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第二部
第三幕 詳細不明
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心は波立つこともなく何時までも凪いでいる。そんな筈はないのに、まるで時が止まったように音もない。あの炎にまみれた世界で、鋭い杭のようなもので体を刺し貫かれた時。全てが凍りついて、何もかもが凪ぎの世界に落ちていく。
探さなきゃならない。
心が凪いだ湖面に浮かびながらそれだけを考えていた。どうしても探さないとならないと繰り返す心の声に、答える者もなく何時しか湖面から沈んで消えていくのだと思う。
ああ、でも探さなきゃならない。
どうしても探さないとならないと繰り返す。静かに、それでいて悲鳴の様にその言葉を叫び続ける。何を探すのかも、どうして探すのかも覚えていた筈なのに、今ではその記憶すら朧気で自分が何を探したかったのかも消え始めている。深く刻み込まれた願いの様な言葉。
探さなきゃならない。
やがて自分の体は深い水面の底に向かって沈み始めていく。このままでは水面の底に溶けて、永遠にこの世界から消えてしまう。それが次第に沈む体で体感できて、自分はどうしたらいいのか頭上の青い水面をみつめた。
誰か。
そう何故か心が呟く。誰もいないこの世界で水に沈もうとしている自分を誰が助けてくれるというのだろう。そんなこと考えなくても分かりきっている。誰も助けてくれるはずなんかないのだ。
炎と杭と、そして水。
沈んでいく自分にはもうなにも残されない。せめて探しておきたかった。そして、一度でいいから話をしておきたかったのた。
《助けてやろう…》
その言葉は深い深い奥底から浮かび上がってくる。自分が沈もうとしている、深い水面の奥底から水に反響するように響く。水に混じることも、杭となることも、炎を吹き上げることもない。冷ややかな金けめいた声。
《その代わり……》
命の代償を差し出す変わりに己の命を救うというそれは、悪しき者なのか。それとも神であるが故の贄なのかは、自分にもよく分からない。ただ、それでも自分の体にその声が入り込み、水から浮かび上がっていくのを感じていた。
※※※
激しい眩暈がしていた。それが何故なのか分からないが、あのままで話していたら泣き出してしまいそうな気がしたのだ。もっと追及しようとしていたのに、彼が断固として背後に弟を庇う姿を見ているうちに何かが揺らいで自分が保てない。それは何かが近くに居すぎて、彼女自身が強く干渉されている感じだ。
彼を探しだして、真実が知りたい。
そう、それだけが彼女の今の願い。少なくとも彼は何が起きているのか、何が起きたのか知っている筈なのだ。幾つも幾つも調べていく内に、必ずそれらの終息には不可解な政府の動きがある。それに近づいた者ごと全て飲み込んでしまう不可解な動き。そして、奇妙な符号。調べていく内に彼の所在が、その闇に呑まれているのを知った。
諦めたことなんてない。
彼女の体内にいるものの指示通り、彼女は長い年月をかけて様々な事を調べてきた。体内のあれは彼女からの代償に様々な知識を欲しがり、時に彼女には不可能な筈の事をやってのける。パソコンや社会の裏側を暴露する記事、そんなもの元の彼女には全く未知の領域なのだ。
お陰で実は彼女は体を使うことなく、あれからの様々な情報を教えて貰うことができた。たった一人の人間を探し続ける内に突き当たった、この社会の裏側。そこに呑まれてしまったように見える彼。そこには封建社会かのように、宗教めいたものの存在が必ず垣間見える。宗教の本体を探ろうにも政府やなにやと壁が高く、しかも宗教の癖に離反する人間すら存在しない。やっとのことで本体を見つけたけれど、その中から出てくるものは下の働き蟻ばかりで、上の人間はみつからないのだ。その中でやっと一人年嵩の僧服を捕まえられたのは、やはり体内のものの機転だった。
「人体実験?本当ですか?まさか…。」
「あそこには特殊な化け物が居るんだよ。世にも珍しい…人間の皮を被った…ね。」
科学者の風貌もした僧服の年老いた男は秘密の話と言いたげに、爬虫類のような感情の見えない視線で彼女を見た。男の話す意味はよく分からなかったが、男はその化け物を調べる機関を長年統括していたのだと言う。
「モノを知らない子供が長になって、我々の研究の必要性は理解されなくなった。あの化け物どもは今は野放しだ。」
忌々しげに呟く男の言葉には、あの宗教の長は子供なのだと感じとれる。子供を長に据える新興宗教なんて不愉快だが、政府の関わりもあるから表だっては公表されないのだろう。
「必要なものほど迫害をうけますものね?ところで化け物と言うのは?」
「おお、あんたは話が分かるんだな。そうなんだ、必要なんだよ、あの化け物達のメカニズムがどうなっていて、普通の人間から変異させるのか。」
男の話は半分以上が妄想としか思えなかった。人間が変異して突然不思議な能力を持つ位は多少は理解できるが、何もないところで水や炎を出したり、風を操ったり、刃物のように物を切り裂く。はたまた何もない空間から布を身に纏うとか、質量を無視した化け物に化ける等となってくると荒唐無稽。終いには地中から沸き出す人を餌にする化け物の話に変わる。昔はまともな頭のいい科学者だったかもしれないが、完全な呆け老人となって研究所の統括を外されたというのが真実に違いない。
となると、この爺が子供って言っても、今はかなり歳がいってるかもね。
大体にして人体実験なんて話は、戦時中の可能性だってある。相手が年代も言えなければ、最近の学者にありがちな統計学もパーセンテージにも言及しない辺りがその証明だろう。つまりは老人の憎んでいる長とやらは、とうに大人になっている方が有り得そうだ。体内のあれも目の前の男には情報以外の使い道はないと見なしているのが分かる。
そんな風にして長い年月をかけて少しずつ少しずつ、あの組織の有り様を体内のものに手伝ってもらいながら調べてきたのだ。
そんなことを周囲に漏らしても、きっと何一つ信じてはもらえない。そんなことを人気のない公園で座りながら考えていたら、ほんの三日前にここで出会った少女が脳裏を掠める。彼女の話を何一つ疑う気配もなく、素直に聞いていたあの少女はまんまるい瞳をなおさら丸くして彼女を真っ直ぐに見た。
船舶の運行プログラミングが誤作動を起こしたと聞いた時、先ず考えたのはそれはそうだろうと言うことだった。おかしいと思うかもしれないが、彼女は正直にそう思ったのだ。何故なら彼女自身にはそれを組み立てる能力がないのに、体の中にいる知識を蓄えたものがあれを組み立てた。
ところが同様のプログラミングは同じ会社の他の船舶にも組み込まれているのに、他のもののプログラミングを変える節もない。同じプログラミングの船で、その一艘だけ最も乗客数が多く人が多い船が誤作動を起こす。体内のものは彼女に向かって、忌々しげに陰謀だと囁いてくる。
自分は完璧に作ったのに、贄を欲しがる奴がいるのだ。
そう体内のあれが告げるから、彼女は法廷に立った。だけど、まるで彼女の存在に気がつかないように、彼女の発言は何一つ受け入れられなかったのだ。体内のあれは遅かったと忌々しげにいう。お前の疑いを晴らしてやりたいが、既に真実は相手に飲み込まれてしまったのだと。そして、実は捕まり檻に入れられるかと思っていた彼女には、何故か何も起きなかった。変わりに船舶の一等航海士である彼女の恋人でもあった青年が、わざとプログラミングを切ったと意味の分からない結末が唐突に訪れたのだ。
そんなわけない、航海士が夜間に船舶の運行プログラミングを解除するなんて自殺行為だ。
その言葉も誰にも響かず、誰にも届かない。次第に彼女は心が麻痺していくのを感じていた。それに纏わる大きな疑問を一つ放置して、彼女はもうそんなことはどうでもいいから最初の願い通り彼を探したいと願った。もう、誰かと寄り添うなんてことは考えたくもないと、そして体内のものもそれに従い全てはそれに向かって動く。
何が本当で何が嘘なのかは、よく分かっている。
そう信じながら、彼女は無垢な瞳で自分を見つめる少女を眺めた。この子と話すと真実が分かっている筈なのに微かな違和感があるのは、何故だろうと心の中で少女を眺めなから考える。少女は何も疑う気配もなく私の言葉を受け止めて、真剣に問いかけてきた。
「弟さんと香坂さんが関係してるんですか?」
そう、彼女が探しているのは実の弟。
二十三年も前の大規模なホテル火災で二百人以上もの死者をだした、歴史上で最も悲惨な火災事故。三階の宴会場やバンケットルーム、様々なレストランや店舗を燃やした炎は、何故か動かない火災報知器とスプリンクラーのお陰で深夜に短時間で燃え盛った。しかも、外観から見えない場所から、放射状に広がった炎は三階の火種から、一気に窓ガラスを突き破り中から燃え上がるのではなく外壁を伝い駆け上がったのだ。それはさながら巨大な松明のような姿だっただろう。誰もが外に逃げることも出来ず四方から近づく熱に焼け焦げて行ったと言うのに、弟は唯一の生存者だった。しかも、弟は無傷で、その理由すら分からない。宿泊した部屋の上の水道管が熱で破裂して室内に注ぎ込んだとも言われたが、真実は分からないまま。ホテル側の火災報知器や消化設備の不備、そして建築基準にあわない外壁材のせいだとされた。そんな馬鹿な、五十年も前の建築物ならともかく、真新しいホテルの建築物ならそんなのは有り得ない。それはまるで自分の船舶事故の時のような、奇妙な手際のいい幕引きで直接の原因である業者の多くの人間が火災で死亡していたところまで同じだ。
その後の弟の足取りは、その後この街で一人で暮らし始めたところまではハッキリしている。一年程して弟には、数人の友人が出来ていた。
「いいえ、弟と関係がありそうなのは、鳥飼親子よ。」
そう、その後に目撃されているのは鳥飼親子と楽しそうに歩く姿。時には鳥飼信哉の習い事の迎えまでしてやる程の関係性。歳が近かった鳥飼澪の方は数年前に死亡診断書が提示されている。しかし、元々持病もない健康体の三十代の女性が、交通事故の下肢の裂傷位で数時間後に多臓器不全を起こすなんてあり得ない。医療事故の可能性も調べた方がいいかもしれないが、これも何か関係するなら不可解な結果しか残っていないのだろう。
「じゃなんで雪ちゃんを追いかけ回してるんですか?」
「調べてるうちにね、他に気がついたことがあるからよ。」
あの呆け老人は宗教の長は香坂家から連れてくると、忌々しく告げていた。香坂、あまり聞かない苗字だし、案外調べると人数も多くない。たった760人の香坂で分布は山形県、神奈川県、長野県、福岡県の四県に多い。勿論人口の流動で都内へ流入した香坂もいるが、地名と絡んで香坂姓が根付いているのは山形県と長野県だ。現在所在や生没がハッキリしているモノを除き、更に一族郎党の土着がハッキリしている者も除く。そうしていくと都市部に流入していた若い香坂家もそれに連なり、次第に対象は減っていく。そして、神奈川県から都内にかけてのある一族が、奇妙な経緯を経ているのに気がついたのだ。系図の中から、抹消された人間がその系図には何人もいる。その系図を見なければ知りもしないだろうが、元の所在は長野かどこかの出自で曹洞宗か何かの流れを組んでいた家系。遡れば千年近く前からこちらに移り住み、幾つもの分家も存在している。その家系に何年か何十年かに一人、系譜から削除されている人間がいるのだ。故人ではない、故人であれば没年が書き込まれるだけ。嫁に出たのであれば、そこには嫁に出された家名が書き込まれる。生没もなくただ線で消されるのは、生没以外の理由がありそうだった。
最近ではその家系はマメに辿ることをしなかったためか、分家がどう別れているかも詳しくはハッキリしない。一番最近の抹消された人物は生きてさえいれば、齢百近い『香坂智充』。大正生まれのその人物が、死亡ではなく抹消になっているのは昭和二十年、つまり第二次世界対戦終戦の年だ。
「雪ちゃんは香坂さんのお家の事は何も知らないと思います。」
「そのようね、あの年頃だから少なくとも一度は接触されてるかと思ったけど、もしかしたら香坂家でも知らないのかもね。」
目の前の少女は知らないだろうが、十年ほど前に香坂家の中では何か騒動が起きていたのは調べがついている。
本家と分家と思われる数家に黒服の人間が訪れて、何かテストのようなモノをしていったのだと分家筋で香坂智充の甥だという高齢な老人が掠れ声で話す。本家筋の誰かが連れていかれたとか、聞いたようなと話すが高齢過ぎて記憶が定かではないらしい。何しろこの老人の一人息子はとうに死亡し、彼は自分に孫が要ることは知らない風なのだ。
香坂の家には時々不思議な力を持つ人間がいてね、驚くほど物覚えがよくてお殿様とかに引き立てられた人間も居るんだよ。今でも時々そういう人間が生まれるらしくてね、政府のお役人が来るって親父は話してたんだ。伯父さんはそれに連れてかれてねぇ。
この老人の父親が消えた香坂智充の兄弟なのは言うまでもない。だが、それは悪いことではなく、当時は名誉な事だと考えられてもいたらしい。
だからね、家じゃ律儀に『智』という字を長男にはつけるんだよ。頭がよくなるってね。
その老人の名前は確かに『智佳』だった。しかし、彼には何にも特別なところはないと話していたし、会話も別段特殊には聞こえない。
だけどね、智充伯父さんは一度見たものは忘れないし、頭のいい人でね。凄いのは爆撃機が何時何時来たのと同じ奴だなんて、見てて分かるんだ。いや、嘘じゃないんだよ、これがね。あの三番目の飛行機の、尾翼の傷が同じだとかね。
その話が何処まで真実かは分からないが、確かに戦後香坂智充はある日突然姿を消してしまった。そして、その子供も孫も彼の存在を今も亡くなったものとして扱っているらしい。残念なことに香坂智充の孫の代は薄命なのか、事故や病気で故人となっている人間が多い。そちらの家系で最後に確認できるのは、智充氏の孫に当たる娘が一人と息子が二人。息子は双子だったが、長男は幼い内に悪性の脳腫瘍で死亡。もう一人の息子も高校生の時に理由は分からないが死にかけていて、二十代前半で癌の腹腔内の臓器への転移で亡くなった。二十代で死んだ香坂衛は恋人との間に子供を作っているが、その子の存在は香坂家には知らされていない筈だ。何しろ本家筋と思われる智充氏の孫娘は婿養子をとったが、不慮の交通事故で亡くなってしまっていてその夫婦の子供に関しては詳細が分からない。
話を聞けた香坂智佳氏も既に故人だ、彼には息子は一人だけで警察官として働き始めて直ぐに職務の最中に襲われ死亡した。そして、その息子の死後産まれた子供は、現在二十八歳の青年に育っている。
それをどこまで聞いてどう考えているのか目の前の少女は、真剣な顔で香坂家はヤクザだと考えている様子だ。だから、自分の知っている香坂家の生き残りは関係ないのだと力説する。
「ふふ、そっか。」
「おかしな事言ってますか?」
「ううん、新鮮な意見ね。私には考え付かなかった。」
「雪ちゃんのお父さんの事を調べたんなら、そのお父さんのことも調べたんですか?」
「ええ。」
少女は驚いたように目を丸くして、彼女を真っ直ぐに見つめる。それが何故か面白くて、今まで調べた事をサラッと話して聞かせてやる。
自分の調べたい香坂家の近年の血縁者はおよそ十人前後。香坂智充、その孫娘夫婦、曾孫。香坂衛、その彼女、その息子。香坂智佳、息子の智春、その子供。その十人の現状さえ把握出来れば調べあげられることになる。その内ハッキリしたのは香坂智充の孫娘夫婦、香坂衛、香坂衛の彼女、香坂智佳、香坂智春の六人は書類などの不備もなく死亡が確認できた。後は香坂衛の息子と香坂智春の息子は奇妙な偶然で結びつけられ、今では義理の親子になっている。
残りは香坂智充とその曾孫。
智充は生きていれば百歳前後。曾孫の方は両親の事故後に消息不明になったが、もし生きていれば高校生辺りだ。香坂姓の高校生を少しずつ調べて行くが、条件に当てはまる存在が中々見つからない。もしかしたらその孫が次の消えた香坂になったのかもしれないと自分は考えている。
「凄いですね、一人で。」
そう言われると正直なところ苦笑いが浮かんでしまう。
「凄くないわよ、調べてないとおかしくなりそうなだけなの。一人でね、家にいると何で誰もいないのかしら、弟は今どうしてるかしらって考えてしまうのよ。」
音もない一人っきりの家にいると気が狂いそうになる。だから、何かをし続けているだけと自分は呟く。そうなんだと素直に納得する少女の姿が、ほんの少し羨ましい。こんなに素直を人を信じられる人間ばかりだったら、私も航海士だった彼も苦しまなかっただろう。
苦しんだ…?
不意に頭の中にその言葉が疑問として浮かび上がる。私も彼も何を、そんなに重く苦しんだのだろうか。勿論悪いことをしたのなら悩んで当然なのだろうが、私はなにもしていない。なのに何をそんなに苦しまなければならなかったんだろう。
「あんな風につっかからないで普通に聞いたら教えてくれそうですよ。」
そんな言葉がかけられて、自分の中の不安が少しだけ緩んだのを感じる。
「ふふ、本当おかしな子ね、あなた。」
「あ、あと雪ちゃんのこと呼び捨てにしないで欲しいです。」
少女の言葉に彼女は改めて驚いたように目を丸くして、私の顔を見つめると初めて綺麗な優しい顔で微笑んだ。こんな素直に誰かを大事にできるのは、彼女がまだ高校生だからだろうか。それとも彼女だから出来ることなのだろうか。そう思ったら自分が、知りたいことはなんなのだろうと心の中が弱く告げる。
「可愛い嫉妬ね。」
自分はそう言うと立ち上がりお尻の下を払うと、無意識に背筋を伸ばす。あなたと話すと余計なことまで喋りすぎちゃうと苦笑みたいな声で呟くと、彼女は少女を振り返っていつもの意地悪な笑顔を浮かべた。
「呼び捨ては止めないわ。」
「何でですか?」
「あなたと智雪の反応が楽しいから。じゃね。」
そんなことを思い出しながら、真実はまだ手のとどかぬ場所に揺らめいる。その瞳は目を細めながら光のさす世界をユックリと眺めていく。その世界に存在する全ては光に充ち溢れ、光は何処までも美しい。しかし、それ自体のありがたさを知らない者ばかりが栄えているのも事実だ。失われたものがあるものにしか分からない苦悩。
何故あの時……。
その疑問が自分を支えている。
自分の中の暗く淀んだ闇がその疑問を叫び続けて、自分の中を侵食し続けているのを感じながら、それでも自分はその疑問を叫び続けているのだ。
探さなきゃならない。
心が凪いだ湖面に浮かびながらそれだけを考えていた。どうしても探さないとならないと繰り返す心の声に、答える者もなく何時しか湖面から沈んで消えていくのだと思う。
ああ、でも探さなきゃならない。
どうしても探さないとならないと繰り返す。静かに、それでいて悲鳴の様にその言葉を叫び続ける。何を探すのかも、どうして探すのかも覚えていた筈なのに、今ではその記憶すら朧気で自分が何を探したかったのかも消え始めている。深く刻み込まれた願いの様な言葉。
探さなきゃならない。
やがて自分の体は深い水面の底に向かって沈み始めていく。このままでは水面の底に溶けて、永遠にこの世界から消えてしまう。それが次第に沈む体で体感できて、自分はどうしたらいいのか頭上の青い水面をみつめた。
誰か。
そう何故か心が呟く。誰もいないこの世界で水に沈もうとしている自分を誰が助けてくれるというのだろう。そんなこと考えなくても分かりきっている。誰も助けてくれるはずなんかないのだ。
炎と杭と、そして水。
沈んでいく自分にはもうなにも残されない。せめて探しておきたかった。そして、一度でいいから話をしておきたかったのた。
《助けてやろう…》
その言葉は深い深い奥底から浮かび上がってくる。自分が沈もうとしている、深い水面の奥底から水に反響するように響く。水に混じることも、杭となることも、炎を吹き上げることもない。冷ややかな金けめいた声。
《その代わり……》
命の代償を差し出す変わりに己の命を救うというそれは、悪しき者なのか。それとも神であるが故の贄なのかは、自分にもよく分からない。ただ、それでも自分の体にその声が入り込み、水から浮かび上がっていくのを感じていた。
※※※
激しい眩暈がしていた。それが何故なのか分からないが、あのままで話していたら泣き出してしまいそうな気がしたのだ。もっと追及しようとしていたのに、彼が断固として背後に弟を庇う姿を見ているうちに何かが揺らいで自分が保てない。それは何かが近くに居すぎて、彼女自身が強く干渉されている感じだ。
彼を探しだして、真実が知りたい。
そう、それだけが彼女の今の願い。少なくとも彼は何が起きているのか、何が起きたのか知っている筈なのだ。幾つも幾つも調べていく内に、必ずそれらの終息には不可解な政府の動きがある。それに近づいた者ごと全て飲み込んでしまう不可解な動き。そして、奇妙な符号。調べていく内に彼の所在が、その闇に呑まれているのを知った。
諦めたことなんてない。
彼女の体内にいるものの指示通り、彼女は長い年月をかけて様々な事を調べてきた。体内のあれは彼女からの代償に様々な知識を欲しがり、時に彼女には不可能な筈の事をやってのける。パソコンや社会の裏側を暴露する記事、そんなもの元の彼女には全く未知の領域なのだ。
お陰で実は彼女は体を使うことなく、あれからの様々な情報を教えて貰うことができた。たった一人の人間を探し続ける内に突き当たった、この社会の裏側。そこに呑まれてしまったように見える彼。そこには封建社会かのように、宗教めいたものの存在が必ず垣間見える。宗教の本体を探ろうにも政府やなにやと壁が高く、しかも宗教の癖に離反する人間すら存在しない。やっとのことで本体を見つけたけれど、その中から出てくるものは下の働き蟻ばかりで、上の人間はみつからないのだ。その中でやっと一人年嵩の僧服を捕まえられたのは、やはり体内のものの機転だった。
「人体実験?本当ですか?まさか…。」
「あそこには特殊な化け物が居るんだよ。世にも珍しい…人間の皮を被った…ね。」
科学者の風貌もした僧服の年老いた男は秘密の話と言いたげに、爬虫類のような感情の見えない視線で彼女を見た。男の話す意味はよく分からなかったが、男はその化け物を調べる機関を長年統括していたのだと言う。
「モノを知らない子供が長になって、我々の研究の必要性は理解されなくなった。あの化け物どもは今は野放しだ。」
忌々しげに呟く男の言葉には、あの宗教の長は子供なのだと感じとれる。子供を長に据える新興宗教なんて不愉快だが、政府の関わりもあるから表だっては公表されないのだろう。
「必要なものほど迫害をうけますものね?ところで化け物と言うのは?」
「おお、あんたは話が分かるんだな。そうなんだ、必要なんだよ、あの化け物達のメカニズムがどうなっていて、普通の人間から変異させるのか。」
男の話は半分以上が妄想としか思えなかった。人間が変異して突然不思議な能力を持つ位は多少は理解できるが、何もないところで水や炎を出したり、風を操ったり、刃物のように物を切り裂く。はたまた何もない空間から布を身に纏うとか、質量を無視した化け物に化ける等となってくると荒唐無稽。終いには地中から沸き出す人を餌にする化け物の話に変わる。昔はまともな頭のいい科学者だったかもしれないが、完全な呆け老人となって研究所の統括を外されたというのが真実に違いない。
となると、この爺が子供って言っても、今はかなり歳がいってるかもね。
大体にして人体実験なんて話は、戦時中の可能性だってある。相手が年代も言えなければ、最近の学者にありがちな統計学もパーセンテージにも言及しない辺りがその証明だろう。つまりは老人の憎んでいる長とやらは、とうに大人になっている方が有り得そうだ。体内のあれも目の前の男には情報以外の使い道はないと見なしているのが分かる。
そんな風にして長い年月をかけて少しずつ少しずつ、あの組織の有り様を体内のものに手伝ってもらいながら調べてきたのだ。
そんなことを周囲に漏らしても、きっと何一つ信じてはもらえない。そんなことを人気のない公園で座りながら考えていたら、ほんの三日前にここで出会った少女が脳裏を掠める。彼女の話を何一つ疑う気配もなく、素直に聞いていたあの少女はまんまるい瞳をなおさら丸くして彼女を真っ直ぐに見た。
船舶の運行プログラミングが誤作動を起こしたと聞いた時、先ず考えたのはそれはそうだろうと言うことだった。おかしいと思うかもしれないが、彼女は正直にそう思ったのだ。何故なら彼女自身にはそれを組み立てる能力がないのに、体の中にいる知識を蓄えたものがあれを組み立てた。
ところが同様のプログラミングは同じ会社の他の船舶にも組み込まれているのに、他のもののプログラミングを変える節もない。同じプログラミングの船で、その一艘だけ最も乗客数が多く人が多い船が誤作動を起こす。体内のものは彼女に向かって、忌々しげに陰謀だと囁いてくる。
自分は完璧に作ったのに、贄を欲しがる奴がいるのだ。
そう体内のあれが告げるから、彼女は法廷に立った。だけど、まるで彼女の存在に気がつかないように、彼女の発言は何一つ受け入れられなかったのだ。体内のあれは遅かったと忌々しげにいう。お前の疑いを晴らしてやりたいが、既に真実は相手に飲み込まれてしまったのだと。そして、実は捕まり檻に入れられるかと思っていた彼女には、何故か何も起きなかった。変わりに船舶の一等航海士である彼女の恋人でもあった青年が、わざとプログラミングを切ったと意味の分からない結末が唐突に訪れたのだ。
そんなわけない、航海士が夜間に船舶の運行プログラミングを解除するなんて自殺行為だ。
その言葉も誰にも響かず、誰にも届かない。次第に彼女は心が麻痺していくのを感じていた。それに纏わる大きな疑問を一つ放置して、彼女はもうそんなことはどうでもいいから最初の願い通り彼を探したいと願った。もう、誰かと寄り添うなんてことは考えたくもないと、そして体内のものもそれに従い全てはそれに向かって動く。
何が本当で何が嘘なのかは、よく分かっている。
そう信じながら、彼女は無垢な瞳で自分を見つめる少女を眺めた。この子と話すと真実が分かっている筈なのに微かな違和感があるのは、何故だろうと心の中で少女を眺めなから考える。少女は何も疑う気配もなく私の言葉を受け止めて、真剣に問いかけてきた。
「弟さんと香坂さんが関係してるんですか?」
そう、彼女が探しているのは実の弟。
二十三年も前の大規模なホテル火災で二百人以上もの死者をだした、歴史上で最も悲惨な火災事故。三階の宴会場やバンケットルーム、様々なレストランや店舗を燃やした炎は、何故か動かない火災報知器とスプリンクラーのお陰で深夜に短時間で燃え盛った。しかも、外観から見えない場所から、放射状に広がった炎は三階の火種から、一気に窓ガラスを突き破り中から燃え上がるのではなく外壁を伝い駆け上がったのだ。それはさながら巨大な松明のような姿だっただろう。誰もが外に逃げることも出来ず四方から近づく熱に焼け焦げて行ったと言うのに、弟は唯一の生存者だった。しかも、弟は無傷で、その理由すら分からない。宿泊した部屋の上の水道管が熱で破裂して室内に注ぎ込んだとも言われたが、真実は分からないまま。ホテル側の火災報知器や消化設備の不備、そして建築基準にあわない外壁材のせいだとされた。そんな馬鹿な、五十年も前の建築物ならともかく、真新しいホテルの建築物ならそんなのは有り得ない。それはまるで自分の船舶事故の時のような、奇妙な手際のいい幕引きで直接の原因である業者の多くの人間が火災で死亡していたところまで同じだ。
その後の弟の足取りは、その後この街で一人で暮らし始めたところまではハッキリしている。一年程して弟には、数人の友人が出来ていた。
「いいえ、弟と関係がありそうなのは、鳥飼親子よ。」
そう、その後に目撃されているのは鳥飼親子と楽しそうに歩く姿。時には鳥飼信哉の習い事の迎えまでしてやる程の関係性。歳が近かった鳥飼澪の方は数年前に死亡診断書が提示されている。しかし、元々持病もない健康体の三十代の女性が、交通事故の下肢の裂傷位で数時間後に多臓器不全を起こすなんてあり得ない。医療事故の可能性も調べた方がいいかもしれないが、これも何か関係するなら不可解な結果しか残っていないのだろう。
「じゃなんで雪ちゃんを追いかけ回してるんですか?」
「調べてるうちにね、他に気がついたことがあるからよ。」
あの呆け老人は宗教の長は香坂家から連れてくると、忌々しく告げていた。香坂、あまり聞かない苗字だし、案外調べると人数も多くない。たった760人の香坂で分布は山形県、神奈川県、長野県、福岡県の四県に多い。勿論人口の流動で都内へ流入した香坂もいるが、地名と絡んで香坂姓が根付いているのは山形県と長野県だ。現在所在や生没がハッキリしているモノを除き、更に一族郎党の土着がハッキリしている者も除く。そうしていくと都市部に流入していた若い香坂家もそれに連なり、次第に対象は減っていく。そして、神奈川県から都内にかけてのある一族が、奇妙な経緯を経ているのに気がついたのだ。系図の中から、抹消された人間がその系図には何人もいる。その系図を見なければ知りもしないだろうが、元の所在は長野かどこかの出自で曹洞宗か何かの流れを組んでいた家系。遡れば千年近く前からこちらに移り住み、幾つもの分家も存在している。その家系に何年か何十年かに一人、系譜から削除されている人間がいるのだ。故人ではない、故人であれば没年が書き込まれるだけ。嫁に出たのであれば、そこには嫁に出された家名が書き込まれる。生没もなくただ線で消されるのは、生没以外の理由がありそうだった。
最近ではその家系はマメに辿ることをしなかったためか、分家がどう別れているかも詳しくはハッキリしない。一番最近の抹消された人物は生きてさえいれば、齢百近い『香坂智充』。大正生まれのその人物が、死亡ではなく抹消になっているのは昭和二十年、つまり第二次世界対戦終戦の年だ。
「雪ちゃんは香坂さんのお家の事は何も知らないと思います。」
「そのようね、あの年頃だから少なくとも一度は接触されてるかと思ったけど、もしかしたら香坂家でも知らないのかもね。」
目の前の少女は知らないだろうが、十年ほど前に香坂家の中では何か騒動が起きていたのは調べがついている。
本家と分家と思われる数家に黒服の人間が訪れて、何かテストのようなモノをしていったのだと分家筋で香坂智充の甥だという高齢な老人が掠れ声で話す。本家筋の誰かが連れていかれたとか、聞いたようなと話すが高齢過ぎて記憶が定かではないらしい。何しろこの老人の一人息子はとうに死亡し、彼は自分に孫が要ることは知らない風なのだ。
香坂の家には時々不思議な力を持つ人間がいてね、驚くほど物覚えがよくてお殿様とかに引き立てられた人間も居るんだよ。今でも時々そういう人間が生まれるらしくてね、政府のお役人が来るって親父は話してたんだ。伯父さんはそれに連れてかれてねぇ。
この老人の父親が消えた香坂智充の兄弟なのは言うまでもない。だが、それは悪いことではなく、当時は名誉な事だと考えられてもいたらしい。
だからね、家じゃ律儀に『智』という字を長男にはつけるんだよ。頭がよくなるってね。
その老人の名前は確かに『智佳』だった。しかし、彼には何にも特別なところはないと話していたし、会話も別段特殊には聞こえない。
だけどね、智充伯父さんは一度見たものは忘れないし、頭のいい人でね。凄いのは爆撃機が何時何時来たのと同じ奴だなんて、見てて分かるんだ。いや、嘘じゃないんだよ、これがね。あの三番目の飛行機の、尾翼の傷が同じだとかね。
その話が何処まで真実かは分からないが、確かに戦後香坂智充はある日突然姿を消してしまった。そして、その子供も孫も彼の存在を今も亡くなったものとして扱っているらしい。残念なことに香坂智充の孫の代は薄命なのか、事故や病気で故人となっている人間が多い。そちらの家系で最後に確認できるのは、智充氏の孫に当たる娘が一人と息子が二人。息子は双子だったが、長男は幼い内に悪性の脳腫瘍で死亡。もう一人の息子も高校生の時に理由は分からないが死にかけていて、二十代前半で癌の腹腔内の臓器への転移で亡くなった。二十代で死んだ香坂衛は恋人との間に子供を作っているが、その子の存在は香坂家には知らされていない筈だ。何しろ本家筋と思われる智充氏の孫娘は婿養子をとったが、不慮の交通事故で亡くなってしまっていてその夫婦の子供に関しては詳細が分からない。
話を聞けた香坂智佳氏も既に故人だ、彼には息子は一人だけで警察官として働き始めて直ぐに職務の最中に襲われ死亡した。そして、その息子の死後産まれた子供は、現在二十八歳の青年に育っている。
それをどこまで聞いてどう考えているのか目の前の少女は、真剣な顔で香坂家はヤクザだと考えている様子だ。だから、自分の知っている香坂家の生き残りは関係ないのだと力説する。
「ふふ、そっか。」
「おかしな事言ってますか?」
「ううん、新鮮な意見ね。私には考え付かなかった。」
「雪ちゃんのお父さんの事を調べたんなら、そのお父さんのことも調べたんですか?」
「ええ。」
少女は驚いたように目を丸くして、彼女を真っ直ぐに見つめる。それが何故か面白くて、今まで調べた事をサラッと話して聞かせてやる。
自分の調べたい香坂家の近年の血縁者はおよそ十人前後。香坂智充、その孫娘夫婦、曾孫。香坂衛、その彼女、その息子。香坂智佳、息子の智春、その子供。その十人の現状さえ把握出来れば調べあげられることになる。その内ハッキリしたのは香坂智充の孫娘夫婦、香坂衛、香坂衛の彼女、香坂智佳、香坂智春の六人は書類などの不備もなく死亡が確認できた。後は香坂衛の息子と香坂智春の息子は奇妙な偶然で結びつけられ、今では義理の親子になっている。
残りは香坂智充とその曾孫。
智充は生きていれば百歳前後。曾孫の方は両親の事故後に消息不明になったが、もし生きていれば高校生辺りだ。香坂姓の高校生を少しずつ調べて行くが、条件に当てはまる存在が中々見つからない。もしかしたらその孫が次の消えた香坂になったのかもしれないと自分は考えている。
「凄いですね、一人で。」
そう言われると正直なところ苦笑いが浮かんでしまう。
「凄くないわよ、調べてないとおかしくなりそうなだけなの。一人でね、家にいると何で誰もいないのかしら、弟は今どうしてるかしらって考えてしまうのよ。」
音もない一人っきりの家にいると気が狂いそうになる。だから、何かをし続けているだけと自分は呟く。そうなんだと素直に納得する少女の姿が、ほんの少し羨ましい。こんなに素直を人を信じられる人間ばかりだったら、私も航海士だった彼も苦しまなかっただろう。
苦しんだ…?
不意に頭の中にその言葉が疑問として浮かび上がる。私も彼も何を、そんなに重く苦しんだのだろうか。勿論悪いことをしたのなら悩んで当然なのだろうが、私はなにもしていない。なのに何をそんなに苦しまなければならなかったんだろう。
「あんな風につっかからないで普通に聞いたら教えてくれそうですよ。」
そんな言葉がかけられて、自分の中の不安が少しだけ緩んだのを感じる。
「ふふ、本当おかしな子ね、あなた。」
「あ、あと雪ちゃんのこと呼び捨てにしないで欲しいです。」
少女の言葉に彼女は改めて驚いたように目を丸くして、私の顔を見つめると初めて綺麗な優しい顔で微笑んだ。こんな素直に誰かを大事にできるのは、彼女がまだ高校生だからだろうか。それとも彼女だから出来ることなのだろうか。そう思ったら自分が、知りたいことはなんなのだろうと心の中が弱く告げる。
「可愛い嫉妬ね。」
自分はそう言うと立ち上がりお尻の下を払うと、無意識に背筋を伸ばす。あなたと話すと余計なことまで喋りすぎちゃうと苦笑みたいな声で呟くと、彼女は少女を振り返っていつもの意地悪な笑顔を浮かべた。
「呼び捨ては止めないわ。」
「何でですか?」
「あなたと智雪の反応が楽しいから。じゃね。」
そんなことを思い出しながら、真実はまだ手のとどかぬ場所に揺らめいる。その瞳は目を細めながら光のさす世界をユックリと眺めていく。その世界に存在する全ては光に充ち溢れ、光は何処までも美しい。しかし、それ自体のありがたさを知らない者ばかりが栄えているのも事実だ。失われたものがあるものにしか分からない苦悩。
何故あの時……。
その疑問が自分を支えている。
自分の中の暗く淀んだ闇がその疑問を叫び続けて、自分の中を侵食し続けているのを感じながら、それでも自分はその疑問を叫び続けているのだ。
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