GATEKEEPERS  四神奇譚

文字の大きさ
上 下
78 / 206
第二部

第四幕 護法院奥の間

しおりを挟む
サヤサヤと肌に冷気を感じさせる風が、窓辺に座る者に向かって弱く流れ込んでくる。微かな木々の葉ずれの音にその部屋の主は、黙りこんだまま身じろぎもせずにいた。普段彼が殆どの時間を過ごすモニターの並ぶ部屋より、奥まった場所にある一室。院の者は星読の友村礼慈とあと数人以外は入ることも許されていない場所が、香坂智美の居住のための場所だった。以前は座敷牢のようだった部屋は、今では彼が過ごしやすいように整えられ以前の面影はない。それでもこうして窓辺に腰かけると過去にこの部屋で見上げた窓の事を、今の事のように記憶が浮かべる。記憶は鮮明なまま、いつまでもあの夜に見上げた空を再生し続けるのだ。
ふと微かに眼鏡のレンズに月光を反射させ栗毛の髪を揺らして智美は、雲の切れ始めた夜空を見上げた。夜半を過ぎた夜空には西に傾いた月がほんのりと薄く輝き、星の光も微かに瞬いているかのように見えて彼は微かに目を細める。

「香坂。」

不意に降り落ちた静かな声に微かな驚きを込めて、智美はその声の主を見やる。そこには白く体から発光するかのようにも見えるしなやかで美しい容姿を持った青年が、まるで玉砂利を踏む音すらもさせずフワリとした歩みをみせる。木立の合間に佇む顔立ちは、一瞬智美の胸の中に棘のような痛みを感じさせた。顔立ちはよく似ているが目の前の人物は、智美が思った人物ではなく実際にはその息子なのだと意識を切り替えるようにゆっくり瞬きをする。
窓辺に座る智美の姿に歩み寄り、白虎は音もなく庭園の木々の影から全身を見せた。その背後でサクリと玉砂利を踏む別な音がして、彼の後ろの闇に彼の仲間の存在がある事が分かる。

「やぁ、白虎。今夜の仕事で何か起きたみたいだね。」

既に彼等が仕事を終えてだいぶ時間が過ぎていた。
だが、その仕事の終い近く東南東の青龍のいる場所に奇妙な変化が起こったのは分かっている。普段の四神が穴を閉じるのとは全く違う、一度に蓋でもするような奇妙な穴の消滅。しかもその消滅後の熱源は、普段のものよりも奇妙だった。閉じてはいるのに温度が周囲に同化せず、歪な形で僅かに温度の差を表示したままなのだ。その後一時モニターの中で高熱源の主たちが一か所に集まるのを、香坂智美は確かにその目で見ていた。彼等が暫しそこに高熱源のまま存在し、その歪な場所を改めて修復しているのを『式読』はモニター越しにずっと見つめていたのだ。そのまま直ぐ散会するかと思われた四神が、真っ直ぐにこちらに向かっているのに気がついた時、異変がただならぬものではない事を智美も感じる。だから智美はこうして、誰も気がつかれないようモニターを離れて窓辺で待っていた。

「俺達に話しておきたいことがあるだろう?香坂。」

静かな白虎の声音は有無を言わせないもので、彼がそんな口調で話すのは滅多にない事だ。微かに眉を顰めた智美は彼の意図する事に思いを巡らせたかと思うと、何かを理解したかのように月光に曝された冷たくも見える白銀の容貌を見やった。
そこにあるはるか過去に見た者と同じ純粋な金気は、彼の目でも一つの者とは違う存在である事が分かる。そして今彼が聞きたいのは、そのもう一つの金気の存在の事に違いないと判断した。

「彼は雲英。つい先日ここに預けられた者だが、以前の記憶がない。身元も分からない。」

その言葉を予測していたかのように、白虎は何か反応するでもなくただ彼の姿を見つめている。

「星読は彼が金気を宿していると言った。」

微かな溜息と共にその目の前の青年が目を伏せるのを見やりながら、その背後から音もなく姿を現した者に彼は微かに目を細めた。四神はそれぞれに特有の異装を纏う。その色は五色とされ、それぞれに色が決まっている。
北は玄武で黒。
南は朱雀で赤。
西は白虎で白。
そして東は青龍で、青もしくは緑だ。
勿論代替わりをする前と後では、異装の形や微細な裾の長さなどに差がある。それは異装自体がそれぞれの気を具現化していて、それぞれが得意な物や動きやすいと考える形をとるからだ。先代白虎と現在の白虎のように同じ武術を身につけていても、細部は僅かに異なるのが普通。そして今まで出会った事のない目に鮮やかな青の異装は腕に緋色の布を巻きつけ、長い裾をたなびかせていた。初めて出会う青龍は、微かに躊躇いがちに香坂智美の姿を見つめる。恐らく院の当主がこんな子供だとは思ってもいなかったのだろうと、智美は心の中で苦く微笑んだ。
更にその背後に居る見慣れた後二人の姿も確認しながら、智美は努めて穏やかな様子で初めて見る事になった四人揃った姿を見つめる。改めて、みる能力のない自分ですらもこうしてじかに彼等の姿を見ると、彼等の内在するモノの片鱗をわずかに感じ取れる様な気がする。眼鏡越しの瞳をまるで絵画でも見るかのように細めた智美は、四神から感じるピリピリと沁みるような純粋な気配を肌に感じとった。普段の白虎や玄武の来訪でこんな気配を感じさせたことはなかったのは、四人揃っているせいなのか異変に対する警戒の現れなのか。

「…彼が青龍だ。青龍…彼が院を束ねる者『式読』と呼ばれている、香坂智美だ。」

その言葉を心に投影するかのように、青龍は蒼い光を揺らした瞳をまるで確かめるような視線で向ける。何処となく繊細さを匂わせ、四人の中では一番小柄で自分とも殆ど体格の変わらない。顔立ちは穏やかそうだが、視線の強さはけして穏やかなだけではない事が分かる。

値踏みされてるような気がするね、流石青龍と言うことか。

こちらもきっと同じような印象を持たれているに違いないと考えながら、自分を探る静かな瞳を見つめ返す。一時無言の間に静かな体から、柔らかな風が放たれる様な気がした。辺りの木々がサヤサヤと再び音をさせているのに、青龍はユックリと瞬きをして無言で隣の白虎を見上げる。白虎はその視線を感じ取った様子で、ユックリと智美に向かって口を開く。

「今夜の仕事の合間に院の者が、金気の力でゲートを閉じた。」

その言葉に智美は、微かに表情を動かした。雲英は不確定要素が大きすぎて、実働部隊には組み込まれていない。と言うより、智美は実際に雲英は実働部隊には、入れられないと考えている。金気を持っていることも理由だが、あの金気はどこか奇妙な気がするのだ。その思考を表情から読み取ったように、白虎は言葉を続けた。

「その上で、その院の者は青龍に攻撃を仕掛け傷を負わせた。」

不意に青龍の横で告げられた言葉に、今まで平静をよそっていたはずの智美の表情が驚きで色を変えたのを四人は静かな瞳で見つめていた。雲英が東南東に姿を見せたことだけでも問題だと言うのに、四神に攻撃をしかける理由が分からない。

「彼は……四神に成り代わると話しました、……貴方はそれをどう考えますか?」

青龍の問いかけに智美は言葉を失う。自分達の前で見せる雲英の気弱で辿々しい印象とは、全く違う尊大で無知にすら思える言葉。

四神に成り代わる?つまり白虎に成り代わるということか?

智美は目まぐるしくその頭脳の中で仮定を構築し否定し、仮説を組み上げ続ける。異例という言葉の中にある何らかの意図を探るように、仮定は幾つもの構築と破棄を繰り返していく。

「過去の文献や資料には、四神の能力は大きな対価と引き換えに与えられるのではないかと結論づけてきた。」

智美は静かな声で頭の中の思考を言葉に変える。

「僕も様々な資料や統計から、四神は一種の固有種であり、遺伝子等の括りでは説明の出来ないものだと結論づけた。」

智美は勿論例外はあるがと呟き、白虎の顔を一瞬みて再び話を続ける。香坂智美の考えでは、ある特有の条件を満たした場合それを対価と認識して能力が伝達され、四神の能力が宿るのではないかと考えていた。先代白虎が例外として女性だったのはハッキリ説明は出来ないが、完全に条件を満たす直前もしくは直後に彼女が妊娠したのではないかと仮定している。四神に選ばれる条件は多岐にわたるが、多くの四神はその条件をほぼ満たすようだ。
だが、長年続けられてきた人体実験紛いの研究では、遺伝子レベルの奇形や変化は認められない。しかも、四神になったからといって、生殖能力が失われるわけでもないのだ。

「人体実験をやめたのはほんの数年前なのは事実だ。しかも、四神を人工的に作ろうと躍起になっていた人間もいた。」

その台頭があの研究所を統括していたくそ爺だ。相変わらず未だに表だった動きもなく、まるで隠居でもしているかのように別な組織の施設で書類をまとめているという。

「それが成功した?そう言うことかよ?」

訝しげな朱雀の声に、智美は思わず黙りこんだ。礼慈が動きを見張っていても完全ではないし、智美の目の届かないものもあるかもしれない。たが、人工的に四神を模した存在を作れたとしたら、院の実権を握る気で動き出しても良さそうなものだ。

「分からない。そんなことが可能だとは思えないし、成功したとしたら表に出てきそうな輩なんだけど……。」
「あのくそ爺なら喜んで、お前をやり込めに来るだろうな。」

研究所を知っている玄武が苦々しい声で呟く。一瞬青龍が白虎を見上げてから、躊躇い勝ちに智美を見つめる。

「……僕と白虎の感覚では、あの金気……。」

一瞬ザァッと木々が揺れる音に会話が切れるのを感じながら、智美は暫く考え込んだ様子で俯いた。



※※※



促されるようにして友村礼慈に連れられて日本庭園に姿を見せた者を、彼ら四人は気配を包み隠すようにして大屋根の上から見下ろした。戸惑うような表情を浮かべて眠たげにも見える様子で現れたその青年は、思わぬ場所に通された事に困惑した色を浮かべ月光の下に佇む。視界にいる青年は一見すれば自分たちより僅かに年下に見えるが、はっきりとは判断できない。
目鼻立ちの整った顔をした栗色の髪の普通の青年にしか見えないが、やはりそこには何かしら異質なものを感じさせる空虚なものが存在した。微かに下で会話を交わす声がして内容を聞き取る事は玄武と白虎の聴覚に任せながら他の二人は其々のその青年の姿を見下ろした。

「どうだ?二人とも。」

黒衣の長身の青年の振り落ちるような静かな声に朱雀と青龍はそれぞれに眉を顰める。確かにそこにいるのはあの月光の下で見た姿だといっても間違いではないような気はした。

「さっきの奴と…ちがくね?」

思わず首をかしげた朱雀の言葉に、今度は玄武が眉を潜める。その言葉の半分を訂正するかのように青龍はその瞳を蒼水晶の輝きで輝かせながら目を細めた。

「確かにさっきとは別人みたいですけど…。」

しかも、改めて見て確かめようとしても、その気配は捕まえる事ができない。掴んだと思った瞬間にすり抜けてその本質を消して読ませる事のない存在。けして、その存在と同じではないのは分かっているが、すり抜ける感覚は青龍が以前感じたことのあるものに似ている。

「見えるか?」
「やっぱり、……あの時と同じです。すり抜けて逃げる。」

対峙した時青年は、巧妙に意図的に金気だけを押し出して示した気がした。まるで、力を誇示するようなその形は消して好ましいものではなかったが、別な何かを包み隠して別な姿を押し出してみせた青年。その姿は何処か危うい。その危うさが強大な能力を内在させ、能力を発現させると記憶を失う麒麟を思い起こさせた。だから、似ていると感じたのかもしれない。

「…………思ったとおりの返答だな。」

優れた聴力で眼下の会話を完全に聞いていた白虎が、微かに溜息交じりに呟く。礼慈が問いかけているのは、夕暮れ以降の彼の行動についてだ。何しろあの場所から院までの距離は、直線でも百キロ以上ある。それを移動するのに四神でもない人間は、自分達より先に移動を開始してここに戻っていることは不可能だ。

「何も覚えてない…か、してたことも分からんとはね。」
「声を聞く分には嘘はついてなさそうだ。」

集中していた為かその双眸を閉じていた白虎が、ふと視線をその眼下に佇む青年に向けた。完全に眠気もさめたのだろう青年は、建物の影で見えない式読の問いに首を横に振っている。
記憶のない空白の時間。
その存在にすら気がつかないその姿を見下ろしながら、何処となく落ち着かない気分を感じて白虎は微かに目を細めた。

「やっぱり、何か引っかかるって顔だな?」

その表情に気がついた玄武の訝しがる声に、彼はふと視線を細めながら同時に会話にも耳を澄ます。普通であれば全く聞こえないはずの声。
会話の中の声の高さ流れ、息遣いや、様々なものはその言葉の主が記憶のない部分で何をしたか戸惑うのが分かるのだが、何か分からない不快感がそこにはあった。

「なんだろうな……、何というか戸惑ってはいるようだが……。」

その不快感がなんなのか、言葉の気配からは探りとれない。臭いからも何かを隠そうとする気配も感じられないのに、何処か不快感が拭えないのだ。気配を捉えようと試みている青龍も目を細め、小さな声で呟く。

「さっきもそうだったんですけど、何だか……。」
「なんかなぁ、はぐらかされて面白がられてる気ぃすんな。」

唐突な朱雀の言葉に、青龍が目を丸くする。正に彼もそう言おうとしていたのだ。その言葉に不快感の意味をやっと理解できたと、白虎も納得したように目を細めた。白虎も彼と言うより彼の奥底にあるものに、はぐらかされて欺かれている様を面白がられているような気がしていたのだ。

「…胡散臭せ」

思わず呟く朱雀に三人は同じ感情を抱いて、その青年を見下ろした。相手が院の者だと言うのはさておき、自分達に成り代わると告げた人間にいい印象が持てる筈はない。しかも、出会って直ぐに嘲り攻撃を仕掛けられては、尚更相手の印象は悪いのは仕方がないだろう。それにしても、四人が四人ともおおよそ同じ印象を青年から受けるのは何故だろうか。

「院に置いといて、平気か?」

しゃがみ込んで頬杖を突く様にして白虎を見上げた玄武が、冷ややかに下を見下ろしている彼に問いかける。一見すると人間にしか見えない青年を、白虎の視線は油断なく観察していく。体の動きも別段何か運動や武道をしていた風でもななければ、何か特有の癖もない。だが、その体内の気配が外に漏れてこないのが、青年を空虚に感じさせるのだと気がつく。

仁にも似てるようだが、あの女にも似てるな…。

まるで心の中で貯めていたものを射抜くかのように見つめている視線に、朱雀も玄武と同じように白虎を見上げる。

「……分からない…どう判断するべきか俺も検討もつかない。」
「人外ではなさそうだが、いい感じはうけねぇしなぁ。」
「表に出したくないものはありそうだがな……。」

ふとその言葉に朱雀は自分の脳裏で、何かが音を立てたのを聞いた。二人の会話の何かが彼の琴線に触れ、何かを思い起こそうとしている。

「……どうやって移動したのかだけでも分かればな。」
「どうしたって力に振り回されるような状態じゃこっちも困るだろ。ちゃんと監視しといてもらいてぇな。」

密やかな月光の下の影にまぎれるような彼らの間で、玄武が忌々しげに言う。白虎の放った言葉の先に青龍の瞳が微かに見開かれ、彼は弾かれたように眼下の青年の姿を見た。その一瞬眼下で自分達を見ることもできない筈の青年は、踵を返し庭園から出ようとしていた視線を迷わずに四人の方へと何気ない仕草で投げかける。
一瞬四人はその視線が自分たちを見ているのかそうでない視線なのかを図りかねて、思わず押し黙り息を殺す。やがて青年は微かに不思議そうに目を細めたかと思うと、首を傾げ視線を帰し闇の中に消えていく。

「……どう思う?今の。」

朱雀の言葉に分からんと首を横に振った白虎に、足元で緋色の服の裾の埃を叩きながら朱雀が微かに息をつく。彼がまるで俺らの方がこそこそしててやな感じだなと苦笑いで思わず呟くのを、青龍は微かな戸惑う表情と共に見つめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

未明の駅

ゆずさくら
ホラー
Webサイトに記事をアップしている俺は、趣味の小説ばかり書いて仕事が進んでいなかった。サイト主催者から炊きつけられ、ネットで見つけたネタを記事する為、夜中の地下鉄の取材を始めるのだが、そこで思わぬトラブルが発生して、地下の闇を彷徨うことになってしまう。俺は闇の中、先に見えてきた謎のホームへと向かうのだが……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

実体験したオカルト話する

鳳月 眠人
ホラー
夏なのでちょっとしたオカルト話。 どれも、脚色なしの実話です。 ※期間限定再公開

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

処理中です...