた。
「助けてくれた方は…………怪我はしてないですか?」
戸惑うような言葉は素直に忠志の身を案じていて、好い人だなと思わず考えてしまう。自分を襲った人間のことや助けてくれた人間のことばかり気にして、自分のことは二の次なのだろうと思わず微笑んでしまった。それを見て多賀は少し不思議そうに首を傾げる。
「あなた、……お人好しって言われるでしょ?」
「え?」
「友人は無事ですよ。でも、あなたはぶっ倒れてて気を失ってるんです、あなたが一番の重症じゃないですか?」
その言葉に木立の滴が落ちてくる中で多賀は、我に返ったようにそうですねと呟いて職業病ですねと微かに微笑む。義人と似ているとは思ったが彼女も看護師なのだといい、つい気になってしまってと言葉少なに言う。その言葉で少し気を許したのか少し揺れる悲しげな瞳で、影は昔から傍にいて時には直ぐ傍に迄やって来ますと掠れる声で呟く。
「影…………。」
「そういう血筋だと幼い頃に言われて育ちましたけど、…………多分、私だけです。こんな風におかしいのは……。」
でも生まれ育った土地柄こういう人間でも周囲に受け入れられやすいんですと多賀は、自嘲気味に言う。こんな風に何気なく気を使いこなす人間が度々現れる土地があるとは正直驚いてしまうが、土地柄ということは彼女にとっては当然で土地の人間にも随分昔からあることなのだ。
「でも、あの人には……あの影は見えない筈だけど、……助けていただいたお友達には見えていたような気がします。」
鋭い観察力でそう言うと、再び多賀は竹林の方へ視線を向ける。ところがその視線は竹林の方角から、スゥッと東側に向かって滑るように動く。彼女はその影が自分と出会った場所から移動したのを、あえて教えなくても見えているのだ。
「…………よくない……ですね、あれは…………。」
思わず悌順もつられて視線を向けると、確かに少し東に仲間の気配が動いていて恐らく竹林の奥にある院の辺りだ。しかも窮奇の木気は大分弱っているが歪み始めた金気の気配が立ち上っていて、どす黒い淀んだ気配が絡み合うように旋風になって巻き上がっていた。チッと何気なく無意識に舌打ちした彼の姿に少し驚いた様子で、かなり背の低い多賀が仰ぎ見るように悌順の顔を見上げる。
「見えて、いらっしゃるんですね…………あなたも。あれ。」
「見えるというか、……俺は、感じるってとこです。」
この様子では隠しようがない。そう簡単に話すと多賀は素直に納得した様子で、同時に少し安堵すらしたようだった。どうやら窮奇の姿を見たとは考えられたが、ここまでの彼女の様子は何か問題がありそうには見えない。日を置いて何かが起こる可能性もなくはないが、それならそれで後日対応でも良さそうかと考えた瞬間、周囲を僧服の人間とスーツ姿の人間が音もなく囲んでいた。僧服は間違いなく院の人間なのは分かるが、悌順と彼女を今囲う意図が理解できない。
自分達の住みかを教われてんだぞ?何のつもりだ?
そう力一杯に怒鳴りたいが、背後に庇う多賀にそれをワザワザ聞かせるわけにもいかない。それとも自分ではなく狙っているのは木気をもっている多賀の方かと、戸惑いすらした悌順の肩に突然鋭く痛みが走った。
「なっ……。」
肩に刺さったのはダートと呼ばれる矢で、途端に激しい眩暈が襲う。人間相手に麻酔銃かよと舌打ちしたくなるが咄嗟に体内の水分を動かそうとすると、背後の多賀を誰かが取り押さえたのが分かる。体内に入った麻酔薬を分離させながら、しかも同時に人間相手だ。しかも考える隙も与えず更に二矢目と三矢目が腕に刺さり、目の前の光景に多賀が鋭い悲鳴を上げるのがわかった。多賀狙いじゃないのはなによりだが、それにしたって大型動物じゃあるまいしここまでするかと流石に対応しきれずに朦朧としながら考える。
こんな猛獣扱いで死んだら、香苗に泣くどころか笑われるな。
意識を失う瞬間に咄嗟に考えたのはそんなことで、思っているよりもずつと根っこまで香苗に惚れこんでいるのかと自分自身に呆れ返ってしまっていた。
※※※
逃げろと電話で言われて咄嗟に雨の中に飛び出したはいいが、隣のマンションの悌順達もいないのは分かっている。そうなると何処に行ったらいいのか全く検討がつかない自分に、仁は呆然と歩きながら辺りを見渡した。雨の中ではここが何処なのか切っ掛けがつかめない上に、暗闇では普段から見たことがあるのかどうかもハッキリしない。怖がって外にでない内にこんなに色々な記憶が抜け落ちてしまっていたのに、愕然とすらしていた。電話をかけてきてくれた智美に何度か電話を折り返してかけてみたが電波圏外だとしか言わない状況に、仁は戸惑いながら光を探す。何時も自分を助けてくれていた光は今も何かと争っていて、今は傍には来てもらえないのが分かる。
どうしたら……
記憶を引き戻そうと必死になっても雨に溶けて流れ出して行くみたいに、指の間から何もかもが抜け落ちていってしまう。小さな物陰で雨をやり過ごし、戸惑いながらスマホの画面に並ぶ名前を見ても誰が誰か思い出せなくなっている自分。どうしてこんなにあっという間に記憶が溶けるように消えていくのか、それが恐ろしいのに止められもしない。
誰に頼ればいいんだ…………智美は逃げろって……俺は……
冷えた指が微かに震えながら画面を動かす。
五十嵐海翔
久保絢
香坂智美
鈴木貴寛
志賀早紀
須藤香苗
宮井麻希子
真見塚孝
若瀬透
名前を見ても顔が思い出せない。知っている筈の名前なのに、彼らが何処でどう自分と接していたのか思い出せないでいる。其其とLINEでした会話の内容を見ても、何も心が揺れない。踞ったまま仁は震えながら苦い泪を溢し嗚咽を飲み込む。
どうして何も思い出せない?
記憶が消えたのなら代わりに何かを思い出させてくれればいいのに、ただ何もかもが奪われていく。もしかして両親や友達や暮らしていた場所なんてないんじゃないだろうかと、本当は心の中でずっと感じていた。何故ならここで経験したことが何もかも、初めてだという喜びの中にあり続けたのを自分でもわかっているからだ。
誰かと一緒に学校に行くことも勉強したりテストを受けたり、物を食べたり飲んだり、甘いもの辛いもの、仁は何もかも産まれて初めてだと感じてきた。それでもそれは全部記憶障害のせいだと信じ続けて来たし、信哉からもし何か思い出したら信哉達を忘れるかもしれないとも聞いていたけど。
俺、何も思い出せない。代わりに大事な事を、次々に奪われてる……楽しくて幸せで大事なこと……
このままここにいさせてと願うほど、大事な何かをこんな風に奪われていく。誰を頼ればいいのかすら思い出せない、忠志にみつけて貰って信哉に預かってもらう前の空虚でしかない頃に戻されてしまう。光を必死に探して歩き続けるだけの、何もない……
いいか?
唐突に脳裏に鮮やかに信哉の声が浮かぶ。何時か聞いた言い含めるようで、まるで兄のように父のように優しく、でも覚えておきなさいと自分に教え込む信哉の声。
いいか?何か困ったら香坂智美か宮井麻希子のどちらかを頼るんだぞ?いいな?
何度も繰り返し言い含められた言葉。今ではそれが何のためかは全く分からないし、何を目的に告げられたかは欠片すら思い出せないが、信哉が仁に何度か繰り返した名前だけが頭に希望の光を灯した。
香坂智美か宮井麻希子のどちらか
信哉がその二人のどちらかなら、仁の事を助けてくれると言った筈だ。香坂智美は信哉の家にいては駄目だから逃げろと仁に知らせてくれて、そのままそれから連絡がとれない。なら残っているのは宮井麻希子しかいないと、仁は寒さに震えながら名前を押して電話をかける。もしこれで宮井麻希子も連絡がとれないのなら、仁は空白に飲まれたまま、雨の中をさ迷うしかない。
『仁君?どうしたの?』
電話の向こうから戸惑うことなく自分の名を呼んだ彼女の声に、頭の中に宮井麻希子の真ん丸でクリクリとした瞳が浮かぶ。
麻希子だ。
一番最初に学校では記憶がないことはあまり話さない方がいいよと、心配していってくれた。穏やかで何時もニコニコしていて、信哉と同じ感じで自分に接してくれて、お菓子を作るのが上手で、一番最初に食べた甘いものは麻希子の作ったシフォンケーキだったし、最後に食べたのも麻希子に作って貰った棗に似た味のする干した果物のパウンドケーキだった。
やっと思い出せたと泪が溢れて声に詰まって、本当は助けてと言いたいのにうまく言葉にできない。
「麻希子……、俺行くとこがない……。」
必死でそれだけを言うと、電話口の麻希子は迷うこともなくちょっと待ってと優しく告げる。今何処にいるのと問いかけられ辺りの目ぼしいものをポツポツと口にすると、電話の向こうで麻希子が誰かに話しているのが分かった。
『仁君、その道真っ直ぐ学校に向かって歩いてて?いい?今から雪ちゃんが迎えにいってくれるって。』
麻希子の声に言われて安堵を感じながら、惹かれるように歩き出す。正直なところを言えば学校の方と言われても、本当は学校の位置もわからないけれど麻希子の声がしたのはこっちだと何故か分かる。きっと麻希子なら大丈夫、みつけてくれると今は心の中で理解もできていて、それはほんの少し後に出会った宇野智雪の顔で確信に変わっていた。
ずぶ濡れの仁を戸惑いながらも家に連れ帰ってくれた宇野智雪は、麻希子が慌ててタオルを手渡すのを受け取る。
「雪ちゃん、仁君は鳥飼さんのお家で預かって貰ってるの。」
そう説明すると戸惑いに満ちた顔をして、宇野が恐らくは信哉に電話を掛け始めている。麻希子の顔を見れば、もう麻希子は麻希子以外ではないのにと思いながら、心配して覗きこむ麻希子の瞳は信哉と似ているとボンヤリ考えていた。
「行くところがないってどういうこと?仁君。鳥飼さんは?」
質問に我に返るが安堵のせいなのか、自分が何でこうしてさ迷ったのかを思い出すことができない。それを麻希子に見透かされてしまう気がして、また言葉が上手く出てこなくなる。
「わからない、智美が、そこ、出ろって……その後、繋がらない……。」
「センセは?宇佐川さんとか?」
麻希子はちゃんと他の三人のことも順序だてて問いかけてくれるのに、それに上手く答えることもできないでいる。不審に思われて追い出されたらと不安が沸き上がってくるが、落ち着かせるためなのか麻希子は何時もの口調でユックリと問いかけ続けてくれた。
「悌も義人も……いない……、忠志も……。」
「鳥飼さんって、こんな風に夜に出掛けることあるの?」
「時々……寝てる間に帰ってくる……夜中とか……。」
「うー……雨なんだけど……でも……そっか……高校生だもんねぇ……あり?ありかも?うーん?」
クリクリと目を丸めて首を傾げている麻希子の様子が、あどけなくてホッと張り詰めていた心が緩む。その様子を見て仁の手が止まっていたのに、麻希子が当然みたいにタオルで頭をワシャワシャと拭き始めて思わず笑みが溢れてしまった。
麻希子は何時もこうだ……自分がおかしくても、何も心配しなくてもいいよって……
母親みたいだと何でか考えた瞬間鋭く舌打ちが聞こえ悪寒を感じて視線を向けると、宇野の氷のような視線とかち合う。ああそうだ、麻希子の彼氏の宇野さんは、麻希子と仲良くしてると怒るんだった。不意に繋がるみたいに記憶が吹き上がって、目の前の宇野が信哉や悌順の親友なのも思い出す。流石に舌打ちは聞こえていたらしい麻希子が振り返りながら、それでも頭を拭く手は止めないで口を開く。
「雪ちゃん、鳥飼さんと連絡とれないの?」
「ごめん、舌打ちしちゃった……、繋がらないな。」
「智美君に言われてお家を出たんだって、仁君。」
その言葉を聞きながら歩み寄ってきた宇野の顔は、何故か不意に智美の顔を記憶の淵から引き寄せた。そう言えば智美とこの人はよく似ている、そう気がついたら宇野は智美と同じように眼鏡の奥の瞳を光らせて仁を伺う。
「何で香坂の言うことを聞いて家を出たんだ?信哉が帰ってくるかもしれないだろ?こんな雨のなか……。」
その言葉に何で自分が何を言われたのかを、もう一度必死に思い出す。電話が途切れる前に智美が言ったのは……そうだ、あれは
「智美が…………、早く……逃げろって。」
「う…………。」
微かな女性の呻きに視線を下ろすと彼女は、少しボンヤリしたようすで目を覚ましキョロキョロと辺りを見渡す。
「…………あの……男は……?」
男と口にした彼女は何故か目の前の土志田悌順ではなく、方向も知らない筈なのに既に駅と住宅街の遥か彼方で視界にないあの竹林の方に自然に視線を向け目を細めた。気を失って居場所が変わっていることにも、まるで戸惑いすら見せないのはある意味でマトモな反応とは言えない。雨に濡れた髪を押さえながら眼金の水滴すら気にせず、ボンヤリと今来た方をみつめている。赤い縁の眼鏡をしたその女性は何処かで見覚えがあって酷く疲れはてていて青ざめていて、それでもその瞳が木気を放つのに、悌順は気がついてしまっていた。
「あんた…………その眼……。」
思わず悌順が口にした言葉に彼女は気がついていないのか答えもせずに、真っ直ぐに竹林の方向を見つめている。それがまるで青龍と同じような視線の向けかたで、その眼が左右に動くのが悌順にもわかった。彼女の眼には何が見えているのか、不意に雷光にその瞳が青く微かに光っているようにも見える。
「何が…………見えてるんです?あんたには……。」
「黒い…………影が、……。」
昔からあれは傍にいてとボンヤリと呟く彼女は、そこで初めて目の前に悌順がいたのに気がついたようにハッとして視線を向けた。誰と話しているかも意識していなかったようすの彼女の顔を正面から見た瞬間、暫く前にニュースに出たことのある女性だと気がつく。
確か都立総合病院の遺産の殆どを慈善団体に寄付したとかいう……。
名前は思い出せないし画面では木気なんて気がつかなかったが、随分悲しげに笑う女性だとは思った。それが最善だと思いますと言いながら自分にはその資格がないと言いたげに笑う彼女に、一緒に見ていた忠志は「勿体ねぇ、自分で好きに使えばいいのになぁ。」なんて言っていたのを思い出す。悌順としては見ていて、寂しげな笑顔に彼女にはそうしないといけない理由があるのだろうなんて考えていた。その彼女は昔から何か黒い影を見ていたのだと言う。もしかして自分達が本当に知らないだけで、自然とこんな風に気の力を持っている人間は実は多いんじゃないだろうか。無意識に一瞬だけ気を使うんなら、流石に間近に見ていなければ悌順だって気がつかない。
「…………元夫に鉢合わせて、襲われそうになっていたら…………若い男の方に助けられて……、怖くて気を失って。」
彼女は取り繕うように黒い影という言葉を打ち消そうとするように、そう口にするとよろめきながら立ち上がろうとする。咄嗟に支える手をかけた悌順に、すみませんと呟きながら思い出したように彼女は改めて多賀亜希子と名乗った。黒い影が窮奇のことだとも言い切れないし窮奇を知っているかとは問えないが、その影が何か見えたかと問いかけると彼女は少し黙って悌順の顔を真っ直ぐに見つめる。その様子が義人に似てると無意識に考えた瞬間、彼女は思い出したように辺りを見渡す。
「あの……矢根尾は……?」
その言葉に不意に不快な男が脳裏に浮かぶ。一年前に悌順が惚れる発端になった事件を巻き起こした男、須藤香苗をまるで奴隷か物のように扱っていた悌順にとってとても不快な男の名前が矢根尾俊一というのだ。それをどう見たのか目の前の彼女は何故か申し訳なさそうに俯いたが、彼女を襲った元夫というのが矢根尾というのだと気がついた。
「すみません……、俺は金髪の奴の方の友人で、あなたの事を頼まれた。」
それは確かに嘘ではない、ただ経過の全てを話していないだけだ。恐らくあの場にいたのだとしたら、残念だが窮奇の餌食になったと考えた方が早いのだろう。それを彼女が何処まで見ていたのかが問題で、それを聞き出したいのだが彼女の様子が義人に似通っていて言葉を選びにくい。彼女は視線をあげると悌順の顔をもう一度真っ直ぐに見つめ、微かに目を細めた。
「助けてくれた方は…………怪我はしてないですか?」
戸惑うような言葉は素直に忠志の身を案じていて、好い人だなと思わず考えてしまう。自分を襲った人間のことや助けてくれた人間のことばかり気にして、自分のことは二の次なのだろうと思わず微笑んでしまった。それを見て多賀は少し不思議そうに首を傾げる。
「あなた、……お人好しって言われるでしょ?」
「え?」
「友人は無事ですよ。でも、あなたはぶっ倒れてて気を失ってるんです、あなたが一番の重症じゃないですか?」
その言葉に木立の滴が落ちてくる中で多賀は、我に返ったようにそうですねと呟いて職業病ですねと微かに微笑む。義人と似ているとは思ったが彼女も看護師なのだといい、つい気になってしまってと言葉少なに言う。その言葉で少し気を許したのか少し揺れる悲しげな瞳で、影は昔から傍にいて時には直ぐ傍に迄やって来ますと掠れる声で呟く。
「影…………。」
「そういう血筋だと幼い頃に言われて育ちましたけど、…………多分、私だけです。こんな風におかしいのは……。」
でも生まれ育った土地柄こういう人間でも周囲に受け入れられやすいんですと多賀は、自嘲気味に言う。こんな風に何気なく気を使いこなす人間が度々現れる土地があるとは正直驚いてしまうが、土地柄ということは彼女にとっては当然で土地の人間にも随分昔からあることなのだ。
「でも、あの人には……あの影は見えない筈だけど、……助けていただいたお友達には見えていたような気がします。」
鋭い観察力でそう言うと、再び多賀は竹林の方へ視線を向ける。ところがその視線は竹林の方角から、スゥッと東側に向かって滑るように動く。彼女はその影が自分と出会った場所から移動したのを、あえて教えなくても見えているのだ。
「…………よくない……ですね、あれは…………。」
思わず悌順もつられて視線を向けると、確かに少し東に仲間の気配が動いていて恐らく竹林の奥にある院の辺りだ。しかも窮奇の木気は大分弱っているが歪み始めた金気の気配が立ち上っていて、どす黒い淀んだ気配が絡み合うように旋風になって巻き上がっていた。チッと何気なく無意識に舌打ちした彼の姿に少し驚いた様子で、かなり背の低い多賀が仰ぎ見るように悌順の顔を見上げる。
「見えて、いらっしゃるんですね…………あなたも。あれ。」
「見えるというか、……俺は、感じるってとこです。」
この様子では隠しようがない。そう簡単に話すと多賀は素直に納得した様子で、同時に少し安堵すらしたようだった。どうやら窮奇の姿を見たとは考えられたが、ここまでの彼女の様子は何か問題がありそうには見えない。日を置いて何かが起こる可能性もなくはないが、それならそれで後日対応でも良さそうかと考えた瞬間、周囲を僧服の人間とスーツ姿の人間が音もなく囲んでいた。僧服は間違いなく院の人間なのは分かるが、悌順と彼女を今囲う意図が理解できない。
自分達の住みかを教われてんだぞ?何のつもりだ?
そう力一杯に怒鳴りたいが、背後に庇う多賀にそれをワザワザ聞かせるわけにもいかない。それとも自分ではなく狙っているのは木気をもっている多賀の方かと、戸惑いすらした悌順の肩に突然鋭く痛みが走った。
「なっ……。」
肩に刺さったのはダートと呼ばれる矢で、途端に激しい眩暈が襲う。人間相手に麻酔銃かよと舌打ちしたくなるが咄嗟に体内の水分を動かそうとすると、背後の多賀を誰かが取り押さえたのが分かる。体内に入った麻酔薬を分離させながら、しかも同時に人間相手だ。しかも考える隙も与えず更に二矢目と三矢目が腕に刺さり、目の前の光景に多賀が鋭い悲鳴を上げるのがわかった。多賀狙いじゃないのはなによりだが、それにしたって大型動物じゃあるまいしここまでするかと流石に対応しきれずに朦朧としながら考える。
こんな猛獣扱いで死んだら、香苗に泣くどころか笑われるな。
意識を失う瞬間に咄嗟に考えたのはそんなことで、思っているよりもずつと根っこまで香苗に惚れこんでいるのかと自分自身に呆れ返ってしまっていた。
※※※
逃げろと電話で言われて咄嗟に雨の中に飛び出したはいいが、隣のマンションの悌順達もいないのは分かっている。そうなると何処に行ったらいいのか全く検討がつかない自分に、仁は呆然と歩きながら辺りを見渡した。雨の中ではここが何処なのか切っ掛けがつかめない上に、暗闇では普段から見たことがあるのかどうかもハッキリしない。怖がって外にでない内にこんなに色々な記憶が抜け落ちてしまっていたのに、愕然とすらしていた。電話をかけてきてくれた智美に何度か電話を折り返してかけてみたが電波圏外だとしか言わない状況に、仁は戸惑いながら光を探す。何時も自分を助けてくれていた光は今も何かと争っていて、今は傍には来てもらえないのが分かる。
どうしたら……
記憶を引き戻そうと必死になっても雨に溶けて流れ出して行くみたいに、指の間から何もかもが抜け落ちていってしまう。小さな物陰で雨をやり過ごし、戸惑いながらスマホの画面に並ぶ名前を見ても誰が誰か思い出せなくなっている自分。どうしてこんなにあっという間に記憶が溶けるように消えていくのか、それが恐ろしいのに止められもしない。
誰に頼ればいいんだ…………智美は逃げろって……俺は……
冷えた指が微かに震えながら画面を動かす。
五十嵐海翔
久保絢
香坂智美
鈴木貴寛
志賀早紀
須藤香苗
宮井麻希子
真見塚孝
若瀬透
名前を見ても顔が思い出せない。知っている筈の名前なのに、彼らが何処でどう自分と接していたのか思い出せないでいる。其其とLINEでした会話の内容を見ても、何も心が揺れない。踞ったまま仁は震えながら苦い泪を溢し嗚咽を飲み込む。
どうして何も思い出せない?
記憶が消えたのなら代わりに何かを思い出させてくれればいいのに、ただ何もかもが奪われていく。もしかして両親や友達や暮らしていた場所なんてないんじゃないだろうかと、本当は心の中でずっと感じていた。何故ならここで経験したことが何もかも、初めてだという喜びの中にあり続けたのを自分でもわかっているからだ。
誰かと一緒に学校に行くことも勉強したりテストを受けたり、物を食べたり飲んだり、甘いもの辛いもの、仁は何もかも産まれて初めてだと感じてきた。それでもそれは全部記憶障害のせいだと信じ続けて来たし、信哉からもし何か思い出したら信哉達を忘れるかもしれないとも聞いていたけど。
俺、何も思い出せない。代わりに大事な事を、次々に奪われてる……楽しくて幸せで大事なこと……
このままここにいさせてと願うほど、大事な何かをこんな風に奪われていく。誰を頼ればいいのかすら思い出せない、忠志にみつけて貰って信哉に預かってもらう前の空虚でしかない頃に戻されてしまう。光を必死に探して歩き続けるだけの、何もない……
いいか?
唐突に脳裏に鮮やかに信哉の声が浮かぶ。何時か聞いた言い含めるようで、まるで兄のように父のように優しく、でも覚えておきなさいと自分に教え込む信哉の声。
いいか?何か困ったら香坂智美か宮井麻希子のどちらかを頼るんだぞ?いいな?
何度も繰り返し言い含められた言葉。今ではそれが何のためかは全く分からないし、何を目的に告げられたかは欠片すら思い出せないが、信哉が仁に何度か繰り返した名前だけが頭に希望の光を灯した。
香坂智美か宮井麻希子のどちらか
信哉がその二人のどちらかなら、仁の事を助けてくれると言った筈だ。香坂智美は信哉の家にいては駄目だから逃げろと仁に知らせてくれて、そのままそれから連絡がとれない。なら残っているのは宮井麻希子しかいないと、仁は寒さに震えながら名前を押して電話をかける。もしこれで宮井麻希子も連絡がとれないのなら、仁は空白に飲まれたまま、雨の中をさ迷うしかない。
『仁君?どうしたの?』
電話の向こうから戸惑うことなく自分の名を呼んだ彼女の声に、頭の中に宮井麻希子の真ん丸でクリクリとした瞳が浮かぶ。
麻希子だ。
一番最初に学校では記憶がないことはあまり話さない方がいいよと、心配していってくれた。穏やかで何時もニコニコしていて、信哉と同じ感じで自分に接してくれて、お菓子を作るのが上手で、一番最初に食べた甘いものは麻希子の作ったシフォンケーキだったし、最後に食べたのも麻希子に作って貰った棗に似た味のする干した果物のパウンドケーキだった。
やっと思い出せたと泪が溢れて声に詰まって、本当は助けてと言いたいのにうまく言葉にできない。
「麻希子……、俺行くとこがない……。」
必死でそれだけを言うと、電話口の麻希子は迷うこともなくちょっと待ってと優しく告げる。今何処にいるのと問いかけられ辺りの目ぼしいものをポツポツと口にすると、電話の向こうで麻希子が誰かに話しているのが分かった。
『仁君、その道真っ直ぐ学校に向かって歩いてて?いい?今から雪ちゃんが迎えにいってくれるって。』
麻希子の声に言われて安堵を感じながら、惹かれるように歩き出す。正直なところを言えば学校の方と言われても、本当は学校の位置もわからないけれど麻希子の声がしたのはこっちだと何故か分かる。きっと麻希子なら大丈夫、みつけてくれると今は心の中で理解もできていて、それはほんの少し後に出会った宇野智雪の顔で確信に変わっていた。
ずぶ濡れの仁を戸惑いながらも家に連れ帰ってくれた宇野智雪は、麻希子が慌ててタオルを手渡すのを受け取る。
「雪ちゃん、仁君は鳥飼さんのお家で預かって貰ってるの。」
そう説明すると戸惑いに満ちた顔をして、宇野が恐らくは信哉に電話を掛け始めている。麻希子の顔を見れば、もう麻希子は麻希子以外ではないのにと思いながら、心配して覗きこむ麻希子の瞳は信哉と似ているとボンヤリ考えていた。
「行くところがないってどういうこと?仁君。鳥飼さんは?」
質問に我に返るが安堵のせいなのか、自分が何でこうしてさ迷ったのかを思い出すことができない。それを麻希子に見透かされてしまう気がして、また言葉が上手く出てこなくなる。
「わからない、智美が、そこ、出ろって……その後、繋がらない……。」
「センセは?宇佐川さんとか?」
麻希子はちゃんと他の三人のことも順序だてて問いかけてくれるのに、それに上手く答えることもできないでいる。不審に思われて追い出されたらと不安が沸き上がってくるが、落ち着かせるためなのか麻希子は何時もの口調でユックリと問いかけ続けてくれた。
「悌も義人も……いない……、忠志も……。」
「鳥飼さんって、こんな風に夜に出掛けることあるの?」
「時々……寝てる間に帰ってくる……夜中とか……。」
「うー……雨なんだけど……でも……そっか……高校生だもんねぇ……あり?ありかも?うーん?」
クリクリと目を丸めて首を傾げている麻希子の様子が、あどけなくてホッと張り詰めていた心が緩む。その様子を見て仁の手が止まっていたのに、麻希子が当然みたいにタオルで頭をワシャワシャと拭き始めて思わず笑みが溢れてしまった。
麻希子は何時もこうだ……自分がおかしくても、何も心配しなくてもいいよって……
母親みたいだと何でか考えた瞬間鋭く舌打ちが聞こえ悪寒を感じて視線を向けると、宇野の氷のような視線とかち合う。ああそうだ、麻希子の彼氏の宇野さんは、麻希子と仲良くしてると怒るんだった。不意に繋がるみたいに記憶が吹き上がって、目の前の宇野が信哉や悌順の親友なのも思い出す。流石に舌打ちは聞こえていたらしい麻希子が振り返りながら、それでも頭を拭く手は止めないで口を開く。
「雪ちゃん、鳥飼さんと連絡とれないの?」
「ごめん、舌打ちしちゃった……、繋がらないな。」
「智美君に言われてお家を出たんだって、仁君。」
その言葉を聞きながら歩み寄ってきた宇野の顔は、何故か不意に智美の顔を記憶の淵から引き寄せた。そう言えば智美とこの人はよく似ている、そう気がついたら宇野は智美と同じように眼鏡の奥の瞳を光らせて仁を伺う。
「何で香坂の言うことを聞いて家を出たんだ?信哉が帰ってくるかもしれないだろ?こんな雨のなか……。」
その言葉に何で自分が何を言われたのかを、もう一度必死に思い出す。電話が途切れる前に智美が言ったのは……そうだ、あれは
「智美が…………、早く……逃げろって。」
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