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第二部
第一幕 東南 所在不明
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空気の冷え始めた東の夜空の薄い灰色の雲の中。その蒼い薄絹の衣を纏う青年は、まるで滑る様に水平に薄雲を四肢に羽衣のように纏い宙を駆けていた。人間にはあり得ない人体のみで宙を舞う青年は、少し茶色味がかった猫毛のような髪をして微風の中サヤサヤと音を立てて頬を撫でている。はたとみれば歳よりも、かなり幼くも見える顔立ちと容姿だ。もし、今その宙を舞う姿を人が眼にする事ができたなら、さぞかし優美に舞う青い衣の裾のうねる姿は、神秘的な姿に見えたことだろう。しかし、その姿は雲を目眩ましがわりに纏い、誰の目に付く事もない。そしてその青年、東方の守護者である青龍は蒼水晶の光を放つ瞳で、はるか遠い気の流れに目を凝らしていた。
東の青龍・宇佐川義人
南の朱雀・槙山忠志
北の玄武・土志田悌順
西の白虎・鳥飼信哉
彼ら四人は普通の暮らしを送りながら、同時に夜になると異界床の世界を繋ぐゲートを閉じる異能の門番だ。その体は普通の人間と異なるものを見聞きし、普通の人間ではあり得ない現象を引き起こす。世の中には超能力という能力を持っているという人間が少なからずいるものだが、彼らの力はそれに似ているようで異なる。人の体で宙を飛んだり常識はずれな反射神経や運動能力を持っているのは、一見超能力と括れるかもしれない。だが、普通の人間はどんな能力でも無い筈の異装を産み出すことは出来ないし、質量を無視した偶像の姿に体を変えることも何もない場所から物質を作り出し操る事はできない。
SF映画の中だけで質量の法則無視は十分です。
青龍は夜風の中で、何処かに怒りを含むような思考で考える。実は五行思想は方角だけでなく、色や感情など世の中のあらゆるものに配当されている。彼がこの力を身に受けてから、五行に支配されるのか感情の起伏は大きく変わった。青龍自身元々そう怒りを持続する性質ではない。五志に怒りを持つようになって、心の奥底に燠火のような感情があることを感じる。だが、五情が喜である故かその怒りの感情は、余り表には現れない。だから仲間以外の大概の人間達は、普段の青龍は穏やかな怒らない人間だと思っている人間が殆どだ。
信哉さんは、前からそんなに変わりが無い気もするけど…
苦笑いを含んでそう考える。
彼ら四人の中でゲートキーパーとして一番長く過ごしている白虎は、十七歳でゲートキーパーになって既に十一年もこの生活を続けていた。白虎の五志は悲しみや憂い、五情は怒りだ。確かに思い出せば彼がゲートキーパーになった頃は、普段は憂いに沈んだ顔をしているのに激しい怒りを見せていた時期がある。同時に普段の彼ともずっと付き合っているから、彼の感情は口に出さなくとも大体理解が出来てしまう。
それにしても、十一年か。
そう、十一年は長い。ゲートキーパーは大概が二十歳前後から三十代位で早逝するという。白虎の十一年は最長ではないが、他と比較しても長い方だというのだ。何しろ先代の白虎が十一年で早逝したのだから。そんな年月を生き抜く程に、彼自身の強さも群を抜いているのだと青龍は思う。
僕らも長生き出来るんだろうか。
その後に玄武、そして自分、二年前に朱雀。四人全員が一時に揃うことは、そう多くはないと白虎は言う。どちらかと言えばどれかの継承者が、欠けていることの方が多いらしい。実際に宇佐川義人が青龍になるまで、大分長い七年もの間青龍は空席のままだった。おまけに一時は朱雀も空席となり、玄武と白虎だけで活動した時期もあるという。そういう分には関係は良くないが、院という存在が小さいゲートを請け負ってくれるのは正直助かる。しかも、玄武と白虎が色々と骨をおってくれたお陰で、今の青龍と朱雀は割合今も人間らしい生活を送れてもいるのだ。
これが過去の院だったら、僕らもモルモットか…。
過去の院での人体実験の話は、年嵩の二人から聞いた。特に玄武は今でもその経験に、現代社会の裏側に驚愕の思いが拭えないと話す。白虎はそれに関しては全く口にしないが、玄武は二人だけの時に哀しげな口調で告げた。
「俺より遥かに辛い目にあわされた筈なんだ、あいつは。」
三年の差の事かと思ったが、実際はそんなものではない。ただでさえ普通ではないのに、その中でも白虎は特に異例ずくめの人間だったのだ。歴史の中で唯一の女性のゲートキーパーを母親に持った、唯一母子関係でゲートキーパーを継いだ白虎。
玄武が人間扱いもしねえと愚痴る人体実験が、彼に何を強いたのか想像するだけでも吐き気を催す。
今では研究所自体が廃止されたが、未だに再建を画策する人間も多いのだと言う。だからこそ、二人は青龍と朱雀を院とは接触させないようにしたのだ。
それにしても、研究所なんてね…
現在は看護師として医療に従事している青龍にとって、血液などのデータは身近なものだ。実際この能力を身につけてから、健康診断を受けた時には正直怯えたものだった。データに説明出来ないし異常値が出るのではと怯えたのに、出てきたものは何ら普通の人間と変わらない。電解質もホルモンも正常値で、急に免疫が更新するわけでもなければ白血球が増加するわけでも乳酸が急増するわけでもなかった。レントゲンも何ら普通とかわりないし結論としてはただの健康な成人男性。他の仲間も彼と全く大差なく、ただ健康な成人男性の太鼓判を貰っただけだ。しかも、風邪や怪我だって普通の人間と全く同じなのだから、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
院に関わらない自分と朱雀に、基本的な情報を教えてくれたのはその白虎だった。しかし、彼も話していたが教えられる前から能力が身に付くと、本能的に体が知ることが幾つかある。力の初歩的な使い方や、ゲートに対する感覚等はそれに当たるのだ。そうして過ごしている内に、それぞれに特化した面が生じ始める。その中の一つが、テリトリーだ。彼等四人には明確ではないが、それぞれ自分の範囲というかテリトリーが存在しているようだ。自分のテリトリーにあるゲートの方がそれぞれ知覚しやすい事に気がついてから、正確に文献で調べると四神の由来にも繋がる事に気がつく。
古来から≪四神≫とは、中国・朝鮮・そして日本において天の四方の方角を司ると伝統的に信じられてきた神獣を示す名前だ。
実際に自分達が変化した姿は、その形態を的確に模写していると青龍自身も思う。白虎は自分達の変化の姿はそれぞれに与えられた名前から生み出されたイメージが、具現化したものではないかと思うとも語っていた。しかし、青龍には逆のようにも感じるのだ。自分達の姿が先にあって、その後に名前を当てはめたのではないかと感じることがままある。だが、それがどちらが先だからと言って、自分達に与えられた役目が変わるわけでもない。
神獣は別名で四獣とも呼ばれる。四獣は青龍・朱雀・白虎・玄武からなり、周天を4分割した四象に由来するという。実は四象は天球でなく地上で見た方位に基づいている為か、実際の四方とでは均等ではない。ある地点を基準に空を見上げ周天を分割する、そのある地点は富士山の辺りではないかと実は青龍は思っているのだ。それで分割すると何処となく自分達のテリトリーと知覚する範囲と、一番当てはまっている気がした。その中で青龍である彼の守るべき範囲は、ある意味では陸地としては一番狭いような気が青龍にはする。
夜風に髪を揺らしながら、青龍は目を細めて仲間達の気配を探り出す。彼が今日活動しているのと同時に、他の三人もそれぞれの場所に向かっていた。
うん…僕の今日のは小さそうなゲートだし…玄武の手伝いに行くことにしましょうか。
青龍の持つ能力は木気であり、四人の中では一番戦闘向きではない。しかし、大地に根を下ろし大地の様々な養分を吸う木気は、その動きを示すように気を見る能力にかけては仲間のうちでは一番秀でている。それが彼の能力でもあり、彼自身の特徴でもある。そうは言ってもこの能力が与えられる前から、彼は一種稀有な勘の鋭さを持っていた。それを考えるとこの力も持つべくして与えられた気がしなくもない。そういう意味では白虎も玄武も同じく、幼い頃から周囲とは異彩を放つ存在だった。朱雀だけは幼い頃からの関わりはないが、聞けば彼も同様だった気がする。
彼は微かにその先のゲートと呼ばれる地脈に開いた穴を見つめ、そして他の仲間達が各地で向かいつつあるゲートの気配をさぐり上げた。
僅か約一ヶ月前、饕餮と呼ばれる人外の存在が、彼らが昼間の暮らしを送るほんの目と鼻の先に出現している。そのモノは持ちえた奸知と妖力を持って、幾つもの命を啜り更に強大な力を得ていた。そして、強大な妖力を持ってある筈のない場所に、地中深く流れている地脈自体を引きずり出す。地脈を引き上げた奴は都市部でゲートを開いたかと思うと、その場を異界に塗り替えたのだ。地脈に穴を開けた後その流れの奥底に眠る要という未知の岩のような物を見つけ出すと、奴はその岩を粉砕した。それは何にも属さないはずの開いたばかりのゲートを瞬時に、邪悪な膿んだ気を満たす存在へと生れ変らせるほどの変異をもたらしたのだ。
全ては奴の手で最悪の結末を迎えようとしていた。
その絶対絶命と思われた場は不思議な炎駒と言う存在の出現で終息を向かえることとなる。炎駒は彼ら四人が持たない土気を操る今までにない存在として、彼らにとっても新しい謎として残された。兎も角、彼らも含め炎駒の出現により街を元に戻すことに成功した彼らは、元の生活を取り戻す。
そして、炎駒の謎は残されたまま。同時に地脈から姿を現して破壊された《要》と呼ばれる岩の正体も不明のまま、砕かれた弊害が何なのかも分からない。
事なきを得たのは事実。
だが、その後のゲートはそれ以前と比べて少し変化したような気が青龍にはしている。それはほんの微細な変化ではあるが、彼自身に不安を抱かせるのには充分な変化だった。
開いたばかりのゲートの気が少し病んでいる気がする…。
確信ではないが気を目にすることの出来る彼だからこそ、知りうる気配がそこにはある。
今度、玄武か白虎に院で聞いてもらわないとな…。
彼自身はまだ会った事はないが、院と呼ばれる組織の中に唯一ゲートの開く気配や≪人外≫の蘇る瞬間の気配を感じられる者がいるということは彼も知っている。ただ。彼自身がそのものに接触する事を年嵩の二人が望まないことも十分理解していた。勿論その理由も彼はよく知っている。
そんな思いをめぐらせながら、ふと見下ろした山麓の最中にぽっかりと真っ暗な目的の場所が口を開いているのが、その蒼水晶の瞳には映りこんでいた。
東の青龍・宇佐川義人
南の朱雀・槙山忠志
北の玄武・土志田悌順
西の白虎・鳥飼信哉
彼ら四人は普通の暮らしを送りながら、同時に夜になると異界床の世界を繋ぐゲートを閉じる異能の門番だ。その体は普通の人間と異なるものを見聞きし、普通の人間ではあり得ない現象を引き起こす。世の中には超能力という能力を持っているという人間が少なからずいるものだが、彼らの力はそれに似ているようで異なる。人の体で宙を飛んだり常識はずれな反射神経や運動能力を持っているのは、一見超能力と括れるかもしれない。だが、普通の人間はどんな能力でも無い筈の異装を産み出すことは出来ないし、質量を無視した偶像の姿に体を変えることも何もない場所から物質を作り出し操る事はできない。
SF映画の中だけで質量の法則無視は十分です。
青龍は夜風の中で、何処かに怒りを含むような思考で考える。実は五行思想は方角だけでなく、色や感情など世の中のあらゆるものに配当されている。彼がこの力を身に受けてから、五行に支配されるのか感情の起伏は大きく変わった。青龍自身元々そう怒りを持続する性質ではない。五志に怒りを持つようになって、心の奥底に燠火のような感情があることを感じる。だが、五情が喜である故かその怒りの感情は、余り表には現れない。だから仲間以外の大概の人間達は、普段の青龍は穏やかな怒らない人間だと思っている人間が殆どだ。
信哉さんは、前からそんなに変わりが無い気もするけど…
苦笑いを含んでそう考える。
彼ら四人の中でゲートキーパーとして一番長く過ごしている白虎は、十七歳でゲートキーパーになって既に十一年もこの生活を続けていた。白虎の五志は悲しみや憂い、五情は怒りだ。確かに思い出せば彼がゲートキーパーになった頃は、普段は憂いに沈んだ顔をしているのに激しい怒りを見せていた時期がある。同時に普段の彼ともずっと付き合っているから、彼の感情は口に出さなくとも大体理解が出来てしまう。
それにしても、十一年か。
そう、十一年は長い。ゲートキーパーは大概が二十歳前後から三十代位で早逝するという。白虎の十一年は最長ではないが、他と比較しても長い方だというのだ。何しろ先代の白虎が十一年で早逝したのだから。そんな年月を生き抜く程に、彼自身の強さも群を抜いているのだと青龍は思う。
僕らも長生き出来るんだろうか。
その後に玄武、そして自分、二年前に朱雀。四人全員が一時に揃うことは、そう多くはないと白虎は言う。どちらかと言えばどれかの継承者が、欠けていることの方が多いらしい。実際に宇佐川義人が青龍になるまで、大分長い七年もの間青龍は空席のままだった。おまけに一時は朱雀も空席となり、玄武と白虎だけで活動した時期もあるという。そういう分には関係は良くないが、院という存在が小さいゲートを請け負ってくれるのは正直助かる。しかも、玄武と白虎が色々と骨をおってくれたお陰で、今の青龍と朱雀は割合今も人間らしい生活を送れてもいるのだ。
これが過去の院だったら、僕らもモルモットか…。
過去の院での人体実験の話は、年嵩の二人から聞いた。特に玄武は今でもその経験に、現代社会の裏側に驚愕の思いが拭えないと話す。白虎はそれに関しては全く口にしないが、玄武は二人だけの時に哀しげな口調で告げた。
「俺より遥かに辛い目にあわされた筈なんだ、あいつは。」
三年の差の事かと思ったが、実際はそんなものではない。ただでさえ普通ではないのに、その中でも白虎は特に異例ずくめの人間だったのだ。歴史の中で唯一の女性のゲートキーパーを母親に持った、唯一母子関係でゲートキーパーを継いだ白虎。
玄武が人間扱いもしねえと愚痴る人体実験が、彼に何を強いたのか想像するだけでも吐き気を催す。
今では研究所自体が廃止されたが、未だに再建を画策する人間も多いのだと言う。だからこそ、二人は青龍と朱雀を院とは接触させないようにしたのだ。
それにしても、研究所なんてね…
現在は看護師として医療に従事している青龍にとって、血液などのデータは身近なものだ。実際この能力を身につけてから、健康診断を受けた時には正直怯えたものだった。データに説明出来ないし異常値が出るのではと怯えたのに、出てきたものは何ら普通の人間と変わらない。電解質もホルモンも正常値で、急に免疫が更新するわけでもなければ白血球が増加するわけでも乳酸が急増するわけでもなかった。レントゲンも何ら普通とかわりないし結論としてはただの健康な成人男性。他の仲間も彼と全く大差なく、ただ健康な成人男性の太鼓判を貰っただけだ。しかも、風邪や怪我だって普通の人間と全く同じなのだから、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
院に関わらない自分と朱雀に、基本的な情報を教えてくれたのはその白虎だった。しかし、彼も話していたが教えられる前から能力が身に付くと、本能的に体が知ることが幾つかある。力の初歩的な使い方や、ゲートに対する感覚等はそれに当たるのだ。そうして過ごしている内に、それぞれに特化した面が生じ始める。その中の一つが、テリトリーだ。彼等四人には明確ではないが、それぞれ自分の範囲というかテリトリーが存在しているようだ。自分のテリトリーにあるゲートの方がそれぞれ知覚しやすい事に気がついてから、正確に文献で調べると四神の由来にも繋がる事に気がつく。
古来から≪四神≫とは、中国・朝鮮・そして日本において天の四方の方角を司ると伝統的に信じられてきた神獣を示す名前だ。
実際に自分達が変化した姿は、その形態を的確に模写していると青龍自身も思う。白虎は自分達の変化の姿はそれぞれに与えられた名前から生み出されたイメージが、具現化したものではないかと思うとも語っていた。しかし、青龍には逆のようにも感じるのだ。自分達の姿が先にあって、その後に名前を当てはめたのではないかと感じることがままある。だが、それがどちらが先だからと言って、自分達に与えられた役目が変わるわけでもない。
神獣は別名で四獣とも呼ばれる。四獣は青龍・朱雀・白虎・玄武からなり、周天を4分割した四象に由来するという。実は四象は天球でなく地上で見た方位に基づいている為か、実際の四方とでは均等ではない。ある地点を基準に空を見上げ周天を分割する、そのある地点は富士山の辺りではないかと実は青龍は思っているのだ。それで分割すると何処となく自分達のテリトリーと知覚する範囲と、一番当てはまっている気がした。その中で青龍である彼の守るべき範囲は、ある意味では陸地としては一番狭いような気が青龍にはする。
夜風に髪を揺らしながら、青龍は目を細めて仲間達の気配を探り出す。彼が今日活動しているのと同時に、他の三人もそれぞれの場所に向かっていた。
うん…僕の今日のは小さそうなゲートだし…玄武の手伝いに行くことにしましょうか。
青龍の持つ能力は木気であり、四人の中では一番戦闘向きではない。しかし、大地に根を下ろし大地の様々な養分を吸う木気は、その動きを示すように気を見る能力にかけては仲間のうちでは一番秀でている。それが彼の能力でもあり、彼自身の特徴でもある。そうは言ってもこの能力が与えられる前から、彼は一種稀有な勘の鋭さを持っていた。それを考えるとこの力も持つべくして与えられた気がしなくもない。そういう意味では白虎も玄武も同じく、幼い頃から周囲とは異彩を放つ存在だった。朱雀だけは幼い頃からの関わりはないが、聞けば彼も同様だった気がする。
彼は微かにその先のゲートと呼ばれる地脈に開いた穴を見つめ、そして他の仲間達が各地で向かいつつあるゲートの気配をさぐり上げた。
僅か約一ヶ月前、饕餮と呼ばれる人外の存在が、彼らが昼間の暮らしを送るほんの目と鼻の先に出現している。そのモノは持ちえた奸知と妖力を持って、幾つもの命を啜り更に強大な力を得ていた。そして、強大な妖力を持ってある筈のない場所に、地中深く流れている地脈自体を引きずり出す。地脈を引き上げた奴は都市部でゲートを開いたかと思うと、その場を異界に塗り替えたのだ。地脈に穴を開けた後その流れの奥底に眠る要という未知の岩のような物を見つけ出すと、奴はその岩を粉砕した。それは何にも属さないはずの開いたばかりのゲートを瞬時に、邪悪な膿んだ気を満たす存在へと生れ変らせるほどの変異をもたらしたのだ。
全ては奴の手で最悪の結末を迎えようとしていた。
その絶対絶命と思われた場は不思議な炎駒と言う存在の出現で終息を向かえることとなる。炎駒は彼ら四人が持たない土気を操る今までにない存在として、彼らにとっても新しい謎として残された。兎も角、彼らも含め炎駒の出現により街を元に戻すことに成功した彼らは、元の生活を取り戻す。
そして、炎駒の謎は残されたまま。同時に地脈から姿を現して破壊された《要》と呼ばれる岩の正体も不明のまま、砕かれた弊害が何なのかも分からない。
事なきを得たのは事実。
だが、その後のゲートはそれ以前と比べて少し変化したような気が青龍にはしている。それはほんの微細な変化ではあるが、彼自身に不安を抱かせるのには充分な変化だった。
開いたばかりのゲートの気が少し病んでいる気がする…。
確信ではないが気を目にすることの出来る彼だからこそ、知りうる気配がそこにはある。
今度、玄武か白虎に院で聞いてもらわないとな…。
彼自身はまだ会った事はないが、院と呼ばれる組織の中に唯一ゲートの開く気配や≪人外≫の蘇る瞬間の気配を感じられる者がいるということは彼も知っている。ただ。彼自身がそのものに接触する事を年嵩の二人が望まないことも十分理解していた。勿論その理由も彼はよく知っている。
そんな思いをめぐらせながら、ふと見下ろした山麓の最中にぽっかりと真っ暗な目的の場所が口を開いているのが、その蒼水晶の瞳には映りこんでいた。
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