GATEKEEPERS  四神奇譚

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第三部

第二幕 奥の間から都市下、都立総合病院

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五月の連休も終わり少し穏やかになり始めた世間の中で、ゲートキーパーとしての仕事は少し落ち着きを取り戻して来ていた。ゲートの乱雑な綴じ方に関しては式読にも忠告はしたが、何しろ院の長の香坂智美には実際にゲートを見ることも出来ない。その上ゲートは一見綴じられているから、閉じているとも見え意見は下々までは届かないのだ。それでも異変を感じてもいる者もいて以前と同じ方法に戻る者もいたようだし、暫く前に直に白虎に会った者や学校で四神を目にした者達が院の金気の青年に反発しているという。何故かと思ったら四神を直に目にした者達は、自分達と四神は別次元の存在だと理解したのだというのだ。それもそれでどうかと思うが、丁寧な仕事に戻ってくれる分には文句はない。

「内部分裂してるんだ。院の金気を祭り上げてる奴等がいる。」
「あっちは、祭り上げられてどうなってるんだ?」
「僕の前では大人しいけど、裏では暴君だね。」

そう香坂は苦々しく呟き、油断が出来ないという。通信網を裏で見張られているから逐一履歴も残さないようにしないとならないとならないと、呆れたように窓辺で言う香坂に最近ではあの暗い部屋では全く会話をしなくなったのに気がつく。恐らく外しても外しても盗聴器やら何かが設置されるのに、面倒になったに違いない。奥の間には二人以外は殆ど近寄れないし、ここには何も異音も異臭もしないから白虎としても今のところは不安はなく会話が出来る。それでも反対勢力の内部を知っていると言うことは、香坂自身もその変化を耳にするように既に計らってあるということだ。

「暴君ね……、院の中で暴君は辞めて欲しいな。」
「本当だよ、やっと悪習を根絶したのに、また遺伝子組み換え研究を持ち上げてくる馬鹿が出てきた。」

溜め息をつきたくなるが、実際にはほんの五年程前までは当然のようにそれを研究していた。まだ二十歳前の白虎に人前だと言うのに院の準備した女性と性行為をしろと命令した人間もいた程で、それらに今白虎に恋人が居ると知ったらどうなるか分かったものではない。

「遺伝子研究にしても、もうサンプルはない筈だろ?」

何故それが失われたかは口にしないが、それに香坂は、だから身の回りに気をつけてと呟く。忌々しいことに再び自分達をモルモットにしようと企む人間がいることに白虎は思わず舌打ちしたくなっていた。



※※※



時刻はそろそろ夕暮れ間近で、木曜の駅前の街には普段と変わりない情景が広がっている。駅前の出版社から帰途についていた信哉の目の前に何処か急ぎ足の宇野智雪の背中が見えて、足早に追い付いた信哉は横に並ぶ。

「何だよ、雪、旅行?」
「仕事だよ、一泊の強行軍。」

宇野智雪曰く本来の担当である菊池直人が、妻の体調不良の為に行けなくなった出張をやむなく代わったのだという。今まで息子の衛が幼いからと断っていたのだが、最近小学二年生になった衛はメキメキ成長して行ってきてよと言ったらしい。

「菊池さんにお世話になってるんだから、ちゃんと助けてあげなよだってよ?どう思う?俺、泣きそう。」
「はは、凄いな、衛の成長。」

幼稚園のまだヨチヨチ姿から知っている宇野衛の成長には目を見張るばかりで、信哉も思わず微笑んでしまうほどだ。そしてこれから丁度待ち合わせの前に、外崎宏太にも話があると呼び出されているのだと言う。

「人気だな?雪。」

そう言いながらも目の前に噂の外崎の姿を見つけて、二人で並んで歩み寄ると声をかける前に外崎はパッと気がついた風に振り返る。予想外に振り返られたのに逆にこっちの方が面食らうが、驚かすなと言われて笑いが起きた。

「声をかけようとしてたんですよ。」

以前外崎の聴力の鋭さは雪から聞いていたが、どうやら本当に周囲の音を聞き分けているらしく、信哉の足音は他のとは少し違うのだと言う。自分ではよく分からないが外崎曰く母の澪と同じだと外崎は呆れたように教えてくれて、振り返ったのもそれを聞き付けたからなのだろう。少し人気を避けるように道の端に移動する外崎につられて動いた信哉達に、外崎は重々しく口を開く。

「雪、信哉、丁度いい。」

普段は人を食ったような口調で話すことの多い外崎が、何時になく硬い声で真剣に話し始めた内容は直ぐには信じられない内容だった。
ついこの間忠志の話しにも少し出てきた三浦和希は、実は昨年の都市部での騒動の少し前に隔離されていた施設から逃亡していた。しかもそれに関わっていたのが進藤隆平というこの街の裏社会の黒幕のような男で、その男が三浦に力を貸しているのだという。それが何の関係があるかというと、進藤隆平の狙いが幼馴染みの雪で三浦に何でか格闘技を教えたとか。そんな簡単に人間が身に付けるものじゃないと思うが、薬でドーピングしていて痛みもなく人を攻撃できると聞くと話しは別だ。人間は誰しも痛みがあるから危険を回避しようと動くのに、痛みがないからフルパワーで攻撃してくるとなると何をしてくるか想像もできなくなる。

「信哉、お前古武術は幾つ納めてんだ?」

何で急にと思うが、どうやら三浦に格闘技を教えた人間が合気道経験があるらしい。しかも他にも格闘技を幾つか教えられたとなると、子供の頃に自分と一緒に五代武にカポエラを教えられた雪でも対応が厳しいということのようだ。つまり外崎の丁度よかったの意味は、信哉に雪を守って欲しいということなのだと気がつく。

「……十種。」
「何だと?!全部か?!お前何なんだ?」

だから言いたくなかったのに。鳥飼家で習得できる古武術十種の内、鳥飼澪は七種を習得した時点で両親が逝去した。だから母から七種を習得していた信哉は、残り三種を真見塚道場の真見塚成孝と宮内道場の宮内慶恭から密かに学んだのだ。何故密かにだったのかと言えば信哉の十種習得は、信哉の歳ではマトモじゃないでは済まない、正直人間じゃないの世界だと知っているからだ。何しろ母の鳥飼澪の十代で七種ですら、人間兵器と密かに呼ばれていたらしい。少なくとも真見塚成孝と宮内慶恭達と同じクラスの腕前だったらしい外崎には、信哉のこれがどんなに異常な事かは直ぐわかる筈だ。兎も角戦力としては申し分ないと言いたげな外崎に、雪が進藤がどうかしたのか問いかける。聞けば既に進藤という男は一ヶ月程前に、二人の協力で警察に逮捕されたのだというのだ。

「進藤のやつ、捕まる前に三浦に何かさせる気だったらしい。」

その先の話しは、正直四神で十分マトモじゃない世界には慣れている筈の信哉が愕然とするような内容だった。進藤という男は十一年も前から雪の事を色々な意味でつけ狙っていて、それには他人の顔にワザワザ整形させて雪の彼女を狙うなんてものまであったのだ。正気とは思えないが三月には確かに雪の両親を殺した男とソックリな男が現れて散々に雪は振り回されたし、その後三浦屋敷というお化け屋敷の地下室で水責めにあっている宮井麻希子を悌順と忠志にも手伝って貰って救出にもいった。それを全て裏で操っていたのが進藤隆平で、しかもその男が三浦和希を手下にして雪に何かをさせようとしている。

「三浦はまだみつからないんですか?外崎さん。」
「困ったことにな、警察内部のゴタゴタで進まないってよ。」

そう言った瞬間、突然外崎がピタリと動きを止めて口をつぐんだ。思わず何かあったのかと二人で外崎の様子を眺めると、見る間に顔が強張り青ざめていくのがわかる。まさか貧血でも起こしたかと思った刹那、外崎は自分達の肩越しに向けて口を開いた。

「三浦和希!!」

思わぬ言葉に振り返ると、声に反応した一人の男が弾かれたように振り返る。フードを被ったキャップの男の顔は信哉にも確かに見覚えがあって、しかもその目の前には宇野衛を背に庇う凍りついた顔の宮井麻希子がいた。

「まーちゃん!!!」

悲鳴のように名前を呼ぶ雪の声。咄嗟に駆け出した雪を制止する前に、眼前の外崎が崩れ落ちたのに信哉は思わず手を伸ばしていた。冷や汗を滴らせながら、それでも外崎は咄嗟に杖を立てて体を支えると、信哉の手を不要だと示すように払いのける。
視界では一瞬で身を翻した三浦がナイフを振りかぶって宮井麻希子に襲いかかろうとしていて、いち早く駆け込んだ雪が二人を庇うように抱き締めていた。瞬間に三浦のナイフが雪の脇腹に突き刺さっていたが、雪は割ってはいった動きのまま咄嗟に後ろ回しで蹴りを放つ。ところがナイフを引き抜きながら、三浦は背後に飛びすさって蹴りの範囲から容易く逃れてしまっていた。背後に二人を庇いながら雪が三浦を睨み付けると、三浦は雪の顔を確認するように眺め呟く。

「あんたの写真もあった……。」
「進藤がやらせてるのか?これを。」

呻くような声で言う雪に、ナイフを手で軽く拭うようにして三浦は首を傾げながら笑う。進藤がやらせているのかと言う問いに三浦は分からないけど等といいナイフで横凪ぎにする。ナイフの切っ先で左の前腕の服が裂けて血が地面に飛沫になって飛び散った。

「信哉!俺はいい!雪を!」

その言葉に信哉は弾かれたように一瞬で身を翻していた。周囲の人混みが雪の血に気がついて甲高い悲鳴をあげるのと、信哉が飛び出したのが殆ど同時。その時信哉の視界の中では、異様なモノが目に入っていた。
目の前にいる三浦和希には、二年と少し前の冬に確かに出会っている。
その時の三浦和希は精神的にはおかしくなっていたかもしれないが、普通の人間でしかなかった。それなのに目の前にいる三浦和希は、どうみてもその体から弱く人の目にはまだ見えないとは言え火気を放っている。

こいつには両親がいる筈だ。

こいつは天涯孤独でもなければ犯罪は犯しているが何も失っていない筈なのに、何で火気を放っているのか理解できない。でも確かに火気を放っている。まだ炎を産み出せるほどではないが、それでも身体能力は人並み外れて数ヵ月前まで隔離室で運動もせずに生きていたなんて思えない。
空を切り弧を描いた信哉の鋭い蹴りを三浦和希が反転して腕を組むようにして受け止め、そのまま数メートル背後に反動で後退った三浦和希が空かさずナイフを信哉に向かって突き出す。互いの攻撃の空を切るような鋭い音は、人間が簡単に出せるような音ではない。

どう見ても火気だ

なんでここでまた二人目なんだと戸惑うが、ナイフの動きが予想以上に早く信哉は舌打ちする。周囲の人混みが狭まるのが邪魔な上に、本気で動くのに雪の動きが緩慢で距離が取れない。せめて人垣が後一メートル離れてくれれば、そう思った瞬間目の前に炎のように光る瞳をした三浦が迫っていた。

「邪魔すんな、よ!お前!」

三浦が叫びながらギラリと鈍く光るナイフで弧閃を描くと、それをギリギリのところですり抜けて信哉の腕が三浦の腕をとって流れに巻き込むように動く。動きは一見すると合気道でもあるが、それは古武術の組討術という相手を捕縛する目的で使う技。通常ならそのまま地面に叩きつけられる筈の動きなのに、三浦はまるで軟体動物みたいに腕を力ずくで信哉の手から引き抜くと、距離をとってまたナイフを繰り出した。

合気道……それに、カポエラ……後は……キックボクシングかなにか

動きの癖を見ながら何を習得しているのか咄嗟に判断する。合気道はかなりの腕前だが、それ以外はナイフを使うためか足技中心。火気のせいで弱い筋力は補正されていて、これを雪一人じゃ確かに相手が悪すぎる。しかもこいつは頭も切れて、わざと血を撒き人目につくようにして人垣まで準備した。

早くけりをつけないと、状況が更に悪くなる

信哉はチッと再び小さな舌打ちをして、一気に深く踏み込んだかと思うと鋭く低く体勢を落として前に出る。そして次の瞬間、空手の打突と呼ばれる動きで三浦の鳩尾を狙って信哉が拳を繰り出した。火気を使いこなしでもしたらアウトだとも思うが、これが警察に大人しく捕まっているだろうか。香坂に連絡するにも、こいつは殺人犯で一抹の不安はあるが、今は気絶させるしか手がない。
打突の直撃をさけるように三浦はナイフをかざしたが、バキンッと鋭い音をたててナイフが折れて砕けていた。しかも打突の一撃がそのまま三メートル程三浦の体を後ろに弾き、三浦は驚いたように折れたナイフを見下ろす。手にしていた立派な代物が、まさか人間の拳で叩き折られるとは思わなかったのだろう。しかも次の瞬間には信哉は更に三浦との距離を詰めていて、次の攻撃を怯むことなく繰り出していた。

「くそっ!」

初めて苛立ちに満ちた声を溢した三浦が、一際後ろに跳びすさって信哉から大きく距離をとる。ところがそれを見逃さずに瞬時に距離を縮められた三浦は息を飲んで目の前に迫る信哉を見た。

「何なんだ、お前。」

そう呟くのが聞こえたが、正直それを口にしたいのは自分の方だと信哉は思う。病院に隔離されていたが毎月忠志が面会に行っていた筈なのに、同じ火気な上に忠志が感知が苦手だったからこの変化に気がつかなかった。それでもなんでこいつが火気を身につけたかなんて想像も出来ない。

殺人鬼が火気を身につけたら、人外と何も変わらない。

だけど目の前の三浦和希は確かに火気を持った人間の紅玉の瞳をしていて、一撃で容赦なく叩きのめされた三浦の体が対面の店舗の壁に撥ね飛ばされ叩きつけられ光を失うのを信哉は呆然としながら見下ろしていた。



※※※



宇野智雪の傷はかなり深く、そのまま救急車で都立総合病院に運ばれた。信哉は三浦を取り押さえたまま警察に同行し、同級生の風間に事情を説明してから病院に足を向ける。そうして雪が意識のないまま手術室に入ったというのを聞いて手術室の前に足を踏み入れた瞬間、信哉は自分が何を見ているか分からなかった。
泣きじゃくる衛を抱き締め座る麻希子の姿。
いつも雪の足元にまとわりついて、いつも天使だと雪がいう笑顔の麻希子。高校生になって再会してから泣いているのを見たことは確かにあったが、ほんの三度ほどでそれ以外は記憶と変わらない笑顔しか見ていない。その少女が青ざめ凍りついた顔で、手術室のランプをじっと視線をそらすこともなく見つめている。
その姿の直ぐ傍に何故か同じ年頃だった自分が、呆然と座り涙を流していた。母を失った時の何も出来ずに、この麻希子に泣いているのと問いかけられ飴玉を差し出されたあの日の自分。服にまだ雪の血をつけたままで、微動だにしない宮井麻希子は凛として揺るぎない。でも、その隣で泣き崩れている過去の自分が消えない。

俺は……あれを繰り返すのか?

三浦の火気の出現に戸惑い手間取ったせいで、自分にとって数少ない幼馴染みを失うかもしれないと初めてその時に気がついた。そう我に返った瞬間、切りかれるような激しい痛みに感情が飲まれる。
悌順が熱湯を被って怪我をした時、自分は悌順には治癒出来るから平気だと心のどこかで考えた。そして、宇野智雪にも同じように心の何処かで平気だと思っていたのではないだろうか?雪は普通の人間で、重傷で死にかけている。本当なら悌順の事だって同じく感じる筈なのだ。

自分がもっと早く助けられれば。

それに気がついてしまったら涙が溢れ、言葉を失ってしまった。自分の当然が異常なのだと忘れ去って、助けられる筈のものを助けられなかったと雪の叔父である宮井夫妻に何が起きたかを説明しながら、傍にいたのにとただ謝るしか出来ない。
やがて電話で連絡した悌順が駆け付けた時にも、涙が止まらないままの信哉に悌順は戸惑いながら状況を問いただす。

「手術は?」
「まだ、途中なんだ……。」

気がつくと手術室の前の長椅子で、麻希子と衛は転た寝をしていて宮井夫婦は硬く険しい表情で横に腰かけている。つい先程刑事が訪れ雪が狙われていた危険性があったと認め謝罪したのに宮井有希子は怒りが収まらない様子だったが、今は言葉もなく座り続けている。既に四時間近い手術を言葉もなく見守る姿に、涙を拭いながら信哉が小さな声で呟く。

「三浦が…………火気を宿していた……。それに、気をとられたんだ……。」

思わぬ言葉に目を丸くする悌順は、思わず手術室の前の麻希子を振り返る。いつの間にか目を覚ましていた麻希子が、先程までとは違ういつもの真ん丸な瞳で二人を見つめ返す。まるでこちらの気持ちを見透かしているような大丈夫と言いたげな瞳で宮井麻希子は静かに微笑んで見せたのに、信哉と悌順は思わず息をのんでいた。

何処かで見た。

その何もかもを見透かしているような瞳で微笑む様。悲しくそれでも大丈夫と笑う瞳に、何故か木崎蒼子が二人の脳裏を掠めていく。
大事な人、大事な家族。
そして、贄という言葉。
それから二時間。
結局六時間もの大手術の後、宇野智雪は何とか命をとりとめ手術室から戻り救急病棟の一室に移動する。それでも意識が戻り命が助かるのは五分五分といわれたと、麻希子や宮井夫婦の顔色はずっと青ざめたままだった。
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