GATEKEEPERS  四神奇譚

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外伝 はじまりの光

終幕 はじまりの光

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信哉が新しい白虎になって三年たらず。
若葉の微かに茂り始める頃に起きた豪華客船の水難事故はテレビでも大きく報道された。客船の規模は乗客は約600人、船員は約240人、世界を回るロングクルージングも航路の中にはある。ラウンジやプール、映画館などもある豪華客船。それが夜半の航行中に、船底に異常を生じ海中に沈んだ。救助ヘリやマスコミの撮影映像には、救急挺に乗り込めず船体にしがみついて家族の名前を叫ぶ乗客の姿が残されていた。救急挺が足りなかったわけではない。ただ、先に沈み始めた場所にくくりつけられた救急挺を使えなかったのと、海水温が飛び込み泳ぐのに適さない温度だったのと、回游するサメの姿がチラついていただけだ。ヘリで数人ずつ助けるのも間に合わない、明け方の朝日の中で船員の半分以上と乗客の100人ごと水面に沈んだのだ。
海中に沈んだ者の殆どの遺体は回収されることもなく、最悪の海難事故として数ヵ月後に捜索の幕を閉じることになる。巨大な船体は偶然深い海溝の中に落ちていき、それをサルベージする方法も見つからないのだ。
新しい玄武。
その出現は信哉にとっても新しい苦悩を感じるものだった。自分が両親の結婚記念日の祝いとして送った豪華客船での船旅の悲惨な結末に、両親の死で生れ落ちた新しい玄武は土志田悌順だったのだ。
幼馴染に自分がしてもらったように悌順を慰めながら両親の葬儀の最中生まれ落ちる新しい光に信哉は戸惑い、母の言った言葉を思い返しながら武や想が話してくれた≪全てを失ってはじめて生まれる力≫の奇妙さを思う。

やがて何時もと変わらぬ薄暗い室内で信哉は他の二人とともに壁に寄りかかるようにして無言で目を伏せたまま。日を追わず自分と同じようにこの場に連れてこられる事となった大事な親友でもあり幼馴染の身を案じながら、見つかっていなければ彼の身を隠したのにと苦悩に満ちた思いをめぐらせる。

自分がこの三年で知ったことは多く、失ったものも多い。

人間の為に働いているのに人間らしく生きられない自分達の奇妙さ。母も感じた多くの苦悩は今はもう彼の苦悩でもある。
先代白虎の死で四神と院との確執は大きな亀裂となっていた。今や亀裂は明確なものとなり院の締め付けは、更に厳しいものになっている。この厳しい関係性はいつか決裂の日が来るのではないかと信哉を初めとする三人は考えている。勿論、水面下で幼いとはいえ星読の少年もその考えに同調していることもあるのだが、年老いた式読の代替わりがその時ではないかと感じていた。

その日が来るのもそう遠い日ではない気がする。

青年は薄闇の光の少ない部屋の中でそんなことを考えながら、歩み寄ってくる気の気配を感覚が捉える。自分が来たときもこんな感じだったのかもしれないと思いながら思わず、年嵩の仲間を見つめる彼の視線が細められた。

薄闇の光の中に、ふと母の姿を見たような気がしたのだ。

自分と同じように壁にもたれ静かに穏やかに自分を見つめ返すような澪の姿。そして、それは同じ様に優輝の姿でも他の知らない者の姿でもあるような気がした。この部屋に来て去っていった何人もの光の化身。
それは今も自分たちの中に受け継がれているのかもしれない、そんな風に思いながら細めた目を閉じる彼に浮かんだ微かな苦笑に横に居た朱雀がこつんと彼の肘を小突く。
朱雀の行為にふと自分を見ている式読の意味ありげな視線に気がついて彼は静かに何時もの一際穏やかで感情の伺えない表情を浮かべ、静かに足音が止まるのを聴いていた。

「式読様。星読様。おいででごさいます。」

扉越しの僧衣の男の放つ声を聞きながら白虎は、ただ静かにその場にいるもの全てと同じく視線を扉のほうに向けていた。



※※※



あれから数年。古老はいつ死ぬかと思っていたが、案外しぶとくて孫のリハビリの進行と杖で歩行出来るようになったのを確認したのを期に遂に彼岸の岸を渡った。
そうしてソロソロ十歳になろうとする少年は、不自由な足を庇うように杖をつきながら古参のものたちの前に姿を見せた。数年前の事故で足に障害を持つことになり、結果的にこの封建的な思想のあふれる建物から逃げることは二度と出来ないものになった。それはある意味で彼自身の見聞を広める結果になったようにも思われる。何処か先代式読に似た面差しは既に十歳にして酷く聡明な知識の片鱗をうかがわせるが、その姿は酷く周囲からは浮き立って見えた。
香坂智美は集まった古参の院の中枢でもある者達をじろりと一瞥して、着慣れぬ僧衣を忌々しげに内心思いながら一段高い上座へとゆっくりと進む。ワザとらしく自分の行き先を阻むように座る古参の者達を忌々しい思いで見ながら、彼は内心呆れたように薄暗い室内を見回す。先代の遺言でこの役目に彼が就いたとはいえ、彼をその者達が快く思っていないのは明白だった。わずかでも隙あらば自分がトップに立ち院を動かしたいと思うものがいることも目に見えるかのようだ。

「式読様、こちらへ。」

その場の中で唯一の味方でもある自分より三つ年上の少年の姿にゆっくりとした足取りで近づき、促された場所に置かれた低い椅子に腰をおろす。恭しい大業な仕草で、古参の者の一人が正面に進み出て頭を下げる。

「式読ご即位おめでとうございます。」

自分よりはるかに幼い少年にかける言葉は酷く冷やかで仰々しい。その物言いの響きに横に居た黒曜石の瞳が微かに震えるのを感じながら、少年は自分も酷く冷ややかに礼を述べた。幼い頃から既に実績を見せた星読と自分は違うことはよく知っている。自分の実績はこれから示さなくてはいけないことは、その明晰な頭脳は当の昔に知っているのだ。そうでなければここで密やかに智美が、あの日の出来事を思い耐えた三年が水の泡になってしまう。
自分を助けたあのしなやかな優しい香りは今も脳裏にこびりつき、あの微かに美しい口元にしかれた微笑は彼を責めている訳でもないのに夢で少年の心を苛む。横に居る少年からは、それが自分がこれからもかかわる者の実の母親であったと聴かされたときの思いはどう表現したらいいのだろう。自分も両親を失ったが、その者は自分のために母親を失ったのだと彼はずっと以前から理解している。

「早速ですが、先日空席になった青龍の件ですが…。」

余りにも無造作に言い放たれた言葉に微かに二人の少年の目つきが変わったのを、その場にいた者は誰一人気がつこうとしなかった。



※※※



つい数日前北にゲートを封じに行った青龍は、そのゲートの傍で一人人外のモノと遭遇したと思われる。その異変に気がついた他の三人の仲間が駆けつけた時には、彼は既に虫の息だったという。ゲートを木気の枝葉で覆い隠して、彼は血を全身から噴き出させながら四肢を炭化させて立ち尽くしていた。朱雀が触れただけで青龍の四肢は砕け、見る間にその体を塵に変えていったと言う。
彼らはそのまま何も聞きだすことも出来ずにその場で青龍を送る事になった。それが何処まで事実なのかは分からないが、ほぼ同時刻に院で人外の存在を感じ取っていた星読は新しい式読の前で涙を溢す。

強大な人外ではなかったとしても、たった一人で人外と対峙して最後まで一人で戦った青龍は最後に何を願ったのだろう。

険しい顔をした朱雀の口調で、青龍が最後に何を彼に願ったのかは聞かなくてもわかる気がした。自分達の体を院の古来からの者達が、どんな風に扱いどんな風にしていくのか。それを知っているからこそ、朱雀は仲間の最後の願いを聞き入れたに違いない。

人とは少し違うけど、私もあなたも…彼らも同じ人間なんです…

そう心の優しい彼の兄弟のような黒曜石の瞳をした少年は、式読になる自分に教えてくれる。そして彼にそう教えてくれたのは、あの優しくしなやかな自分を助けた女性であったとも。



※※※



だからこそ、香坂智美は酷く冷静で氷のような眼差しで目の前の青龍の空席を笑いながら話す者達を見下ろした。
この中で、誰一人彼を人間らしく扱ってくれた者は居ない。
自分の曽祖父ですら、本心は兎も角自分に人間らしくは殆ど接しようとはしなかった。だからこそ、隣に居る少年やここまでの三年の間に数度だけ夜の闇に紛れて彼の寝姿を覗きに来た白銀の光を放つ青年・そして真紅の輝きを持つ姿の方を智美は信じる。

「貴殿らの頭には、尊厳という言葉はないらしい。」

酷く冷ややかな幼い声にまるで頭から冷や水でもかぶせられたかのように、その場が一時にしんと静まり静寂が降り落ちた。侮蔑するような嘲る笑みを幼く透きとおる様な茶色の瞳に浮かべた智美の視線は、強い威圧の光となって周囲を満たし誰かの息を呑む音が微かに聞こえる。
幼い子供だからと侮られているようだが、それは大きな間違いだと気がつかせてやらなければならない。彼は静かにそれを聞き取りながら人とは異なる激しい知性を秘めた瞳で古参の硬い通念に包み込まれた者達を見下ろす。

僕はここから始める。

彼女に恥じないように生きるために、ここから自分の出来る全てを創めてみせるのだ。

「貴殿等の行為で四神殿との軋轢は修正が効かない状態にある事も気がつかないとは。この役目に就いたばかりの私ですら分かることに気がつけない等と嘆かわしい限りだ。」

放つ言葉の鋭さは過去に少年の血脈である先代が放つ以上に辛辣に古参の者達を貫き、予想と違う新しい組織の長の鋭敏な思考を伺わせる。古参であり自分達に権力すら感じ初めていた者達は、戸惑いながらその声に気圧され始めていた。
今までの仕来りに囚われずに真実を見る。
新しく幼い式読の行った事は古参の者たちに、大きな衝撃を与える結果になった。今まで式読が関与しなかった研究所での検査結果全てに目を通し、その幼さからは計り知れない鋭い視線で射すくめられる。その結果古参であった筈の者は幾人か失脚を余儀なくされ、忌々しげにその幼い少年を見上げる。

「しかし…それは…。」
「データを見れば、この検査事態が無意味なことは理解出来た筈だ。」
「いいえ!それにはまだ…っ!」

それでも言いすがろうとする古老に向かってパンと音をたてて、出された書類の束を投げつけ智美は目を細めた。

「どの被験体にも個体差すらなく、有意差すら認められない。つまりは無駄な実験を何百回も繰り返しそのうち一人は実験のため死亡。資質の無駄、資金の無駄、時間の無駄。馬鹿馬鹿しいにも程がある。」
「しかし、耐性を確認するにはっ」
「耐性?何のだ?貴殿が主体としてやっていることは中世の魔女狩りの拷問か江戸時代の拷問と大差ないようだが。」

目の前の古老が統括する研究室では、未だに四神に対する人体実験を当然のように続けている。しかも、同じ実験が既に百年近く繰り返されていて、手を変え品を変えして繰り返す内容はほぼ拷問にしか見えない。ところが彼らは実験用のマウスにするように、同じことを繰り返していてもなんとも思わず資金を湯水のように使いこむ。

「いいえ!そんなものではなく、あれらの細胞の原理を…。」
「一度言ったな?どの被験体にも個体差すらなく、優位差すら認められない。しかも、遺伝子異常も染色体の変質もない。お前は無駄な事ではないと言いたそうだが、現状でそれを証明しているものは何一つないぞ?」

まさか十歳の子供が遺伝子や染色体等と口にするとは思わなかったのだろう、古老は面食らったように目を見開く。

「それとも今ここで、私を納得させる数字を述べてみせるか?実験の効果について。有意差のある実験はどれとどれだ?」
「それは…。」

言葉に詰まる古老を智美は目を細めて見つめる。実験というものは繰り返し行っていても、その結果が偶然ではないと証明しなければ意味がない。しかも、四神の体を調べて得たいのであれば、普通の人間とは違う面を証明しなければならないのだ。ところが院で長年行われてきた研究の結果は、彼らの持つ肉体は何ら普通の人間とは差がないという答えだけ。生殖機能にすら何ら問題がないという結果を、智美はデータを計算して導きだした。つまり、今までの彼らの研究は四神が普通の人間であると証明しただけで、新しい方面での研究の方法が提示されないのであれば継続の必要はない。そう告げてやると目の前の古老は二の句も告げぬまま、冷ややかに見下ろす少年を目を見開いて見つめた。少年は視力の為だけでなく、その色素の薄い目を守るかのようにかけ始めた眼鏡を微かに押し上げるようにして古参の男を見据えた。

「無駄な労力は一蹴するべきであろう?私ですら分かることだものな?」

子供らしからぬ老獪さで少年は笑う。
煮ても焼いても食えないとはこの事だと古参の者達は影で少年を揶揄するが、少年はそれを意にも返さない。実績が必要なのは事実で彼はそれを着実に示し始めているのだから、陰口を叩く者は勝手にすれば良いのだ。
データの中で唯一本の細微な室温の変化に気がついたのは彼だったし、あの薄暗い室内に最新のパソコンを常設し建て前上は政府には存在しない筈の通信衛星を一つ無理やり入手しサーモグラフィを稼動させたのも彼の考えだった。それが実際に地脈の穴の所在を熱源という目に見える光の数値でを示したと聞かされた時の古参の者達の顔はある意味爽快と言える。
微かに思い出したように笑った智美の姿に、今は二人きりのその不思議な室内でもう一人の少年が不思議そうに見下ろす。

「智美さん?」
「いや、さっきの奴等の顔は彼らにも見せればよかったな、礼慈。」

辛辣でそれでいて子供らしい悪戯心を浮かべるその少女の様に美しい顔に礼慈と呼ばれた少年も微笑む。
何処か故人となった年老いた老人に似た辛辣さ、だがその影にあるものは本当は酷く真摯で真っ直ぐな感情と知性だ。礼慈一人では無理でも、この少年が居れば可能な事は沢山ある気がする。その視線に気がついたように少年が不思議そうに黒曜石の瞳を見つめ返した。

「どうかした?礼慈。」
「いいえ、お茶でも入れましょうか?」

穏やかに言う彼にうんと笑いながら、幼い院の長は新しいデータに目を通し始める。その頭にどれだけ膨大な情報が詰まっているかは分からないが、智美には自分以上に人間らしく彼らしく生きて欲しいと礼慈は微笑みながら思う。
自分達が新しくしようとする事。
その為に、彼ら二人の間で暗黙の上に黙殺されている真実がある事をまだ古参の者達は知らずにいる。

次に産まれる新しい四神を探し出す気はないのだと言う事。

それは過去にあったまばゆい光が残してきた全ての道の先にはじまるあたらしい光。
新しい道を照らすためのはじまりの光だ。
今までの道ではなく彼らの道。異例という言葉に縛られずに、自分達も彼らも人間らしく生きていくための活路を開くためにとる、彼らのはじまりの道標に他ならない。

「よ、がきんちょども。」

不意に背後からかけられた明るい青年の声に微かに彼ら二人の表情が変わる。背後には過去にあったそれぞれの光を継いだ者達が何時の間にか音もなく姿を見せて、微かに楽しげにも見える二人の姿を不思議そうに見つめているのが感じられた。
さて、あの鳩が豆鉄砲を食らったような顔をどう評して彼ら三人に伝えようか、そう幼さと辛辣な老獪さを兼ね備えた院のあたらしいはじまりの光が悪戯っ子の様に瞳を輝かせる。それ見下ろしながら、もう一つの光はゆっくりとお茶を入れるために動き始めた。

今も昔も変わらない薄暗いこの部屋は、その実は薄暗い中にまるで光を貯めるかのように、これからも新しい姿に変わりながら存在していく。
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