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第三部
第三幕 花街、都市下
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苛立ちに任せて院で式読達を威圧したのは間違いだったのは分かっていた。流石にその翌日は智美は学校を休みはしたが、学校では式読ではなく香坂智美・玄武ではなく土志田悌順を貫くのは当然の事だ。それでも流石に少し微妙に緊張感があるのは仕方がない。
それにタイミング悪く内川俊一に再三言っておいたのに、澤江仁を部活の練習試合で止めなかったせいで仁はそれからずっと学校を休んでいる。忠志が試合の後に家に行ったら、仁が一人で大泣きしていて試合に負けたのかと思ったと話していた。が、試合は圧勝で、是非とも仁に夏の大会で活躍して欲しいとコーチは話している。義人に言わせれば、仁が運動したがるのは記憶を刺激する何かが運動にあるのではという。悌順に義人がそう教えてくれてたから、悌順は密かに何か思い出したので泣いたのではないかと思っている。それに関しては本当は素直に信哉に聞けばいいのだろうが、実はあの怪我の後気まずくて信哉と直接顔を会わせていないのだ。幼馴染みの癖に何を今更と思うだろうが、ここまで身近すぎるから余計にも気まずいってことがある。義人は夕食のおかずを作ってちょくちょく顔を出していて様子を見に行っているが、悌順は信哉が怪我が治ってゲートキーパーを再開するタイミングを図っているところなのだ。
その上期末テストも目前、三年は受験のことも考えなきゃならない、教師としても忙しいのに・だ。何でか突然なつかれた二年の花泉英華という生徒に付きまとわれていた。以前花街で何でか今まで徘徊したことがない花泉を偶々見つけて保護したのは事実だが、悌順はそれ以上の事は何もしてない。
つーか、する気もないってんだよ!
そんな矢先のこの事態。驚くしかないのは悌順は花泉に何もしてないし花泉から何も受け取ってもいないのに、勝手に周囲が悌順が花泉に手を出しているとヒソヒソと話す。お陰で今日の放課後に福上教頭から花泉とのことを事実確認されたのには、流石に呆れてものも言えない。
もしかして、姐さんのもう手を出してる癖にの相手も花泉じゃないだろうな?
正直それはごめん被りたい。悌順にとって花泉はその他大勢の生徒の一人でしかなく、悌順が密かに気にしているのは花泉とは全くの別な相手なのだ。
それは、須藤香苗。
生徒には手を出さない・公私混同はしないを、これまで悌順はずっと六年もガッチリと守ってきた。それを意図もアッサリと覆させたのは、余りにも危なっかしい香苗を悌順がどうしても守りたくなったから。
去年の今頃、首藤香苗は質の悪い男と付き合いっていて、校内でも素行の悪い生徒として悪目立ちしていた。まだモノを知らない子供をいいように操ったその変態男が一番悪いのは事実だが、それに考えなしに従った香苗にも実際には責任はある。それでもあの姿を見た時、悌順は何時になく怒りに我を忘れそうになった。
薄暗いカラオケボックスの密室で、中年男がほぼ全裸に近い姿の女子高生を四つん這いにさせて背中にふんぞり返っていた。
そんな光景が現実に起こるなんて信じられるわけがない。信じられないが、現実にその光景を目にしてしまったのだ。そして女性として扱われない怯えた瞳をした香苗の姿に、悌順は何故か今までの信念を覆した。そして今まで誰も連れて来たことも玄関からあげたこともない自宅に彼女を連れて帰ったし、その後には一度として生徒からは受け取らないと決めていた贈り物も彼女のものだけは受け取った。
そして気がついた時には何時も気がつくと香苗の姿を目で追い、彼女が変わらずに笑っているのかを確認している。しかも最近では自分の方から校内の彼女の姿を探した上に、二人きりになって話す有り様だ。そんな状況なのだから正直言えば噂になるなら香苗の方だと思うのに、現実は花泉英華と悌順ができているだなんて馬鹿な噂が闊歩している。そのせいで学校での香苗の表情から笑顔が消えて、次第に暗く落ち込んでいくのがとても辛い。辛いと認めてしまったら何とかしないとと思うが、
「トッシー。」
唐突に背後から声を駆けられああ?ととんでもなく剣呑な声を返してから、しまったここは花街だと気がつく。ここで夜回りをしている最中にそんな風に気安く呼び掛ける可能性があるのは、それ程多くはいないのだ。振り返ると自宅から来たのだろう私服の八幡瑠璃が、万智と同じように棒飴を咥えて自分を目を丸くして見上げている。
「ふはっスッゴい声。」
母親と同じ顔立ちで悌順を見上げながら口を開く瑠璃は、妙に冷静な声でそう言う。髪は何時もと違ってポニーテールじゃなくサイドテールに結い上げ団子に纏め、パーカーの腹に手を突っ込んだショートパンツ姿で悌順の隣に並ぶ。お前こんな時間にこんな格好で出歩くなと言うと、だってトッシーに話があんだもんと頬を膨らませる。そうしてあのさぁと目を細めて、意味ありげに声を落とした。
「花泉との噂流してるの内川だよ。トッシー、随分恨まれてるね。」
「ああ?!何だと?!」
母親譲りの情報収集能力を遺憾なく発揮したらしい瑠璃が、女子達の噂を辿ったら内川に辿り着いたと口にする。あの野郎と内心で舌打ちしたら、瑠璃は長閑な口調で感情がもろに顔に出てるよと笑う。それにしても分かったのは有り難いが何で花街の夜回りで声をかけるんだと呆れたら、だってさと不貞腐れたように瑠璃が飴の棒をモゴモゴと動かす。校内で話しかけて更に噂を増やすわけにいかないっしょ?と瑠璃はいう。花街なら情報統制しやすいし、瑠璃の担任が悌順で、万智の知り合いということも知れ渡っている。それにしたって何故今日だと言うと、瑠璃は眉を潜めて不機嫌そうに口を開く。
「すどーちんが泣くの嫌じゃん。」
思わず仰け反りそうになるが、聞けば昨日の花泉が泣いていたのにハンカチを差し出し肩に触れたのを既に面白おかしく内川が吹聴しているらしい。瑠璃のところにも悌順が花泉に陥落したのか?それは本当かと生徒の何人かが問い合わせに来たという。いや、そういうことを瑠璃に問い合わせっていうのはどうかと思うが、相手は万智の娘だと我に返る。ヤッパリ万智には悌順の恋なんてお見通しだったというだけの話で、娘で香苗の友人でもある瑠璃には今の香苗の様子が堪えられないといいたいのだ。
「トッシー、男ならさ、ビシッと幸せにするって言いなよ。」
「お前なぁ……。まだ、生徒だぞ。」
「生徒でも約束はできんだよ?安心くらいさせてやるのが男じゃないの?好きなんでしょ?毎週土曜に送ってやってて、ただの生徒は無理だね。」
そんな万智に似た口調で話す瑠璃の言葉は、正直胸に刺さる。言われたことは最もで香苗の笑顔が見れなくなっているのは、どうにかしないとならないと思っているのだ。改めて言われて決意がついた礼を込めて頭を思わず撫でた途端、背後からとんでもないどす黒い怒りのオーラを放つ存在が迫っていたのに悌順は気がつかないでいた。
※※※
水曜と土曜は悌順の自宅で義人が香苗に家庭教師を今も続けている。最近意図的に土曜は家まで送るようにしたのは、悌順が自分の中の変化を自分でも自覚したからだ。信哉に彼女ができたのと前後して、自分もなんでか今までは上手く押さえ込んでいた筈の感情に完全に負けている。
好きだ
そう自覚したら生徒で子供としか見ていない筈の香苗が、あっという間に子供に見えなくなっていた。それまでは忠志が自宅マンションが近いという名目で毎回家まで送り届けていたのに、二日のうち片方は俺が送ると自分から口にしてしまったのだ。ニヤニヤしながら別にいいけどと忠志に言われたが、もう口にしてしまったから撤回もできない。それに撤回するつもりもないのだ。そうして騒動の直後香苗の耳にも花泉との話は入っている筈なのに、
花泉のことをなにも聞かない……。
家庭教師の後夕食をとって、帰宅の時間になっても香苗は何も聞いてこない。ついこの間五十嵐の件で怪我をした時には、その場にいなくても詰めよって泣き出したのにと考えている自分に気がつく。そうして欲しい訳じゃないのに、こうして夜道を降り続く雨の中で一緒の傘で歩いても何も聞かれないのに心配になる。
卒業したら本心を話すとは言ったが、香苗がどうとったかは分からない。
それに実際のところクリスマスもバレンタインも受け取ったが、直に気持ちを聞いたわけではない。こうして好意だと思うものは感じているが……。
「仁……まだ学校これない?」
オズオズと香苗が見上げてくるのに、悌順は少し驚いたように目を丸くして香苗を見下ろした。まさか、そっちか?全く関係ない方が先に出てくるなんてと思うが、そう考えている自分の方がどれ程香苗が花泉の件を誤解してるのではと焦っていたのに気がつく。暫く考えて悌順がもう少ししたら出られると思うとポツリと言うと、香苗は小さく笑って呟く。
「悌さんって、嘘下手。」
心がこもってなかったのをアッサリと見透かされた上に、仁が少なくとも直ぐに戻れる状況にないのも分かってしまったのだろう。義人が麻希子と香苗が二人で仁を心配して見舞いきた時に可能性の話をしたと言ったから、余計にも勘のいい香苗は状況を察してしまったに違いない。そんな雨に仄白く浮かぶような横顔に、伏せられた長い睫毛が濡れているように光る。
「もし、何かを思い出す変わりに、悌さんのことを忘れるとしたら……、私は思い出すの…………やだな…………。」
シトシトと音をたてる雨の中でふと呟いた香苗の姿に、悌順の足が止まる。もし自分が仁の立場だったらということよりも、もし自分が今夜にも死ぬとしたらこの想いは何処にいくのだろうか。卒業するまで伝えないでいて、自分が後一年生きているかどうかも分からない。それが胸に棘のように突き刺さると同時に、何で今になって信哉が四倉梨央を受け入れてしまったのかが分かった。
信哉は十二年目、俺も九年目。
早い者はたった一年もせずに死ぬ事があると分かってもいる。
何時死んでもおかしくないからこそ、この気持ちを自覚してしまったら伝えずにはいられない。
「ごめんね、変なこと言って……。」
俯いた横顔がとても綺麗だと伝えたらどんな顔をするのか知りたい、そう考えたら完璧だった筈の教師としての仮面が簡単に砕けてしまう。歩き出すことも出来ずに長く臥せられた睫毛を見ていたら、その瞳が戸惑うように揺らめきながら見上げてくる。教師でもなく、ただ惚れた女を見つめる男になって、思わず言葉が溢れ落ちた。
「聞きたいこと……ないのか?」
問いかけた言葉に香苗が息を飲んだのが聞こえる。それが一番狡い聞き方だと気がついてからでは遅かった。真っ直ぐに自分を見上げる香苗の綺麗な瞳から、ホロリと大粒の涙が溢れ落ちて頬を伝う。ただの子供だと、生徒だと思っていたのに、いつの間にか大人になっている。必死に狡い大人に負わされた傷を抱えて、それでも大人になろうとしている香苗が可愛いし愛しい。
「香苗……。」
認めるのが怖いのは玄武だからではなく、本当は香苗に拒まれるのが怖いだけ。勝手に香苗を守ると決めてもう随分経つが、こうして香苗はちゃんと成長して大人になりつつある。思い続けても香苗には何も起こらず、伸びやかに女性に変わっていく。そんなことを考えて、思わず頬に触れて涙を拭いとり囁く。
「泣くな…………、香苗。」
言えば余計に涙が雨の中落ちていく。狡い質問だった。香苗が本当は聞きたくても我慢しているのをちゃんと分かっていて、それでも香苗から言わせようとしたのだ。
伝えたら……泣き止んでくれるか?
堪らず傘で隠れているかどうかも忘れさって、唇を重ねてしまっていた。するとほんの少し触れるだけの口付けに、香苗の涙が倍になって音をたてているみたいに溢れて落ちていく。思わず抱き寄せて抱き締めると、胸にジワリとそれでも止まっていない香苗の涙を感じてしまう。腕の中にスッポリと収まってしまう小さな体。俺ならあんなことをしてお前を傷つけたりはしないのに、そう何度も考えていたとは実は一度も口にすらしていない。傷つけないし守る、何にも傷つけさせないから……
「……俺は…………。」
香苗が戸惑いながら悌順が押し付けていた胸から視線をあげた。するとまるで予定されていたみたいに悌順と真っ直ぐに視線があって、思わず言葉に詰まる。
「……花泉から、何か受け取った?悌さん。」
何でかこっちの話を遮って香苗が今更口にしたことに、一瞬悌順が呆気にとられた顔をして香苗を見下ろす。やがて傘を肩に乗せた格好で悌順は、その言葉が飲み込めると苦笑いを浮かべてしまう。
「…………なんで、それだよ?聞きたいのそこか?普通違うだろ。」
花泉となんかしたの?とか、花泉が好きかとか聞きようがありそうなものなのに、目の前の香苗のまず最初の疑問が自分が何か受け取ったかだなんて。なんてまあおかしな質問だけど、これはこれで香苗らしくて可愛いと考えた自分に笑ってしまう。
「俺は……生徒からは何も受け取らない。」
そう決めていたし、生徒と教師の関係は絶対。いつか消える自分が残せるのは、育てた生徒の中に残る思い出くらいだとずっと諦めていた。でも、突然そう出来なくなったのは腕の中の一人のせいだ。香苗から躊躇いがちな声で名前で呼んでと強請られた時に、なんたって随分可愛いこと言うななんて思っていた時にはきっとこの気持ちを押さえ込むのには手遅れだった。
もう今は香苗と呼ぶだけで嬉しそうに笑うのを知っているし、意図して朝早く来て部室の窓辺から自分を追う視線だって知っている。傍にいると照れくさそうに笑いながら、何時でも自分の事を追ってくる視線にだって当に気がついていた。
まあ、流石に最初のキスで突き飛ばされたのには唖然としたけどな。
腕の中の香苗が今の事態を把握できなくて混乱しているのが分かる。余りにも混乱するとこの間のようにいきなり突き飛ばされかねない。
「頼むから……この間みたいに突き飛ばすなよ?……凹むから。」
確かにシチュエーションとしては悌順が絶望している最中の不意のキスだったが、流石に全力で突き飛ばされたのには面食らった。しかも何か言おうとした時には香苗は脱兎の如く逃げ出していて、起き上がったら影も形もないと来ている。それでも今見ている混乱している香苗の顔が可愛いから、このまま一気に押しきってしまおう。
「……教師失格なのは分かってる……けど…………、な。」
腕の中に捕らえられて真っ赤な顔をしている香苗に気持ちを伝えてしまったら、自分にも逃げ道はなくなる。それでも後悔するくらいなら伝えて努力した方が、訳のわからない噂で振り回されて日々の香苗の笑顔も見れないよりはましな気がしてきた。
「………………好きだ。」
真剣な声で告げたのに、目の前の香苗はヤッパリ斜め上の返答をしてくる。
「……う……そ?」
こんな嘘があるわけないだろと言いたい。これが嘘だとしたら悌順も大概質が悪いと思うし、こんな雨の中で家まで送るのだって、この雰囲気の中で嘘をつくなんてあり得ないだろとは一応香苗も気がついたらしい。
「……なんで、嘘だよ。」
不貞腐れた顔のままそう告げる悌順に花泉はどうするのと戸惑いながら香苗が言うから、やっぱり気にしてたかと溜め息混じりに答える。それを迷わず聞いたらいいのに素直じゃないが、素直じゃないところも可愛いのだから仕方がない。
「花泉には、……誰とは言えなかったが、…………そいつ以外を大事な女だとは思えないと答えただけだ。」
「それ…………、私…………?」
香苗の言葉にグッと言葉に詰まって顔を赤くした悌順が、お前なぁと呆れたように呟いてもう一度ギュッと抱き締める。そう考えてなきゃこんなに困るわけないとそっと呟くと、初めてコテンと胸元に香苗の頬が乗ってくる。ヤバイな、この状況とは思うが、抱き締められて香苗がドキドキしているのが直に肌に伝わるのに気がつく。
「でも、……女の子らしいこと……出来ないし、それに。」
「……そのまんまでいい。」
思わずという感じて香苗が口にしたのに、悌順が迷いもなく答える。そんな風に香苗が悩んでいたなんて知らなかったが、正直そのままの香苗がいいのだからおかしくなってしまう。そのまま、今のままでいいから、好きだと言ってくれたらいい。そうしたらもう迷わないと心の中で呟く。
「でも。」
「何だよ。…………まだ、なんかあるか?」
「……し、処女じゃない。」
「ああ?」
香苗の言葉に呆れてあんぐりと口を開け、思わず声をあげたのは言うまでもない。何を言うかと思えばそれか?それはつまりその類いのことまで前提で、俺を見ているってことなんだな?そう考えたら全くこの娘は、惚れてるっていってる男相手に何をとんでもないことを言うんだと思う。それはこのまま最後まで行ってもいいと誘うようなものなんだぞ?と心の中で苦く思う。思わず香苗の頭を、また傘の下でギュッと胸に抱き締めて悌順が囁く。
「馬鹿だな……、全部分かってて、好きだって言ってんだろ。」
縋りつくみたいに手を回して来た香苗に困った奴だなと囁くと、泣きそうな顔で悌順を見上げてくる。卒業までは生徒だから我慢しないとならないのに、そんなこと言うなというと、香苗はそれは意味が分からないと瞬きして首を傾げる始末だ。
「全く……、お前、自分が俺のこと男として見てるって言ってんだよな?それ。」
そう問いかけると見る間に真っ赤になった香苗が、何が?!どこが?!と噛みついてくる。もう香苗の様子がおかしくて仕方がないが、処女かどうかを気にしてんのはそれでだろと指摘してやると、更に真っ赤になってポコポコと悌順の事を照れ隠しに叩き始める始末だ。そうして手を繋いで家まで送り届けた悌順は、香苗に穏やかな気持ちで微笑みかけ口を開く。
「また月曜な、香苗。」
そう悌順が頭を撫でながら告げた言葉には、何一つ嘘はなかった。
それにタイミング悪く内川俊一に再三言っておいたのに、澤江仁を部活の練習試合で止めなかったせいで仁はそれからずっと学校を休んでいる。忠志が試合の後に家に行ったら、仁が一人で大泣きしていて試合に負けたのかと思ったと話していた。が、試合は圧勝で、是非とも仁に夏の大会で活躍して欲しいとコーチは話している。義人に言わせれば、仁が運動したがるのは記憶を刺激する何かが運動にあるのではという。悌順に義人がそう教えてくれてたから、悌順は密かに何か思い出したので泣いたのではないかと思っている。それに関しては本当は素直に信哉に聞けばいいのだろうが、実はあの怪我の後気まずくて信哉と直接顔を会わせていないのだ。幼馴染みの癖に何を今更と思うだろうが、ここまで身近すぎるから余計にも気まずいってことがある。義人は夕食のおかずを作ってちょくちょく顔を出していて様子を見に行っているが、悌順は信哉が怪我が治ってゲートキーパーを再開するタイミングを図っているところなのだ。
その上期末テストも目前、三年は受験のことも考えなきゃならない、教師としても忙しいのに・だ。何でか突然なつかれた二年の花泉英華という生徒に付きまとわれていた。以前花街で何でか今まで徘徊したことがない花泉を偶々見つけて保護したのは事実だが、悌順はそれ以上の事は何もしてない。
つーか、する気もないってんだよ!
そんな矢先のこの事態。驚くしかないのは悌順は花泉に何もしてないし花泉から何も受け取ってもいないのに、勝手に周囲が悌順が花泉に手を出しているとヒソヒソと話す。お陰で今日の放課後に福上教頭から花泉とのことを事実確認されたのには、流石に呆れてものも言えない。
もしかして、姐さんのもう手を出してる癖にの相手も花泉じゃないだろうな?
正直それはごめん被りたい。悌順にとって花泉はその他大勢の生徒の一人でしかなく、悌順が密かに気にしているのは花泉とは全くの別な相手なのだ。
それは、須藤香苗。
生徒には手を出さない・公私混同はしないを、これまで悌順はずっと六年もガッチリと守ってきた。それを意図もアッサリと覆させたのは、余りにも危なっかしい香苗を悌順がどうしても守りたくなったから。
去年の今頃、首藤香苗は質の悪い男と付き合いっていて、校内でも素行の悪い生徒として悪目立ちしていた。まだモノを知らない子供をいいように操ったその変態男が一番悪いのは事実だが、それに考えなしに従った香苗にも実際には責任はある。それでもあの姿を見た時、悌順は何時になく怒りに我を忘れそうになった。
薄暗いカラオケボックスの密室で、中年男がほぼ全裸に近い姿の女子高生を四つん這いにさせて背中にふんぞり返っていた。
そんな光景が現実に起こるなんて信じられるわけがない。信じられないが、現実にその光景を目にしてしまったのだ。そして女性として扱われない怯えた瞳をした香苗の姿に、悌順は何故か今までの信念を覆した。そして今まで誰も連れて来たことも玄関からあげたこともない自宅に彼女を連れて帰ったし、その後には一度として生徒からは受け取らないと決めていた贈り物も彼女のものだけは受け取った。
そして気がついた時には何時も気がつくと香苗の姿を目で追い、彼女が変わらずに笑っているのかを確認している。しかも最近では自分の方から校内の彼女の姿を探した上に、二人きりになって話す有り様だ。そんな状況なのだから正直言えば噂になるなら香苗の方だと思うのに、現実は花泉英華と悌順ができているだなんて馬鹿な噂が闊歩している。そのせいで学校での香苗の表情から笑顔が消えて、次第に暗く落ち込んでいくのがとても辛い。辛いと認めてしまったら何とかしないとと思うが、
「トッシー。」
唐突に背後から声を駆けられああ?ととんでもなく剣呑な声を返してから、しまったここは花街だと気がつく。ここで夜回りをしている最中にそんな風に気安く呼び掛ける可能性があるのは、それ程多くはいないのだ。振り返ると自宅から来たのだろう私服の八幡瑠璃が、万智と同じように棒飴を咥えて自分を目を丸くして見上げている。
「ふはっスッゴい声。」
母親と同じ顔立ちで悌順を見上げながら口を開く瑠璃は、妙に冷静な声でそう言う。髪は何時もと違ってポニーテールじゃなくサイドテールに結い上げ団子に纏め、パーカーの腹に手を突っ込んだショートパンツ姿で悌順の隣に並ぶ。お前こんな時間にこんな格好で出歩くなと言うと、だってトッシーに話があんだもんと頬を膨らませる。そうしてあのさぁと目を細めて、意味ありげに声を落とした。
「花泉との噂流してるの内川だよ。トッシー、随分恨まれてるね。」
「ああ?!何だと?!」
母親譲りの情報収集能力を遺憾なく発揮したらしい瑠璃が、女子達の噂を辿ったら内川に辿り着いたと口にする。あの野郎と内心で舌打ちしたら、瑠璃は長閑な口調で感情がもろに顔に出てるよと笑う。それにしても分かったのは有り難いが何で花街の夜回りで声をかけるんだと呆れたら、だってさと不貞腐れたように瑠璃が飴の棒をモゴモゴと動かす。校内で話しかけて更に噂を増やすわけにいかないっしょ?と瑠璃はいう。花街なら情報統制しやすいし、瑠璃の担任が悌順で、万智の知り合いということも知れ渡っている。それにしたって何故今日だと言うと、瑠璃は眉を潜めて不機嫌そうに口を開く。
「すどーちんが泣くの嫌じゃん。」
思わず仰け反りそうになるが、聞けば昨日の花泉が泣いていたのにハンカチを差し出し肩に触れたのを既に面白おかしく内川が吹聴しているらしい。瑠璃のところにも悌順が花泉に陥落したのか?それは本当かと生徒の何人かが問い合わせに来たという。いや、そういうことを瑠璃に問い合わせっていうのはどうかと思うが、相手は万智の娘だと我に返る。ヤッパリ万智には悌順の恋なんてお見通しだったというだけの話で、娘で香苗の友人でもある瑠璃には今の香苗の様子が堪えられないといいたいのだ。
「トッシー、男ならさ、ビシッと幸せにするって言いなよ。」
「お前なぁ……。まだ、生徒だぞ。」
「生徒でも約束はできんだよ?安心くらいさせてやるのが男じゃないの?好きなんでしょ?毎週土曜に送ってやってて、ただの生徒は無理だね。」
そんな万智に似た口調で話す瑠璃の言葉は、正直胸に刺さる。言われたことは最もで香苗の笑顔が見れなくなっているのは、どうにかしないとならないと思っているのだ。改めて言われて決意がついた礼を込めて頭を思わず撫でた途端、背後からとんでもないどす黒い怒りのオーラを放つ存在が迫っていたのに悌順は気がつかないでいた。
※※※
水曜と土曜は悌順の自宅で義人が香苗に家庭教師を今も続けている。最近意図的に土曜は家まで送るようにしたのは、悌順が自分の中の変化を自分でも自覚したからだ。信哉に彼女ができたのと前後して、自分もなんでか今までは上手く押さえ込んでいた筈の感情に完全に負けている。
好きだ
そう自覚したら生徒で子供としか見ていない筈の香苗が、あっという間に子供に見えなくなっていた。それまでは忠志が自宅マンションが近いという名目で毎回家まで送り届けていたのに、二日のうち片方は俺が送ると自分から口にしてしまったのだ。ニヤニヤしながら別にいいけどと忠志に言われたが、もう口にしてしまったから撤回もできない。それに撤回するつもりもないのだ。そうして騒動の直後香苗の耳にも花泉との話は入っている筈なのに、
花泉のことをなにも聞かない……。
家庭教師の後夕食をとって、帰宅の時間になっても香苗は何も聞いてこない。ついこの間五十嵐の件で怪我をした時には、その場にいなくても詰めよって泣き出したのにと考えている自分に気がつく。そうして欲しい訳じゃないのに、こうして夜道を降り続く雨の中で一緒の傘で歩いても何も聞かれないのに心配になる。
卒業したら本心を話すとは言ったが、香苗がどうとったかは分からない。
それに実際のところクリスマスもバレンタインも受け取ったが、直に気持ちを聞いたわけではない。こうして好意だと思うものは感じているが……。
「仁……まだ学校これない?」
オズオズと香苗が見上げてくるのに、悌順は少し驚いたように目を丸くして香苗を見下ろした。まさか、そっちか?全く関係ない方が先に出てくるなんてと思うが、そう考えている自分の方がどれ程香苗が花泉の件を誤解してるのではと焦っていたのに気がつく。暫く考えて悌順がもう少ししたら出られると思うとポツリと言うと、香苗は小さく笑って呟く。
「悌さんって、嘘下手。」
心がこもってなかったのをアッサリと見透かされた上に、仁が少なくとも直ぐに戻れる状況にないのも分かってしまったのだろう。義人が麻希子と香苗が二人で仁を心配して見舞いきた時に可能性の話をしたと言ったから、余計にも勘のいい香苗は状況を察してしまったに違いない。そんな雨に仄白く浮かぶような横顔に、伏せられた長い睫毛が濡れているように光る。
「もし、何かを思い出す変わりに、悌さんのことを忘れるとしたら……、私は思い出すの…………やだな…………。」
シトシトと音をたてる雨の中でふと呟いた香苗の姿に、悌順の足が止まる。もし自分が仁の立場だったらということよりも、もし自分が今夜にも死ぬとしたらこの想いは何処にいくのだろうか。卒業するまで伝えないでいて、自分が後一年生きているかどうかも分からない。それが胸に棘のように突き刺さると同時に、何で今になって信哉が四倉梨央を受け入れてしまったのかが分かった。
信哉は十二年目、俺も九年目。
早い者はたった一年もせずに死ぬ事があると分かってもいる。
何時死んでもおかしくないからこそ、この気持ちを自覚してしまったら伝えずにはいられない。
「ごめんね、変なこと言って……。」
俯いた横顔がとても綺麗だと伝えたらどんな顔をするのか知りたい、そう考えたら完璧だった筈の教師としての仮面が簡単に砕けてしまう。歩き出すことも出来ずに長く臥せられた睫毛を見ていたら、その瞳が戸惑うように揺らめきながら見上げてくる。教師でもなく、ただ惚れた女を見つめる男になって、思わず言葉が溢れ落ちた。
「聞きたいこと……ないのか?」
問いかけた言葉に香苗が息を飲んだのが聞こえる。それが一番狡い聞き方だと気がついてからでは遅かった。真っ直ぐに自分を見上げる香苗の綺麗な瞳から、ホロリと大粒の涙が溢れ落ちて頬を伝う。ただの子供だと、生徒だと思っていたのに、いつの間にか大人になっている。必死に狡い大人に負わされた傷を抱えて、それでも大人になろうとしている香苗が可愛いし愛しい。
「香苗……。」
認めるのが怖いのは玄武だからではなく、本当は香苗に拒まれるのが怖いだけ。勝手に香苗を守ると決めてもう随分経つが、こうして香苗はちゃんと成長して大人になりつつある。思い続けても香苗には何も起こらず、伸びやかに女性に変わっていく。そんなことを考えて、思わず頬に触れて涙を拭いとり囁く。
「泣くな…………、香苗。」
言えば余計に涙が雨の中落ちていく。狡い質問だった。香苗が本当は聞きたくても我慢しているのをちゃんと分かっていて、それでも香苗から言わせようとしたのだ。
伝えたら……泣き止んでくれるか?
堪らず傘で隠れているかどうかも忘れさって、唇を重ねてしまっていた。するとほんの少し触れるだけの口付けに、香苗の涙が倍になって音をたてているみたいに溢れて落ちていく。思わず抱き寄せて抱き締めると、胸にジワリとそれでも止まっていない香苗の涙を感じてしまう。腕の中にスッポリと収まってしまう小さな体。俺ならあんなことをしてお前を傷つけたりはしないのに、そう何度も考えていたとは実は一度も口にすらしていない。傷つけないし守る、何にも傷つけさせないから……
「……俺は…………。」
香苗が戸惑いながら悌順が押し付けていた胸から視線をあげた。するとまるで予定されていたみたいに悌順と真っ直ぐに視線があって、思わず言葉に詰まる。
「……花泉から、何か受け取った?悌さん。」
何でかこっちの話を遮って香苗が今更口にしたことに、一瞬悌順が呆気にとられた顔をして香苗を見下ろす。やがて傘を肩に乗せた格好で悌順は、その言葉が飲み込めると苦笑いを浮かべてしまう。
「…………なんで、それだよ?聞きたいのそこか?普通違うだろ。」
花泉となんかしたの?とか、花泉が好きかとか聞きようがありそうなものなのに、目の前の香苗のまず最初の疑問が自分が何か受け取ったかだなんて。なんてまあおかしな質問だけど、これはこれで香苗らしくて可愛いと考えた自分に笑ってしまう。
「俺は……生徒からは何も受け取らない。」
そう決めていたし、生徒と教師の関係は絶対。いつか消える自分が残せるのは、育てた生徒の中に残る思い出くらいだとずっと諦めていた。でも、突然そう出来なくなったのは腕の中の一人のせいだ。香苗から躊躇いがちな声で名前で呼んでと強請られた時に、なんたって随分可愛いこと言うななんて思っていた時にはきっとこの気持ちを押さえ込むのには手遅れだった。
もう今は香苗と呼ぶだけで嬉しそうに笑うのを知っているし、意図して朝早く来て部室の窓辺から自分を追う視線だって知っている。傍にいると照れくさそうに笑いながら、何時でも自分の事を追ってくる視線にだって当に気がついていた。
まあ、流石に最初のキスで突き飛ばされたのには唖然としたけどな。
腕の中の香苗が今の事態を把握できなくて混乱しているのが分かる。余りにも混乱するとこの間のようにいきなり突き飛ばされかねない。
「頼むから……この間みたいに突き飛ばすなよ?……凹むから。」
確かにシチュエーションとしては悌順が絶望している最中の不意のキスだったが、流石に全力で突き飛ばされたのには面食らった。しかも何か言おうとした時には香苗は脱兎の如く逃げ出していて、起き上がったら影も形もないと来ている。それでも今見ている混乱している香苗の顔が可愛いから、このまま一気に押しきってしまおう。
「……教師失格なのは分かってる……けど…………、な。」
腕の中に捕らえられて真っ赤な顔をしている香苗に気持ちを伝えてしまったら、自分にも逃げ道はなくなる。それでも後悔するくらいなら伝えて努力した方が、訳のわからない噂で振り回されて日々の香苗の笑顔も見れないよりはましな気がしてきた。
「………………好きだ。」
真剣な声で告げたのに、目の前の香苗はヤッパリ斜め上の返答をしてくる。
「……う……そ?」
こんな嘘があるわけないだろと言いたい。これが嘘だとしたら悌順も大概質が悪いと思うし、こんな雨の中で家まで送るのだって、この雰囲気の中で嘘をつくなんてあり得ないだろとは一応香苗も気がついたらしい。
「……なんで、嘘だよ。」
不貞腐れた顔のままそう告げる悌順に花泉はどうするのと戸惑いながら香苗が言うから、やっぱり気にしてたかと溜め息混じりに答える。それを迷わず聞いたらいいのに素直じゃないが、素直じゃないところも可愛いのだから仕方がない。
「花泉には、……誰とは言えなかったが、…………そいつ以外を大事な女だとは思えないと答えただけだ。」
「それ…………、私…………?」
香苗の言葉にグッと言葉に詰まって顔を赤くした悌順が、お前なぁと呆れたように呟いてもう一度ギュッと抱き締める。そう考えてなきゃこんなに困るわけないとそっと呟くと、初めてコテンと胸元に香苗の頬が乗ってくる。ヤバイな、この状況とは思うが、抱き締められて香苗がドキドキしているのが直に肌に伝わるのに気がつく。
「でも、……女の子らしいこと……出来ないし、それに。」
「……そのまんまでいい。」
思わずという感じて香苗が口にしたのに、悌順が迷いもなく答える。そんな風に香苗が悩んでいたなんて知らなかったが、正直そのままの香苗がいいのだからおかしくなってしまう。そのまま、今のままでいいから、好きだと言ってくれたらいい。そうしたらもう迷わないと心の中で呟く。
「でも。」
「何だよ。…………まだ、なんかあるか?」
「……し、処女じゃない。」
「ああ?」
香苗の言葉に呆れてあんぐりと口を開け、思わず声をあげたのは言うまでもない。何を言うかと思えばそれか?それはつまりその類いのことまで前提で、俺を見ているってことなんだな?そう考えたら全くこの娘は、惚れてるっていってる男相手に何をとんでもないことを言うんだと思う。それはこのまま最後まで行ってもいいと誘うようなものなんだぞ?と心の中で苦く思う。思わず香苗の頭を、また傘の下でギュッと胸に抱き締めて悌順が囁く。
「馬鹿だな……、全部分かってて、好きだって言ってんだろ。」
縋りつくみたいに手を回して来た香苗に困った奴だなと囁くと、泣きそうな顔で悌順を見上げてくる。卒業までは生徒だから我慢しないとならないのに、そんなこと言うなというと、香苗はそれは意味が分からないと瞬きして首を傾げる始末だ。
「全く……、お前、自分が俺のこと男として見てるって言ってんだよな?それ。」
そう問いかけると見る間に真っ赤になった香苗が、何が?!どこが?!と噛みついてくる。もう香苗の様子がおかしくて仕方がないが、処女かどうかを気にしてんのはそれでだろと指摘してやると、更に真っ赤になってポコポコと悌順の事を照れ隠しに叩き始める始末だ。そうして手を繋いで家まで送り届けた悌順は、香苗に穏やかな気持ちで微笑みかけ口を開く。
「また月曜な、香苗。」
そう悌順が頭を撫でながら告げた言葉には、何一つ嘘はなかった。
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